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■眠りの知恵2 [眠りの知恵]

[夜]深い眠りと浅い眠り
●睡眠物質を探る研究は今に続く
 睡眠を促す要因として、睡眠物質の存在を証明しようという研究は、今に続けられてきた。前述の学説で触れたピエロンの疲労物質説が、一連の研究の先駆けとなって、モニエという学者は一九六三年にウサギを使った実験で、睡眠物質の存在を主張した。モニエの研究によると、睡眠物質は脳脊髄液ばかりでなく血液にも存在するという。
 ほかにも睡眠物質の発見に情熱を注ぐ学者、研究者は多い。
 昭和五十年代はじめには、ハーバード大学、東京大学の両研究グループの実験によって、その物質は脳組織から分泌されるもので、化学構造としては少なくとも一つのペプチド型のアミノ酸結合が認められたという。
 植物でも、睡眠物質の存在を探る研究が盛んだ。マメ科の植物オジギソウは夜、葉を閉じて眠るとされているが、日本の教授グループによって、それら睡眠物質の化学構造が発表されている。
 また、人間の眠りと目覚めの関係は、体内から分泌される覚醒ホルモンであるノルアドレナリンと、睡眠ホルモンであるセトロニンの相互作用だともいわれている。私たちは、覚醒ホルモンの分泌とともに目覚め、日中活動する。そして、覚醒ホルモンの減少とともに眠りに就く。もし、覚醒ホルモンが一日中分泌され続ければ、熟睡できず、不眠症になる。睡眠ホルモンの役割は、この覚醒ホルモンを調整し、眠りを促進させることであるという。
 最近の研究では、ラットやサルを用いた実験で、プロスタグランジンD2とE2と呼ばれる物質が脳の中で働き、それぞれ睡眠と目覚めをコントロールしていることがわかったともいう。大阪バイオサイエンス研究所の早石所長が明らかにした成果である。
 動物実験で、一兆分の数グラムのD2を脳に注入すると、動物はじきに眠り始めることが確認されている。D2によって誘起された睡眠は、普通の睡眠薬による不自然な眠りとは違い、脳波などから見て自然の睡眠と全く変わりのないこともわかっている。
 このように、科学的にも睡眠のメカニズムについて、諸説が出され、いくつかのことが解明されているが、まだまだ未知の部分の多い領域だといえる。
●脳細胞の疲労を回復する作業
 ただ、眠りとは脳と体の興奮や活動が低下した状態で、睡眠と覚醒をコントロールしているのが脳であることだけは明らかになっている。
 脳といっても、脳幹と呼ばれる部分が睡眠と覚醒を調節しているとされている。大脳の内部にあり、古い皮質に包まれた脳幹は「命の座」といわれ、生命を維持し、成長を促す重要なところ。自律神経系とホルモン系を調節する間脳、中脳、橋、延髄などで構成されている。
 さらに正確にいえば、その脳幹にある間脳の一部に、視床下部という手の親指ほどのところがあるが、視床下部の一部で、視神経が集まっている視交叉(さ)上核という一対の神経細胞群の中にある生物時計が、目覚めと眠りのリズムを支配しているのである。
 視床下部はちっぽけでも、支配力は絶対的なのが特徴だ。もし、この視床下部の働きがコントロールできれば、「今週は疲れたから眠るとしよう。仕事は来週回しだ」とか、「この秋は大不作なので、一億総冬眠を実施する」などということも可能になって、世の中は一段と暮らしやすくなろうというもの。
 もっとも、「今夜はどうしても眠っては困るんだ」という意志の力によって、睡眠の不変のリズムに抵抗することはできる。仕事や授業の最中に、コックリ、コックリしては上役や先生ににらまれると考えて、必死に眠気と闘った覚えのある人もいるだろう。
 ちなみに、これまでの人間の断眠の世界記録は二百六十四時間、実に十一日間で、アメリカの高校生が学校の科学祭で記録したものだという。
 だが、このような抵抗は、偉大なリズムの不変性に比べたら、物の数ではない。時間にしてもわずかなものである。とにかく、睡眠リズムは一生涯にわたって続くのである。睡眠はすべての物事の根本で、生命が培われるのも夜の眠りの中である。
 昔から「動物を長く眠らせないと、ついには死んでしまう」といわれていたが、動物実験で連続的に刺激を与え、絶対的に眠らせないようにすると、十日以内にことごとく死んでしまうというデータが残されている。
 それはなぜか。まさか人間を使って試してみるわけにはいかないが、子犬を使って眠らせない実験をすると、六日間の断眠で体温が四~五度も下がり、脳細胞は一週間もすると壊れ始める。
 つまり、脳細胞は鋭敏な代わりに、すこぶる疲れやすいものなのである。我々は、脳細胞の疲労回復のために、眠るわけである。「ああ、眠くなった」というのは、脳細胞が「もう疲れました」と、危険信号を発しているものと思っていいだろう。
 よく「眠れない、眠れない」とこぼしている人がいるが、脳細胞は疲労がぎりぎりのところまでくると、ちょうど食欲と同じように、必ず休息、睡眠を要求する。逆にいえば、眠くない人は眠る必要がないのだ、といってもよいくらいである。
 いずれにしても、脳細胞の要求は尊重したいものである。というのは、脳細胞は百五十億個もあるが、これは生まれた時から備わっていて、ほとんど増えないし、その上、一度壊れたら最後、いくら養生しても埋め合わせのきかない貴重なものだからである。
 手足の皮膚の細胞などは、少々の切り傷、擦り傷ではびくともしないが、脳細胞はちょっとわけが違う。眠りによって脳細胞を休ませる必要は、誰もが拒めない義務のようなものである。
 睡眠は、脳細胞の疲労を回復する大事な作業でもあるわけだ。手や足は使わないでいるだけで、ある程度、疲れをとることができる。だが、脳は目や耳から絶えず刺激を受けていて、機能し反応し続けているのである。起きている間は、脳に休息はない。脳を休ませるには、眠るしか方法がないのである。
 大脳の正常な働きを担っているのは、グルタミン酸を分解したガンマアミノ酪酸だとされている。人間が活動を続けると、次第にこのガンマアミノ酪酸が分解され、ガンマハイドロオキシ酸とアンモニアに分解されるのである。
 徹夜で仕事をしていて、頭がボーッとなり、集中力を失っていくのは、ガンマハイドロオキシ酸が脳に蓄積されるためである。
 これを取り除くには、睡眠をとるしかない。ほかに、特効薬はない。睡眠をとってはじめて、脳の疲労を回復、ひいては再びコンピューターに負けない脳力を取り戻すことができるというわけである。
●睡眠のパターンとサイクル
 さて、人間の睡眠は、脳波による測定が可能になってから、客観的に明らかにできるようになったのである。脳波というと、脳から発せられる微量の電波と思われがちだが、実際は脳の二点間の電位差の変動を示す。
 この人間の脳波は、一九二〇年代にドイツの精神医学者H・ベルガーによって発見された。脳波の発見から、はじめて本格的な睡眠研究が始まったといってよいだろう。脳波の波形の変化を捕らえることで、客観的に覚醒状態と睡眠状態との区別ができるようになり、また、睡眠の深さや経過を知ることができるようになったのである。
 以後、睡眠の研究は日進月歩で進んだ。一九五〇年代中頃には、睡眠にレム睡眠とノンレム睡眠という、二つの質の異なる眠りがあることが明らかにされた。
 その後、目覚ましいエレクトロニクスの発見のお陰で、驚くほどの発展を遂げる。脳波を記録して分析することによって、病気の診断と治療に役立つばかりではなく、精神医学は飛躍的に進歩したのである。
 その脳波を調べることで、眠りには、五段階のパターンがあることがわかっている。人間の場合、約九十分周期で、いくつかの脳波を組み合わせた五段階の睡眠パターンを経過するといわれている。
 まず、ノンレム睡眠が、第一度から第四度までの四つのパターンに分けられる。眠りの深さは、第一度は浅く、第四度で最も深い眠りに就く。この違いを明らかにするのが、脳波の波形だ。
 人間の脳波は、はっきりと目覚めている時には、ベータ波という非常に速い波が見られる。それが安息時に、リラックスしてきてぼんやりしてくると、波はだんだんと遅くなってアルファ波となり、さらに浅い眠りでシータ波に移行する。そして、眠りがいっそう深くなると、大きな振幅のデルタ波が見られるようになる。この波が遅くなるほど、眠りは深くなっていくのである。
 ノンレム睡眠が第四度まで到達すると、その後は第三、第二、第一と浅い眠りに戻り、レム睡眠へと向かう。この一連の変化でも明らかなように、普通、レム睡眠はノンレム睡眠の谷を経過した後で現れる睡眠である。
 そのレム睡眠の時には、眼球がキョロキョロと動くので、英語の頭文字をとってレム(REM=Rapid Eye Movement)睡眠という。もし、眠りに入ってすぐレム睡眠が起こるとしたら、異常である。
 専門家によっては、ノンレム睡眠を徐波睡眠、レム睡眠を逆説睡眠と説明する場合がある。徐波睡眠の命名の由来は、睡眠が進むにつれて脳波がゆっくりした波、つまり徐波になっていくからである。
 一方、逆説睡眠とは、脳波パターンでは目覚めているように見えても、その実やはり眠っているという逆説的、パラドックス的な現象に思えるために名づけられた。
 いずれも表現こそ違え、ノンレム睡眠、レム睡眠と質は変わらない。
 ちなみに、ノンレム睡眠を脳の眠り、レム睡眠を体の眠りと呼ぶこともある。睡眠中、脳波、眼球運動、筋電図、呼吸曲線などを測定、観察すると、ノンレム睡眠は脳を休め、レム睡眠が体の疲れをとっていると判断できるからである。
 一晩の睡眠の経過を図で描けばより明らかなことだが、人の睡眠の大半をノンレム睡眠が占める。だいたい一回のノンレム睡眠は三十分程度。人によっては、一時間以上も続く場合もある。
 眠りが深くなり第四度に達すると、名前を呼んだり、ちょっとつねったくらいでは目覚めない。この後、第三、第二、第一度と次第に眠りが浅くなり、寝入りばなと似たような脳波になる。すなわち、レム睡眠を迎えるわけだが、ノンレム睡眠の第一度とは眠りの質が全く違う。急速眼球運動を起こすが、多少の物音では目覚めない。強く揺すれば目は開けるものの、すぐまた眠り込んでしまうのである。
 普通、レム睡眠はほぼ九十分周期でやってくると見られている。要するに、ノンレム睡眠の第一度からレム睡眠までを睡眠の一つの周期として、このサイクルを約九十分、一時間半で繰り返しているのである。人間は、このサイクルを一晩に四~五回繰り返して、朝の爽快な目覚めを迎えるのが一般的である。
●宵型の深い眠りと朝型の浅い眠り
 よい睡眠とは、爽快な目覚めといい換えられるほど、密接な関係にある。よい睡眠がとれた時は、朝スキッと起きられるし、逆に爽快な目覚めを伴わない眠りは、長短にかかわらず睡眠時間に不満が残るものだ。
 要するに、よい睡眠とは、目覚めた時に満足感が得られることが条件になる。ぐっすり眠れたという感覚こそが、的確によい睡眠を表す言葉であろう。
 睡眠時間は足りているのに、どうもスッキリしないというのは、眠りの波が悪いということになる。眠りのリズムが正常であれば、目覚めは爽快であり、逆に眠りのリズムが狂うと、ストレスが解消されず心身の病気の原因にもなる。
 この点で、一般的にいって、精神労働者に比較して、肉体労働者のほうがよい睡眠、爽快な目覚めを享受しているという。
 肉体労働者は単純な、身体的疲労から睡眠に入るケースが多く、床に入るとすぐ深い眠りに陥る人がほとんどである。明け方近くには浅い眠りに移り、しばらくして目を覚ます。もちろん、ストレスや精神的な興奮などがないことが前提である。
 反対に、精神労働者は、浅い眠りがしばらく続き、明け方近くになって熟睡するタイプの人が多い。身体的なものより、精神的な疲労がよりたくさん蓄積するためである。
 いわゆる、肉体労働者が宵型、精神労働者は朝型と大別できる。宵型の特徴である早寝早起きが健康にいいことは、昔からの常識だ。朝型は深い眠りに入るのが遅いこともあり、どうしても睡眠が浅くなりがちで、爽快な目覚めも期待できない。
 よい睡眠、爽快な目覚めは、生体リズムとの関係のほかに、レム睡眠にも大いに関係する。
 人間を含めた高等動物である哺(ほ)乳類は、眠りのパターンの中に、このレム睡眠という特殊な睡眠状態を持つことが知られている。レム睡眠は、覚醒時に近い脳波を出し、体は眠っているが、脳は起きているという状態に特徴がある。
 体の眠りとされるレム睡眠が十分だと、満足感の得られる睡眠がとれるのである。新生児や幼児は、レム睡眠が睡眠時間全体の半分以上を占める。この割合は成長とともに減少し、成人で全睡眠時間の約二十パーセント、五十歳代を超えると十五パーセントぐらいまで減ってしまう。高齢者が長時間の睡眠をとっても、満足感のある睡眠が得られない場合がよくある理由は、睡眠のリズムが変化し、レム睡眠が減ってしまうからだ。
 私たちの記憶に残る夢は、ほとんどこのレム睡眠時に体験している。レム睡眠についての全容は明らかではないが、人間が記憶した情報の整理整頓が大きな役割だといわれている。非常に不愉快な心理状態の時に、少しの時間でも眠るとかなり穏やかな精神状態になるのは、好ましくない記憶を排除するレム睡眠の働きによるものである。
 人間の眠りは、肉体の疲れをいやすだけではなく、不快な記憶を脳裏の奥にある記憶の押し入れに片づけ、新しい明日に備える働きをしているのである。
●動物や植物の眠りというもの
 動物の眠りについても少し触れておくと、魚類と両生類には眠りがなく、眠りは鳥類と哺乳類、つまり、大脳の発達した動物の特徴だといわれる。ネズミを断眠させると、摂食量は低下せず栄養面では問題がないのに、四週間で死亡する。高等な動物は、眠ることが絶対に必要なのだ。
 また、狩りをする動物は、長く眠るという。獲物を倒し、飽食の後、ぐっすり眠る。犬も猫も、眠り方を見ると、この部類に属することがわかる。一方、狩られる側の動物は反対である。おちおち寝てはいられない。眠り込む時間も短くなる。
 眠りの型はノンレムとレム睡眠による超日リズムによって決定されるが、二十四時間リズムとともに、高等動物は二つの内的リズムを持つ。前者は動物の生態進化により作られたという興味深い説もある。危険な環境に住むヒヒには、レム睡眠がない。レム睡眠は夢見る時だから、猫は夢を見るが、ヒヒは夢を見ないということになろう。
 面白いのは、長時間にわたって泳ぎ続けたり、飛び続けるイルカやカモメなどは、右脳と左脳を代わる代わる眠らせているという報告である。片方の脳に深い眠りをとらせながら、もう片方の脳を目覚めさせておき、おぼれたり、地上に落下するのを防いでいるわけだ。
 植物の眠りについてもいうと、すでに十八世紀の植物学者リンネが、植物にも眠りのあることを書いている。オジギソウのように、昼夜のリズムに従って、葉を開いたり閉じたりしている草もあるのは、前述した。
 最近では、平成二年に、うまい米として知られるコシヒカリが睡眠不足になった、という話題があった。福岡県のある市で、田んぼの隣に立っている水銀灯の光に照らされるところでは、稲の生育がおかしいと農家がいい、調べたらその通りで市が補償したのである。水稲は短日植物なのである。よく眠らせないと米が育たぬのは、事実のようである。
 稲ばかりでなく、もちろん、人間の身体的な成長も、睡眠によって促される。
 よく「寝る子は育つ」という。これは理にかなった言葉で、うそでもデタラメでもない。睡眠と発育を促す成長ホルモンとの間には、密接な関係があって、睡眠中に、脳の中の小指の先よりもっと小さい脳下垂体から、成長ホルモンが分泌されることはすでに知られている。
 睡眠中、成長ホルモンが特に活発に分泌されるのは、入眠直後のノンレム睡眠の時だという。普通の成人の場合、眠り始めて七十分ぐらいで、血液中の成長ホルモンの量が最高値に達する。この睡眠と成長ホルモンの相互関係はきわめて密接で、入眠の時期が遅れると、成長ホルモンの分泌も遅れてしまうということもわかっている。
 しかし、睡眠中の成長ホルモン分泌現象は、成長とともに変化を見せる。研究によると、こうした生理現象が認められるようになるのは、生後三カ月ほどからで、成人のように眠り始めた直後のノンレム睡眠で、成長ホルモンが最高値を記録するのは四~五歳からのことである。
 それが思春期に入ると、睡眠中だけでなく、覚醒時にも成長ホルモンが分泌されるのである。成年期になって、再び睡眠中だけの生理現象に戻り、五十歳を超える時期に入って、眠っている時にも成長ホルモンは分泌されなくなってしまう。
 発育過程の子供にとっては、睡眠はまさに成長の糧である。
 また、私にいわせれば、人間にとって眠りが長寿の根本でもある。五十歳をすぎて成長ホルモンの分泌はなくなっても、正しい眠りの中では、疲れが翌日のエネルギーと変わるものである。さらに、宇宙大自然の力によって肉体が浄化され、肉体機能が自然作用的に調整されるから、よく眠る老人も長生きすることになるのである。




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