■病気 ベーチェット病 [病気(へ)]
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ベーチェット病とは、原因不明の膠原(こうげん)病類縁疾患。目のぶどう膜炎に加えて、口腔(こうくう)粘膜のアフタ性潰瘍(かいよう)、皮膚症状、外陰部潰瘍を主症状とし、血管、神経、消化器などの病変を副症状として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とします。
疾患名は、トルコの医師フルス・ベーチェットが1936年、初めて報告したことに由来しています。日本では現在、厚生労働省の特定疾患医療に認定されている難病の一つで、平成19年3月末現在、ベーチェット病の特定疾患医療受給者数は16638人を数えます。
地域的には、中近東諸国や地中海沿岸諸国、日本、韓国、中国に多くみられるため、シルクロード病ともいわれています。日本においては北海道、東北に多くて、北高南低の分布を示し、男女比は1対1、20歳代後半から40歳代にかけての働き盛りに、多く発症しています。
疾患の原因は、現在も不明です。しかし、遺伝因子など何らかの内因と、感染病原体やそのほかの環境因子など何らかの外因が関与して、白血球の異常が生じるために発症すると考えられています。単純な遺伝性疾患と捕らえるのは、妥当ではありません。
内因中の遺伝因子で一番重要視されているのは、ヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)のHLA-B51というタイプです。HLAのうちB51を持っている日本人の一般的割合は10~15パーセントですが、べーチェット病の発症者では50~60パーセントと非常に高い割合になっています。
また、そのほかの遺伝因子についても、発症や病状に影響を及ぼす可能性が指摘されています。
外因としては、ある種の工業汚染物質の影響を考える説もありますが、虫歯菌を含む細菌やウイルスなどの微生物が関わっているのではないかという考え方が有力です。
ベーチェット病の主な症状は、以下の4症状です。
●目の症状
この疾患で最も重要な症状が目のぶどう膜炎で、ほとんど両目が侵されます。ぶどう膜とは、虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜の総称です。
目に最初に出現する自覚症状として最も多いのは、目のかすみや視力低下。医師が細隙燈(さいげきとう)顕微鏡で見ると、角膜と虹彩とに囲まれた前眼房が混濁し、ベーチェット病のぶどう膜炎特有の白色の蓄積物が認められます。これを前眼房蓄膿(ちくのう)といいます。
再発を繰り返しながら、徐々に視力低下を来しますが、発症者本人がその再発を直接的に自覚する場合が多く、眼発作と呼ばれています。障害が蓄積され、網膜脈絡膜炎に進む例では、失明に至ることもあります。
●口腔粘膜のアフタ性潰瘍
頬(きょう)粘膜、舌、口唇、歯肉に白く、痛みのある、アフタという円形の潰瘍ができます。初発症状として最も頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返しできることも特徴です。
●皮膚の症状
皮膚に結節性紅斑(こうはん)や、にきびのような発疹(はっしん)がみられます。結節性紅斑は、隆起性で圧痛を伴う紅斑が手足に現れます。にきびのような発疹は、前胸部、背部、頸部(けいぶ)などに現れます。
皮膚は過敏になり、かみそり負けを起こしやすかったり、針反応といって、注射や採血で針を刺した後、赤く腫(は)れたりすることがあります。
●外陰部の潰瘍
男性では陰嚢(いんのう)、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣(ちつ)粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔粘膜のアフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、傷跡を残すこともあります。ベーチェット病に特徴的な症状で、しばしば発症者が自らの病気を自覚するきっかけになります。
4つの主症状以外に、以下の副症状があります。後期に起こる症状であり、生命や予後に影響を及ぼします。
●関節炎
膝(ひざ)、足首、手首、肘(ひじ)、肩などの大関節が侵され、一般的には、むくみがみられます。急性、亜急性で繰り返す場合と、慢性に持続する場合があります。非対称性で、変形や剛直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。
●血管病変
この疾患で大きな血管に病変がみられた時、血管型ベーチェット病といい、圧倒的に男性に多い病型です。動脈、静脈ともに侵されますが、静脈病変が多く、深部静脈血栓症などの原因となることがあります。深部静脈血栓症は下肢に多くみられ、皮下静脈に沿った発赤、圧痛と周囲のむくみが主な症状です。
動脈病変は少ないのですが、大動脈炎を起こしたり、肺動脈炎から大量喀血(かっけつ)を来すことがあります。血管病変に伴う脳血管障害や心筋梗塞(こうそく)を起こす場合もあります。
●消化器病変
腸管の潰瘍を起こした時、腸管型ベーチェット病といいます。主症状は、腹痛、下痢、下血など。部位は右下腹部に当たる回盲部が圧倒的に多く、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔(せんこう)により、緊急手術を必要とすることもあります。
●神経病変
神経症状が前面に出た時、神経型ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病型です。髄膜(ずいまく)炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと、片まひ、小脳症状などの神経症状に加えて認知症などの精神症状を来し、慢性的に進行するタイプに大別されます。慢性的に進行するタイプは特に予後不良で、あまり治療も効きません。
●副睾丸(こうがん)炎
男性に頻度が高く、特徴的症状として挙げられています。睾丸部の圧痛と、むくみを伴います。
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ベーチェット病の主症状が2つ以上あれば、定期的な経過観察が重要となりますので、リウマチ・膠原病科、眼科、皮膚科の専門医を受診します。
診断のための特殊な検査はなく、これがあればベーチェット病だと診断できる特別な症状もありませんが、主症状と副症状から総合的に診断が行なわれます。HLA―B51陽性や針反応は、診断の参考になります。
主症状がすべて出現した時は診断はそれほど難しくはありませんが、副症状が主体になる時は診断が困難なことがあります。また、多彩な症状は一度に出てくるわけではなく、長い年月をかけて症状がそろい、初めてベーチェット病と診断される場合も少なくありません。
目、口、皮膚、外陰部の4主症状すべてがそろったものを完全型ベーチェット病、2~3主症状に加えて2副症状を示したものを不全型ベーチェット病と呼ぶこともあります。
ベーチェット病の症状は非常に多彩ですので、現在のところ、すべての症状に対応できる単一の治療はありません。急性炎症性発作を完全に食い止める治療法もなく、いかに発作を軽症化し、回数を減らすかが治療の最大の課題となっています。
現在の治療は、ステロイド剤(副じん皮質ホルモン)と免疫抑制剤が中心となっています。生命に影響を及ぼす臓器病変や、重篤な目の病変などでは、高用量のステロイド剤や免疫抑制剤を含む強力な治療が行なわれます。
一度臓器病変を起こした場合や、血管型、神経型、腸管型に分類される特殊型ベーチェット病の場合は、症状が軽減、解消した後も容易に再燃するのを防ぐため、少量のステロイドを飲み続けるケースが多くなります。
難治性の目の病変に対しては、抗腫瘍(しゅよう)壊死因子抗体のインフリキシマブを使用することもあります。インフリキシマブは世界に先駆けて2007年1月、日本で保険適用となったもので、まだ長期成績は出ていませんが、従来の治療薬にない効果が期待されています。
皮膚などの軽度の症状や、症状が軽減、解消した時期には、コルヒチン、サラゾピリンなども用いられます。
主症状に関しては、慢性的に繰り返し症状が出現するものの、一般に予後は悪くありません。10年くらい経つと疾患の勢いは下り坂となり、20年くらいを越えるとほぼ再燃しないと見なされています。ただし、目の病変については、治療が遅れるなどすると失明することもあり、若年者の失明の重大な原因の一つです。特殊型ベーチェット病も、いろいろな後遺症を残すことがあります。
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