■用語 皮癬(ひぜん) [用語(は行)]
ヒゼンダニによって起こる皮膚疾患
皮癬(ひぜん)とは、0.2〜0.4ミリ程度の体長のヒゼンダニというダニの一種が寄生して、皮膚に起こる感染症。ヒゼンダニは疥癬(かいせん)虫とも呼ばれるため、皮癬は疥癬とも呼ばれています。
通常、皮癬は密な人間同士の接触により人肌を介して移るため、性行為に伴う感染が多く、性行為感染症(準性病)に含められています。しかし、衣類、タオルやシーツなどのリネン類、布団やベッドなどの大型寝具から感染することも少なくなく、家族内感染や、老人ホーム、病院、宿舎といった施設内感染もあります。近年は、寝たきりの高齢者などの介護行為を介して感染し、流行することで、問題になっています。
逆上れば、栄養摂取や衛生状態の悪かった第二次世界大戦後非常に流行しましたが、その後、皮癬は全く消滅しました。しかし、海外旅行が急激に増えた1970年代になって再び流行が始まり、なお続いています。ヒゼンダニに特効的な殺虫剤であるDDTやBHCが、人に対する毒性も強いために1971年に失効となって以降、それらに代わるものがまだないことにもよります。
ヒゼンダニに寄生されると、約1カ月の潜伏期間を経て、手指の間、陰部、腹部、わきの周囲など、顔と頭を除いた全身にかゆく、赤いブツブツした発疹(ほっしん)が現れます。特徴的なのは、皮癬トンネルと呼ばれる、細くて灰白色で長さ5ミリ~1センチくらいの発疹が手首や手指の間にできることです。皮癬トンネルの中では、雌のヒゼンダニが産卵します。近年流行している皮癬では、この皮癬トンネルが認められるものが少なくなっています。
とてもかゆいのが症状の特徴で、入浴の後や運動の後など血行のよい時は、耐えられないほどのかゆみを伴うことがあります。一般的には、かゆみは夜間に最も強くなり、布団に入って体が温まると、激しいかゆみを覚えて不眠を来すこともあります。1度治って、2度目、3度目の再感染の場合には、比較的短期間で、かゆみを自覚することもあります。
まれに、基礎疾患があったりして全身状態のよくない場合には、ヒゼンダニが極めて多数増殖し、全身が赤くなったり、手足などの角質層に厚いガサガサした肌荒れのような発疹がみられます。これをノルウェー皮癬、ないし重症型皮癬と呼び、感染力が極めて強くなります。角質層の中には多数の虫体と虫卵が含まれていて、ひどい時には100万~200万匹のヒゼンダニが寄生することになります。
そのヒゼンダニは、数千年も前からいる虫で、メソポタミア南部に栄えた古代バビロニアの時代から知られています。ナポレオン時代の戦争で皮癬の流行がフランス軍の戦意を失わせたのは有名な話で、現在もヒゼンダニは世界各国に散らばっています。
大変小さな虫のため、肉眼ではほとんど確認できません。ヒゼンダニの雌は、皮膚に取り付くと10~40分で角質層内に潜り込み、皮癬トンネルを作って1日2~3個の卵を産み続け、4~6週間で寿命を終えます。卵は3〜4日で孵化(ふか)して幼虫、若虫を経て約2週間で成虫になります。成虫の雄は、雌を探し求めて雌よりも活発に動き回ります。皮膚内で交尾後、雄は間もなく死にますが、雌はなお卵を産み続けるわけです。
成虫が人肌を離れた場合、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能ですが、50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死にます。
皮癬(ひぜん)の検査と診断と治療
皮膚症状から皮癬が疑われた場合、市販薬などで自己治療せず、皮膚科を受診して治療を受けてください。市販のかゆみ止めでは治りません。また、生活を共にしている家族や同僚などに、同じかゆみ、発疹、発赤の症状が出ていないかどうか確認し、感染の拡大を防ぐことが重要です。
医師が診断する方法は、皮膚に出ている症状です。皮癬トンネルなどを見付けて、皮癬だと診断します。また、皮膚の一部をメスやピンセットで削り顕微鏡で調べることで、ヒゼンダニの虫体、虫卵が見付かれば診断確定です。
標準的治療では、硫黄製剤の軟膏(なんこう)を1日1回、あるいはオイラックス軟膏を1日2回、全身に塗る方法が主に行われます。軟膏を首から下の全身に満遍なく、塗り残しなく、発疹部だけでなく全体に塗ることが、大事です。1回の薬剤使用料は、20グラムを限度とされます。
硫黄の入浴剤を併用する方法もあります。角質軟化作用のある10~20パーセント尿素軟膏の併用も効果的です。ただし、湿疹様変化を生じても、虫体や虫卵が生存している内はステロイド入り軟膏は使用しません。長期間ステロイド軟膏による治療を続けた場合、重症型のノルウェー皮癬となり得るからです。かゆみが激しい時は、抗ヒスタミン剤を内服します。
近年、皮癬に対する特効的な内服薬として欧米で使用されていたイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)が、日本でも使用可能となりました。1回内服、経過により1週間後に再度内服することにより、ヒゼンダニは死滅するといわれています。
ノルウェー皮癬の重症例では、発症者は隔離入院しなければならず、家族は面会を自粛するように求められます。重症例では、安息香酸(あんそくこうさん)ベンジルやγ–BHC(ガンマ–ベンゼンヘキサクロリド)を全身に塗ることがあります。
普通の皮癬の多くは1カ月ほどで症状が軽快しますが、できればその後さらに1カ月程度治療を継続したほうがよいでしょう。皮膚をかくことや、硫黄製剤などによる皮膚への刺激のため、2次的に湿疹を伴ってくることもありますので、その治療も適宜必要になってきます。
硫黄製剤の使用のため皮膚があまりにガサガサして、かゆい時は、一時使用を中断し、白色ワセリンなどで皮膚を休ませます。ただし、硫黄製剤を使う以上は、ある程度のガサガサは覚悟しなければなりません。角質がはがれ落ちて、ヒゼンダニが早く落ちることも、治癒を早くするための一法です。
この他、日常生活で体を清潔にし、こまめな洗濯や熱湯消毒をすることなども、医師から指示されることになります。体は風呂に入って、石けんで良く洗い、洗髪もします。硫黄の入浴剤が効果を現しますが、効果を期待しすぎて濃度が過ぎると硫黄かぶれを起こすために、かゆみが出ることもありますので、注意が必要です。風呂の後、ヒゼンダニを殺虫できる軟膏を全身に塗ります。
皮癬は夫婦、親子間などで移りますので、念のため、シーツ、下着、洋服は毎日、取り替えます。ヒゼンダニは熱に弱いので、50℃のお湯に10分間つけてから、洗濯することが望まれます。熱風乾燥機も効き目がありますので、10分以上かけます。部屋については、こたつ、カーペットに特に注意し、毎日ていねいに電気掃除機をかけます。掃除機のパックは毎日、取り換えるようにします。
皮癬(ひぜん)とは、0.2〜0.4ミリ程度の体長のヒゼンダニというダニの一種が寄生して、皮膚に起こる感染症。ヒゼンダニは疥癬(かいせん)虫とも呼ばれるため、皮癬は疥癬とも呼ばれています。
通常、皮癬は密な人間同士の接触により人肌を介して移るため、性行為に伴う感染が多く、性行為感染症(準性病)に含められています。しかし、衣類、タオルやシーツなどのリネン類、布団やベッドなどの大型寝具から感染することも少なくなく、家族内感染や、老人ホーム、病院、宿舎といった施設内感染もあります。近年は、寝たきりの高齢者などの介護行為を介して感染し、流行することで、問題になっています。
逆上れば、栄養摂取や衛生状態の悪かった第二次世界大戦後非常に流行しましたが、その後、皮癬は全く消滅しました。しかし、海外旅行が急激に増えた1970年代になって再び流行が始まり、なお続いています。ヒゼンダニに特効的な殺虫剤であるDDTやBHCが、人に対する毒性も強いために1971年に失効となって以降、それらに代わるものがまだないことにもよります。
ヒゼンダニに寄生されると、約1カ月の潜伏期間を経て、手指の間、陰部、腹部、わきの周囲など、顔と頭を除いた全身にかゆく、赤いブツブツした発疹(ほっしん)が現れます。特徴的なのは、皮癬トンネルと呼ばれる、細くて灰白色で長さ5ミリ~1センチくらいの発疹が手首や手指の間にできることです。皮癬トンネルの中では、雌のヒゼンダニが産卵します。近年流行している皮癬では、この皮癬トンネルが認められるものが少なくなっています。
とてもかゆいのが症状の特徴で、入浴の後や運動の後など血行のよい時は、耐えられないほどのかゆみを伴うことがあります。一般的には、かゆみは夜間に最も強くなり、布団に入って体が温まると、激しいかゆみを覚えて不眠を来すこともあります。1度治って、2度目、3度目の再感染の場合には、比較的短期間で、かゆみを自覚することもあります。
まれに、基礎疾患があったりして全身状態のよくない場合には、ヒゼンダニが極めて多数増殖し、全身が赤くなったり、手足などの角質層に厚いガサガサした肌荒れのような発疹がみられます。これをノルウェー皮癬、ないし重症型皮癬と呼び、感染力が極めて強くなります。角質層の中には多数の虫体と虫卵が含まれていて、ひどい時には100万~200万匹のヒゼンダニが寄生することになります。
そのヒゼンダニは、数千年も前からいる虫で、メソポタミア南部に栄えた古代バビロニアの時代から知られています。ナポレオン時代の戦争で皮癬の流行がフランス軍の戦意を失わせたのは有名な話で、現在もヒゼンダニは世界各国に散らばっています。
大変小さな虫のため、肉眼ではほとんど確認できません。ヒゼンダニの雌は、皮膚に取り付くと10~40分で角質層内に潜り込み、皮癬トンネルを作って1日2~3個の卵を産み続け、4~6週間で寿命を終えます。卵は3〜4日で孵化(ふか)して幼虫、若虫を経て約2週間で成虫になります。成虫の雄は、雌を探し求めて雌よりも活発に動き回ります。皮膚内で交尾後、雄は間もなく死にますが、雌はなお卵を産み続けるわけです。
成虫が人肌を離れた場合、25℃・湿度90%で3日間、25℃・湿度30%で2日間、12℃・高湿度で14日間生存可能ですが、50℃では湿度に関係なく約10分間程度で死にます。
皮癬(ひぜん)の検査と診断と治療
皮膚症状から皮癬が疑われた場合、市販薬などで自己治療せず、皮膚科を受診して治療を受けてください。市販のかゆみ止めでは治りません。また、生活を共にしている家族や同僚などに、同じかゆみ、発疹、発赤の症状が出ていないかどうか確認し、感染の拡大を防ぐことが重要です。
医師が診断する方法は、皮膚に出ている症状です。皮癬トンネルなどを見付けて、皮癬だと診断します。また、皮膚の一部をメスやピンセットで削り顕微鏡で調べることで、ヒゼンダニの虫体、虫卵が見付かれば診断確定です。
標準的治療では、硫黄製剤の軟膏(なんこう)を1日1回、あるいはオイラックス軟膏を1日2回、全身に塗る方法が主に行われます。軟膏を首から下の全身に満遍なく、塗り残しなく、発疹部だけでなく全体に塗ることが、大事です。1回の薬剤使用料は、20グラムを限度とされます。
硫黄の入浴剤を併用する方法もあります。角質軟化作用のある10~20パーセント尿素軟膏の併用も効果的です。ただし、湿疹様変化を生じても、虫体や虫卵が生存している内はステロイド入り軟膏は使用しません。長期間ステロイド軟膏による治療を続けた場合、重症型のノルウェー皮癬となり得るからです。かゆみが激しい時は、抗ヒスタミン剤を内服します。
近年、皮癬に対する特効的な内服薬として欧米で使用されていたイベルメクチン(商品名:ストロメクトール)が、日本でも使用可能となりました。1回内服、経過により1週間後に再度内服することにより、ヒゼンダニは死滅するといわれています。
ノルウェー皮癬の重症例では、発症者は隔離入院しなければならず、家族は面会を自粛するように求められます。重症例では、安息香酸(あんそくこうさん)ベンジルやγ–BHC(ガンマ–ベンゼンヘキサクロリド)を全身に塗ることがあります。
普通の皮癬の多くは1カ月ほどで症状が軽快しますが、できればその後さらに1カ月程度治療を継続したほうがよいでしょう。皮膚をかくことや、硫黄製剤などによる皮膚への刺激のため、2次的に湿疹を伴ってくることもありますので、その治療も適宜必要になってきます。
硫黄製剤の使用のため皮膚があまりにガサガサして、かゆい時は、一時使用を中断し、白色ワセリンなどで皮膚を休ませます。ただし、硫黄製剤を使う以上は、ある程度のガサガサは覚悟しなければなりません。角質がはがれ落ちて、ヒゼンダニが早く落ちることも、治癒を早くするための一法です。
この他、日常生活で体を清潔にし、こまめな洗濯や熱湯消毒をすることなども、医師から指示されることになります。体は風呂に入って、石けんで良く洗い、洗髪もします。硫黄の入浴剤が効果を現しますが、効果を期待しすぎて濃度が過ぎると硫黄かぶれを起こすために、かゆみが出ることもありますので、注意が必要です。風呂の後、ヒゼンダニを殺虫できる軟膏を全身に塗ります。
皮癬は夫婦、親子間などで移りますので、念のため、シーツ、下着、洋服は毎日、取り替えます。ヒゼンダニは熱に弱いので、50℃のお湯に10分間つけてから、洗濯することが望まれます。熱風乾燥機も効き目がありますので、10分以上かけます。部屋については、こたつ、カーペットに特に注意し、毎日ていねいに電気掃除機をかけます。掃除機のパックは毎日、取り換えるようにします。
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2011-11-04 22:54
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