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■腸内細菌を病気の治療に生かす研究開発が加速 動脈硬化治療薬や予防技術も [健康ダイジェスト]

 人の糞便(ふんべん)に含まれる100兆個の細菌を病気の治療に生かす研究開発が、加速し始めました。解析技術が進化し、腸にすむ腸内細菌が体のさまざまな機能や病気に影響していることが詳しくわかってきたためで、菌の力で炎症を抑える薬の開発や、健康な人の便にいる菌を腸の難病患者に移植する便微生物移植など、医療への応用が加速しています。
 中堅製薬の日東薬品工業(京都府向日市)は、動脈硬化の治療薬の開発に着手。人工知能(AI)を活用した予防技術の開発も進んでいます。
 日東薬品は5月に、国内で初めてとされる腸内細菌を使った創薬の重点研究施設を新設し、先進的な解析・培養装置がずらりと並んでいます。同社は神戸大学の山下智也准教授と共同で、動脈硬化を抑制する働きがある腸内細菌を発見。2027年ごろの臨床試験(治験)入りをへて、医薬品としての承認申請を目指します。
 腸内細菌は人の体内にいる細菌(マイクロバイオーム)の代表格で、人の大腸は長さ約1・5メートル、小腸は6~7メートルもあり、併せて1000種類、100兆個以上もの菌がすむとされ、人体の細胞の数を大きく上回ります。腸内細菌の群れを「腸内細菌叢(そう)(腸内フローラ)」といい、ビフィズス菌や乳酸菌が知られています。
 近年は次世代シーケンサー(遺伝子解析装置)の登場により、細菌の解析が進展。腸内細菌叢のバランスが崩れると病気になり得ることがわかってきました。創薬では、特定の疾患に作用する細菌を腸内から抽出して、有効な菌のみを培養し、錠剤などの薬剤にして患者の腸内に届けます。
 1947年設立の日東薬品は乳酸菌や納豆菌に強く、培養技術では国内トップクラスとされます。これらの菌を配合した総合胃腸薬を国内で先駆けて開発。興和(名古屋市)の「ザ・ガードコーワ整腸錠」などを製造するほか、ロッテのチョコレート菓子などにも乳酸菌を供給しています。
 腸内細菌でも地道にノウハウを蓄積しきており、創薬の共同研究先は神戸大学など4機関、細菌の代謝物などを対象とした共同研究は11機関に及びます。日東薬品の北尾浩平常務は、「ハードルは高いが創薬シーズの製品化を進めたい」と意気込んでいます。
 製薬大手も動いています。2017年発足の企業連合、日本マイクロバイオームコンソーシアム(大阪市)には、武田薬品工業や小野薬品工業、塩野義製薬など計35社が参加。腸内細菌などを使った製品・サービスの商用化を目指します。
 課題は、腸内細菌を解析したデータベースの構築。日本マイクロバイオームコンソーシアムの運営委員長を務める寺内淳氏は、「平均寿命が長い日本人の腸内細菌のデータは『宝の山』。治療や早期発見につながるポテンシャルがある」と語ります。
 実は日本は腸内細菌の研究で、欧米に引けを取らない優位性があります。ヤクルトなど細菌に着目した製品や菌の培養技術で実績があり、欧米人に比べて肥満になりにくいなど特徴的な体質を生かした細菌の用途開発も可能だと期待されています。
 医薬基盤・健康・栄養研究所(大阪府茨木市)の国沢純ワクチン・アジュバント研究センター長は、「(腸内細菌を生かした医療は)日本にとって大きな産業になる可能性がある」とみています。
 腸内細菌と重大疾病の関係を巡る研究成果も、相次いでいます。6月には大阪大学と東京工業大学などが共同で、大腸がん患者に特有の腸内細菌を発見したと発表。約8割の精度でがんを発見できるといいます。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)も1月、認知症との関係を指摘。東北大学や慶応大学などは、腸内細菌の代謝物が慢性腎臓病の原因物質の一つになると明らかにしました。
 調査会社シード・プランニング(東京都文京区)によると、体内の細菌を使った医薬品の世界市場は、2018年の60億円程度から2024年には8450億円になる見通し。疾病の特定や検査でも活用が広がるとみています。
 実際、腸内細菌の分析技術を持つメタジェン(山形県鶴岡市)は、SOMPOへルスサポート(東京都千代田区)と連携。どのような生活習慣を改善すれば病気の予防に役立つのか、腸内環境の変化から予測するAIの開発を進めています。

 2019年7月14日(日)

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■製薬会社、精神・心臓疾患向けの貼り薬を開発 高齢者がターゲット [健康ダイジェスト]

 飲み薬から貼り薬(経皮吸収薬)へと、製薬会社で新たな需要開拓が始まりました。大日本住友製薬は今夏にも、世界初となる統合失調症の貼り薬を国内で発売します。アステラス製薬は6月に、心房細動の貼り薬を売り出しました。協和キリンは、パーキンソン病向けの事業化に乗り出します。高齢者が増え、効能と同時に利用しやすさが、製薬業界のターゲットになっています。
 精神疾患や認知症の患者は飲み薬を処方通りに正しく服用することが難しい場合もあり、治療の中断などにつながりやすいという課題がありました。貼り薬の需要が高まる背景には、認知症や精神疾患の患者の増加があります。2015年に約520万人だった国内の認知症患者数は、2025年に約700万人に達する見込み。
 貼り薬は錠剤に比べ、治療効果や患者の生活の質を高めやすいという利点があります。錠剤で問題になる飲み忘れや飲みすぎを防ぎやすく、医師や介助者にも服薬の状況が一目でわかります。薬の有効成分が切れにくく、副作用が抑えやすくなります。
 さらに、飲み込む力が衰えた高齢者も、安全に使うことができます。薬が胃や腸を通らないため、食事の影響も受けにくく、誤嚥(ごえん)による事故を防いだり、食事の内容や時間の制約を減らしたりできます。高齢者の間では、薬を包装シートごと飲み込んでしまう事故も報告されています。
 大日本住友製薬は錠剤タイプの統合失調症治療薬「ロナセン」を貼り薬にしたものについて、6月に製造販売承認を取得。90日以内に保険が適用される見通しで、今夏にも発売します。
 貼り薬の技術を持つフィルムメーカーの日東電工と共同開発しました。錠剤タイプのピーク時売上高は年間128億円でしたが、6月に登場したロナセンの後発薬に対応した貼り薬ではこれを超える売り上げを目指します。
 日東電工は液晶用フィルムの大手ですが、テープなどの技術を経皮吸収薬に応用し、製薬会社との共同開発のほか、自社ブランドでもぜんそくや狭心症の経皮吸収薬を販売中。
 アステラス製薬は6月、トーアエイヨー(東京都中央区)と共同で心房細動の貼り薬を発売しました。神経の働きを抑え心拍数を調整する薬で、貼るタイプは世界初となります。心房細動の場合、錠剤の長期服用が負担になることも多く、負担を軽減します。
 協和キリンは鎮痛消炎剤「サロンパス」などを手掛ける久光製薬と組み、パーキンソン病の貼り薬を事業化します。久光製薬はパーキンソン病の貼り薬を2018年9月に厚生労働省に承認申請しており、2020年2月までの承認取得を目指しています。この薬について、協和キリンが2019年2月に国内販売契約を結びました。
 パーキンソン病では、薬が切れると足がすくむなど体が動きにくくなることがあり、服薬の時間管理が重要になります。血中濃度を一定に保つのにも貼り薬は有用だといいます。
 貼り薬にすると、製薬会社にとってはすでに商品にした有効成分を形を変えて長く販売し続けることができます。新薬の開発には、1000億円を超える資金と10年以上の時間がかかります。形を変えるだけならどちらも大幅に削減でき、患者への配慮や使いやすさが新たな市場を作り出します。

 2019年7月13日(土)

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