■用語 直腸カルチノイド [用語(た行)]
がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が直腸粘膜下に発生した疾患
直腸カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が直腸粘膜下に発生した疾患。
カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。消化管内分泌細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍と呼ばれることもあります。
がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。
このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。
定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。
盲腸から始まる大腸は、時計回りに上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸に区別できますが、大腸カルチノイドは特に直腸に多く、盲腸の先端にある虫垂、結腸にも発生します。直腸カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸を含めた消化管カルチノイドの約4分の1を占め、全直腸がんの1パーセント未満を占めます。
直腸など大腸に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、表面は大腸粘膜で覆われています。
胃や小腸にできたカルチノイド、あるいは虫垂や結腸にできた大腸カルチノイドでは、その腫瘍がセロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を分泌し、顔面紅潮、下痢、喘息(ぜんそく)などカルチノイド症候群と呼ばれる症状が出ることがあります。
顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状。この血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることもあります。
セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支喘息に似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。
ただし、直腸カルチノイドでは、このようなカルチノイド症候群の症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。
無症状の直腸カルチノイドは、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。
直腸カルチノイドを放置しておくと、転移して直腸がんのような経過をたどることがあります。最悪の場合は命を落とすこともあるので、血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門科の医師を受診します。
直腸カルチノイドの検査と診断と治療
消化器科などの医師による診断では、症状から直腸カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。
この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。
腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査(放射性核種スキャン)が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。
CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。
腫瘍が直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。詳しく調べるには、硬性直腸鏡、S状結腸内視鏡検査、または全大腸内視鏡検査が必要です。必要に応じて粘膜の一部を採取して調べる生検が行われます。非がん性か、がん性かの区別が重要です。
直腸カルチノイドの腫瘍径が1cm以下の良性である場合は、内視鏡切除が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm以下である場合は、大腸壁の筋層まで入っていることが少なくないので、外科手術で局所切除をすべきだと考えられています。腫瘍径が2cm以上であり、表面が結節状になっていて、びらん、潰瘍を伴う悪性である場合は、原則として外科手術が必要となります。
ただし、腫瘍径が1cmに満たないものでも、切った断面にカルチノイド細胞が残ることがあります。そのため、切除をした後に再発の有無について調べる病理検査を定期的に受けなくてはなりません。
腫瘍径が2cmを上回る場合は、リンパ節に転移する可能性が高くなってくるため、直腸がんと同様に腸を切除する根治手術が原則として行われます。放置すると腫瘍が増殖を続け、直腸がんと同じ経過をたどります。
直腸カルチノイドの治療では、経肛門(けいこうもん)的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)という手術法も有効だとされています。これは、腹部を切開しなくても、肛門から直腸の奥深くまで届き、顕微鏡を見ながら正確な手術ができるという手術法です。筋肉も含めてカルチノイド細胞を完全に切除し、縫合もきれいにできるとされています。
腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ、10〜15年生存することがしばしばあります。
進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。
オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。
カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。
直腸カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が直腸粘膜下に発生した疾患。
カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。消化管内分泌細胞腫瘍、神経内分泌腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍と呼ばれることもあります。
がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。
このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。
定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。
盲腸から始まる大腸は、時計回りに上行結腸、横行結腸、下行結腸、S状結腸、そして直腸に区別できますが、大腸カルチノイドは特に直腸に多く、盲腸の先端にある虫垂、結腸にも発生します。直腸カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸を含めた消化管カルチノイドの約4分の1を占め、全直腸がんの1パーセント未満を占めます。
直腸など大腸に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、表面は大腸粘膜で覆われています。
胃や小腸にできたカルチノイド、あるいは虫垂や結腸にできた大腸カルチノイドでは、その腫瘍がセロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を分泌し、顔面紅潮、下痢、喘息(ぜんそく)などカルチノイド症候群と呼ばれる症状が出ることがあります。
顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状。この血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることもあります。
セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支喘息に似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。
ただし、直腸カルチノイドでは、このようなカルチノイド症候群の症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。
無症状の直腸カルチノイドは、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。
直腸カルチノイドを放置しておくと、転移して直腸がんのような経過をたどることがあります。最悪の場合は命を落とすこともあるので、血便などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門科の医師を受診します。
直腸カルチノイドの検査と診断と治療
消化器科などの医師による診断では、症状から直腸カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。
この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。
腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査(放射性核種スキャン)が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。
CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。
腫瘍が直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。詳しく調べるには、硬性直腸鏡、S状結腸内視鏡検査、または全大腸内視鏡検査が必要です。必要に応じて粘膜の一部を採取して調べる生検が行われます。非がん性か、がん性かの区別が重要です。
直腸カルチノイドの腫瘍径が1cm以下の良性である場合は、内視鏡切除が行われます。腫瘍径が1cm以上2cm以下である場合は、大腸壁の筋層まで入っていることが少なくないので、外科手術で局所切除をすべきだと考えられています。腫瘍径が2cm以上であり、表面が結節状になっていて、びらん、潰瘍を伴う悪性である場合は、原則として外科手術が必要となります。
ただし、腫瘍径が1cmに満たないものでも、切った断面にカルチノイド細胞が残ることがあります。そのため、切除をした後に再発の有無について調べる病理検査を定期的に受けなくてはなりません。
腫瘍径が2cmを上回る場合は、リンパ節に転移する可能性が高くなってくるため、直腸がんと同様に腸を切除する根治手術が原則として行われます。放置すると腫瘍が増殖を続け、直腸がんと同じ経過をたどります。
直腸カルチノイドの治療では、経肛門(けいこうもん)的内視鏡下マイクロサージェリー(TEM)という手術法も有効だとされています。これは、腹部を切開しなくても、肛門から直腸の奥深くまで届き、顕微鏡を見ながら正確な手術ができるという手術法です。筋肉も含めてカルチノイド細胞を完全に切除し、縫合もきれいにできるとされています。
腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ、10〜15年生存することがしばしばあります。
進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。
オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。
カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。
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