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■用語 アザラシ肢症 [用語(あ)]

[手(グー)]手や足が直接胴体に付いているため、アザラシのように見える先天性奇形症
 アザラシ肢症とは、四肢、特に上肢の長骨がなかったり、短かったりして、手または足が直接胴体に付いているため、外観がアザラシのように見えることから名付けられた先天性奇形症の一つ。サリドマイド胎芽症の一種で、海豹肢症とも呼ばれ、上肢が全くない場合は無肢症とも呼ばれます。
 そのほか、心臓や消化器の配置異常などの広範囲の異常を引き起こしていることもあります。原因としてはさまざまなものがあると考えられますが、ヨーロッパで1950年代後半、日本で1960年代前半に大量発症したケースは、ドイツで創製されたサリドマイドによる薬害が指摘されています。
 1950年代後半から1960年代前半には、もともと抗てんかん薬として使用されていたサリドマイドが、妊婦のつわりや不眠症の治療薬として用いられており、妊婦が妊娠初期に服用することによる副作用である催奇性により、胎児に影響が出たものとされています。
 日本では1962年9月になってサリドマイドの販売が停止されたものの、これによるとみられる奇形児は死亡児を含めて約1200人。全国の家族が国と製薬会社に損害賠償を要求する訴訟を起こし、1972年までにサリドマイド症児として309人が認定され、1人当たり2800万~4000万円の賠償金の支払いがなされました。
 アザラシ肢症は、サリドマイドの創製以前から報告されているものの、サリドマイド以外の原因についてはいまだ解明されていません。
 サリドマイドを創製したのは、西ドイツ(現在のドイツ)の製薬会社であるグリュネンタール社。サリドマイドは、1957年に睡眠薬「コンテルガン」として世界に向けて売り出され、胃腸薬としても有効なことから、妊婦がつわり防止や眠れない時に服用していました。
 もともとこの非バルビツール酸系の化合物は、合成実験の際に用いる試薬の副産物として、偶然にできたものでした。睡眠薬としての効果は良好で、即効性があり、麻酔のようにクラクラする感じも、皮膚のかゆみなどもありません。それまでの睡眠薬は、連用により危険を伴う副作用が出現するのに対し、サリドマイドにはそういった副作用がなく、気軽に使える新薬として、「妊婦や小児でも安心して飲める安全無害な薬」と宣伝されました。サリドマイドは、致死量が決定できないくらい急性毒性が低かったため、睡眠薬による自殺も防止できるともてはやされ、世界46カ国で発売されました。
 日本では、大日本製薬(現在の大日本住友製薬)が薬学雑誌に掲載されたグリュネンタール社の論文に着想を得て、独自の製法を用いて合成を行い、製法特許を出願しました。そして、わずか1年足らずで厚生省(現在の厚生労働省)の承認を得て、1958年1月から睡眠薬「イソミン」として発売しました。大日本製薬以外にも、国内では10社を超える製薬会社がサリドマイドを販売していましたが、そのシェアの9割以上は大日本製薬のイソミンが占めていました。
 1959年8月には大日本製薬が胃腸薬「プロバンM」にサリドマイドを配合して販売し、妊婦のつわり防止に使用されました。
 しかし、やがてサリドマイドを服用した妊婦から、新生児が発育不全で、手足が欠損したまま産まれてくるなどの異常が相次ぎました。サリドマイドには、あらゆる動物の胎児ばかりか、植物の胚にまで奇形を生じさせるほどの強い催奇性があったのですが、妊娠中の動物を使った実験は行われていなかったのです。
 サリドマイドを妊婦が服用すると、母胎の中にいる胎児の手足の成長を促す一連の蛋白質(たんぱくしつ)の機能が阻害され、左右対称性に上肢があっても短い、あるいは小さな手が肩甲骨から直接出ているというような、サリドマイド胎芽症の一種であるアザラシ肢症となった重度の奇形児が産まれてしまうようになります。
 このアザラシ肢症になった新生児の多くは、指の付け根の筋肉が未発達で、隣の指と結合していたり、手足が内側に反っていたりしました。さらに、サリドマイド胎芽症の新生児には、難聴や外耳奇形、心臓や消化器の配置異常が生じていました。
 妊娠の初期3カ月間は、胎児の体の各器官が作られる時期で、この時期にサリドマイドを服用すると、胎児の体の発達を妨げます。どの部分の発達が妨げられるかは、薬を服用する時期によって異なり、それによってさまざまな器官に障害が生じます。
 手足の障害にも、さまざまなタイプがあります。手については、上肢が全くない無肢症、肩から直接手が出ていて指の本数が少ないアザラシ肢症(フォコメリア)、上肢が短い 、 肘(ひじ)から先の骨や親指が欠損している、親指を始めとした指の発達が不十分などの症状がみられます。足については、下肢奇形、股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)が生じます。
 耳と顔面の障害には、耳が全くなく高度の難聴を伴う無耳症、耳が小さく高度の難聴を伴う小耳症、顔の表情が作れずコミュニケーションが難しい顔面神経麻痺、悲しい時に涙が出ず物を食べた時に涙が出るワニの涙症候群、眼球の運動が制限されるデュアン症候群が生じます。
 心臓や消化器の奇形としては、心臓疾患、消化器の閉塞(へいそく)・狭窄(きょうさく)、ヘルニア、胆嚢(たんのう)や虫垂の欠損が生じます。
 一般に無耳症は妊娠早期に、上肢障害はこれより少し遅れ、下肢障害はさらに遅い時期に発生することが知られています。
 1950年代後半から1960年代前半には、妊婦が服用した場合にサリドマイド胎芽症の新生児が生まれるという副作用があり得るという認識が薄かったため、サリドマイドの薬害は全世界におよびました。
 日本におけるサリドマイド胎芽症の新生児は、推定約1200人といわれ、世界全体では約7000人。もちろん、病院で処方されたサリドマイドだけでなく、薬局で市販されているサリドマイドの服用によって生じた奇形児も多くいました。薬局で市販されていたサリドマイドについては、患者の母親が服用した事実を証明することができず、また因果関係を認められなかった軽症例が多数いたとされています。さらに、大半が胎児期に死亡し、死産となったので、実際には統計の数倍以上の被害だったとされています。
 サリドマイドは日本では1962年9月に販売停止されましたが、現在はハンセン病の2型らい反応の治療薬、多発性骨髄腫(しゅ)の治療薬として世界で用いられています。日本では使用に当たって、「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守が求められています。

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