■用語 大前庭腺炎 [用語(た)]
膣の入り口付近に位置する左右一対の大前庭腺に、細菌が侵入して炎症が起こる疾患
大前庭腺炎(だいぜんていせんえん)とは、膣(ちつ)の入り口付近に位置する左右一対の分泌腺に、細菌が侵入し、その細菌に感染することが原因で炎症が起こる疾患。バルトリン腺炎とも呼ばれます。
大前庭腺は、バルトリン腺とも呼ばれ、女性が性的興奮を起こした時に、性行為を滑らかにする薄い乳白色の粘液を分泌する働きがあります。男性の尿道球腺、あるいはカウパー腺、クーパー腺とも呼ばれる分泌線に相当します。
大前庭腺の存在について最初に記述されたのは17世紀で、デンマークの解剖学者キャスパー・バルトリン(1655年〜1738年)によります。
その粘液の排出管である大前庭腺は、長さ約2センチのスポイトのような袋で、腟の入り口の横、小陰唇の下端にある腟前庭に開口しています。
エンドウ豆ほどの大きさの大前庭腺の開口部から、ブドウ球菌、淋菌(りんきん)、クラミジア・トラコマーティス、あるいは腸内細菌のバクテロイデスや大腸菌などが侵入し、それらの細菌に感染すると、急性期には排出管に炎症が起こり、開口部が発赤して、はれ、痛み、違和感が現れます。
時には、小陰唇の外側、大陰唇にまで、発赤、はれ、痛みが現れます。
大前庭腺炎による炎症が治まった後に、開口部の閉鎖が起こると、本来は外に分泌される粘液が排出管内部にたまり、拡大して嚢胞(のうほう)を形成します。嚢胞は液体を満たした袋を意味し、これを大前庭腺嚢胞といいます。
多くは大前庭腺の片側だけに形成され、小さい際には気が付かないこともあります。次第に大きくなって、嚢胞がクルミ大ないし鶏卵大などさまざまな大きさになると、膣の入り口付近の時計に例えると5時または7時の位置に、紙でふいた際に丸いものが手に触れるようになってきます。
歩行時や性交時に軽い痛みが生じることもありますが、細菌感染を伴っていなければ無痛性のことも多く、また自然に開口部が再び開いて、排出管内部にたまった粘液が流れ出して、嚢胞が縮小してしまうこともあります。
一方、大前庭腺嚢胞内に細菌感染が起きると、うみが排出管内部にたまって、膿瘍(のうよう)を形成します。膿瘍はうみの塊を意味し、大前庭腺膿瘍といいます。
発赤、はれ、痛みがはっきりしてきて、膿瘍全体に押すと痛む圧痛を認めます。
さらにひどくなると、大陰唇も膨張して熱感を伴う腫瘤(しゅりゅう)を形成し、歩行時や性交時に痛みが生じたり、何もしていないのに感じる自発痛が生じたりします。ひどい痛みによって、歩行困難に陥ることもあります。
大前庭腺炎が悪化して、大前庭腺膿瘍になる前に症状に気付き、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。
大前庭腺炎の検査と診断と治療
婦人科、産婦人科の医師による診断では、嚢胞のある位置や、圧痛のある膿瘍の位置で判断し、排出管内部にたまっている粘液やうみを培養して原因となっている菌を特定します。
婦人科、産婦人科の医師による治療では、急性期では、抗生物質(抗生剤、抗菌剤)の全身投与、局所の湿布を行います。大前庭腺炎の段階では、多くが抗生物質の投与で治ります。
慢性化して嚢胞を形成した場合は、排出口をつくる手術を行うこともあります。膿瘍を形成し、痛みが強い場合は、切開してうみを出す手術を行います。再発を繰り返す場合や、嚢胞や膿瘍が大きい場合は、嚢胞や膿瘍を摘出する手術を行います。
予防法は、膣や外陰部の清潔を保ち、大前庭腺内への細菌の侵入を防ぐ以外にありません。特に、大小便の排出の時や性交渉の時に清潔を心掛けることです。
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