■用語 上室性不整脈 [用語(さ行)]
上室性不整脈は、心房由来の不整脈
上室性不整脈とは、心臓内部の上半分である上室、すなわち右心房、左心房に由来する不整脈。
この上室性不整脈には、上室性期外収縮、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房細動、心房粗動があります。
上室性期外収縮は、心房内と房室接合部付近に電気刺激が発生して、早期に心臓が収縮する不整脈
上室性期外収縮は、心臓内部の上半分である心房内および房室接合部付近に電気刺激が発生し、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から発生する本来の電気刺激によるよりも早い時点で、心臓が収縮する不整脈。
通常は発生しない電気刺激が房室接合部より上位で発生した場合は心房性期外収縮、心房と心臓内部の下半分である心室の境界部にあって、房室結節と房室束(ヒス束)からなる房室接合部付近で発生した場合は房室接合部性期外収縮と区別されますが、両者の判別が容易でない場合は上室性期外収縮と呼ばれます。
上室性期外収縮は健康な人にも高頻度でみられる有り触れた不整脈で、年齢を重ねていくにつれてみられる頻度も一段と高くなっていきます。
健康な人における発生誘因として、疲労、緊張、ストレス、運動、睡眠不足、喫煙、カフェイン、飲酒、栄養ドリンク、季節の変わり目などが挙げられます。心疾患や肺疾患のある人では発生頻度が高く、カフェインを含むコーヒーの摂取や、飲酒で引き起こされ、悪化することがあります。
上室性期外収縮が起きても無症状であることがほとんどなのですが、軽い一過性の動悸(どうき)を自覚して、心臓がドキンとしたり、心臓が一時止まったように感じたりすることもあります。
あるいは、脈が不規則になり、「トン、トン、トン」と規則正しく打っている脈の中に時々「トトン」と早く打つ脈が現れたり、急に心臓の1拍動が欠け、1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを自覚することもあります。のどや胸に不快感を感じたり、きわめて短い胸痛を感じる人もいます。
まれに上室性期外収縮が連続して起こった時は、耐えがたい動悸を感じたり、一時的に血圧が下がるために、めまいや失神といった症状が現れることもあります。この場合は、心房細動などの危険な不整脈へと移行することがあるので注意が必要です。
心房細動では、1分間当たり400~600回も心房が不規則に動きます。心房内の血液の流れは悪くなり、意識の消失や心機能の低下、血栓を生じて脳梗塞(こうそく)を招くこともあります。
健康診断などの検査で上室性期外収縮を指摘されたり、自分で脈をとった時に脈が飛ぶなどして上室性期外収縮だと感じたりした場合は、1日に起こる回数や頻度などを確認してみるといいでしょう。頻繁に起こるような場合は、医療機関で検査を受けて確認してみるといいでしょう。
発作性上室性頻拍は突然に脈拍が速くなり、突然に元に戻るのを特徴として、動悸を感じる不整脈
発作性上室性頻拍は、突然に脈拍が速くなり、しばらく続いた後に突然止まる不整脈。
正常な状態では、右心房の上部にあって、心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節から発生した電気信号は一方通行で、心臓の隅々まで伝わって消えてゆきます。次の脈は、新たに洞結節から発生した電気信号によって生じます。
ところが、何らかの原因で異常な電気回路ができたり、先天的に余分な電気回路があったりすると、突発的に電気信号の旋回(空回り)が始まることがあります。
原因となる電気回路がある場所は、大きく分けて3つあります。心房と心室をつなぐ結び目に当たる房室結節付近に電気回路がある房室結節回帰性頻拍が、最も多いものです。
また、正常な状態では、心房と心室をつなぐ電気回路は1本だけですが、それ以外に先天的に電気回路が別にできている場合があります。頻脈発作が出ていない時に特徴的な心電図の波形が出るWPW症候群と呼ばれるものも、その1つです。この場合、正常な電気回路と異常な電気回路を使って、心房と心室の間を電気信号が大きく回る房室回帰性頻拍というものが起こります。これが、2番目に多いものです。
それ以外の部位で電気信号が小さく回るものや、異常な電気信号を一部の心筋細胞が発生させる心房頻拍というものがありますが、発作性上室性頻拍の1割程度を占めるのみです。
発作性上室性頻拍が起こると、動悸がして息苦しくなります。脈拍数は大抵1分間に150回以上になり、タッタッタッと規則的な動悸が起こります。
多くの病的な頻脈は、徐々に脈が速くなるのではなく、頻脈発作の開始と同時に一瞬で脈が速くなり、止まる際も一瞬のうちに止まるという特徴があります。発作が起こると、急に激しい勢いで心臓が動き始めるため、血流に十分な圧力をかけられなくなって血圧が下がります。そして、冷や汗やめまい、息切れ、失神を起こしたりします。動悸は、めまいの後で自覚することが多いようです。
発作性上室性頻拍は、普段規則正しく打っている脈が不規則なリズムになる期外収縮を切っ掛けにして、電気信号の旋回が始まります。そのため、期外収縮の少ない若年者には頻脈発作が起こりにくいのですが、中年以降になると頻脈発作が起こりやすくなります。
重症な心臓の病気がなく、頻脈発作の頻度が多くない場合には、息をこらえて強く胸と腹に力を入れる、冷たい水を飲む、冷たい水に顔をつける、くしゃみやあくびを繰り返すなどの迷走神経の刺激で頻脈発作を止める処置が、自宅で可能で安全に行えるものです。
繰り返し症状が現れる場合や、生活に支障が出るほど強い動悸や不快感が現れる場合は、循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。
心房頻拍は、心房内の規則的な電気刺激により、心臓の拍動が1分間に140~200回に増える頻拍
心房頻拍は、心臓内部の上半分である心房内に異常興奮部位が存在することで、心臓の拍動が1分間に140~200回へと突然増える頻拍。
正常な心臓では、右心房付近にある洞結節から1分間に60~80回の電気刺激が発生して、心臓内部の上半分である右心房、左心房、心臓内部の下半分である右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。
心房頻拍は、洞結節からの電気刺激ではなく、心房内の異常な心筋細胞から極端に速い頻度で電気刺激が発生してしまうことで起こります。
頻拍が発生する起源により、異所性心房頻拍、リエントリー(再侵入)性心房頻拍(心房内リエントリー性頻拍、マクロ・リエントリー性心房頻拍)などに分類されます。
異所性心房頻拍は、比較的狭い異常な心筋細胞が心房内に発生することが原因となるため、起源は多彩です。好発部位は、右心房では分界稜(りょう)、上大静脈、冠静脈洞、左心房では肺静脈入口部周囲。比較的若い人に多くみられます。
一方、リエントリー性心房頻拍は、洞結節の周囲や、心臓の外科手術で切開した跡の周囲などに、電気的刺激が比較的大きく旋回することが原因となります。
心房頻拍のほとんどは一過性で、特に心配はいりませんが、突然に拍動が速くなり、突然に元に戻るのが特徴です。頻脈発作の持続時間は数秒から数時間までとさまざまで、起こる回数もまちまちです。
頻脈発作の持続時間が短い非持続性心房頻拍の場合は、胸がドキドキする感じがするくらいですが、頻脈発作が長く続く持続性心房頻拍の場合や、拍動が1分間に200回くらいになる場合は、強い動悸や息切れといった自覚症状を感じることがあります。胸の違和感、不快感を覚えることもあります。
また、一過性の非持続性心房頻拍でない場合は、心不全を合併するもの、脳梗塞を引き起こすものもあり、心房の拍動が1分間に300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする心房細動に移行することもあります。
心房頻拍は特に原因となる疾患がなくても起こることもある一方で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人、肺や食道の手術を受けた人、狭心症や心筋梗塞を起こしたことがある人などは特にリスクが高くなります。
心房細動は、心房の拍動が速くなったり、不規則になったりする不整脈
心房細動は、安静時の正常な心臓が1分間で60回~80回と規則的に拍動するのに対して、心臓内部の上半分である心房の拍動が1分間で300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする不整脈。
心房の収縮が通常より速くなって、心房の壁が不規則に細かく震える(不整)ために、心房の中の血液の流れるスピードが低下して血液がうっ滞し、血液を効率よく全身へ送り出せなくなります。
心房細動は、年齢が上がるにつれて発症率が高くなり、60歳を超えると発症の可能性が高まります。また、女性よりも男性に多く発症します。日本では70万人以上が心房細動を持っていると推定されています。
心房細動は健康な人でも発症しますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞・心臓弁膜症などの心臓病、慢性の肺疾患のある人は発症しやすく、また、アルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレス時に発症しやすくなる人もいます。
心房細動自体による頻脈や拍動リズムの不正は、命にかかわるような重症な不整脈ではありません。しかし、動悸、息切れ、疲れやすい、胸痛、めまいなどの症状が現れ、また、心房の中でうっ滞した血液が固まって血栓を形成し、血液とともに流れて脳の血管に詰まってしまうと、脳梗塞を引き起こします。
心臓部位に手を当てたり、手首や頸(けい)部(首)で脈を計ると、通常よりも速かったり、速い・遅いを不規則に繰り返したりします。心臓のリズムが常に一定ではなく、不規則に乱れていることがわかるため、さらに症状を悪化させる場合もあります。慢性化すると、全身の倦怠(けんたい)感や胸部の不快感など自覚症状が感じにくくなるため注意が必要です。
一方、全く自覚症状がなく、長い間にわたって気付かない人もいます。心房細動が隠れている人では、別の疾患で医療機関を受診した際に偶然発見されることが多いようです。
動悸や息切れなどの症状がみられたり、心臓のリズムが一定でないと感じた場合は早めに受診し、検査を受けることが重要です。
心房粗動は、心房の電気刺激が1分間に240回以上起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈
心房粗動は、心臓内部の上半分である心房の電気刺激が1分間に240回から450回の速さで起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈。
正常な心臓では、右心房付近にある洞結節から発生した電気刺激は一方通行で、心臓の端々まで伝わって拍動を起こし、消えます。次の拍動は、新たに洞結節から発生した電気刺激によって生じます。1分間では、洞結節から60~80回の電気刺激が発生して、右心房、左心房、右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。
心房粗動では多くの場合、右心房の中で三尖弁輪(さんせんべんりん)という右心房と右心室の連結部分の周りを電気刺激が大きく旋回(空回り、リエントリー)している状態となっています。それ以外のところを電気刺激が大きく旋回する場合もありますが、あまり多くはみられません。
前者を通常型心房粗動、後者を非通常型心房粗動、あるいは希有(けう)型心房粗動と呼びます。両者とも、電気刺激が反時計方向に旋回する場合と、時計方向に旋回する場合とがあります。
心房粗動の症状は、心房から心室に伝わる電気刺激の数によって異なります。心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に60回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に75回前後となります。よって動悸はあまり感じません。
心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるような場合には、心臓の拍動は1分間に120回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に150回前後となります。
このような心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合では、動悸として自覚されることが増えます。息切れを自覚したり、胸部に違和感があったり、胸が躍るように感じたり、胸が痛むこともあります。漠然と、体が重いと感じたり、疲れやすいと感じたりすることもあります。
いったん心房粗動が始まると、なかなか自然には止まりません。心房粗動は、一般的には突然始まり長時間続くことが多いようです。夜間は心臓の拍動がゆっくりになる徐脈であっても、日中は軽く体を動かしただけで心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合も、ままあります。
心臓弁膜症や心筋症といった心房に負荷がかかるような心臓病がある場合や、高血圧のため心肥大がある場合などに、心房粗動は始まりやすく、自然には止まらないと過重な負担となり、肺に水がたまる心不全を発症することもあります。
また、心房粗動のために心房の中に血栓ができて、それがはがれて流れてゆき、脳梗塞を発症することもあります。
ただし、心房粗動の症状は多様で、特定の症状が出ないことも多いために、健康診断などの際に偶然、発見されることもあります。
心房粗動が疑われる症状に気が付いた時には、自然に止まることは少ないので、循環器科、循環器内科などを受診することが勧められます。
上室性期外収縮の検査と診断と治療
内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による上室性期外収縮の診断では、心電図検査が基本となります。一般的に通常の検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでの上室性期外収縮の出現頻度と出現形態を確認できます。
また、基礎心疾患の有無や運動前後での上室性期外収縮の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。
正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、上室性期外収縮の心電図上では、正常と異なる波形のP波が早期に出現し、そのP波は異所性のP波です。P波に続くQRS波は、正常な波形で出現します。
また、異所性のP波の波形により、電気刺激の発生部位が1つの単源性か、発生部位が複数ある多源性かを区別します。
内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による上室性期外収縮の治療では、症状がなく上室性期外収縮が単発で発生する場合は、特に処置を行わず経過を観察します。
しかし、症状がなくても原因となる疾患がある場合や、検査の結果で心房細動などの危険な不整脈に移行する可能性がある場合、ナトリウムチャネル遮断薬などの抗不整脈薬の投与による治療を行うことになります。
症状が強く期外収縮が連続して発生する場合は、まず抗不安薬を投与します。それでも症状がある場合には、β(ベータ)遮断薬などの抗不整脈薬を使うことになります。薬物治療を行う場合には、副作用のリスクを考慮して、十分に検討した上で慎重に行います。
運動をすると上室性期外収縮が頻発する場合には、期外収縮の連続による頻脈(頻拍)や持続性の頻脈が生じる可能性があるので、運動を控えるよう制限を設けます。逆に、運動によって上室性期外収縮がなくなる場合には、運動制限を設ける必要はありません。
一般的な上室性期外収縮の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。
発作性上室性頻拍の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、頻脈発作時の心電図検査で発作性上室性頻拍と確定できます。頻脈発作時の心電図がない場合は、24時間ホルター心電図で検査することがあります。
いずれの場合も、検査中に頻脈発作が起こってないと診断できません。そこで、症状が非常に疑わしい場合は、電気生理検査を行うことがあります。鼠径(そけい)部などから細いカテーテルと呼ばれる電極を心臓に挿入し、電気の通り道を調べるもので、発作性上室性頻拍の原因を探索できます。
循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による発作性上室性頻拍の治療では、あまり発作が起こらず、発作時の症状も軽い人の場合、抗不整脈薬で予防します。
いったん発作が起こり始めると、内服剤では発作を停止できず、発作が長く続く場合は、注射による治療を行います。
よく発作が起こり、発作時間が長く、発作時の症状も強い人の場合、経皮的カテーテル心筋焼灼(しょうしゃく)術(カテーテル・アブレーション法)を行い、病気そのものを根本的に治療することもあります。鼠径部などから体内に挿入した細いカテーテルの先端から高周波電流を流し、心筋の原因組織を焼き切って正常化します。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。
心房頻拍の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房頻拍の診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図検査を中心に行います。心電図における真っすぐの基線である等電位線があり、心房の興奮頻度が1分間に140~200回のものを心房頻拍と見なします。
心臓の拍動数が1分間に100回を超えるような持続性心房頻拍が認められた場合には、胸部X線検査や心臓超音波(エコー)検査を行い、心不全の有無を確認します。発作時の心電図がない場合は、携帯式で小型のホルター心電計を付けたまま帰宅してもらい、長時間の心電図で診断することもあります。
異所性心房頻拍とリエントリー性心房頻拍の鑑別には、アデノシン三リン酸(ATP)の投与が有用で、異所性心房頻拍では頻拍が停止することが多いのに対して、リエントリー性心房頻拍では心室の興奮が通常より遅れたり、欠落する房室ブロックが生じるものの頻拍自体が停止することはありません。
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房頻拍の治療では、症状が強い場合、β遮断薬やナトリウムチャネル遮断薬などによる薬物治療を行います。
効果がない場合や、薬が使えない場合には、極端に速い頻度で電気刺激を発生させている異常興奮部位を探し出し、足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓内に挿入し、高周波で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーションという手術を行います。一度焼灼された組織は瘢痕(はんこん)化し電気が流れなくなりますので、頻拍は起こらなくなります。
心房細動の検査と診断と治療
内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房細動の診断では、動悸や胸部症状、脈の乱れなどの症状がある場合、普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電計、携帯型心電計、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。
ホルター心電計は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、心臓病は出ていないかなどがわかります。
携帯型心電計は、おおよそ1カ月間にわたり携帯し、症状が生じた時に手首もしくは胸部に圧着して自分で心電図を記録し、後から医師が記録を分析します。
運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、心臓病が出るかどうかをチェックします。
心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。
内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房細動の治療では、薬物による除細動、電気ショックによる除細動のほか、心房細動が原因で起こる血液凝固を予防する薬などを使用します。
心房細動の予防のためには、規則正しい生活を行い、喫煙や飲酒、お茶やコーヒーの摂取などの習慣がある人は、本数や頻度の見直しが予防の一つにつながります。心臓病のある人は、心臓に負担をかけないように、日常生活を見直し、加齢により発症率も上がることから、年齢を意識し、年齢に見合った生活を送ることも大切です。
心房粗動の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房粗動の診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図をとります。
正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、心房粗動の心電図の波形ではP波は認められず、代わりに「のこぎり状」の規則的な心房の波である粗動波(F波)が見られます。
心房から心室に伝わる電気刺激の数が多い状態で、粗動波(F波)の確認がむずかしい場合には、薬を使って心室に伝わる電気刺激の数を減らして心房の波形を見やすくすることもあります。よい条件で心電図が記録できれば、多くの場合三尖弁輪を回る通常型心房粗動か、それ以外の非通常型心房粗動かの診断ができます。
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房粗動の治療では、心房から心室に伝わる電気刺激の数が多く、頻脈となっている場合には、β(ベータ)遮断薬やカルシウム拮抗(きっこう)薬といった少し心臓の力を弱める作用があり、心室に伝わる電気刺激の数を減らす薬を使います。心室に伝わる電気刺激の数が減ると、心房は心房粗動のままでも動悸の症状は軽くなります。
点滴の薬を使って心房粗動を停止させるのはむずかしいことが多く、また、抗不整脈薬を使っての心房粗動停止、その後の洞調律維持(リズムコントロール)の効果は限定的で、抗不整脈薬を使ことでかえって症状が重くなることもあります。
症状が強く、特に肺に水がたまって呼吸困難を伴っているような場合には、直流通電による電気ショック治療で心房粗動を停止します。
三尖弁輪の周りを電気刺激が大きく旋回している通常型心房粗動の場合には、電極カテーテルを使って三尖弁輪から下大静脈にかけて数センチの距離を横断するように焼灼(しょうしゃく)する、カテーテルアブレーションという手術を行います。成功率が高く、危険性も少ないため現在最も勧められている治療法で、約95%程度で効果があり、症状の再発は多くても10%程度までです。
三尖弁輪以外のところを電気刺激が大きく旋回する非通常型心房粗動の場合には、あらかじめコンピュータを用いた特別な装置を用いて診断をする必要があり、正確な診断が付けば多くの場合はカテーテルアブレーションによる治療が有効です。
心房粗動が長い間続いているような場合には、心房の中にできた血栓がはがれて流れてゆき、脳梗塞を発症することを予防するために、ワルファリンなどの血栓の予防薬を服用します。
現在、心房粗動の予防効果が高い薬は残念ながらありません。まずは日ごろから健康管理に気を配り、酒の飲みすぎ、疲労、睡眠不足、ストレスを避けることが大切になります。
上室性不整脈とは、心臓内部の上半分である上室、すなわち右心房、左心房に由来する不整脈。
この上室性不整脈には、上室性期外収縮、発作性上室性頻拍、心房頻拍、心房細動、心房粗動があります。
上室性期外収縮は、心房内と房室接合部付近に電気刺激が発生して、早期に心臓が収縮する不整脈
上室性期外収縮は、心臓内部の上半分である心房内および房室接合部付近に電気刺激が発生し、右心房付近にある洞結節(どうけっせつ)から発生する本来の電気刺激によるよりも早い時点で、心臓が収縮する不整脈。
通常は発生しない電気刺激が房室接合部より上位で発生した場合は心房性期外収縮、心房と心臓内部の下半分である心室の境界部にあって、房室結節と房室束(ヒス束)からなる房室接合部付近で発生した場合は房室接合部性期外収縮と区別されますが、両者の判別が容易でない場合は上室性期外収縮と呼ばれます。
上室性期外収縮は健康な人にも高頻度でみられる有り触れた不整脈で、年齢を重ねていくにつれてみられる頻度も一段と高くなっていきます。
健康な人における発生誘因として、疲労、緊張、ストレス、運動、睡眠不足、喫煙、カフェイン、飲酒、栄養ドリンク、季節の変わり目などが挙げられます。心疾患や肺疾患のある人では発生頻度が高く、カフェインを含むコーヒーの摂取や、飲酒で引き起こされ、悪化することがあります。
上室性期外収縮が起きても無症状であることがほとんどなのですが、軽い一過性の動悸(どうき)を自覚して、心臓がドキンとしたり、心臓が一時止まったように感じたりすることもあります。
あるいは、脈が不規則になり、「トン、トン、トン」と規則正しく打っている脈の中に時々「トトン」と早く打つ脈が現れたり、急に心臓の1拍動が欠け、1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを自覚することもあります。のどや胸に不快感を感じたり、きわめて短い胸痛を感じる人もいます。
まれに上室性期外収縮が連続して起こった時は、耐えがたい動悸を感じたり、一時的に血圧が下がるために、めまいや失神といった症状が現れることもあります。この場合は、心房細動などの危険な不整脈へと移行することがあるので注意が必要です。
心房細動では、1分間当たり400~600回も心房が不規則に動きます。心房内の血液の流れは悪くなり、意識の消失や心機能の低下、血栓を生じて脳梗塞(こうそく)を招くこともあります。
健康診断などの検査で上室性期外収縮を指摘されたり、自分で脈をとった時に脈が飛ぶなどして上室性期外収縮だと感じたりした場合は、1日に起こる回数や頻度などを確認してみるといいでしょう。頻繁に起こるような場合は、医療機関で検査を受けて確認してみるといいでしょう。
発作性上室性頻拍は突然に脈拍が速くなり、突然に元に戻るのを特徴として、動悸を感じる不整脈
発作性上室性頻拍は、突然に脈拍が速くなり、しばらく続いた後に突然止まる不整脈。
正常な状態では、右心房の上部にあって、心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節から発生した電気信号は一方通行で、心臓の隅々まで伝わって消えてゆきます。次の脈は、新たに洞結節から発生した電気信号によって生じます。
ところが、何らかの原因で異常な電気回路ができたり、先天的に余分な電気回路があったりすると、突発的に電気信号の旋回(空回り)が始まることがあります。
原因となる電気回路がある場所は、大きく分けて3つあります。心房と心室をつなぐ結び目に当たる房室結節付近に電気回路がある房室結節回帰性頻拍が、最も多いものです。
また、正常な状態では、心房と心室をつなぐ電気回路は1本だけですが、それ以外に先天的に電気回路が別にできている場合があります。頻脈発作が出ていない時に特徴的な心電図の波形が出るWPW症候群と呼ばれるものも、その1つです。この場合、正常な電気回路と異常な電気回路を使って、心房と心室の間を電気信号が大きく回る房室回帰性頻拍というものが起こります。これが、2番目に多いものです。
それ以外の部位で電気信号が小さく回るものや、異常な電気信号を一部の心筋細胞が発生させる心房頻拍というものがありますが、発作性上室性頻拍の1割程度を占めるのみです。
発作性上室性頻拍が起こると、動悸がして息苦しくなります。脈拍数は大抵1分間に150回以上になり、タッタッタッと規則的な動悸が起こります。
多くの病的な頻脈は、徐々に脈が速くなるのではなく、頻脈発作の開始と同時に一瞬で脈が速くなり、止まる際も一瞬のうちに止まるという特徴があります。発作が起こると、急に激しい勢いで心臓が動き始めるため、血流に十分な圧力をかけられなくなって血圧が下がります。そして、冷や汗やめまい、息切れ、失神を起こしたりします。動悸は、めまいの後で自覚することが多いようです。
発作性上室性頻拍は、普段規則正しく打っている脈が不規則なリズムになる期外収縮を切っ掛けにして、電気信号の旋回が始まります。そのため、期外収縮の少ない若年者には頻脈発作が起こりにくいのですが、中年以降になると頻脈発作が起こりやすくなります。
重症な心臓の病気がなく、頻脈発作の頻度が多くない場合には、息をこらえて強く胸と腹に力を入れる、冷たい水を飲む、冷たい水に顔をつける、くしゃみやあくびを繰り返すなどの迷走神経の刺激で頻脈発作を止める処置が、自宅で可能で安全に行えるものです。
繰り返し症状が現れる場合や、生活に支障が出るほど強い動悸や不快感が現れる場合は、循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。
心房頻拍は、心房内の規則的な電気刺激により、心臓の拍動が1分間に140~200回に増える頻拍
心房頻拍は、心臓内部の上半分である心房内に異常興奮部位が存在することで、心臓の拍動が1分間に140~200回へと突然増える頻拍。
正常な心臓では、右心房付近にある洞結節から1分間に60~80回の電気刺激が発生して、心臓内部の上半分である右心房、左心房、心臓内部の下半分である右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。
心房頻拍は、洞結節からの電気刺激ではなく、心房内の異常な心筋細胞から極端に速い頻度で電気刺激が発生してしまうことで起こります。
頻拍が発生する起源により、異所性心房頻拍、リエントリー(再侵入)性心房頻拍(心房内リエントリー性頻拍、マクロ・リエントリー性心房頻拍)などに分類されます。
異所性心房頻拍は、比較的狭い異常な心筋細胞が心房内に発生することが原因となるため、起源は多彩です。好発部位は、右心房では分界稜(りょう)、上大静脈、冠静脈洞、左心房では肺静脈入口部周囲。比較的若い人に多くみられます。
一方、リエントリー性心房頻拍は、洞結節の周囲や、心臓の外科手術で切開した跡の周囲などに、電気的刺激が比較的大きく旋回することが原因となります。
心房頻拍のほとんどは一過性で、特に心配はいりませんが、突然に拍動が速くなり、突然に元に戻るのが特徴です。頻脈発作の持続時間は数秒から数時間までとさまざまで、起こる回数もまちまちです。
頻脈発作の持続時間が短い非持続性心房頻拍の場合は、胸がドキドキする感じがするくらいですが、頻脈発作が長く続く持続性心房頻拍の場合や、拍動が1分間に200回くらいになる場合は、強い動悸や息切れといった自覚症状を感じることがあります。胸の違和感、不快感を覚えることもあります。
また、一過性の非持続性心房頻拍でない場合は、心不全を合併するもの、脳梗塞を引き起こすものもあり、心房の拍動が1分間に300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする心房細動に移行することもあります。
心房頻拍は特に原因となる疾患がなくても起こることもある一方で、慢性閉塞性肺疾患(COPD)がある人、肺や食道の手術を受けた人、狭心症や心筋梗塞を起こしたことがある人などは特にリスクが高くなります。
心房細動は、心房の拍動が速くなったり、不規則になったりする不整脈
心房細動は、安静時の正常な心臓が1分間で60回~80回と規則的に拍動するのに対して、心臓内部の上半分である心房の拍動が1分間で300回以上と速くなったり、拍動のリズムが不規則になったりする不整脈。
心房の収縮が通常より速くなって、心房の壁が不規則に細かく震える(不整)ために、心房の中の血液の流れるスピードが低下して血液がうっ滞し、血液を効率よく全身へ送り出せなくなります。
心房細動は、年齢が上がるにつれて発症率が高くなり、60歳を超えると発症の可能性が高まります。また、女性よりも男性に多く発症します。日本では70万人以上が心房細動を持っていると推定されています。
心房細動は健康な人でも発症しますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞・心臓弁膜症などの心臓病、慢性の肺疾患のある人は発症しやすく、また、アルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレス時に発症しやすくなる人もいます。
心房細動自体による頻脈や拍動リズムの不正は、命にかかわるような重症な不整脈ではありません。しかし、動悸、息切れ、疲れやすい、胸痛、めまいなどの症状が現れ、また、心房の中でうっ滞した血液が固まって血栓を形成し、血液とともに流れて脳の血管に詰まってしまうと、脳梗塞を引き起こします。
心臓部位に手を当てたり、手首や頸(けい)部(首)で脈を計ると、通常よりも速かったり、速い・遅いを不規則に繰り返したりします。心臓のリズムが常に一定ではなく、不規則に乱れていることがわかるため、さらに症状を悪化させる場合もあります。慢性化すると、全身の倦怠(けんたい)感や胸部の不快感など自覚症状が感じにくくなるため注意が必要です。
一方、全く自覚症状がなく、長い間にわたって気付かない人もいます。心房細動が隠れている人では、別の疾患で医療機関を受診した際に偶然発見されることが多いようです。
動悸や息切れなどの症状がみられたり、心臓のリズムが一定でないと感じた場合は早めに受診し、検査を受けることが重要です。
心房粗動は、心房の電気刺激が1分間に240回以上起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈
心房粗動は、心臓内部の上半分である心房の電気刺激が1分間に240回から450回の速さで起こり、心臓の拍動に乱れが生じる不整脈。
正常な心臓では、右心房付近にある洞結節から発生した電気刺激は一方通行で、心臓の端々まで伝わって拍動を起こし、消えます。次の拍動は、新たに洞結節から発生した電気刺激によって生じます。1分間では、洞結節から60~80回の電気刺激が発生して、右心房、左心房、右心室、左心室を規則正しく収縮させることで拍動を起こし、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出しています。
心房粗動では多くの場合、右心房の中で三尖弁輪(さんせんべんりん)という右心房と右心室の連結部分の周りを電気刺激が大きく旋回(空回り、リエントリー)している状態となっています。それ以外のところを電気刺激が大きく旋回する場合もありますが、あまり多くはみられません。
前者を通常型心房粗動、後者を非通常型心房粗動、あるいは希有(けう)型心房粗動と呼びます。両者とも、電気刺激が反時計方向に旋回する場合と、時計方向に旋回する場合とがあります。
心房粗動の症状は、心房から心室に伝わる電気刺激の数によって異なります。心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に60回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、4回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に75回前後となります。よって動悸はあまり感じません。
心房の電気刺激が1分間に240回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるような場合には、心臓の拍動は1分間に120回前後となります。心房の電気刺激が1分間に300回の速さで起こり、2回に1回心室に電気刺激が伝わるとすると、心臓の拍動は1分間に150回前後となります。
このような心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合では、動悸として自覚されることが増えます。息切れを自覚したり、胸部に違和感があったり、胸が躍るように感じたり、胸が痛むこともあります。漠然と、体が重いと感じたり、疲れやすいと感じたりすることもあります。
いったん心房粗動が始まると、なかなか自然には止まりません。心房粗動は、一般的には突然始まり長時間続くことが多いようです。夜間は心臓の拍動がゆっくりになる徐脈であっても、日中は軽く体を動かしただけで心臓の拍動が速くなる頻脈を来す場合も、ままあります。
心臓弁膜症や心筋症といった心房に負荷がかかるような心臓病がある場合や、高血圧のため心肥大がある場合などに、心房粗動は始まりやすく、自然には止まらないと過重な負担となり、肺に水がたまる心不全を発症することもあります。
また、心房粗動のために心房の中に血栓ができて、それがはがれて流れてゆき、脳梗塞を発症することもあります。
ただし、心房粗動の症状は多様で、特定の症状が出ないことも多いために、健康診断などの際に偶然、発見されることもあります。
心房粗動が疑われる症状に気が付いた時には、自然に止まることは少ないので、循環器科、循環器内科などを受診することが勧められます。
上室性期外収縮の検査と診断と治療
内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による上室性期外収縮の診断では、心電図検査が基本となります。一般的に通常の検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでの上室性期外収縮の出現頻度と出現形態を確認できます。
また、基礎心疾患の有無や運動前後での上室性期外収縮の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。
正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、上室性期外収縮の心電図上では、正常と異なる波形のP波が早期に出現し、そのP波は異所性のP波です。P波に続くQRS波は、正常な波形で出現します。
また、異所性のP波の波形により、電気刺激の発生部位が1つの単源性か、発生部位が複数ある多源性かを区別します。
内科、循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による上室性期外収縮の治療では、症状がなく上室性期外収縮が単発で発生する場合は、特に処置を行わず経過を観察します。
しかし、症状がなくても原因となる疾患がある場合や、検査の結果で心房細動などの危険な不整脈に移行する可能性がある場合、ナトリウムチャネル遮断薬などの抗不整脈薬の投与による治療を行うことになります。
症状が強く期外収縮が連続して発生する場合は、まず抗不安薬を投与します。それでも症状がある場合には、β(ベータ)遮断薬などの抗不整脈薬を使うことになります。薬物治療を行う場合には、副作用のリスクを考慮して、十分に検討した上で慎重に行います。
運動をすると上室性期外収縮が頻発する場合には、期外収縮の連続による頻脈(頻拍)や持続性の頻脈が生じる可能性があるので、運動を控えるよう制限を設けます。逆に、運動によって上室性期外収縮がなくなる場合には、運動制限を設ける必要はありません。
一般的な上室性期外収縮の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。
発作性上室性頻拍の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、頻脈発作時の心電図検査で発作性上室性頻拍と確定できます。頻脈発作時の心電図がない場合は、24時間ホルター心電図で検査することがあります。
いずれの場合も、検査中に頻脈発作が起こってないと診断できません。そこで、症状が非常に疑わしい場合は、電気生理検査を行うことがあります。鼠径(そけい)部などから細いカテーテルと呼ばれる電極を心臓に挿入し、電気の通り道を調べるもので、発作性上室性頻拍の原因を探索できます。
循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による発作性上室性頻拍の治療では、あまり発作が起こらず、発作時の症状も軽い人の場合、抗不整脈薬で予防します。
いったん発作が起こり始めると、内服剤では発作を停止できず、発作が長く続く場合は、注射による治療を行います。
よく発作が起こり、発作時間が長く、発作時の症状も強い人の場合、経皮的カテーテル心筋焼灼(しょうしゃく)術(カテーテル・アブレーション法)を行い、病気そのものを根本的に治療することもあります。鼠径部などから体内に挿入した細いカテーテルの先端から高周波電流を流し、心筋の原因組織を焼き切って正常化します。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。
心房頻拍の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房頻拍の診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図検査を中心に行います。心電図における真っすぐの基線である等電位線があり、心房の興奮頻度が1分間に140~200回のものを心房頻拍と見なします。
心臓の拍動数が1分間に100回を超えるような持続性心房頻拍が認められた場合には、胸部X線検査や心臓超音波(エコー)検査を行い、心不全の有無を確認します。発作時の心電図がない場合は、携帯式で小型のホルター心電計を付けたまま帰宅してもらい、長時間の心電図で診断することもあります。
異所性心房頻拍とリエントリー性心房頻拍の鑑別には、アデノシン三リン酸(ATP)の投与が有用で、異所性心房頻拍では頻拍が停止することが多いのに対して、リエントリー性心房頻拍では心室の興奮が通常より遅れたり、欠落する房室ブロックが生じるものの頻拍自体が停止することはありません。
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房頻拍の治療では、症状が強い場合、β遮断薬やナトリウムチャネル遮断薬などによる薬物治療を行います。
効果がない場合や、薬が使えない場合には、極端に速い頻度で電気刺激を発生させている異常興奮部位を探し出し、足の付け根などからカテーテルと呼ばれる電極を心臓内に挿入し、高周波で焼灼(しょうしゃく)するカテーテルアブレーションという手術を行います。一度焼灼された組織は瘢痕(はんこん)化し電気が流れなくなりますので、頻拍は起こらなくなります。
心房細動の検査と診断と治療
内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房細動の診断では、動悸や胸部症状、脈の乱れなどの症状がある場合、普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電計、携帯型心電計、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。
ホルター心電計は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、心臓病は出ていないかなどがわかります。
携帯型心電計は、おおよそ1カ月間にわたり携帯し、症状が生じた時に手首もしくは胸部に圧着して自分で心電図を記録し、後から医師が記録を分析します。
運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、心臓病が出るかどうかをチェックします。
心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。
内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房細動の治療では、薬物による除細動、電気ショックによる除細動のほか、心房細動が原因で起こる血液凝固を予防する薬などを使用します。
心房細動の予防のためには、規則正しい生活を行い、喫煙や飲酒、お茶やコーヒーの摂取などの習慣がある人は、本数や頻度の見直しが予防の一つにつながります。心臓病のある人は、心臓に負担をかけないように、日常生活を見直し、加齢により発症率も上がることから、年齢を意識し、年齢に見合った生活を送ることも大切です。
心房粗動の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房粗動の診断では、心臓の電気的活動を体表面から波形として記録する心電図をとります。
正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、心房粗動の心電図の波形ではP波は認められず、代わりに「のこぎり状」の規則的な心房の波である粗動波(F波)が見られます。
心房から心室に伝わる電気刺激の数が多い状態で、粗動波(F波)の確認がむずかしい場合には、薬を使って心室に伝わる電気刺激の数を減らして心房の波形を見やすくすることもあります。よい条件で心電図が記録できれば、多くの場合三尖弁輪を回る通常型心房粗動か、それ以外の非通常型心房粗動かの診断ができます。
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による心房粗動の治療では、心房から心室に伝わる電気刺激の数が多く、頻脈となっている場合には、β(ベータ)遮断薬やカルシウム拮抗(きっこう)薬といった少し心臓の力を弱める作用があり、心室に伝わる電気刺激の数を減らす薬を使います。心室に伝わる電気刺激の数が減ると、心房は心房粗動のままでも動悸の症状は軽くなります。
点滴の薬を使って心房粗動を停止させるのはむずかしいことが多く、また、抗不整脈薬を使っての心房粗動停止、その後の洞調律維持(リズムコントロール)の効果は限定的で、抗不整脈薬を使ことでかえって症状が重くなることもあります。
症状が強く、特に肺に水がたまって呼吸困難を伴っているような場合には、直流通電による電気ショック治療で心房粗動を停止します。
三尖弁輪の周りを電気刺激が大きく旋回している通常型心房粗動の場合には、電極カテーテルを使って三尖弁輪から下大静脈にかけて数センチの距離を横断するように焼灼(しょうしゃく)する、カテーテルアブレーションという手術を行います。成功率が高く、危険性も少ないため現在最も勧められている治療法で、約95%程度で効果があり、症状の再発は多くても10%程度までです。
三尖弁輪以外のところを電気刺激が大きく旋回する非通常型心房粗動の場合には、あらかじめコンピュータを用いた特別な装置を用いて診断をする必要があり、正確な診断が付けば多くの場合はカテーテルアブレーションによる治療が有効です。
心房粗動が長い間続いているような場合には、心房の中にできた血栓がはがれて流れてゆき、脳梗塞を発症することを予防するために、ワルファリンなどの血栓の予防薬を服用します。
現在、心房粗動の予防効果が高い薬は残念ながらありません。まずは日ごろから健康管理に気を配り、酒の飲みすぎ、疲労、睡眠不足、ストレスを避けることが大切になります。
タグ:急性心不全 心筋症 心室性不整脈 アスリート心臓 心室早期興奮症候群 後天性QT延長症候群 QT延長症候群 先天性QT延長症候群 ボタロー管開存症(動脈管開存症) WPW症候群 房室回帰性頻拍 スポーツ心臓 心房中隔欠損症 心臓弁膜症 徐脈性不整脈 アダムス・ストークス症候群 洞不全症候群 心室頻拍 心室細動 心臓神経症 無症候性心筋虚血 心室中隔欠損症 心筋梗塞 発作性上室性頻拍 拘束型心筋症 心内膜炎 心膜炎 ブルガダ症候群 心不全 特発性心筋症 心臓ぜんそく 徐脈頻脈症候群 不整脈 慢性心不全 先天性心臓病 心臓病 虚血性心疾患 肺性心 期外収縮 致死性不整脈 重症不整脈 頻脈性不整脈 心臓突然死 家族性突然死症候群 心房細動 心筋炎 原発性心筋症 心室性期外収縮 心房粗動 拡張型心筋症 早期再分極症候群 カテコラミン誘発性多型性心室頻拍 肥大型心筋症 上室性不整脈
■40歳代独身男性の23%がメタボで、既婚者の2倍 東京慈恵医大が調査 [健康ダイジェスト]
独身中年男性のメタボリックシンドローム(メタボ)の割合は既婚者に比べて約2倍に上っているとする調査結果を、東京慈恵会医科大学の和田高士教授(健康科学)らのチームがまとめました。大阪市で7日から始まった日本肥満学会で発表しました。
調査は東京慈恵会医科大学附属病院(東京都港区)で人間ドックを受けた40歳代の男性2113人を対象に、既婚1672人、単身赴任131人、独身(離婚も含む)310人を質問票の回答と検査結果から比較しました。
この結果、メタボの人の割合は独身が23%で、既婚の11%の約2倍でした。メタボの予備軍は独身が17%で、既婚の18%とほぼ変わりませんでした。単身赴任では、メタボの割合は10%にとどまる一方、予備軍は22%と最も多くなりました。独身は、メタボの診断基準となる腹囲や血中の中性脂肪、血糖値、血圧の平均値がいずれも既婚より高くなりました。
生活習慣をみると、独身は朝食を抜くことや外食が多く、運動不足傾向で喫煙率も高くなりました。単身赴任も外食が多いものの、3者の中では最も運動をしていました。
独身は、「生活習慣の改善に取り組んでいる」や「保健指導を希望する」との回答率も、3者の中で最も低くなりました。
和田教授は、「独身の中年男性は既婚者より、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中のリスクが高まる」と警告しています。
和田教授はホームページ上で、「メタボリックシンドローム対策は、内臓脂肪を減らすこと。タバコは吸わない、食事・酒の量を少なくする、たくさん動き・たくさん休む、多くの人に接して心配ごと・悩みごとを相談する、趣味を楽しむなどの生活習慣を続けていれば、メタボリックシンドロームにはならない」と述べています。
2017年10月10日(火)
調査は東京慈恵会医科大学附属病院(東京都港区)で人間ドックを受けた40歳代の男性2113人を対象に、既婚1672人、単身赴任131人、独身(離婚も含む)310人を質問票の回答と検査結果から比較しました。
この結果、メタボの人の割合は独身が23%で、既婚の11%の約2倍でした。メタボの予備軍は独身が17%で、既婚の18%とほぼ変わりませんでした。単身赴任では、メタボの割合は10%にとどまる一方、予備軍は22%と最も多くなりました。独身は、メタボの診断基準となる腹囲や血中の中性脂肪、血糖値、血圧の平均値がいずれも既婚より高くなりました。
生活習慣をみると、独身は朝食を抜くことや外食が多く、運動不足傾向で喫煙率も高くなりました。単身赴任も外食が多いものの、3者の中では最も運動をしていました。
独身は、「生活習慣の改善に取り組んでいる」や「保健指導を希望する」との回答率も、3者の中で最も低くなりました。
和田教授は、「独身の中年男性は既婚者より、糖尿病や心筋梗塞、脳卒中のリスクが高まる」と警告しています。
和田教授はホームページ上で、「メタボリックシンドローム対策は、内臓脂肪を減らすこと。タバコは吸わない、食事・酒の量を少なくする、たくさん動き・たくさん休む、多くの人に接して心配ごと・悩みごとを相談する、趣味を楽しむなどの生活習慣を続けていれば、メタボリックシンドロームにはならない」と述べています。
2017年10月10日(火)
■用語 遺伝性不整脈 [用語(あ行)]
比較的若い世代が致死性不整脈を発症し、心臓突然死を引き起こす可能性のある疾患群
遺伝性不整脈とは、比較的若い世代において致死性不整脈を発症し、心臓突然死を引き起こす可能性のある難治性疾患群。いずれも、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の流れに関係する遺伝子の変異によって、発症します。
この遺伝性不整脈の場合、ふだん元気に見えても、ある日突然、心室細動などの危険な不整脈を起こして死亡してしまうことがあります。遺伝性不整脈には、先天性QT延長症候群、先天性QT短縮症候群、ブルガダ症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍などがあります。
先天性QT延長症候群は突然、脈が乱れて不整脈発を起こし、突然死に至ることもある遺伝性疾患
先天性QT延長症候群は、心臓の細胞に生まれ付き機能障害があるために、突然、脈が乱れる不整脈発作や失神発作を起こしたり、時には突然死に至ることもある先天性の疾患。
医療機関において、心臓の動きをコントロールしている電気刺激の変化を記録する心電計で検査すると、心電図に現れるQTと呼ばれる波形の部分の間隔(QT時間)が、正常な心臓に比べて長くなることから、この疾患名が付けられています。
常染色体優性遺伝を示す遺伝性の疾患で、性別に関係なく50%の確率で親から子供に遺伝しますが、症状には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても必ずしも不整脈発作の症状が現れるとは限りません。まれですが、先天性聾(ろう)と呼ばれる生まれ付きで両耳の聴力障害を伴うものは、常染色体劣性遺伝を示します。
心臓は収縮と弛緩(しかん)を絶えず繰り返していますが、この先天性QT延長症候群では、心臓の筋肉である心筋細胞が収縮して全身に血液を送り出した後、収縮前の状態に戻る時間が延長するために、心筋細胞が過敏になって不整脈発作を起こしやすくなります。
QT延長症候群には先天性と後天性とがありますが、学童期などの若年から指摘される先天性QT延長症候群は、心筋細胞の収縮と弛緩に関係する遺伝子に異常があるために起こります。一方、比較的年齢が高くなり、薬剤使用や徐脈に伴って起こる後天性QT延長症候群も、遺伝子の異常がかかわっています。
先天性QT延長症候群の原因は現在、2つが考えられています。1つは、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の異常です。心臓が規則正しく収縮と弛緩を繰り返すには、心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分が1分間に60~80回発生させている電気刺激が正しく伝えられることが重要です。電気刺激を正しく伝えるため、心筋細胞はイオンチャネルという経路を使ってナトリウムやカリウムなどのイオンを出し入れしていますが、このイオンチャネルが正常に働かなくなり、電気刺激が正しく伝えられなくなると、脈が乱れる不整脈発作が起きやすくなります。
イオンチャネルの異常は、イオンチャネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常で起こります。現在では4種類のイオンチャネルに遺伝子の異常が見付かっていますが、この4種類のイオンチャネルの遺伝子に異常が見付からない場合も多く、ほかの種類のイオンチャネルにも異常があるのではないかと考えられます。
もう1つの原因は、心臓に指令を出す交感神経の異常です。交感神経は、背骨の横に左右1本ずつあり、正常では左右の交感神経から収縮と弛緩を繰り返すように心臓に送られる指令は、バランスが保たれています。先天性QT延長症候群では、左側の交感神経の働きが右側より勝っており、バランスが崩れています。交感神経のアンバランスがなぜ起こるかは、わかっていません。
その実数は不明ですが、先天性QT延長症候群は2500〜5000人に1人程度の発症者が存在すると推定されています。
先天性QT延長症候群は原因遺伝子により、不整脈発作の切っ掛けや治療薬の効き方が変わってきます。重症度には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても症状が現れない場合があることも知られています。
症状としては、不整脈発作による動悸(どうき)、立ちくらみ、気分不快や、失神発作、けいれん発作などがあります。発作の多くは、短時間で自然に回復しますが、心室期外収縮や多形性心室頻拍から心室細動となり、回復しない場合は突然死に至ることもあります。
また、失神発作、けいれん発作は、てんかんと間違えられることもよくあります。先天性聾、四肢の脱力、身体奇形などを伴うものもあります。
抗不整脈薬と、日常生活における発作誘因の回避で、突然死に至るような致死性不整脈発作はかなり予防できます。正しい診断がとても大切ですので、小児循環器科、循環器科などの不整脈の専門医を受診することが勧められます。
先天性QT短縮症候群は、脈が乱れて不整脈発作を起こし、突然死に至ることがまれにある遺伝性不整脈
先天性QT短縮症候群は、心筋細胞に生まれ付き機能障害があるために、突然、脈が乱れる不整脈発作や失神発作を起こしたり、時には突然死に至ることがまれにあり得る疾患。
医療機関において、心臓の動きをコントロールしている電気刺激の変化を記録する心電計で検査をすると、心電図に現れるQTと呼ばれる波形の部分の間隔(QT時間)が、正常な状態の心臓に比べて短くなることから、この疾患名が付けられています。
先天性QT短縮症候群は、極めてまれな遺伝性の疾患で、正確な発生頻度は明らかになっていません。症状には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても必ずしも不整脈発作の症状が現れるとは限りません。
心臓は収縮と弛緩を絶えず繰り返していますが、この先天性QT短縮症候群では、心臓の筋肉である心筋細胞が収縮して全身に血液を送り出した後、収縮前の状態に戻る時間が通常よりも短縮するために、心筋細胞が過敏になって不整脈発作が起こりやすくなります。
先天性QT短縮症候群の原因は、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の異常です。心臓が規則正しく収縮と弛緩を繰り返すには、心臓の上部にある洞結節と呼ばれる部分が1分間に60~80回発生させている電気刺激が正しく伝えられることが、重要になります。電気刺激を正しく伝えるため、心筋細胞はイオンチャネルという経路を使ってナトリウムやカリウム、カルシウムなどのイオンを出し入れしていますが、このイオンチャネルが正常に働かなくなり、電気刺激が正しく伝えられなくなると、脈が乱れる不整脈発作が起きやすくなります。
イオンチャネルの異常は、イオンチャネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常で起こります。先天性QT短縮症候群では、これまでに6個の原因遺伝子が報告されています。最も多いQT短縮症候群1型(SQT1)の遺伝子の異常は25%程度に認められるとされていますが、そのほかの原因遺伝子の検出頻度は低くなります。
また、先天性QT短縮症候群の遺伝子異常は、常染色体優性遺伝の形式をとり、子孫に代々受け継がれて家族性に発症する場合もあり、家族には認めずに本人にのみ遺伝子異常が出現する場合もあります。
無症状の場合もありますが、まれに心室頻拍や心室細動などの不整脈が発生して失神したり、心停止や突然死に至ったりすることもあります。症状が起こる可能性は、小児から成人のあらゆる年齢層にあります。
一度でも心停止を起こしたことがある場合、失神または不整脈が出現している場合、家族に同様の発症者がいる場合は、リスクが高いことが予想され、小児循環器科、循環器科などの不整脈の専門医を受診し、適切な検査と治療を受けることが勧められます。
ブルガダ症候群は、心室細動により失神し、突然死にもつながる心疾患
ブルガダ症候群は、重篤な不整脈である心室細動により失神し、死に至る場合がある心疾患。ブルガーダ症候群とも呼ばれます。
ふだんは軽度の心電図異常しかみられず、心臓超音波検査でも心臓に異常は見当たりませんし、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の兆候もありません。1992年にスペイン人医師ペドロ・ブルガダとその兄弟によって報告されて以来、同様の報告が相次ぎ、ぽっくり病を始めとする原因不明の突然死の一部を占めるのではないか、と考えられるようになりました。
しかし、疾患の本態は不明。どういったメカニズムで不整脈が発生するのかなど、まだまだ未知の部分が多い疾患です。心臓細胞の表面には、数種類のイオンチャンネルと呼ばれる特殊な蛋白(たんぱく)質が存在しており、ナトリウムやカリウムなどのイオン分子を心臓細胞に出し入れすることで、心臓の電気活動をコントロールしています。これらの蛋白質の異常により、電気活動の異常、すなわち不整脈が起こりやすくなることがわかっています。
これまでの研究では、ブルガダ症候群の発症者のうち、約2割でナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が発見され、これが原因ではないかといわれています。といっても、すべての症例がナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常で説明されるわけではなく、他のイオンチャンネルの遺伝子異常、ナトリウムチャンネルでも遺伝子解析の困難な部位であるプロモーター、イントロンなどの遺伝子異常、遺伝子には関係のない後天的な異常、である可能性があります。将来、ブルガダ症候群はいくつかの原因に従って、再分類されるかもしれません。
日本や東南アジアで発症頻度が高く、40歳前後の男性に多く発症すると見なされ、しばしば3親等以内の血縁者に突然死した人がいます。日本では、発症者の95パーセントが男性で、ブルガダ症候群の素因を持つ人は1000人に1人はいると推定されています。遺伝子解析でも、全人口の約15パーセントにナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が見付かっており、今後の研究が待たれます。
症状は突然、心臓けいれんともいえる心室細動が出現して、心臓が細かく震え、ポンプ機能としてはゼロの状態を来すため血圧はゼロに下がりますので、何の兆候もなく失神を起こします。立っていたり、座っていると、その場に転倒します。心室細動のほかに、発作性心房細動を来すこともあります。
普通、心室細動が出現した場合、すぐにその場で救急蘇生(そせい)を行い、電気ショックを行わないと死につながります。ブルガダ症候群の発症者では不思議なことに、自然に心室細動が止まって正常な脈に戻ってしまうことがあり、繰り返す失神発作としか自覚されないことがあります。
心室細動発作が活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすいため、睡眠中に発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする発作、すなわち突然の心停止時にみられる全身症状を指摘され、初めて不整脈発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、致死性不整脈を引き起こす可能性がある不整脈
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、狭心症や心筋梗塞、心筋症といった心臓の器質的な病変がない場合でも、心室頻拍や心室細動といった致死性不整脈へと直接つながる可能性を有する頻脈性の不整脈。
小児期の失神や突然死の原因疾患として、近年注目されている不整脈ですが、発生頻度は極めてまれであり、心臓における電気的刺激の伝達にかかわる遺伝子異常によって引き起こされます。
現在までに心臓のリアノジン受容体RyR2の遺伝子異常と、カルセクエストリン2(Calsequestrin 2)というカルシウム結合蛋白の遺伝子異常により引き起こされることが明らかになっており、前者は常染色体優性遺伝を示し、後者は常染色体劣性遺伝を示します。これらの遺伝子異常により、心筋細胞内の筋小胞体に存在するリアノジン受容体(RyR)からの異常なカルシウムイオンの放出が起こることが知られています。
運動や感情の高まり(カテコラミン刺激)に伴って、脳内で放出される神経伝達物質であるカテコラミン(カテコールアミン)が、カテコラミン誘発性多型性心室頻拍の誘因となります。
カテコラミンは体で興奮系の作用を示す神経伝達物質で、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンが含まれます。ドーパミンは中枢の神経伝達物質として快の感情、学習、意欲、運動、ホルモンの調節などの働きを持ちます。アドレナリンは恐怖のホルモンとして、ノルアドレナリンは怒りのホルモンとして、交感神経系の作動に働きます。
心筋細胞内の筋小胞体に存在するリアノジン受容体からカルシウムイオンが漏れ出て、これに運動や感情の高まりに伴って脳内で放出されたアドレナリンなどのカテコラミンが加わることによって、心筋細胞内のカルシウムイオンがさらに増加します。これにより心筋細胞の反応が過剰に強く引き起こされ、電気的興奮が異常に高まる結果、心室頻拍や心室細動といった重篤な致死性不整脈を発生させます。
現れる症状は、動悸や、めまい、失神です。失神は、二方向性心室頻拍、多形性心室頻拍、多形性心室期外収縮、多源性心室頻拍などが誘発され、心室細動に移行することにより起こります。心停止が初めて現れる症状である場合もしばしば見受けられ、突然死につながることもあります。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、幼少時に発症することが最も多く、平均初発年齢は7歳から9歳。時として診断が遅れることがあり、青年期以降または中年期以降に診断される場合もあります。
約30%の発症者に、失神および突然死の家族歴を認めます。薬剤治療を行わなかった場合、予後はきわめて不良で、40歳までの死亡率が30~50%と高いことが報告されています。薬剤治療を行っても、10年で15%から40%は死亡するとされています。
先天性QT延長症候群の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT延長症候群の診断では、発作の既往歴、家族歴などから先天性QT延長症候群が疑われた場合は、心電図でQT時間の延長とT波と呼ばれる波の形の変化を確認します。検査の際に、運動や薬剤による負荷をかけることで、QT時間の延長がよりはっきりすることがあります。
遺伝子診断は、治療薬の選択や適切な生活指導のために有効です。近年では、原因遺伝子の型のみではなく、各原因遺伝子の変異部位によって重症度が異なることがわかってきており、QT時間や遺伝子型、あるいは変異部位に基づいて、リスク評価を行い、治療法を決定します。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT延長症候群の治療では、不整脈発作の予防のために、β(ベータ)遮断薬、ナトリウムチャネル遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬などの抗不整脈薬を内服します。
内服薬の効果がない場合は、植え込み型除細動器(ICD)、交感神経切除術などによる治療を考慮します。
植え込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置で、通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。
交感神経切除術は、心臓に指令を送る左側の交感神経を首から胸にかけて切断します。
なお、後天性QT延長症候群により、脈が正常よりも極端に遅くなる徐脈性不整脈を起こしている場合は、脈を正常まで速めて発作が起こりにくいようにするため、恒久型ペースメーカーの植込みによる治療を考慮します。
ペースメーカーは、徐脈時には電気刺激を出して心臓の拍動を調整する装置で、脈の状態は心臓の中に留置したリード線を通して察知します。手術で、ライターほどの大きさのペースメーカーを鎖骨の下に埋め込みます。
日常生活においては、不整脈発作の誘因となる激しい運動や精神的興奮、驚愕を避ける、発作を誘発しやすい薬剤は服用しないなどの注意が必要です。
先天性QT短縮症候群の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT短縮症候群の診断では、不整脈発作や失神発作の既往歴、家族歴などから先天性QT短縮症候群が疑われた場合は、心電図でQT時間の短縮を確認します。
QT時間で280~300ms(ミリ秒)以下、心拍数で補正したQTc時間(補正QT時間)で300~320ms(ミリ秒)以下がQT短縮とされていますが、QTc時間(補正QT時間)が330ms(ミリ秒)以下の場合は、先天性QT短縮症候群である可能性が高くなります。
一般的に通常の心電図検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでのQT短縮や不整脈の出現頻度と出現形態を確認できます。
また、基礎心疾患の有無や運動前後でのQT短縮や不整脈の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。
遺伝子診断は、治療薬の選択や適切な生活指導のために有効であるものの、症状を伴う先天性QT短縮症候群でも現状、遺伝子診断率は低くなっています。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT短縮症候群の治療では、無症状で家族に同様の発症者がいない場合、家族に突然死した人がいない場合は、経過観察を行います。
心室頻拍や心室細動が出現した場合、原因不明な失神を繰り返している場合、家族に同様の発症者がいたり突然死した人がいる場合は、心停止リスクが高いため小児から成人まで年齢を問わず、植え込み型除細動器(ICD)を植え込むことがあります。また、一度でも心停止を起こしたことがある場合も、植え込み型除細動器(ICD)を植え込みことが第一選択の治療法となります。
植え込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置で、通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。
QT時間を延長させる薬がいくつかあり、抗不整脈薬であるキニジンの内服、ニフェカラントやジソピラミドの点滴静脈注射を行うこともありますが、QT時間を安定して延長することはできません。
ブルガダ症候群の検査と診断と治療
ブルガダ症候群の発症者には、特徴的な心電図の波形変化として、右側胸部誘導(心電図検査のV1、V2と呼ばれる項目)の弓を折り曲げたようなタイプのST上昇と、不完全右脚ブロック様変化がみられます。
しかし、このような心電図変化は健康診断で実施された心電図検査でも、0.1~0.2パーセントの人にみられるといわれています。最近の報告では、特徴的な心電図変化がみられた人たち全員に、致死性不整脈の危機が迫っているのではなく、大部分の人の予後はとてもよいと考えられています。
ただし、ブルガダ型心電図を有し、原因不明の失神の既往や、45歳未満での突然死の家族歴を持つ人の評価は、慎重に行わなくてはなりません。ブルガダ型心電図を有するのみで、失神歴も家族歴も有しない人の予後は、良好であると考えられています。中には、最初の症状が突然死であったという不幸な例もあります。
ブルガダ症候群の発症者に対して、ある種の抗不整脈薬を投与すると心電図異常が強調されたり、減弱したりすることがわかっていますので、集中モニターができる環境においてこれらの薬を投与し、その際の心電図変化を診断の際の判断材料にするピルジカイニド負荷検査などが行われます。
それ以外にも、心臓の微小な電位変化をみる検査(加算平均心電図)や、携帯型心電計による24時間の心電図検査(ホルター心電図)を行い評価します。また、不整脈専門医のいる施設で心臓電気生理学検査という入院検査を行い、不整脈の起こりやすさを評価します。
これらすべてを総合的に判断して、その発症者の今後の心室細動出現のリスクを評価していくことになりますが、この評価方法もまだ絶対的なものはなく、議論の余地が大きいところです。
治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、体外用除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。
心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。
といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。現在までに、ブルガダ症候群の発作回数を有意に低減する薬剤は、見付かっていません。
植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。
ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーターなどが、誤作動を誘発する恐れがあります。
万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師によるカテコラミン誘発性多型性心室頻拍の診断では、運動をしたり、感情が高まって興奮したりする交感神経緊張時に失神を起こすことが多いため、これまでの失神の状況を問診します。また、カテコラミン誘発性多型性心室頻拍と診断されている血縁者がいないか、もくして突然死した血縁者がいないかなどを詳しく問診します。
安静時心電図は役に経たないため、基礎心疾患の有無や、運動前後あるいは身体的ストレス、感情的ストレスによる不整脈を評価する目的で、心臓超音波検査、運動負荷心電図検査、24時間にわたる心電図を記録するホルタ―心電図検査などを行います。
βアドレナリン受容体刺激薬を点滴して不整脈を評価する薬物負荷検査、リアノジン受容体RyR2の遺伝子変異の有無を解析する遺伝子検査を行うこともあります。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師によるカテコラミン誘発性多型性心室頻拍の治療では、体内におけるカテコラミンの影響を抑制することに重点を置き、交感神経のアドレナリン受容体であるβ受容体に対するカテコラミンの伝達を遮断するβ遮断薬(交感神経β受容体遮断薬)が第一選択となります。β遮断薬単独で効果が得られない場合は、カルシウム拮抗薬やナトリウム遮断薬を併用することがあります。
症状の状態に応じて、適切な範囲での運動制限または運動禁止も行います。
心停止を起こしたことがある場合や、薬剤によって不整脈が抑制されない場合は、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術を勧めることがあります。植え込み型除細動器は致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置ですが、突然死の予防効果は不完全です。
遺伝性不整脈とは、比較的若い世代において致死性不整脈を発症し、心臓突然死を引き起こす可能性のある難治性疾患群。いずれも、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の流れに関係する遺伝子の変異によって、発症します。
この遺伝性不整脈の場合、ふだん元気に見えても、ある日突然、心室細動などの危険な不整脈を起こして死亡してしまうことがあります。遺伝性不整脈には、先天性QT延長症候群、先天性QT短縮症候群、ブルガダ症候群、カテコラミン誘発多形性心室頻拍などがあります。
先天性QT延長症候群は突然、脈が乱れて不整脈発を起こし、突然死に至ることもある遺伝性疾患
先天性QT延長症候群は、心臓の細胞に生まれ付き機能障害があるために、突然、脈が乱れる不整脈発作や失神発作を起こしたり、時には突然死に至ることもある先天性の疾患。
医療機関において、心臓の動きをコントロールしている電気刺激の変化を記録する心電計で検査すると、心電図に現れるQTと呼ばれる波形の部分の間隔(QT時間)が、正常な心臓に比べて長くなることから、この疾患名が付けられています。
常染色体優性遺伝を示す遺伝性の疾患で、性別に関係なく50%の確率で親から子供に遺伝しますが、症状には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても必ずしも不整脈発作の症状が現れるとは限りません。まれですが、先天性聾(ろう)と呼ばれる生まれ付きで両耳の聴力障害を伴うものは、常染色体劣性遺伝を示します。
心臓は収縮と弛緩(しかん)を絶えず繰り返していますが、この先天性QT延長症候群では、心臓の筋肉である心筋細胞が収縮して全身に血液を送り出した後、収縮前の状態に戻る時間が延長するために、心筋細胞が過敏になって不整脈発作を起こしやすくなります。
QT延長症候群には先天性と後天性とがありますが、学童期などの若年から指摘される先天性QT延長症候群は、心筋細胞の収縮と弛緩に関係する遺伝子に異常があるために起こります。一方、比較的年齢が高くなり、薬剤使用や徐脈に伴って起こる後天性QT延長症候群も、遺伝子の異常がかかわっています。
先天性QT延長症候群の原因は現在、2つが考えられています。1つは、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の異常です。心臓が規則正しく収縮と弛緩を繰り返すには、心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分が1分間に60~80回発生させている電気刺激が正しく伝えられることが重要です。電気刺激を正しく伝えるため、心筋細胞はイオンチャネルという経路を使ってナトリウムやカリウムなどのイオンを出し入れしていますが、このイオンチャネルが正常に働かなくなり、電気刺激が正しく伝えられなくなると、脈が乱れる不整脈発作が起きやすくなります。
イオンチャネルの異常は、イオンチャネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常で起こります。現在では4種類のイオンチャネルに遺伝子の異常が見付かっていますが、この4種類のイオンチャネルの遺伝子に異常が見付からない場合も多く、ほかの種類のイオンチャネルにも異常があるのではないかと考えられます。
もう1つの原因は、心臓に指令を出す交感神経の異常です。交感神経は、背骨の横に左右1本ずつあり、正常では左右の交感神経から収縮と弛緩を繰り返すように心臓に送られる指令は、バランスが保たれています。先天性QT延長症候群では、左側の交感神経の働きが右側より勝っており、バランスが崩れています。交感神経のアンバランスがなぜ起こるかは、わかっていません。
その実数は不明ですが、先天性QT延長症候群は2500〜5000人に1人程度の発症者が存在すると推定されています。
先天性QT延長症候群は原因遺伝子により、不整脈発作の切っ掛けや治療薬の効き方が変わってきます。重症度には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても症状が現れない場合があることも知られています。
症状としては、不整脈発作による動悸(どうき)、立ちくらみ、気分不快や、失神発作、けいれん発作などがあります。発作の多くは、短時間で自然に回復しますが、心室期外収縮や多形性心室頻拍から心室細動となり、回復しない場合は突然死に至ることもあります。
また、失神発作、けいれん発作は、てんかんと間違えられることもよくあります。先天性聾、四肢の脱力、身体奇形などを伴うものもあります。
抗不整脈薬と、日常生活における発作誘因の回避で、突然死に至るような致死性不整脈発作はかなり予防できます。正しい診断がとても大切ですので、小児循環器科、循環器科などの不整脈の専門医を受診することが勧められます。
先天性QT短縮症候群は、脈が乱れて不整脈発作を起こし、突然死に至ることがまれにある遺伝性不整脈
先天性QT短縮症候群は、心筋細胞に生まれ付き機能障害があるために、突然、脈が乱れる不整脈発作や失神発作を起こしたり、時には突然死に至ることがまれにあり得る疾患。
医療機関において、心臓の動きをコントロールしている電気刺激の変化を記録する心電計で検査をすると、心電図に現れるQTと呼ばれる波形の部分の間隔(QT時間)が、正常な状態の心臓に比べて短くなることから、この疾患名が付けられています。
先天性QT短縮症候群は、極めてまれな遺伝性の疾患で、正確な発生頻度は明らかになっていません。症状には個人差が大きく、遺伝子に異常があっても必ずしも不整脈発作の症状が現れるとは限りません。
心臓は収縮と弛緩を絶えず繰り返していますが、この先天性QT短縮症候群では、心臓の筋肉である心筋細胞が収縮して全身に血液を送り出した後、収縮前の状態に戻る時間が通常よりも短縮するために、心筋細胞が過敏になって不整脈発作が起こりやすくなります。
先天性QT短縮症候群の原因は、心筋細胞にあるイオンチャネルと呼ばれる経路の異常です。心臓が規則正しく収縮と弛緩を繰り返すには、心臓の上部にある洞結節と呼ばれる部分が1分間に60~80回発生させている電気刺激が正しく伝えられることが、重要になります。電気刺激を正しく伝えるため、心筋細胞はイオンチャネルという経路を使ってナトリウムやカリウム、カルシウムなどのイオンを出し入れしていますが、このイオンチャネルが正常に働かなくなり、電気刺激が正しく伝えられなくなると、脈が乱れる不整脈発作が起きやすくなります。
イオンチャネルの異常は、イオンチャネルを作る際に使った設計図の誤り、すなわち遺伝子の異常で起こります。先天性QT短縮症候群では、これまでに6個の原因遺伝子が報告されています。最も多いQT短縮症候群1型(SQT1)の遺伝子の異常は25%程度に認められるとされていますが、そのほかの原因遺伝子の検出頻度は低くなります。
また、先天性QT短縮症候群の遺伝子異常は、常染色体優性遺伝の形式をとり、子孫に代々受け継がれて家族性に発症する場合もあり、家族には認めずに本人にのみ遺伝子異常が出現する場合もあります。
無症状の場合もありますが、まれに心室頻拍や心室細動などの不整脈が発生して失神したり、心停止や突然死に至ったりすることもあります。症状が起こる可能性は、小児から成人のあらゆる年齢層にあります。
一度でも心停止を起こしたことがある場合、失神または不整脈が出現している場合、家族に同様の発症者がいる場合は、リスクが高いことが予想され、小児循環器科、循環器科などの不整脈の専門医を受診し、適切な検査と治療を受けることが勧められます。
ブルガダ症候群は、心室細動により失神し、突然死にもつながる心疾患
ブルガダ症候群は、重篤な不整脈である心室細動により失神し、死に至る場合がある心疾患。ブルガーダ症候群とも呼ばれます。
ふだんは軽度の心電図異常しかみられず、心臓超音波検査でも心臓に異常は見当たりませんし、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の兆候もありません。1992年にスペイン人医師ペドロ・ブルガダとその兄弟によって報告されて以来、同様の報告が相次ぎ、ぽっくり病を始めとする原因不明の突然死の一部を占めるのではないか、と考えられるようになりました。
しかし、疾患の本態は不明。どういったメカニズムで不整脈が発生するのかなど、まだまだ未知の部分が多い疾患です。心臓細胞の表面には、数種類のイオンチャンネルと呼ばれる特殊な蛋白(たんぱく)質が存在しており、ナトリウムやカリウムなどのイオン分子を心臓細胞に出し入れすることで、心臓の電気活動をコントロールしています。これらの蛋白質の異常により、電気活動の異常、すなわち不整脈が起こりやすくなることがわかっています。
これまでの研究では、ブルガダ症候群の発症者のうち、約2割でナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が発見され、これが原因ではないかといわれています。といっても、すべての症例がナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常で説明されるわけではなく、他のイオンチャンネルの遺伝子異常、ナトリウムチャンネルでも遺伝子解析の困難な部位であるプロモーター、イントロンなどの遺伝子異常、遺伝子には関係のない後天的な異常、である可能性があります。将来、ブルガダ症候群はいくつかの原因に従って、再分類されるかもしれません。
日本や東南アジアで発症頻度が高く、40歳前後の男性に多く発症すると見なされ、しばしば3親等以内の血縁者に突然死した人がいます。日本では、発症者の95パーセントが男性で、ブルガダ症候群の素因を持つ人は1000人に1人はいると推定されています。遺伝子解析でも、全人口の約15パーセントにナトリウムイオンチャンネル遺伝子(SCN5A)の異常が見付かっており、今後の研究が待たれます。
症状は突然、心臓けいれんともいえる心室細動が出現して、心臓が細かく震え、ポンプ機能としてはゼロの状態を来すため血圧はゼロに下がりますので、何の兆候もなく失神を起こします。立っていたり、座っていると、その場に転倒します。心室細動のほかに、発作性心房細動を来すこともあります。
普通、心室細動が出現した場合、すぐにその場で救急蘇生(そせい)を行い、電気ショックを行わないと死につながります。ブルガダ症候群の発症者では不思議なことに、自然に心室細動が止まって正常な脈に戻ってしまうことがあり、繰り返す失神発作としか自覚されないことがあります。
心室細動発作が活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすいため、睡眠中に発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする発作、すなわち突然の心停止時にみられる全身症状を指摘され、初めて不整脈発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、致死性不整脈を引き起こす可能性がある不整脈
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、狭心症や心筋梗塞、心筋症といった心臓の器質的な病変がない場合でも、心室頻拍や心室細動といった致死性不整脈へと直接つながる可能性を有する頻脈性の不整脈。
小児期の失神や突然死の原因疾患として、近年注目されている不整脈ですが、発生頻度は極めてまれであり、心臓における電気的刺激の伝達にかかわる遺伝子異常によって引き起こされます。
現在までに心臓のリアノジン受容体RyR2の遺伝子異常と、カルセクエストリン2(Calsequestrin 2)というカルシウム結合蛋白の遺伝子異常により引き起こされることが明らかになっており、前者は常染色体優性遺伝を示し、後者は常染色体劣性遺伝を示します。これらの遺伝子異常により、心筋細胞内の筋小胞体に存在するリアノジン受容体(RyR)からの異常なカルシウムイオンの放出が起こることが知られています。
運動や感情の高まり(カテコラミン刺激)に伴って、脳内で放出される神経伝達物質であるカテコラミン(カテコールアミン)が、カテコラミン誘発性多型性心室頻拍の誘因となります。
カテコラミンは体で興奮系の作用を示す神経伝達物質で、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリンが含まれます。ドーパミンは中枢の神経伝達物質として快の感情、学習、意欲、運動、ホルモンの調節などの働きを持ちます。アドレナリンは恐怖のホルモンとして、ノルアドレナリンは怒りのホルモンとして、交感神経系の作動に働きます。
心筋細胞内の筋小胞体に存在するリアノジン受容体からカルシウムイオンが漏れ出て、これに運動や感情の高まりに伴って脳内で放出されたアドレナリンなどのカテコラミンが加わることによって、心筋細胞内のカルシウムイオンがさらに増加します。これにより心筋細胞の反応が過剰に強く引き起こされ、電気的興奮が異常に高まる結果、心室頻拍や心室細動といった重篤な致死性不整脈を発生させます。
現れる症状は、動悸や、めまい、失神です。失神は、二方向性心室頻拍、多形性心室頻拍、多形性心室期外収縮、多源性心室頻拍などが誘発され、心室細動に移行することにより起こります。心停止が初めて現れる症状である場合もしばしば見受けられ、突然死につながることもあります。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍は、幼少時に発症することが最も多く、平均初発年齢は7歳から9歳。時として診断が遅れることがあり、青年期以降または中年期以降に診断される場合もあります。
約30%の発症者に、失神および突然死の家族歴を認めます。薬剤治療を行わなかった場合、予後はきわめて不良で、40歳までの死亡率が30~50%と高いことが報告されています。薬剤治療を行っても、10年で15%から40%は死亡するとされています。
先天性QT延長症候群の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT延長症候群の診断では、発作の既往歴、家族歴などから先天性QT延長症候群が疑われた場合は、心電図でQT時間の延長とT波と呼ばれる波の形の変化を確認します。検査の際に、運動や薬剤による負荷をかけることで、QT時間の延長がよりはっきりすることがあります。
遺伝子診断は、治療薬の選択や適切な生活指導のために有効です。近年では、原因遺伝子の型のみではなく、各原因遺伝子の変異部位によって重症度が異なることがわかってきており、QT時間や遺伝子型、あるいは変異部位に基づいて、リスク評価を行い、治療法を決定します。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT延長症候群の治療では、不整脈発作の予防のために、β(ベータ)遮断薬、ナトリウムチャネル遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬などの抗不整脈薬を内服します。
内服薬の効果がない場合は、植え込み型除細動器(ICD)、交感神経切除術などによる治療を考慮します。
植え込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置で、通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。
交感神経切除術は、心臓に指令を送る左側の交感神経を首から胸にかけて切断します。
なお、後天性QT延長症候群により、脈が正常よりも極端に遅くなる徐脈性不整脈を起こしている場合は、脈を正常まで速めて発作が起こりにくいようにするため、恒久型ペースメーカーの植込みによる治療を考慮します。
ペースメーカーは、徐脈時には電気刺激を出して心臓の拍動を調整する装置で、脈の状態は心臓の中に留置したリード線を通して察知します。手術で、ライターほどの大きさのペースメーカーを鎖骨の下に埋め込みます。
日常生活においては、不整脈発作の誘因となる激しい運動や精神的興奮、驚愕を避ける、発作を誘発しやすい薬剤は服用しないなどの注意が必要です。
先天性QT短縮症候群の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT短縮症候群の診断では、不整脈発作や失神発作の既往歴、家族歴などから先天性QT短縮症候群が疑われた場合は、心電図でQT時間の短縮を確認します。
QT時間で280~300ms(ミリ秒)以下、心拍数で補正したQTc時間(補正QT時間)で300~320ms(ミリ秒)以下がQT短縮とされていますが、QTc時間(補正QT時間)が330ms(ミリ秒)以下の場合は、先天性QT短縮症候群である可能性が高くなります。
一般的に通常の心電図検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでのQT短縮や不整脈の出現頻度と出現形態を確認できます。
また、基礎心疾患の有無や運動前後でのQT短縮や不整脈の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。
遺伝子診断は、治療薬の選択や適切な生活指導のために有効であるものの、症状を伴う先天性QT短縮症候群でも現状、遺伝子診断率は低くなっています。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による先天性QT短縮症候群の治療では、無症状で家族に同様の発症者がいない場合、家族に突然死した人がいない場合は、経過観察を行います。
心室頻拍や心室細動が出現した場合、原因不明な失神を繰り返している場合、家族に同様の発症者がいたり突然死した人がいる場合は、心停止リスクが高いため小児から成人まで年齢を問わず、植え込み型除細動器(ICD)を植え込むことがあります。また、一度でも心停止を起こしたことがある場合も、植え込み型除細動器(ICD)を植え込みことが第一選択の治療法となります。
植え込み型除細動器(ICD)は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置で、通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。
QT時間を延長させる薬がいくつかあり、抗不整脈薬であるキニジンの内服、ニフェカラントやジソピラミドの点滴静脈注射を行うこともありますが、QT時間を安定して延長することはできません。
ブルガダ症候群の検査と診断と治療
ブルガダ症候群の発症者には、特徴的な心電図の波形変化として、右側胸部誘導(心電図検査のV1、V2と呼ばれる項目)の弓を折り曲げたようなタイプのST上昇と、不完全右脚ブロック様変化がみられます。
しかし、このような心電図変化は健康診断で実施された心電図検査でも、0.1~0.2パーセントの人にみられるといわれています。最近の報告では、特徴的な心電図変化がみられた人たち全員に、致死性不整脈の危機が迫っているのではなく、大部分の人の予後はとてもよいと考えられています。
ただし、ブルガダ型心電図を有し、原因不明の失神の既往や、45歳未満での突然死の家族歴を持つ人の評価は、慎重に行わなくてはなりません。ブルガダ型心電図を有するのみで、失神歴も家族歴も有しない人の予後は、良好であると考えられています。中には、最初の症状が突然死であったという不幸な例もあります。
ブルガダ症候群の発症者に対して、ある種の抗不整脈薬を投与すると心電図異常が強調されたり、減弱したりすることがわかっていますので、集中モニターができる環境においてこれらの薬を投与し、その際の心電図変化を診断の際の判断材料にするピルジカイニド負荷検査などが行われます。
それ以外にも、心臓の微小な電位変化をみる検査(加算平均心電図)や、携帯型心電計による24時間の心電図検査(ホルター心電図)を行い評価します。また、不整脈専門医のいる施設で心臓電気生理学検査という入院検査を行い、不整脈の起こりやすさを評価します。
これらすべてを総合的に判断して、その発症者の今後の心室細動出現のリスクを評価していくことになりますが、この評価方法もまだ絶対的なものはなく、議論の余地が大きいところです。
治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、体外用除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。
心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。
といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。現在までに、ブルガダ症候群の発作回数を有意に低減する薬剤は、見付かっていません。
植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。
ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーターなどが、誤作動を誘発する恐れがあります。
万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています。
カテコラミン誘発性多型性心室頻拍の検査と診断と治療
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師によるカテコラミン誘発性多型性心室頻拍の診断では、運動をしたり、感情が高まって興奮したりする交感神経緊張時に失神を起こすことが多いため、これまでの失神の状況を問診します。また、カテコラミン誘発性多型性心室頻拍と診断されている血縁者がいないか、もくして突然死した血縁者がいないかなどを詳しく問診します。
安静時心電図は役に経たないため、基礎心疾患の有無や、運動前後あるいは身体的ストレス、感情的ストレスによる不整脈を評価する目的で、心臓超音波検査、運動負荷心電図検査、24時間にわたる心電図を記録するホルタ―心電図検査などを行います。
βアドレナリン受容体刺激薬を点滴して不整脈を評価する薬物負荷検査、リアノジン受容体RyR2の遺伝子変異の有無を解析する遺伝子検査を行うこともあります。
小児循環器科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師によるカテコラミン誘発性多型性心室頻拍の治療では、体内におけるカテコラミンの影響を抑制することに重点を置き、交感神経のアドレナリン受容体であるβ受容体に対するカテコラミンの伝達を遮断するβ遮断薬(交感神経β受容体遮断薬)が第一選択となります。β遮断薬単独で効果が得られない場合は、カルシウム拮抗薬やナトリウム遮断薬を併用することがあります。
症状の状態に応じて、適切な範囲での運動制限または運動禁止も行います。
心停止を起こしたことがある場合や、薬剤によって不整脈が抑制されない場合は、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術を勧めることがあります。植え込み型除細動器は致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置ですが、突然死の予防効果は不完全です。