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■より深刻な感染症には「パンデミック緊急事態」発令可能に WHOが国際保健規則を改正 [健康ダイジェスト]

 世界保健機関(WHO)は1日の総会で、感染症の拡大を受けた緊急事態宣言の手続きなどを定めた「国際保健規則(IHR)」を全会一致で改正しました。感染症の拡大が「緊急事態」よりも深刻化した場合に「パンデミック緊急事態」を発令することを可能とする規定を盛り込みました。
 パンデミック緊急事態は、WHOが宣言する「国際的な公衆衛生上の緊急事態」よりも重大な局面を想定しています。新たな規則では、感染症が「複数の国家にまたがって広がる」「重大な社会、経済的混乱を引き起こす」可能性がある状況などと定義し、国際社会により高いレベルの警戒と国際協調を促しています。WHOはコロナ禍でも「パンデミック」を表明したものの、明確な規定はありませんでした。
 IHR改正が承認されたことを受け、テドロス・アダノム事務局長は「我々は、そして世界は勝利した。世界はより安全になった」と謝意を表明しました。議場からは拍手が上がりました。
 今回の改正では、医薬品へのアクセスに公平性を確保することや、規則を効果的に運用するための締約国による委員会設置なども盛り込まれました。新たな規則は各国の手続きを経て、実際に適用されます。
 一方、感染症対策の強化を目指し、2年以上にわたって協議が続けられてきた「パンデミック条約」については、総会後も議論を継続し、1年以内の交渉終結を目指すことを決めました。5月下旬に開幕した総会中も議論を続けたものの、ワクチンの公平な配分や監視体制の強化などで先進国と途上国の間の溝が埋まりませんでした。
 テドロス事務局長は、「規則改正での成功は、条約策定も成し遂げられるという自信につながる」と期待を示しました。

 2024年6月3日(月)

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■パンデミック条約に関する誤情報がSNSで拡散、「ワクチンの強制接種が進められる」など [健康ダイジェスト]

 感染症対策を世界的に強化するための「パンデミック条約」について、「国家の主権や基本的人権が損なわれる」とか、「ワクチンの強制接種が行われる」といった事実ではない誤った情報がSNSで広がっています。今後の条約交渉にも影響をおよぼしかねないとして、専門家は危機感を示しています。
 「パンデミック条約」は新型コロナウイルスの感染が拡大した際、ワクチンや医薬品の供給について先進国と途上国の間で格差が生じたことなどの教訓を踏まえ、途上国への支援策などを盛り込んだ国際条約で、2022年から交渉が行われ、5月下旬からは世界保健機関(WHO)の年次総会でも協議が行われています。
 このパンデミック条約に関する投稿は昨年10月ごろから旧ツイッターのXで増え始め、今年4月に東京都内で抗議デモが行われた際には投稿数が3日間で30万件を超えるなど、5月末までに150万件以上に上っています。
 投稿には「WHOによって国家の主権が奪われる」とか「ワクチンの強制接種が進められる」などとする誤った情報も多く、現在交渉が行われている条約の案にはこうした文言は入っていません。
 また、交渉の過程で「WHO事務局には、締約国に対して政策や行動を指示、命令、変更する権限はない」とする条文も加えられていて、SNSで広がっている情報は条約の正確な内容を反映しないものとなっています。
 こうした誤った情報や偽情報などは1000回以上拡散されているものだけで少なくとも80あり、合わせて約3000万回閲覧されていました。
 さらに「基本的人権を奪う内容だ」とする誤った情報も広がっていますが、これはパンデミック条約と同時に行われている「国際保健規則」の改定交渉での各国の提案をまとめた資料に、人権に関する項目を削除する提案を行った国があったことが示されているのを誤解したものとみられ、実際には改定案でも「人権の尊重」が盛り込まれています。
 また、条約の目的について「ワクチンを製造している製薬企業の利益を守るためだ」とする情報も広がっていますが、実際には途上国側はワクチンの公正な分配を求めており、広がっている情報は十分な根拠がありません。
 ほかにも「WHOと政府によって計画されたパンデミックが起きる」といった全く根拠のない偽情報も日本にとどまらず各国で広がっています。
 保健分野の国際協力に詳しい慶応大学の詫摩佳代教授は、「WHOが強い権限を持つとか、誰かに対して何かを強制するということはそもそもあり得ないことで、条文のどこにも書かれてない。国際法は基本的に、国と国が合意して初めて成立するものであって、それをどのように運用するのかは国家の裁量にかかっている。国際機関が国家に対して何かを命令したり強制したりすることは、パンデミック条約に限らず、国際法の基本としてあり得ないことだ」と指摘しました。
 パンデミック条約は2年にわたって各国による交渉が続けられてきましたが、ワクチンの分配の公平性などについて先進国と途上国の間の溝が埋まらないことが合意が難しい要因となってきました。
 詫摩教授は、「パンデミック条約はコロナ禍で明らかになった問題点を踏まえ保健分野での国際的な協力に関する新たな法的な基盤を作ろうと提案されたものだ。正しくない情報が広がり続けば今後の交渉がますます難航することにつながる可能性もある」と危機感を示しました。
 そして、誤った情報などが広がる背景にはパンデミックの際に深まったWHOに対する不信感や、国際法に関する根本的な認識不足があると指摘されているということで、詫摩教授は厚生労働省や外務省などの公的機関や、英語ではあるものの条約の草案などが公開されているWHOのウェブサイトを確認してほしいと呼び掛けています。

 2024年6月3日(月)

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