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■再生医療の新しい研究指針を策定 iPS細胞の産業化を見据える [健康ダイジェスト]

 文部科学省は8月に、iPS細胞(人工多能性幹細胞)に代表される幹細胞を使った再生医療の実用化へ向けた新しい研究指針を策定しました。これまでは主に細胞移植の効果や安全性を調べる研究に軸足を置いていましたが、新指針はiPS細胞の備蓄事業の公益法人化や、安価なiPS細胞の作製など産業化を見据えた戦略に書き換えました。
 日本は臨床研究では一歩リードするものの、産業応用の面では欧米に後れをとる面もあり、再生医療の普及に向けた実効性のある戦略が求められています。
 文科省が8月に新指針をまとめたのは、幹細胞や再生医療に関する研究の指針。政府が関連する研究を支援する際の方針に当たるもので、文科省の専門部会で検討されてきました。2012年に初めて作成してから今回が2回目の改正で、産業応用を見据えた研究の方向性を示しました。
 大きな変更は、京都大学iPS細胞研究所の「iPS細胞ストック」と呼ぶ事業を公益法人に移すことです。この事業では、再生医療で使うのに適したiPS細胞をあらかじめ備蓄しています。2012年度から年間約10億円の公的資金を充ててきましたが、国の再生医療関連予算は約3年で期限を迎えます。
 そこにiPS細胞研究所所長の山中伸弥さんが危機感を抱き、民間資金を入れて運営できるように考えたのが公益法人化です。公益法人は高品質なiPS細胞を製造し、企業や研究機関に供給します。受け取った企業が高品質のまま移植直前の状態に育てたり、管理したりしやすいようにする役割です。
 iPS細胞研究所で、iPS細胞の製造や供給を担う約100人を異動させます。プロジェクトごとの任期付きという不安定な身分から、公益法人の正規職員にし、優秀な人材を維持できるようにします。新指針がまとまった8月の専門部会で山中さんは、「実用化で欧米の後じんを拝しないよう、適正なコストで供給できる取り組みを前に進めたい」と安堵の表情をみせました。
 もう一つ山中さんが構想を示していた「マイiPS細胞」も、指針に初めて盛り込まれました。自分専用のiPS細胞を安価に作るというもので、再生医療の普及を見据えます。製造コストを現在の10分の1以下の約100万円にし、製造期間を今の約1年から数週間にします。山中さんは、「2025年までには実用化したい」と話しています。
 新指針には、遺伝子を自在に改変できるゲノム編集を活用することも、新たに盛り込みました。人によって免疫の型の種類は異なるため、型を合わせずに細胞を移植すると拒絶反応が起こります。ゲノム編集で免疫の型に左右されずに使えるiPS細胞を作る研究などを推進する狙いです。マイiPS細胞とともに、再生医療の普及の鍵になる研究です。
 一方、新指針は再生医療の課題も指摘しました。1つは論文数や特許数の低迷で、1998~2017年の論文数では首位のアメリカが他国を圧倒。日本は5位にとどまります。2006~2018年に公開された特許の出願数をみると、iPS細胞に関してはアメリカに次ぐ2位と高いものの、分野別でみると、患者に移植する段階の「細胞療法」ではスイスに次ぐ3位でした。この要因は、ゲノム編集技術を使って細胞を作る技術の特許取得を進める企業がスイスにあるためで、今後競争が激しくなる可能性を指摘しました。
 幹細胞を取り巻く環境は、国際的に変化しています。特にアメリカでは研究などに使う幹細胞を備蓄、供給する専門機関が続々と設立され、企業が研究用試料の作製などに利用しています。今後は企業などが参入しやすいように、いかに低コストで高品質な細胞を作れるかが重要となります。

 2019年9月2日(月)

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