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■眠りの知恵5 [眠りの知恵]

[夜]不眠症を克服するために
●眠くなる潮時に乗ずる
 「中年や独語おどろく冬の坂」。これは西東三鬼氏の句だが、現代社会を生き抜くための複雑な心理の屈折に耐えかねて、眠れない夜の床に思わず漏れる独語は、中年に差しかかる坂道では、ことにおどろおどろしいフィーリングを伴っているようだ。
 眠れない夜が多い不眠症には、大きく分けて二つのタイプがある。一つは生活パターンからくるもの。もう一つは、ある出来事や刺激が精神を動揺させ、眠れなくなる不眠症である。どちらのタイプにしろ、神経の高ぶり、イライラが原因であるから、それを排除しなければならないのは当然である。
 そして、不眠症を克服する一番のコツは、宇宙のリズムにのっとって寝よ、眠くなる潮時に乗じて寝よということに尽きる。
 我々は宇宙から創られた小宇宙ともいわれるもので、宇宙秩序に合うように、人体の自然作用が働くようになっているものである。その自然作用を狂わしているのが、自意識だ。
 この自意識の旺盛な人に限って、睡眠薬を使用しているようである。「決まった手順を踏むとスムーズに寝つかれる」といわれるのも、不眠症が自己意識のせいであることを物語っている。
 人間には、夜になると必ず眠くなる潮時がある。その潮時をはずしてはいけない。潮時に乗じて、夕日の落ち込むイメージのままに、体を投げ出していさえすれば、誰でも熟睡という名の宇宙ドックに入れる。これが眠りの極意である。
 せっかくまぶたが重くなったのに、見たいテレビ番組があるとか、仕事が残っているとかいっては、眠くなった潮時を故意にはずして寝そびれていると、それが習慣性になって、夜の眠りが順調にいかなくなり、不眠症にかかってしまうこともある。
 不眠症になるそもそもの原因は、夜、眠くなった時に、さっと眠らないからだ。現代人は、早死にをするために、不眠症が最も有効な手段であることも知らずに、とかく理屈をつけては夜更かしをし、夜更かしを美徳のように思っている。
 つまり、不眠症などというのは、肉体の自然のリズムの乱れから起こるのだが、そのリズムの乱れが生じるのは、夜になって自然に眠くなる潮時があるのに、素直に従わず、みすみすチャンスを逃がしてしまうことが多いからである。
 肉体には自然のリズムがあるのに、それを自意識で意識的に狂わしてしまうから、今度はなかなか寝つかれなくなる。その繰り返しが、いつしか習慣になって、不眠症という病気に取りつかれてしまうのである。肉体の自然機能に逆らった罰で、不眠症ということになるわけだ。
 眠くなる潮時などというと、いかにも非科学的なことのように聞こえるが、「人間の眠り科学」でも述べたように、動物の脳の中枢からは、自然に眠くなる睡眠物質が分泌されるわけだから、その分泌の時間帯をすぎると、また目がさえてしまうことになるのである。
 眠くてたまらない時には、素直に眠ることが自然の摂理で、そうすれば眠りも自然に深くなり、朝までぐっすり眠れるものである。
●眠りは「気」を養う時
 眠くなるということは天の摂理であり、自然のリズムである。それに背いてばかりいると、眠りに入る時にも、朝の目覚めにも自然作用が起こらず、大変な損をするものである。
 十分に寝足りないまま起きてしまうと、午前中から気力がなくなって、仕事が嫌になったりしてしまう。そうして一日を棒に振ってしまうことが多いのに、「眠るのは人生の無駄だ」などと、暴言を吐く人が多いのだから、さても人間というのは度しがたい存在である。
 「早起きは三文の得」などというが、まだあたりが真っ暗なうちから起きて働くのも考えものである。
 何事にも潮時というものがあり、起床するにもちょうどよい時間がある。夜が白々と明け始めてからでも決して遅くはない。
 人間は体が慣れるにつれ無理がきくようになり、ついには無理が通って道理が引っ込むことになる。これも人生の落とし穴の一つだ。
 目が覚めた時、まだ時間が早すぎたら、体を投げ出して、そのまま夜の状態にしておかねばならない。人間の体の状態には、きちんと昼夜の別が備わっているから、夜中に目が覚めても、自然に任せていれば、必ずまた眠くなるものである。
 何かの拍子で目が覚めても、すぐに意識的にならずに、体を投げ出して次の眠りの訪れを待つがよい。
 まだ、十分眠ってはいないのだから、再び眠りがやってくるはずである。それなのに、意識であれこれ思案することは禁物で、意識を使うと目がさえてしまう。
 年を取って睡眠時間が少なくなったりすると、体が自然に硬くなってくるものである。老人になって、気だけは確かでも、体のほうがいうことをきかなくなるのは、まず眠りが不十分だと思ってよい。毎日わずかずつの睡眠不足が、チリも積もれば山となるように、身体の機能を老化させてしまうのである。
 年寄りになっても、十分に睡眠をとって、身体機能をすっきり整えておけば、恍惚の人になる恐れはないものである。
 老人は眠りが浅いとよくいわれるが、気力が乏しくなると神経が興奮しやすくなって、すぐ目が覚めてしまい、今度はなかなか寝つかれないということになりがちなものだ。
 つまり、養生とは、「気」を養うことが根本なのである。
 貝原益軒の「養生訓」には、「つとめてねぶりをすくなくし、ならひてなれぬれば、おのづからねぶりすくなし。ならひて睡をすくなくすべし」とあるが、これは大変な間違いである。
 養生とは「気」を養うことなのに、飲食や色とともに、眠りを三欲に数えていることは、矛盾、撞着(どうちゃく)もはなはだしいといわねばならない。
●価値ある疲れが快眠を誘う
 さて、人間がよりよく睡眠をとるためには、ある程度の疲労も必要条件である。何もしないで怠惰に一日を空費していたのでは、夜は決して快適な眠りを与えてはくれない。現代人は疲れが翌日のエネルギーへと変わることを知らず、なるべく楽をして体を疲れさせないように心掛け、そのために不眠症で悩んでいる人がたくさんいるのである。
 ただ、その疲れは何でもよいというわけにはいかない。望ましい疲れは、スポーツの後のさわやかな疲れを思い浮かべれば、誰でも思い当たるであろう。
 このさわやかな疲れは、昼間、それぞれの職分において、快適に働いた後に得られるものである。精いっぱい、自己を完全燃焼させて残る疲れであり、それによって自らを高め得た疲れである。こういう価値ある疲労こそ、夜、眠りによって自己を充実させる源泉になるものだから、職業の選択もおろそかにしてはなるまい。
 次には、不眠症解消の初歩的な方法として、適度な運動も勧めたい。散歩、ゴルフ、自転車、水泳、ゲートボール、軽い運動なら何でもいい。適度な運動の後の心地よい疲れが、快眠を誘うだろう。用事がなければ、片付け物でも、草取りでも、何でも結構。
 特に高齢者は、昼間に外へ出て、散歩すること。体にメリハリのあるリズムを設けるべきである。だが、散歩も、物を考えながら歩いたのでは駄目である。ただせっせと、自然の世界を肉体が歩くという方法をとる。
 高齢者についていうと、誰しも年を取ると体の苦情が多く、なかんずく、睡眠がうまくとれないという人が多いもの。大抵の場合、午前二時、三時頃に目が覚めて、なかなか再度の眠りに入りにくいというのと、中にはそのまま目が覚めっぱなしで昼間ボンヤリしたり、あるいは、頭痛とまではいかないでも終日、重苦しい気持ちに閉ざされるという。
 しかし、中には「年寄りは睡眠時間の少ないのは当たり前だ」といって、達観して平気でいたり、平気を装っている人もいる。
 一方、寝つきの悪いという人もあるが、これは比較的に少ないようである。高齢者は寝つきはいいようで、昼でもテレビを見ながら、人の話を聞きながら、コックリ、コックリする者も決して少なくない。
 だから、床に入って寝つきはわずかの補助手段をとると、楽に成功するようである。その意味から、日中、せっせと歩く散歩を勧めるのである。
 こうして七十代の老人も十代の若者も、昼間は仕事や家事や勉強や散歩やスポーツで、目いっぱいに体を働かせて、寝床に入ったら直ちに熟睡のできる習慣を持つことである。眠る気に任せて、疲れたままの体を横たえれば、すぐにぐっすり眠れる。これが熟睡の秘訣である。
 病人の場合はそうはいかないだろうから、マッサージでもしてもらって、よい気持ちになりながらそのまま眠るとか、いろいろ工夫があるはずだ。
●就寝前の食事の工夫
 眠るための工夫として、飲み物、食べ物についても紹介していく。
 世上、寝つきをよくするために、最もよく用いられるのはいわゆる寝酒である。老人の就眠法の大部分はこれで、簡単で便利だが、全く問題がないとはいえない。幸いにして五体が比較的満足で、血圧も上が百四十内外で、下が九十よりさほど高くない程度なら、一応、許容範囲といえるが、百六十~百以上とあっては、結構だとはいえない。胃潰瘍(かいよう)、その他内臓疾患のある人はなおいけない。
 それに、寝酒といっても酒の種類も考慮を要する。なぜかというと、アルコールによって得られる眠りは、生理的な自然睡眠とはいえないからである。
 もちろん、私たちが必要とする眠りは、赤ん坊の眠りと同じく自然睡眠であるが、寄る年波とともに、程度の差こそあれ、中枢神経系統は十分な、ナイーブなというか、オーソドックスな眠りを与えることが困難になってくる。
 そこで、何らかの方法で、睡眠を勝ち取る必要が生じてくるわけだが、自然睡眠をとることは、なかなか難しい。
 アルコールのもたらしてくれるのは麻酔である。寝なければならないためとはいいながら、毎晩の麻酔は考えもの。万一やむを得ないとしても、最小限に食い止めるべきである。
 また、自然睡眠を麻酔とともにもたらす道があれば、人工睡眠としては理想に近いものといえるかもしれない。
 ある東洋医学者によれば、ホップとアルコールの混合物が眠りを誘う目的に用いられるとすれば、単なるアルコールのみの使用に比して優れていることは、理の当然として考えられるという。
 そこで、両者の共存するビールは、単なる睡眠誘発のためなら、比較的無害なものといえるかもしれない。ただし、ビールのホップ含有量は一パーセントにすぎない。酒を全く飲まない私には、当否は弁じがたいが、そのほうに詳しい知人の説によると、寝心地と朝の目覚めはビールが最良だというが、そうかもしれない。
 知人は小瓶一本をもって適量とするといっている。これは我が意を得ている。摂取する水の量が多きに失すれば、心臓に対しても、腎臓に対しても負担となる。
 就寝前は大量の水をとることは避けるべきで、この意味で知人の就寝前ビールの処方は、結構なものだろう。
 食事に関していえば、就寝前に食べたり、食べすぎたりするのは、眠りの妨げになる。眠くなる前に物をたくさん食べると、眠くなる作用はもう奪われてしまう。それだけ胃に負担がかかって、胃の働きが強くなればなるほど、他から出る機能は淡いものになるのである。
 そこで、食事時間を早くするか、夕食を軽めにして朝食の量を増やす配慮をするべきである。また、カルシウム不足は神経がいらつきやすくなるので、小魚類を食べるようにする。
 あまり空腹でも眠れないので、その時は温かい牛乳を飲むといい。食べ物については、残念ながら即効薬的な物はないといわれるが、それでも、牛乳、チーズなどの乳製品は、睡眠を誘う数少ない食べ物の一つといえるだろう。
 牛乳、チーズには、神経の興奮を静めるカルシウムもあり、消化、吸収が高いという長所がある。その上、牛乳、チーズ中に含まれるトリプトファンというアミノ酸の一種が、脳睡眠中枢を刺激して自然に眠りを誘うという働きもある。
 ノンレム睡眠は、セロトニンという物質と深いかかわりがあるとされている。不眠や睡眠障害を起こす時は、決まって脳内にセロトニンが減少しているからである。このセロトニンは、トリプトファンから作られるので、牛乳やチーズを勧めるのである。
 逆に、就寝前に濃いコーヒーや紅茶を飲むのは禁物。コーヒーや紅茶に含まれるカフェインが交感神経を刺激し、眠気を抑える働きがある。
●不眠症解消のさまざまな試み
 さらに、基本的な問題として、入眠の際、肉体的に変調を覚えるようでは寝つくこともできない。端的な例は痛みである。頭痛、歯痛、内臓の痛みなどがあれば、そちらに神経が奪われて安らかな睡眠どころではない。快眠を得ようとするならば、痛みの原因を取り除くこと。この点は、かゆみ、尿意などの刺激も同様である。
 よく、あまり熱くない風呂に入れば、寝つきやすくなるという。これは、血行をよくし、筋肉の緊張を和らげて、交感神経の働きを低下させるためである。手足を温める方法も、同じく交感神経の働きを抑制し、眠りを誘うためである。
 この点、寝る前に、刺激の強いものを避けることも必要である。テレビや刺激的な音楽、食べ物などを就寝の二時間前には避けるようにする。音楽は静かで、ゆったりした曲で、心が安らぐなら効果的。しかし、テレビはどんなものでも睡眠の妨げになる。セックスは可であるが、終わったらすぐに寝るようにする。
 眠りのパターンを作ることもよいだろう。物理的パターンは人それぞれだが、自分なりの小物を使用する方法である。例えば、枕、本、音楽、寝る姿勢、何かを手に持ったり抱く。あるいは、寝る前にトイレにゆくという行為でもいい。一種の自己暗示だが、こうすれば眠れるというパターンを作り、習慣にする。
 心理的パターンとしては、他のことは考えず、あることについてのみ考える。例えば、未来のこと、過去のこと。小よりは大、現実よりは空想、人間よりは自然。特に身近な人間のこと、金銭のことは考えないようにする。寝不足でも、朝は決まった時間に起きるようにしてほしい。
 こうして不眠症を防止しても、神経が高ぶり、どうしても眠れない場合は、無理に寝ようとせず起きる。眠れるまで心の中で、「ナムアミダブツ」を続けるのもよいし、静かに瞑想するのも効果的である。強い照明、たばこは避けて、リラックスできる場所を選ぶ。
 労働が精神労働のほうに片寄っていて、肉体は眠くなく精神だけが疲労していると、眠いようで眠れないという現象が起こることもあるが、この時は丹田呼吸が役立つ。
 眠る時に、眠りたいと考えたり、眠らなければならないと考えたりするから、眠れないのである。丹田に入っている息を、ゆっくりゆっくり鼻から吐いていると、眠れる。丹田に息があるわけもないのだが、そう錯覚して息を吐いていればよいのである。
 要は、落ち着きは体から出るもので、気持ちからは落ち着けないものだから、フーッと大きく息を吐いて体の力を抜き、肉体をゆったりとくつろがせること。体がピリピリと張り詰めていては、睡眠物質の分泌も止まってしまうだろうが、肉体が意識から解放されることによって、再び眠りの潮時が訪れてくるはずである。
 精神的条件についていうと、すでに述べた通り、睡眠に対する異常な執着から、まずは解き放たれることが肝心。何とかして眠らなければと、意識が焦れば焦るほど逆効果になってしまうもの。肉体も落ち着かず、ひとりでに緊張しているものである。人間は必要があれば眠れるものなのだという強い心、タフな精神を持つことである。
 その方法としてよく紹介されるのは、セルフコントロール法とか、マインドコントロール法などと呼ばれる自律訓練法である。自分の心を思い通りに律しようというわけである。自己催眠により、自らを眠りに誘導していく。
 環境条件については、眠りやすい状況を整えることが大切。マットの硬さを好みで選べる快眠ベッド、人気のウォーターベッド。通気性に優れ、しかも保温効果がある羽毛布団。そばがらなど天然素材の枕。果ては、快眠のためのBGMや香り製品もあるから利用したらどうだろう。
 最近は、快眠を得るために住宅建設に当たって、寝室の間取り、設計、インテリアに神経を払う傾向も強くなっているともいう。




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