■用語 若年性特発性関節炎 [用語(さ行)]
16歳以下の小児期に発症する慢性関節炎
若年性特発性関節炎とは、16歳以下の小児期に発症する原因不明の慢性関節炎。以前は、若年性関節リウマチと呼ばれていました。
膠原(こうげん)病の一つである大人の関節リウマチが小児期に発症したものと考えられ、関節の内側にある滑膜という個所で炎症が起こり、徐々に軟骨や骨が破壊されるため、関節が動かしにくくなり、最終的には骨と骨がくっついて動かなくなってしまいます。
小児期の慢性関節炎の中で最も頻度の高い疾患で、有病率は10万人当たり10人、発症率は年間10万人当たり1人と推定され、日本全国で約1万人の子供がかかっているといわれています。男子より女子に多い傾向があります。
この若年性特発性関節炎は、単一の疾患ではありません。いくつかの病型に分けられ、その病型により症状、経過、治療方法、予後が違います。まず全身型、関節型という二つの病型に分けられ、全身に炎症が生じる全身型と、炎症の主病変が関節である関節型とでは病因、病態が異なると考えられています。
さらに、乾癬(かんせん)、潰瘍(かいよう)性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈する症候性慢性関節炎に分けられます。
全身型の若年性特発性関節炎は、発症年齢に3歳と8歳に二つのピークがあり、男女比はほぼ半々です。関節型の若年性特発性関節炎のほうは、10歳以降の女児に多くみられます。
どの病型であっても、免疫の異常、何らかのウイルス感染、遺伝的因子により発症すると考えられており、家族の中に同じ疾患になる人がいることがよくあります。しかし、詳しい原因は不明です。
全身型の若年性特発性関節炎の主な症状は、弛張(しちょう)熱、リウマトイド疹(しん)、関節炎の三つです。関節症状はあまり目立たず、全身症状が強く出現します。多くの症状がありますが、その中で弛張熱は特徴的な熱型で、1日のうちで平熱になったり高熱が出たりして、体温の差が大きい発熱が続きます。
リウマトイド疹も比較的多くみられる症状で、直径数ミリから1セントの鮮紅色の紅斑(こうはん)が発熱とともに手足や体に出現し、解熱時に消失することもあります。胸膜炎、心膜炎、肝・脾腫(ひしゅ)を伴うこともあります。
この全身型では、マクロファージ活性化症候群と呼ばれる重大な合併症を起こし、コントロール不能な発熱、リンパ節の腫(は)れ、肝・脾腫などを伴う可能性があるので、注意が必要です
関節型の若年性特発性関節炎は一般的に、少関節型(持続型、進展型)、多関節型とに分類されます。主な症状は、6週間以上持続する関節炎です。関節炎には、関節腫脹と圧痛、可動域の減少、運動時痛および熱感の4つがみられます。
年少者では明らかな関節痛を訴えないこともありますが、朝起きた時に関節がこわばって動かないのは、関節炎の存在を示唆する重要な症状の一つです。朝のこわばりは個人差や病状により程度の差はありますが、時間の経過に伴って次第に動きがよくなります。
関節型の中の多関節型では、 大人の関節リウマチに似た経過をたどり、指などの小さな関節を含めて5カ所以上の関節に炎症がみられます。左右で同じ関節が侵されることが多く、発熱は微熱程度です。
関節型の中の少関節型では、関節炎は4カ所以下で、膝(ひざ)や足首などの大きな関節が侵されることが多く、4~5歳の女児に多い傾向があります。関節炎は他の型に比べると軽く、多くは数年でよくなります。虹彩(こうさい)毛様体炎という目の病気を合併することがあるので、眼科の定期受診が必要です。虹彩毛様体炎の症状として、霧がかかったように見える霧視や、まぶしがる羞明(しゅうめい)が認められます。
病型によって異なりますが、若年性特発性関節炎は経過が長く、いったんよくなっても再発し、これを繰り返します。10年ぐらいたつと、多くは関節症状を残さずによくなりますが、中にはそのまま大人の関節リウマチに移るものもあります。
若年性特発性関節炎の検査と診断と治療
小児科、リウマチ科、整形外科の医師による検査では、白血球や血小板が増えたり、炎症反応が強まります。しかし、これらはほかの疾患でも異常を示し、診断の決め手にはなりません。大人の関節リウマチで陽性になるリウマトイド因子も、多関節型の一部で陽性になることがある程度です。
全身型では血液疾患、感染症、他の膠原病と区別する必要があるために、さまざまな検査を行います。画像検査では、MRIや関節超音波検査が関節病変の評価に有用です。関節炎の診断は、関節腫脹と圧痛、可動域の減少、運動時痛および熱感の4つの症状のうち2つ以上あれば診断ができます。
原因が不明のため、根本的な治療ができないのが現状です。関節機能の温存が、治療の最大の目的です。
病型により、治療法が若干異なります。全身型はまず、非ステロイド性消炎鎮痛剤を使います。効果のない場合や心膜炎など重症な合併症がある場合は、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を使用します。内服の副腎皮質ホルモンの効果が乏しい場合には、副腎皮質ホルモンを点滴で大量に投与するパルス療法と呼ばれる方法や、免疫抑制薬の併用療法を選択することがあります。
多関節型は、非ステロイド性消炎鎮痛剤だけで症状が治まることもあります。しかし、関節症状が強い場合や、リウマトイド因子が陽性の場合には、早期から免疫抑制薬で治療します。副腎皮質ホルモンを併用する場合もあります。
少関節型は、非ステロイド性消炎鎮痛剤単独での治療が可能です。虹彩炎がある場合は、眼科で治療を受ける必要があります。
前記のような治療を行っても改善がみられない時には、リウマチ専門医指導のもと、生物学的製剤の治療を行う場合があります。生物学的製剤とは、体の炎症を抑える抗体を治療薬としたもので、欧米では広く使われていて、日本でも徐々に使用が認められてきており、近い将来には標準的治療法となると考えられています。
症状に合った関節の運動をする理学療法も大切で、急性期は局所の安静を保ちつつ、関節の拘縮(こうしゅく)、筋肉の委縮を予防することが重要です。強い曲げ伸ばし運動や、負荷のかけすぎは痛みも強く、避けるべきです。
慢性期は、筋力増強、関節の変形・拘縮の予防が中心です。前もって関節や筋肉を十分に温めて、筋肉の血行をよくしておき、関節や筋肉に過度の負担をかけないように、ゆっくりとリハビリテーションを行います。温水プールを利用したリハビリテーションは効果的です。
日常生活や学校生活が普通に送れるよう、その人その人の生活パターンを考えてリハビリテーション計画を立てます。 家族全員でリハビリテーションの指導を受け、家庭で継続したリハビリテーションができるようにするのが理想で、必要に応じて装具も使用します。
なお、風邪などの感染には十分に注意し、予防や早期治療を心掛けることが大切です。
若年性特発性関節炎とは、16歳以下の小児期に発症する原因不明の慢性関節炎。以前は、若年性関節リウマチと呼ばれていました。
膠原(こうげん)病の一つである大人の関節リウマチが小児期に発症したものと考えられ、関節の内側にある滑膜という個所で炎症が起こり、徐々に軟骨や骨が破壊されるため、関節が動かしにくくなり、最終的には骨と骨がくっついて動かなくなってしまいます。
小児期の慢性関節炎の中で最も頻度の高い疾患で、有病率は10万人当たり10人、発症率は年間10万人当たり1人と推定され、日本全国で約1万人の子供がかかっているといわれています。男子より女子に多い傾向があります。
この若年性特発性関節炎は、単一の疾患ではありません。いくつかの病型に分けられ、その病型により症状、経過、治療方法、予後が違います。まず全身型、関節型という二つの病型に分けられ、全身に炎症が生じる全身型と、炎症の主病変が関節である関節型とでは病因、病態が異なると考えられています。
さらに、乾癬(かんせん)、潰瘍(かいよう)性大腸炎などに併発して、二次的に慢性関節炎を呈する症候性慢性関節炎に分けられます。
全身型の若年性特発性関節炎は、発症年齢に3歳と8歳に二つのピークがあり、男女比はほぼ半々です。関節型の若年性特発性関節炎のほうは、10歳以降の女児に多くみられます。
どの病型であっても、免疫の異常、何らかのウイルス感染、遺伝的因子により発症すると考えられており、家族の中に同じ疾患になる人がいることがよくあります。しかし、詳しい原因は不明です。
全身型の若年性特発性関節炎の主な症状は、弛張(しちょう)熱、リウマトイド疹(しん)、関節炎の三つです。関節症状はあまり目立たず、全身症状が強く出現します。多くの症状がありますが、その中で弛張熱は特徴的な熱型で、1日のうちで平熱になったり高熱が出たりして、体温の差が大きい発熱が続きます。
リウマトイド疹も比較的多くみられる症状で、直径数ミリから1セントの鮮紅色の紅斑(こうはん)が発熱とともに手足や体に出現し、解熱時に消失することもあります。胸膜炎、心膜炎、肝・脾腫(ひしゅ)を伴うこともあります。
この全身型では、マクロファージ活性化症候群と呼ばれる重大な合併症を起こし、コントロール不能な発熱、リンパ節の腫(は)れ、肝・脾腫などを伴う可能性があるので、注意が必要です
関節型の若年性特発性関節炎は一般的に、少関節型(持続型、進展型)、多関節型とに分類されます。主な症状は、6週間以上持続する関節炎です。関節炎には、関節腫脹と圧痛、可動域の減少、運動時痛および熱感の4つがみられます。
年少者では明らかな関節痛を訴えないこともありますが、朝起きた時に関節がこわばって動かないのは、関節炎の存在を示唆する重要な症状の一つです。朝のこわばりは個人差や病状により程度の差はありますが、時間の経過に伴って次第に動きがよくなります。
関節型の中の多関節型では、 大人の関節リウマチに似た経過をたどり、指などの小さな関節を含めて5カ所以上の関節に炎症がみられます。左右で同じ関節が侵されることが多く、発熱は微熱程度です。
関節型の中の少関節型では、関節炎は4カ所以下で、膝(ひざ)や足首などの大きな関節が侵されることが多く、4~5歳の女児に多い傾向があります。関節炎は他の型に比べると軽く、多くは数年でよくなります。虹彩(こうさい)毛様体炎という目の病気を合併することがあるので、眼科の定期受診が必要です。虹彩毛様体炎の症状として、霧がかかったように見える霧視や、まぶしがる羞明(しゅうめい)が認められます。
病型によって異なりますが、若年性特発性関節炎は経過が長く、いったんよくなっても再発し、これを繰り返します。10年ぐらいたつと、多くは関節症状を残さずによくなりますが、中にはそのまま大人の関節リウマチに移るものもあります。
若年性特発性関節炎の検査と診断と治療
小児科、リウマチ科、整形外科の医師による検査では、白血球や血小板が増えたり、炎症反応が強まります。しかし、これらはほかの疾患でも異常を示し、診断の決め手にはなりません。大人の関節リウマチで陽性になるリウマトイド因子も、多関節型の一部で陽性になることがある程度です。
全身型では血液疾患、感染症、他の膠原病と区別する必要があるために、さまざまな検査を行います。画像検査では、MRIや関節超音波検査が関節病変の評価に有用です。関節炎の診断は、関節腫脹と圧痛、可動域の減少、運動時痛および熱感の4つの症状のうち2つ以上あれば診断ができます。
原因が不明のため、根本的な治療ができないのが現状です。関節機能の温存が、治療の最大の目的です。
病型により、治療法が若干異なります。全身型はまず、非ステロイド性消炎鎮痛剤を使います。効果のない場合や心膜炎など重症な合併症がある場合は、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を使用します。内服の副腎皮質ホルモンの効果が乏しい場合には、副腎皮質ホルモンを点滴で大量に投与するパルス療法と呼ばれる方法や、免疫抑制薬の併用療法を選択することがあります。
多関節型は、非ステロイド性消炎鎮痛剤だけで症状が治まることもあります。しかし、関節症状が強い場合や、リウマトイド因子が陽性の場合には、早期から免疫抑制薬で治療します。副腎皮質ホルモンを併用する場合もあります。
少関節型は、非ステロイド性消炎鎮痛剤単独での治療が可能です。虹彩炎がある場合は、眼科で治療を受ける必要があります。
前記のような治療を行っても改善がみられない時には、リウマチ専門医指導のもと、生物学的製剤の治療を行う場合があります。生物学的製剤とは、体の炎症を抑える抗体を治療薬としたもので、欧米では広く使われていて、日本でも徐々に使用が認められてきており、近い将来には標準的治療法となると考えられています。
症状に合った関節の運動をする理学療法も大切で、急性期は局所の安静を保ちつつ、関節の拘縮(こうしゅく)、筋肉の委縮を予防することが重要です。強い曲げ伸ばし運動や、負荷のかけすぎは痛みも強く、避けるべきです。
慢性期は、筋力増強、関節の変形・拘縮の予防が中心です。前もって関節や筋肉を十分に温めて、筋肉の血行をよくしておき、関節や筋肉に過度の負担をかけないように、ゆっくりとリハビリテーションを行います。温水プールを利用したリハビリテーションは効果的です。
日常生活や学校生活が普通に送れるよう、その人その人の生活パターンを考えてリハビリテーション計画を立てます。 家族全員でリハビリテーションの指導を受け、家庭で継続したリハビリテーションができるようにするのが理想で、必要に応じて装具も使用します。
なお、風邪などの感染には十分に注意し、予防や早期治療を心掛けることが大切です。
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