■病気 時計ガラスつめ(ヒポクラテスつめ) [病気(と)]
つめが肥大化、変形して指先を丸く包むような状態
時計ガラスつめとは、つめの成長が著しくて湾曲度を増し、指先を丸く包むような状態。ヒポクラテスつめ、時計皿つめとも呼びます。
見た目は、つめの甲が時計の風防ガラスのようになります。さらに変化が強くなると、指の末端も肥大してきて、見た目は、太鼓のバチのような感じになります。
こういう状態は、指の末端の軟部組織にムコ多糖類が沈着するために生じ、肺の慢性疾患である肺がん、肺膿瘍(のうよう)、気管支拡張症、肺気腫(きしゅ)、肺結核などのほか、チアノーゼを伴う先天性心臓疾患および亜急性心内膜炎、甲状腺(せん)機能高進症、肝硬変、潰瘍(かいよう)性大腸炎などの時に、その一症状として現れます。
ほかに、内臓の疾患と関係のない特発性のもの、厚皮骨膜症の一症状として現れる遺伝性のものもあります。
片側だけのつめが肥大化し、変形した場合は、その側の大きな血管に異常があることがあります。
時計ガラスつめの検査と診断と治療
思い当たる疾患がないのに症状が出た場合は、どこか悪いところがあるというサインかもしれないので、早めに病院で診てもらうようにします。
医師による治療では、原因となっている疾患の治療を最優先します。
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時計ガラスつめとは、つめの成長が著しくて湾曲度を増し、指先を丸く包むような状態。ヒポクラテスつめ、時計皿つめとも呼びます。
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こういう状態は、指の末端の軟部組織にムコ多糖類が沈着するために生じ、肺の慢性疾患である肺がん、肺膿瘍(のうよう)、気管支拡張症、肺気腫(きしゅ)、肺結核などのほか、チアノーゼを伴う先天性心臓疾患および亜急性心内膜炎、甲状腺(せん)機能高進症、肝硬変、潰瘍(かいよう)性大腸炎などの時に、その一症状として現れます。
ほかに、内臓の疾患と関係のない特発性のもの、厚皮骨膜症の一症状として現れる遺伝性のものもあります。
片側だけのつめが肥大化し、変形した場合は、その側の大きな血管に異常があることがあります。
時計ガラスつめの検査と診断と治療
思い当たる疾患がないのに症状が出た場合は、どこか悪いところがあるというサインかもしれないので、早めに病院で診てもらうようにします。
医師による治療では、原因となっている疾患の治療を最優先します。
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■病気 統合失調症(精神分裂病) [病気(と)]
幻覚、妄想、思考障害を生じる精神疾患
統合失調症とは、幻聴を主とした幻覚、妄想、思考障害、奇異な行動、感情の鈍麻、意欲の欠乏、社会性の低下などを特徴とする精神疾患。以前は精神分裂病と呼ばれていた病で、今なお治療が難しく、発症者には障害者手帳が交付されています。
本来、精神分裂病の「精神」は心理学的な意味に由来して「思考」を現す単語であり、一般的に使われる「精神」が「理性」や「知性」を現すのとは、意味合いが異なっていました。しかし、「精神が分裂する病気とは、すなわち理性、知性が崩壊する病気である」と解釈されるケースがみられ、患者・家族団体などから病名に対する偏見が著しく強いという苦情がありました。そこで、日本の精神科医師の学会で2002年、統合失調症へと病名を変更した経緯があります。
統合失調症は世界中でみられ、精神の健康上の重大な問題となっています。10歳代後半から20歳代前半の若者に発症することが多く、生涯続く能力障害に至る可能性があります。世界各国で行われたさまざまな調査により、統合失調症の出現頻度は地域や文化による差があまりなく、およそ100人に1人はかかった経験を有していることが判明しています。発症率に、男女の差はありません。
統合失調症の正確な原因は不明ですが、遺伝、素質、体質、気質など個人の内部的要因と、環境的要因が組み合わさって起こると考えられています。根本的には内部的要因が問題であり、精神衛生的に不健全な環境で育ったり、親の育て方が悪かったりしたことが原因で起こる障害ではありません。
一般の発症リスクが1パーセントであるのに比べて、統合失調症の親や兄弟姉妹を持つ人のリスクは約10パーセント、一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50パーセントになります。これらの数字は、遺伝的なリスクの存在を示しています。このほか、分娩(ぶんべん)中の低酸素状態、出生時の低体重、母体と胎児の血液型不適合など、出産前後や分娩中に発生した問題が、原因となることがあります。
原因については、さまざまな仮説も提唱されています。神経伝達物質の一つであるドーパミンの過剰によるという説や、さまざまな刺激を伝え合う脳を始めとした神経系にトラブルが起きることによるという説などです。
統合失調症の発症は突然、起こることもあれば、数日から数週間かけて発症することもあります。何年にも渡って徐々に、水面下で発症していくこともあります。
症状の程度と症状のタイプは、人によって異なります。多くの場合は、仕事、対人関係、身の回りのことをする能力が損なわれるほど、重度の症状が生じます。中には、精神機能が低下した結果、物事に注意を払う能力、抽象的に考える能力、問題を解決する能力が損なわれる場合もあります。精神機能の損傷の軽重が、全般的な能力障害を決定する主な要因となります。
3タイプの症状と、4タイプの亜型分類
統合失調症の症状は大きく分けて、陽性症状(非欠陥症状)、陰性症状(欠陥症状)、認知障害の3種類になります。3種類のすべてに該当する症状がある人もいれば、いずれか1、2種類の症状だけ示す人もいます。
陽性症状(非欠陥症状)は、妄想、幻覚、思考障害、奇異な行動など。妄想と幻覚に共通しているのは、被害的な気分や意識です。
妄想は誤った確信のことで、一般に、知覚や体験の誤った解釈に関係しています。客観的に見ると不合理であっても、本人にとっては確信的であるために、行動が妄想に左右されてしまいます。
例えば、被害妄想がある人は、「ばかにされている」、「だまされている」、「見張られている」などと思い込みます。追跡妄想がある人は「後を付けられている」、注察(ちゅうさつ)妄想がある人は「人が変な目で見ている」、関係妄想がある人は「本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられている」と思い込みます。思考奪取や思考吹入という妄想がある人は、「人に自分の心が読まれている」、「自分の考えが人に伝わっている」、「外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれている」などと思い込みます。
幻覚は音、視覚、におい、味、身体的感触について生じることがありますが、最も多い幻覚は音の幻聴。自分の行動に関して意見を述べる声、互いに会話する声、あるいは批判的で口汚いことを話す声など、周囲の人には聞こえていない声を現実に聞くことがあります。
思考障害は、思考が支離滅裂になることをいいます。話に取り留めがなく、話題が次々に変わり、何をいいたいのかわからない意味不明な会話をします。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。
奇異な行動は、急激な興奮、子供のようなばかげた行為、だらしない外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形として、一定の姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、逆に目的のない非誘発性の体の動きをみせたりします。
これらの陽性症状は、安心感や安全保障感を著しく損ない、一度症状が現れるとそこからの回復過程は緩やかで、十分な時間を必要とします。
陰性症状(欠陥症状)とは、それまであった性質や能力が失われる症状で、感情の鈍麻、会話の貧困、快感の消失、社会性の低下などがあります。
感情の鈍麻とは、感情が平板化すること。表情に動きがなく、人と目を合わせず、感情表現が欠如します。喜怒哀楽がはっきりせず、普通の人なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も現しません。
会話の貧困とは、思考の低下により、会話を続けることに困難を感じ、言葉数が少なくなること。質問に対する返答は1語か2語と短くなり、人間味が感じられなくなります。
快感消失とは、楽しいと感じる能力が低下することで、以前は楽しんでやっていたことに興味を失い、無目的なことに時間を費やします。
社会性の低下とは、人とのかかわりに興味を失うこと。周囲との交渉を嫌って自分だけの殻に閉じこもり、自室でぼんやりしていることが多くなります。
これらの陰性症状は、全般的な意欲の欠乏、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば関連しています。周囲には、なかなか統合失調症の症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられる場合があります。陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信や「自分はやれている」といった自己効力感を損ないやすくなります。
認知障害とは、集中力、記憶力、計画能力、問題解決能力、整理能力などに問題があることをいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りに物事ができなかったりします。また、注意が散漫になって、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。「一見、元気にみえるのに、なぜか仕事や家事が続かない」と、周囲にいわれるような状態です。
統合失調症を明確なグループに細かく分類する試みとして、亜型が提案されています。亜型は普通、破瓜(はか)型、緊張型、妄想型、分類不能型の4つのタイプに分けられます。個々の発症者の亜型が、時とともに変化することもあります。
破瓜型の統合失調症は、支離滅裂な会話と行動、平板あるいは不適切な感情を特徴としています。年齢的に最も早くから起こってくるタイプで、経過が慢性化して、次第に人格変化を引き起こし、最悪の場合には廃人同様の状態に落ち込んでいきます。
緊張型の統合失調症は、急激に興奮して叫んだり、暴れたり、じっと動かなかったり、やたらと動き回ったり、あるいは奇妙な姿勢を取ったりといった行動が特徴的です。発症時の激しさとは裏腹に、経過が早く、よく治るとされています。このタイプは現在、非常に減少しています。
妄想型の統合失調症は、妄想や幻聴に捕われるのが特徴で、支離滅裂な会話や不適切な感情はあまり顕著ではありません。破瓜型と並んで現在、一番数多くみられるタイプで、半年、1年と長引くことが多いのですが、人柄の変化は一般的にみられず、多少の症状はあっても、仕事は何とか続けていけるというケースが少なくありません。
分類不能型の統合失調症は、妄想と幻覚、思考障害と奇異な行動、陰性症状など、異なる亜型の症状が混在するのが特徴です。
治療の方法と病気の予後
発症者の家族が相談に来て、医師に訴えるものとしては、「最近、夜眠らない、夜昼逆転している」、「生活が不規則になった」、「閉じこもって家族と口を利くことが少ない」、「独り笑い、独り言がある」、「つじつまの合わないことを口にする」などが多いようです。
しかし、最近の傾向として、統合失調症の軽症化ということがいわれています。つまり、興奮などの激しい症状を示す人が減り、上記のような症状を訴えて自分から外来に来る人が増加しています。
統合失調症の診断では、その決め手となる検査はありません。既往歴や症状を総合的に評価して診断しますが、症状が最低6カ月続き、仕事、学業、社会機能に顕著な低下がみられることが、診断の必須条件です。家族、友人、教師、上司、同僚などからの情報は、発症時期を特定するのに重要です。
臨床検査を行って、精神病性の症状を引き起こす可能性のある薬物などの乱用の有無や、内科疾患、神経疾患、内分泌系の疾患などが基礎にないかどうかを調べます。そのような疾患の例として、脳腫瘍(しゅよう)、側頭葉てんかん、甲状腺(こうじょうせん)疾患、自己免疫疾患、ハンチントン舞踏病、肝臓病があります。
CT検査またはMRI検査で、受診者の脳の異常が検出されることがありますが、その異常は統合失調症の診断に役立つほど特異的なものではありません。
統合失調症の治療では、全般的な目標として、精神症状を軽減させ、症状の再発とそれに伴う機能低下を防ぎ、機能をできるだけ高いレベルに維持することを目指します。抗精神病薬、リハビリテーションと地域支援活動、そして心理療法が治療の柱となります。
薬物治療では、1950年代にフランスでクロルプロマジンという薬物が一部の患者に効果があることが発見され、これを契機に抗精神病薬による治療が広く行われるようになりました。1990年代後半からの非定型抗精神病薬の使用や、効果的な急性期治療、社会復帰のため福祉施設や法制度の整備などにより、発症者の入院期間は短縮されています。
抗精神病薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減するのに効果があります。急性の症状が治まった後、抗精神病薬を継続的に使用すると、再発の可能性をかなりの割合で抑えることが可能。
ただし残念なことに、抗精神病薬には、鎮静作用、筋肉の硬直、震え、体重増加、動作不穏などの副作用があります。また、不随意運動障害、まれに悪性症候群という重い副作用が生じることもあります
副作用が少ない新しい抗精神病薬も、数多く開発されています。特に非定型抗精神病薬と呼ばれる薬は、従来の抗精神病薬に比べて、陽性症状、陰性症状、認知障害をかなり広い範囲に渡って軽減します。筋肉の硬直、震えといった生活に支障を起こしやすい副作用が少ないことも、利点となっています。
また、使用方法として原則、1種類の薬で処方し、同じような効き目の何種類もの薬を重ねて飲むような方法はとりません。薬には適用量があり、多量の処方は副作用ばかりが増えて効果が増えるわけではなく、意味がありません。日本ではかつて、多種類の薬物を大量に処方する習慣がありましたが、非定型抗精神病薬は処方の方法論にも影響を与えています。
統合失調症の治療では、発症者が治療の指示をきちんと守ることが極めて重要です。薬物療法をしないと、70〜80パーセントが診断時から1年以内に、統合失調症の症状を再発します。継続的に薬を服用すると、再発率は20〜30パーセント程度に下がり、症状は大幅に少なくなります。
ところが、統合失調症の人の半数が、処方薬を服用しません。自分が病気であるという認識がないため服用を拒む人もいれば、不快な副作用を嫌って服用しなくなってしまう人もいます。記憶障害、支離滅裂な思考、あるいは経済的理由から薬の服用をやめてしまうケースもあります。
本人、家族、そして医師との間に協力関係を築くことを目標とする心理療法で、医師や心理療法士と一貫した信頼関係ができると、自分の病気を受け入れやすくなり、治療に関する指示をきちんと守ることの必要性を認識するようになります。
統合失調症の治療では、適切な薬物療法に加え、リハビリテーションと地域支援活動によって、地域社会で生活できるようにすることが目標の柱。そのために必要な技能を教えることを目的として、職場訓練などの地域支援活動が行われています。仕事、買い物、身なりなど自分の身の回りを整えること、家事、協調性などを学ぶために、監督者付きの住宅やグループホームで生活する必要がある人もいます。
統合失調症の人の中には、重度で治療に反応しない症状があったり、地域社会で生活していくために必要な能力が欠如しているために、自立して生活できない人もいます。そういう場合は、安全でサポート体制の整った施設での完全看護が必要です。
長期的にみると、統合失調症の経過の見通しはさまざまです。一般に、3分の1に顕著で持続的な改善がみられ、3分の1には断続的な再発や残存する能力障害はあっても、ある程度の改善がみられ、残りの3分の1が重度で永久的な無能力の状態となります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
統合失調症とは、幻聴を主とした幻覚、妄想、思考障害、奇異な行動、感情の鈍麻、意欲の欠乏、社会性の低下などを特徴とする精神疾患。以前は精神分裂病と呼ばれていた病で、今なお治療が難しく、発症者には障害者手帳が交付されています。
本来、精神分裂病の「精神」は心理学的な意味に由来して「思考」を現す単語であり、一般的に使われる「精神」が「理性」や「知性」を現すのとは、意味合いが異なっていました。しかし、「精神が分裂する病気とは、すなわち理性、知性が崩壊する病気である」と解釈されるケースがみられ、患者・家族団体などから病名に対する偏見が著しく強いという苦情がありました。そこで、日本の精神科医師の学会で2002年、統合失調症へと病名を変更した経緯があります。
統合失調症は世界中でみられ、精神の健康上の重大な問題となっています。10歳代後半から20歳代前半の若者に発症することが多く、生涯続く能力障害に至る可能性があります。世界各国で行われたさまざまな調査により、統合失調症の出現頻度は地域や文化による差があまりなく、およそ100人に1人はかかった経験を有していることが判明しています。発症率に、男女の差はありません。
統合失調症の正確な原因は不明ですが、遺伝、素質、体質、気質など個人の内部的要因と、環境的要因が組み合わさって起こると考えられています。根本的には内部的要因が問題であり、精神衛生的に不健全な環境で育ったり、親の育て方が悪かったりしたことが原因で起こる障害ではありません。
一般の発症リスクが1パーセントであるのに比べて、統合失調症の親や兄弟姉妹を持つ人のリスクは約10パーセント、一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50パーセントになります。これらの数字は、遺伝的なリスクの存在を示しています。このほか、分娩(ぶんべん)中の低酸素状態、出生時の低体重、母体と胎児の血液型不適合など、出産前後や分娩中に発生した問題が、原因となることがあります。
原因については、さまざまな仮説も提唱されています。神経伝達物質の一つであるドーパミンの過剰によるという説や、さまざまな刺激を伝え合う脳を始めとした神経系にトラブルが起きることによるという説などです。
統合失調症の発症は突然、起こることもあれば、数日から数週間かけて発症することもあります。何年にも渡って徐々に、水面下で発症していくこともあります。
症状の程度と症状のタイプは、人によって異なります。多くの場合は、仕事、対人関係、身の回りのことをする能力が損なわれるほど、重度の症状が生じます。中には、精神機能が低下した結果、物事に注意を払う能力、抽象的に考える能力、問題を解決する能力が損なわれる場合もあります。精神機能の損傷の軽重が、全般的な能力障害を決定する主な要因となります。
3タイプの症状と、4タイプの亜型分類
統合失調症の症状は大きく分けて、陽性症状(非欠陥症状)、陰性症状(欠陥症状)、認知障害の3種類になります。3種類のすべてに該当する症状がある人もいれば、いずれか1、2種類の症状だけ示す人もいます。
陽性症状(非欠陥症状)は、妄想、幻覚、思考障害、奇異な行動など。妄想と幻覚に共通しているのは、被害的な気分や意識です。
妄想は誤った確信のことで、一般に、知覚や体験の誤った解釈に関係しています。客観的に見ると不合理であっても、本人にとっては確信的であるために、行動が妄想に左右されてしまいます。
例えば、被害妄想がある人は、「ばかにされている」、「だまされている」、「見張られている」などと思い込みます。追跡妄想がある人は「後を付けられている」、注察(ちゅうさつ)妄想がある人は「人が変な目で見ている」、関係妄想がある人は「本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられている」と思い込みます。思考奪取や思考吹入という妄想がある人は、「人に自分の心が読まれている」、「自分の考えが人に伝わっている」、「外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれている」などと思い込みます。
幻覚は音、視覚、におい、味、身体的感触について生じることがありますが、最も多い幻覚は音の幻聴。自分の行動に関して意見を述べる声、互いに会話する声、あるいは批判的で口汚いことを話す声など、周囲の人には聞こえていない声を現実に聞くことがあります。
思考障害は、思考が支離滅裂になることをいいます。話に取り留めがなく、話題が次々に変わり、何をいいたいのかわからない意味不明な会話をします。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。
奇異な行動は、急激な興奮、子供のようなばかげた行為、だらしない外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形として、一定の姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、逆に目的のない非誘発性の体の動きをみせたりします。
これらの陽性症状は、安心感や安全保障感を著しく損ない、一度症状が現れるとそこからの回復過程は緩やかで、十分な時間を必要とします。
陰性症状(欠陥症状)とは、それまであった性質や能力が失われる症状で、感情の鈍麻、会話の貧困、快感の消失、社会性の低下などがあります。
感情の鈍麻とは、感情が平板化すること。表情に動きがなく、人と目を合わせず、感情表現が欠如します。喜怒哀楽がはっきりせず、普通の人なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も現しません。
会話の貧困とは、思考の低下により、会話を続けることに困難を感じ、言葉数が少なくなること。質問に対する返答は1語か2語と短くなり、人間味が感じられなくなります。
快感消失とは、楽しいと感じる能力が低下することで、以前は楽しんでやっていたことに興味を失い、無目的なことに時間を費やします。
社会性の低下とは、人とのかかわりに興味を失うこと。周囲との交渉を嫌って自分だけの殻に閉じこもり、自室でぼんやりしていることが多くなります。
これらの陰性症状は、全般的な意欲の欠乏、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば関連しています。周囲には、なかなか統合失調症の症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられる場合があります。陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信や「自分はやれている」といった自己効力感を損ないやすくなります。
認知障害とは、集中力、記憶力、計画能力、問題解決能力、整理能力などに問題があることをいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りに物事ができなかったりします。また、注意が散漫になって、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。「一見、元気にみえるのに、なぜか仕事や家事が続かない」と、周囲にいわれるような状態です。
統合失調症を明確なグループに細かく分類する試みとして、亜型が提案されています。亜型は普通、破瓜(はか)型、緊張型、妄想型、分類不能型の4つのタイプに分けられます。個々の発症者の亜型が、時とともに変化することもあります。
破瓜型の統合失調症は、支離滅裂な会話と行動、平板あるいは不適切な感情を特徴としています。年齢的に最も早くから起こってくるタイプで、経過が慢性化して、次第に人格変化を引き起こし、最悪の場合には廃人同様の状態に落ち込んでいきます。
緊張型の統合失調症は、急激に興奮して叫んだり、暴れたり、じっと動かなかったり、やたらと動き回ったり、あるいは奇妙な姿勢を取ったりといった行動が特徴的です。発症時の激しさとは裏腹に、経過が早く、よく治るとされています。このタイプは現在、非常に減少しています。
妄想型の統合失調症は、妄想や幻聴に捕われるのが特徴で、支離滅裂な会話や不適切な感情はあまり顕著ではありません。破瓜型と並んで現在、一番数多くみられるタイプで、半年、1年と長引くことが多いのですが、人柄の変化は一般的にみられず、多少の症状はあっても、仕事は何とか続けていけるというケースが少なくありません。
分類不能型の統合失調症は、妄想と幻覚、思考障害と奇異な行動、陰性症状など、異なる亜型の症状が混在するのが特徴です。
治療の方法と病気の予後
発症者の家族が相談に来て、医師に訴えるものとしては、「最近、夜眠らない、夜昼逆転している」、「生活が不規則になった」、「閉じこもって家族と口を利くことが少ない」、「独り笑い、独り言がある」、「つじつまの合わないことを口にする」などが多いようです。
しかし、最近の傾向として、統合失調症の軽症化ということがいわれています。つまり、興奮などの激しい症状を示す人が減り、上記のような症状を訴えて自分から外来に来る人が増加しています。
統合失調症の診断では、その決め手となる検査はありません。既往歴や症状を総合的に評価して診断しますが、症状が最低6カ月続き、仕事、学業、社会機能に顕著な低下がみられることが、診断の必須条件です。家族、友人、教師、上司、同僚などからの情報は、発症時期を特定するのに重要です。
臨床検査を行って、精神病性の症状を引き起こす可能性のある薬物などの乱用の有無や、内科疾患、神経疾患、内分泌系の疾患などが基礎にないかどうかを調べます。そのような疾患の例として、脳腫瘍(しゅよう)、側頭葉てんかん、甲状腺(こうじょうせん)疾患、自己免疫疾患、ハンチントン舞踏病、肝臓病があります。
CT検査またはMRI検査で、受診者の脳の異常が検出されることがありますが、その異常は統合失調症の診断に役立つほど特異的なものではありません。
統合失調症の治療では、全般的な目標として、精神症状を軽減させ、症状の再発とそれに伴う機能低下を防ぎ、機能をできるだけ高いレベルに維持することを目指します。抗精神病薬、リハビリテーションと地域支援活動、そして心理療法が治療の柱となります。
薬物治療では、1950年代にフランスでクロルプロマジンという薬物が一部の患者に効果があることが発見され、これを契機に抗精神病薬による治療が広く行われるようになりました。1990年代後半からの非定型抗精神病薬の使用や、効果的な急性期治療、社会復帰のため福祉施設や法制度の整備などにより、発症者の入院期間は短縮されています。
抗精神病薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減するのに効果があります。急性の症状が治まった後、抗精神病薬を継続的に使用すると、再発の可能性をかなりの割合で抑えることが可能。
ただし残念なことに、抗精神病薬には、鎮静作用、筋肉の硬直、震え、体重増加、動作不穏などの副作用があります。また、不随意運動障害、まれに悪性症候群という重い副作用が生じることもあります
副作用が少ない新しい抗精神病薬も、数多く開発されています。特に非定型抗精神病薬と呼ばれる薬は、従来の抗精神病薬に比べて、陽性症状、陰性症状、認知障害をかなり広い範囲に渡って軽減します。筋肉の硬直、震えといった生活に支障を起こしやすい副作用が少ないことも、利点となっています。
また、使用方法として原則、1種類の薬で処方し、同じような効き目の何種類もの薬を重ねて飲むような方法はとりません。薬には適用量があり、多量の処方は副作用ばかりが増えて効果が増えるわけではなく、意味がありません。日本ではかつて、多種類の薬物を大量に処方する習慣がありましたが、非定型抗精神病薬は処方の方法論にも影響を与えています。
統合失調症の治療では、発症者が治療の指示をきちんと守ることが極めて重要です。薬物療法をしないと、70〜80パーセントが診断時から1年以内に、統合失調症の症状を再発します。継続的に薬を服用すると、再発率は20〜30パーセント程度に下がり、症状は大幅に少なくなります。
ところが、統合失調症の人の半数が、処方薬を服用しません。自分が病気であるという認識がないため服用を拒む人もいれば、不快な副作用を嫌って服用しなくなってしまう人もいます。記憶障害、支離滅裂な思考、あるいは経済的理由から薬の服用をやめてしまうケースもあります。
本人、家族、そして医師との間に協力関係を築くことを目標とする心理療法で、医師や心理療法士と一貫した信頼関係ができると、自分の病気を受け入れやすくなり、治療に関する指示をきちんと守ることの必要性を認識するようになります。
統合失調症の治療では、適切な薬物療法に加え、リハビリテーションと地域支援活動によって、地域社会で生活できるようにすることが目標の柱。そのために必要な技能を教えることを目的として、職場訓練などの地域支援活動が行われています。仕事、買い物、身なりなど自分の身の回りを整えること、家事、協調性などを学ぶために、監督者付きの住宅やグループホームで生活する必要がある人もいます。
統合失調症の人の中には、重度で治療に反応しない症状があったり、地域社会で生活していくために必要な能力が欠如しているために、自立して生活できない人もいます。そういう場合は、安全でサポート体制の整った施設での完全看護が必要です。
長期的にみると、統合失調症の経過の見通しはさまざまです。一般に、3分の1に顕著で持続的な改善がみられ、3分の1には断続的な再発や残存する能力障害はあっても、ある程度の改善がみられ、残りの3分の1が重度で永久的な無能力の状態となります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
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■病気 糖尿病 [病気(と)]
血糖値が高い状態が持続する疾患
糖尿病とは、主に血液中のブドウ糖の量を調節するインシュリン(インスリン)が不足するために、血糖値が異常に高くなることで起きる疾患。
2006年に厚生労働省が実施した調査によると、糖尿病患者やその予備軍と推定される人数は1870万人。調査は20歳以上の成人の血液検査において、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の傾向を測る「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値で判定したもので、6.1パーセント以上の「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人、5.6パーセント以上6.1パーセント未満の「可能性が否定できない人」約1050万人と合わせると、計1870万人。
02年の調査の1620万人に比べると250万人、1997年の調査の1370万人に比べると500万人増えました。特に40歳以上の人では、その10人に1人以上が糖尿病であると見なされ、糖尿病は国民病化しています。
糖尿病でない人では、食後、食物に由来するブドウ糖やアミノ酸が体に吸収されると、膵(すい)臓からホルモンのインシュリンが分泌されます。このインシュリンの働きにより、食物から吸収されて血液に入ったブドウ糖が筋肉組織などへ取り込まれ、血糖が一定値以上に上昇しないようになっています。このインシュリンによる血糖低下作用が弱くなると、糖尿病になります。
糖尿病の人では、インシュリン作用の低下のため、食事として摂取したブドウ糖が筋肉などの細胞に入っていきにくくなるため、細胞内でエネルギー不足を来すとともに、ブドウ糖はそのまま血液中にとどまって血糖値が高くなり、尿の中に糖があふれ出るようになります。
また、ブドウ糖などの糖質だけでなく、蛋白(たんぱく)質や脂質の利用まで障害されるために、高血糖や、血液中の脂肪が異常に増加する高脂血症となり、それらにより血管や神経が障害されて、いろいろな合併症が出現します。
糖尿病は、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)という2つのタイプに大別されます。
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ(ベータ)細胞が破壊され、インシュリン分泌がほぼゼロになってしまうことで発症するタイプ。原因としは、ウイルス感染、自己免疫性、特発性(原因不明)などがあります。
インシュリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、そのホルモンが体内で作られないわけですから、外からインシュリンを補充しなければ、血糖値はどんどん上昇してしまいます。従って、1型糖尿病の人は、生存のために毎日のインシュリン注射が絶対に必要になります。発症は小児や若い人に多くみられますが、中高年にも認められることがあります。
2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢のほか、発熱、過労、手術、薬の服用、ほかの疾患の影響、妊娠など、インシュリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症するタイプ。
日本人の糖尿病の約9割がこのタイプに当てはまり、生活習慣病の一つとされています。この2型糖尿病では、親や兄弟にも糖尿病にかかっている人がいることが多く、遺伝的要素が強く関係していると見なされています。
過食など発症の引き金となる複数の因子の中では、とりわけ肥満が深く関係しています。調査によると、2型糖尿病患者の約3分の2は、現在肥満であるか、過去に肥満を経験しています。実際、肥満者ではインシュリンの血糖低下作用が弱まっていることも、明らかにされています。
脂肪を蓄積する細胞である脂肪細胞からは、インシュリンの作用を妨害する遊離脂肪酸やTNFと呼ばれる物質などが分泌されていますので、肥満して脂肪細胞が増えると、せっかく分泌されたインシュリンがうまく働くことができなくなり、血糖値が上昇するようになるのです。 中年以降の発症例の多くは、2型糖尿病です。
糖尿病の症状は気付きにくく、血糖値が多少高いくらいでは、全く自覚症状のない人がほとんど。徐々に悪化し、血糖値がかなり高くなってくると初めて、のどが渇く、トイレが近くなる、尿の匂いが気になる、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、また細胞のエネルギー不足によって体がだるい、疲れやすい、食べてもやせるといった症状が現れてきます。血糖値が極めて高い状態では、昏睡(こんすい)に陥ることもあります。
自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖が全身のさまざまな臓器に障害をもたらします。特に、眼の網膜、腎(じん)臓、神経は障害を受けやすく、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は糖尿病の三大合併症(余病)と呼ばれています。
網膜症が起こっても最初は自覚症状はありませんが、血糖値の悪化に伴い、視力障害が現れ、失明に至ることがあります。
腎症も最初は少量の蛋白(たんぱく)尿が出るだけですが、徐々に体内に水分や毒素がたまるようになり、むくみ、尿毒症が現れ、最終的には人工透析によって血液をきれいにしたり、水分量等を調節したりしないと生きていけなくなります。
神経障害が起きると、手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻(どんま)、発汗異常、勃起(ぼっき)障害、便秘、下痢などが起こります。
一般的に、糖尿病になってから5~6年で神経障害が、7~10年で網膜症が、15年程度で腎症が出現します。
同時に、高血糖によって動脈硬化が進むため、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞が起こる率が高まります。足の血管の閉塞(へいそく)や壊疽(えそ)により、足を切断しなければならないケースも起こります。
糖尿病の本当の怖さは、この合併症なのです。しかし、 放置せずに、しっかり治療して、状態を良好にコントロールすれば、糖尿病でない人と同じ健康な生活が送れます。
糖尿病の検査と診断と治療
医師による糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値を調べることで、血糖値が正常である「正常型」なのか、糖尿病である「糖尿病型」なのか、その中間の「境界型(耐糖能異常)」であるのか、型の区分を判定します。はっきりしない場合には、75gの糖分を含む飲料を飲んで、型の区分を判定することもあります。これは、75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)と呼ばれる検査です。
型の区分には、以下の(1)~(5)の判定基準が用いられます。
(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
(2)75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上
(3)随時血糖値200mg/dl以上(随時とは、食後の任意の時間のことをいいます。食前でもかまいません。)
(4)早朝空腹時血糖値110mg/dl未満
(5)75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満
(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病型」と判定します。(4)および(5)の血糖値が確認された場合には、「正常型」と判定します。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さない場合には、「境界型」と判定します。
別の日に行った検査で「糖尿病型」が再確認された場合には、糖尿病と診断します。ただし、次の(1)~(4)のいずれかがある場合は、1回の検査で「糖尿病型」であれば、糖尿病と診断していいことになっています。
(1)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5パーセント以上(HbA1cとは、過去1~2カ月間の平均血糖値を示す指標。赤血球に存在し、酸素を運搬する役割を持つヘモグロビンの中で、ブドウ糖が結合しているものの割合を意味します。正常値は4.3~5.8パーセントで血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。)
(3)確実な糖尿病性網膜症の存在
(4)過去に「糖尿病型」を示した資料がある場合
糖尿病治療の第一の目標は、血糖値を正常に保つようにコントロールして合併症を予防することで、食前血糖80-120 mg/dl、食後血糖100-160mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)5.8パーセント以下程度と考えられます。
血糖値を正常に近付ければ近付けるほど、合併症が出る心配が少なくなります。また、特に2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、高血圧症や脂質異常、肥満を合併しやすいので、これらの治療も必要です。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法、運動療法が治療の基本ですが、これらだけで血糖値が下がらない場合に薬物療法を併用します。
食事療法
性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを考慮し、1日のエネルギー摂取量を決めます。決められたエネルギー摂取量内で炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取して、いずれの栄養素も過不足ない状態にします。
とりわけ、肥満はインシュリンの作用を妨害するため糖尿病にとっては大敵ですので、栄養素をバランスよく取りながら標準体重を維持するために、食事療法が必要となります。また、弱まったインシュリンの働きに合わせた食事の量にすることも必要です。そうすれば、食物は体内でほぼ完全に利用され、余分なブドウ糖が血液中にあふれ出ることはありません。
運動療法
運動療法も、ブドウ糖をよく利用する筋肉を増やし、インシュリンの作用を妨害する脂肪を減らし、また肥満を是正するなどの利点があり、糖尿病の治療には重要なものです。
中程度の全身運動、すなわち50歳代であれば脈拍が1分間に110程度になるような運動を、毎日30分以上行うと効果があります。1回15~30分間、1日2回で、計1日7000歩程度の歩行運動が、中程度の全身運動に相当します。
血糖コントロールが極端に悪い場合、網膜症の状態が悪い場合、腎不全のある場合、心臓や肺などの機能に障害のある場合などは、運動療法を制限したほうがいいため、個々の人に適した運動療法をすることが必要です。
薬物療法
1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の人は、体内でインシュリンがほとんど分泌されないので、インシュリンを注射で投与する必要があります。
また、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、食事療法および運動療法で血糖値が十分に正常化しない場合、飲み薬やインシュリンの注射が必要になります。
飲み薬には、経口血糖降下薬、SU薬(スルホニル尿素薬)、 速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗改善薬があります。
インシュリンには、速効型インシュリン、超速効型インシュリン、中間型インシュリン、持効型インシュリン、さらに、速効型インシュリンや超速効型インシュリンと中間型インシュリンがいろいろな比率で混ざっている混合型インシュリンがあります。
一般的に、食後に分泌されるインシュリンを補充するためには、速効型インシュリンや超速効型インシュリンを毎食前に使用します。また、人の膵臓からは食事と関係なく一定のスピードでインシュリンが分泌されているのですが、このインシュリンを補充するためには、中間型インシュリンや持効型インシュリンを使用します。
発症者の生活上の注意
血糖値をできるだけ正常値に近付けることで、高血糖によって起こる恐ろしい、さまざまなな合併症を防ぐことができますので、早期に糖尿病を発見し、治療することが大切となります。
しかし、治療によって一時的に血糖値が下がったとしても、血糖値が上がりやすいという遺伝的な体質や、一度破壊されたβ細胞の機能は正常に戻るわけではありませんので、治療を中断するとすぐに血糖値は高くなってしまいます。
そのためにも、定期的に受診して、一生治療を続けながら生活をしていくことが大切です。糖尿病のコントロール状態を知るため、発症者本人が体重測定、尿糖測定、場合によっては血糖測定をする必要もあります。
定期的な受診でも、血糖、検尿、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの検査をします。このうちHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)では、採血前の1カ月間の平均的な血糖の状態がわかります。このほか、高脂血症やいろいろな合併症に関する検査も、定期的に受ける必要があります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
糖尿病とは、主に血液中のブドウ糖の量を調節するインシュリン(インスリン)が不足するために、血糖値が異常に高くなることで起きる疾患。
2006年に厚生労働省が実施した調査によると、糖尿病患者やその予備軍と推定される人数は1870万人。調査は20歳以上の成人の血液検査において、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の傾向を測る「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値で判定したもので、6.1パーセント以上の「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人、5.6パーセント以上6.1パーセント未満の「可能性が否定できない人」約1050万人と合わせると、計1870万人。
02年の調査の1620万人に比べると250万人、1997年の調査の1370万人に比べると500万人増えました。特に40歳以上の人では、その10人に1人以上が糖尿病であると見なされ、糖尿病は国民病化しています。
糖尿病でない人では、食後、食物に由来するブドウ糖やアミノ酸が体に吸収されると、膵(すい)臓からホルモンのインシュリンが分泌されます。このインシュリンの働きにより、食物から吸収されて血液に入ったブドウ糖が筋肉組織などへ取り込まれ、血糖が一定値以上に上昇しないようになっています。このインシュリンによる血糖低下作用が弱くなると、糖尿病になります。
糖尿病の人では、インシュリン作用の低下のため、食事として摂取したブドウ糖が筋肉などの細胞に入っていきにくくなるため、細胞内でエネルギー不足を来すとともに、ブドウ糖はそのまま血液中にとどまって血糖値が高くなり、尿の中に糖があふれ出るようになります。
また、ブドウ糖などの糖質だけでなく、蛋白(たんぱく)質や脂質の利用まで障害されるために、高血糖や、血液中の脂肪が異常に増加する高脂血症となり、それらにより血管や神経が障害されて、いろいろな合併症が出現します。
糖尿病は、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)という2つのタイプに大別されます。
1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ(ベータ)細胞が破壊され、インシュリン分泌がほぼゼロになってしまうことで発症するタイプ。原因としは、ウイルス感染、自己免疫性、特発性(原因不明)などがあります。
インシュリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、そのホルモンが体内で作られないわけですから、外からインシュリンを補充しなければ、血糖値はどんどん上昇してしまいます。従って、1型糖尿病の人は、生存のために毎日のインシュリン注射が絶対に必要になります。発症は小児や若い人に多くみられますが、中高年にも認められることがあります。
2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢のほか、発熱、過労、手術、薬の服用、ほかの疾患の影響、妊娠など、インシュリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症するタイプ。
日本人の糖尿病の約9割がこのタイプに当てはまり、生活習慣病の一つとされています。この2型糖尿病では、親や兄弟にも糖尿病にかかっている人がいることが多く、遺伝的要素が強く関係していると見なされています。
過食など発症の引き金となる複数の因子の中では、とりわけ肥満が深く関係しています。調査によると、2型糖尿病患者の約3分の2は、現在肥満であるか、過去に肥満を経験しています。実際、肥満者ではインシュリンの血糖低下作用が弱まっていることも、明らかにされています。
脂肪を蓄積する細胞である脂肪細胞からは、インシュリンの作用を妨害する遊離脂肪酸やTNFと呼ばれる物質などが分泌されていますので、肥満して脂肪細胞が増えると、せっかく分泌されたインシュリンがうまく働くことができなくなり、血糖値が上昇するようになるのです。 中年以降の発症例の多くは、2型糖尿病です。
糖尿病の症状は気付きにくく、血糖値が多少高いくらいでは、全く自覚症状のない人がほとんど。徐々に悪化し、血糖値がかなり高くなってくると初めて、のどが渇く、トイレが近くなる、尿の匂いが気になる、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、また細胞のエネルギー不足によって体がだるい、疲れやすい、食べてもやせるといった症状が現れてきます。血糖値が極めて高い状態では、昏睡(こんすい)に陥ることもあります。
自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖が全身のさまざまな臓器に障害をもたらします。特に、眼の網膜、腎(じん)臓、神経は障害を受けやすく、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は糖尿病の三大合併症(余病)と呼ばれています。
網膜症が起こっても最初は自覚症状はありませんが、血糖値の悪化に伴い、視力障害が現れ、失明に至ることがあります。
腎症も最初は少量の蛋白(たんぱく)尿が出るだけですが、徐々に体内に水分や毒素がたまるようになり、むくみ、尿毒症が現れ、最終的には人工透析によって血液をきれいにしたり、水分量等を調節したりしないと生きていけなくなります。
神経障害が起きると、手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻(どんま)、発汗異常、勃起(ぼっき)障害、便秘、下痢などが起こります。
一般的に、糖尿病になってから5~6年で神経障害が、7~10年で網膜症が、15年程度で腎症が出現します。
同時に、高血糖によって動脈硬化が進むため、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞が起こる率が高まります。足の血管の閉塞(へいそく)や壊疽(えそ)により、足を切断しなければならないケースも起こります。
糖尿病の本当の怖さは、この合併症なのです。しかし、 放置せずに、しっかり治療して、状態を良好にコントロールすれば、糖尿病でない人と同じ健康な生活が送れます。
糖尿病の検査と診断と治療
医師による糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値を調べることで、血糖値が正常である「正常型」なのか、糖尿病である「糖尿病型」なのか、その中間の「境界型(耐糖能異常)」であるのか、型の区分を判定します。はっきりしない場合には、75gの糖分を含む飲料を飲んで、型の区分を判定することもあります。これは、75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)と呼ばれる検査です。
型の区分には、以下の(1)~(5)の判定基準が用いられます。
(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上
(2)75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上
(3)随時血糖値200mg/dl以上(随時とは、食後の任意の時間のことをいいます。食前でもかまいません。)
(4)早朝空腹時血糖値110mg/dl未満
(5)75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満
(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病型」と判定します。(4)および(5)の血糖値が確認された場合には、「正常型」と判定します。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さない場合には、「境界型」と判定します。
別の日に行った検査で「糖尿病型」が再確認された場合には、糖尿病と診断します。ただし、次の(1)~(4)のいずれかがある場合は、1回の検査で「糖尿病型」であれば、糖尿病と診断していいことになっています。
(1)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5パーセント以上(HbA1cとは、過去1~2カ月間の平均血糖値を示す指標。赤血球に存在し、酸素を運搬する役割を持つヘモグロビンの中で、ブドウ糖が結合しているものの割合を意味します。正常値は4.3~5.8パーセントで血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。)
(3)確実な糖尿病性網膜症の存在
(4)過去に「糖尿病型」を示した資料がある場合
糖尿病治療の第一の目標は、血糖値を正常に保つようにコントロールして合併症を予防することで、食前血糖80-120 mg/dl、食後血糖100-160mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)5.8パーセント以下程度と考えられます。
血糖値を正常に近付ければ近付けるほど、合併症が出る心配が少なくなります。また、特に2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、高血圧症や脂質異常、肥満を合併しやすいので、これらの治療も必要です。
糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法、運動療法が治療の基本ですが、これらだけで血糖値が下がらない場合に薬物療法を併用します。
食事療法
性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを考慮し、1日のエネルギー摂取量を決めます。決められたエネルギー摂取量内で炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取して、いずれの栄養素も過不足ない状態にします。
とりわけ、肥満はインシュリンの作用を妨害するため糖尿病にとっては大敵ですので、栄養素をバランスよく取りながら標準体重を維持するために、食事療法が必要となります。また、弱まったインシュリンの働きに合わせた食事の量にすることも必要です。そうすれば、食物は体内でほぼ完全に利用され、余分なブドウ糖が血液中にあふれ出ることはありません。
運動療法
運動療法も、ブドウ糖をよく利用する筋肉を増やし、インシュリンの作用を妨害する脂肪を減らし、また肥満を是正するなどの利点があり、糖尿病の治療には重要なものです。
中程度の全身運動、すなわち50歳代であれば脈拍が1分間に110程度になるような運動を、毎日30分以上行うと効果があります。1回15~30分間、1日2回で、計1日7000歩程度の歩行運動が、中程度の全身運動に相当します。
血糖コントロールが極端に悪い場合、網膜症の状態が悪い場合、腎不全のある場合、心臓や肺などの機能に障害のある場合などは、運動療法を制限したほうがいいため、個々の人に適した運動療法をすることが必要です。
薬物療法
1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の人は、体内でインシュリンがほとんど分泌されないので、インシュリンを注射で投与する必要があります。
また、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、食事療法および運動療法で血糖値が十分に正常化しない場合、飲み薬やインシュリンの注射が必要になります。
飲み薬には、経口血糖降下薬、SU薬(スルホニル尿素薬)、 速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗改善薬があります。
インシュリンには、速効型インシュリン、超速効型インシュリン、中間型インシュリン、持効型インシュリン、さらに、速効型インシュリンや超速効型インシュリンと中間型インシュリンがいろいろな比率で混ざっている混合型インシュリンがあります。
一般的に、食後に分泌されるインシュリンを補充するためには、速効型インシュリンや超速効型インシュリンを毎食前に使用します。また、人の膵臓からは食事と関係なく一定のスピードでインシュリンが分泌されているのですが、このインシュリンを補充するためには、中間型インシュリンや持効型インシュリンを使用します。
発症者の生活上の注意
血糖値をできるだけ正常値に近付けることで、高血糖によって起こる恐ろしい、さまざまなな合併症を防ぐことができますので、早期に糖尿病を発見し、治療することが大切となります。
しかし、治療によって一時的に血糖値が下がったとしても、血糖値が上がりやすいという遺伝的な体質や、一度破壊されたβ細胞の機能は正常に戻るわけではありませんので、治療を中断するとすぐに血糖値は高くなってしまいます。
そのためにも、定期的に受診して、一生治療を続けながら生活をしていくことが大切です。糖尿病のコントロール状態を知るため、発症者本人が体重測定、尿糖測定、場合によっては血糖測定をする必要もあります。
定期的な受診でも、血糖、検尿、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの検査をします。このうちHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)では、採血前の1カ月間の平均的な血糖の状態がわかります。このほか、高脂血症やいろいろな合併症に関する検査も、定期的に受ける必要があります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
タグ:病気(と)
■病気 糖尿病性神経障害 [病気(と)]
糖尿病の3大合併症の一つ
糖尿病性神経障害とは、網膜症、腎症と並んで、高血糖の状態が長く続くことによって起こる糖尿病の3大合併症の一つです。
高血糖によって、体の隅々に広がっている「末梢神経」の働きが低下してきます。末梢神経には、痛みなどを感じる「知覚神経」、筋肉を動かす「運動神経」、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする「自律神経」の3つがあります。この3つの神経の働きが低下してくるために、全身に様々な症状が現れてきます。
3大合併症の中で神経障害だけは、手足のしびれなどの自覚症状が初期の頃から現れてきます。症状が軽いからといって放置していると悪化の一途をたどってしまいますが、重症でない限りしっかりとした血糖コントロールを続ければ、症状を改善することが可能な合併症です。
糖尿病性神経障害を含む、糖尿病における合併症は、以下のように分類することができます。
【糖尿病の合併症】
糖尿病性神経障害の症状は
血糖の高い状態が続いていると、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部が皮をかぶった感じ、砂利の上を歩いているような感じといったものがあります。
これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する患者さんもいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経麻痺、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。
さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れない、火傷(やけど)や靴ずれに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、足を切断することにもなります。
こういった状態にならないために、症状が軽いうちから治療を始めることが必要となります。
【糖尿病性神経障害の分類】
検査と診断
糖尿病で神経障害を合併しないためには定期的に検査を受け、予防することが大切です。自覚症状が現れた時には、その症状が神経障害によるものなのか、別の病気によるものなのかを決めるために、詳しい検査を受けることになります。
また、医師の側は問診の時に自覚症状を詳しく聞き、下記の検査を適時実施して総合的に診断を行います。
【神経障害を調べるための検査】
治療の基本は血糖コントロール
糖尿病性神経障害の治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法・運動療法・薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、神経障害に対する薬物治療を行なっても、満足のいく効果は期待できません。
症状が軽い初期の頃ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトールの産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬があります。
これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもあります。治療後神経障害といわれるものですが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにしましょう。
【糖尿病性神経障害の諸症状改善に使われる代表的な薬】
ソルビトールとアルドース還元酵素
ソルビトールは、リンゴ、ナシなどの果物や海藻類など含まれている糖アルコールと呼ばれる物質で、虫歯になりにくい甘味料としても利用されています。一方、アルドース還元酵素は、体内に存在している酵素で、ふだんはあまり働かない酵素なのですが、血糖値が高くなると、突然働き出し、体内にある余分なブドウ糖に作用して、ソルビトールを作り出します。
ソルビトールは、元来体内にも存在しているので、少ない量では人の健康に害を与えることはありません。高血糖が続き、細胞内に貯まっているブドウ糖を減少させようとアルドース還元酵素が働き始めると、ソルビトールが多量に作り出されるため、細胞内にソルビトールが蓄積され、障害が起こるとされています。
アルドース還元酵素は、末梢神経、網膜、水晶体、脳、肝臓、すい臓、赤血球、副腎などで多く存在することが認められています。つまり、このような細胞(臓器)は糖尿病の合併症が出やすいところであり、アルドース還元酵素の存在するところと一致しています。
【アルドース還元酵素阻害薬の作用】
アルドース還元酵素阻害薬は、ブドウ糖からソルビトールを作り出すアルドース還元酵素の働きを妨げることによって、細胞内でのソルビトールの生成を抑制します。これによって、細胞内へのソルビトールの蓄積が抑えられ、糖尿病性神経障害における自覚症状や神経機能の異常を改善するとされています。
糖尿病性神経障害と診断されたら
1. 主治医の先生と相談して、症状にあった治療を早めに受けましょう。
2. 低血糖・高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。
3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽(えそ)を起こさないように注意しましょう。
4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起き上がらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。
5. アルコールは神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。
6. たばこは血流を悪化させるため、 心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
糖尿病性神経障害とは、網膜症、腎症と並んで、高血糖の状態が長く続くことによって起こる糖尿病の3大合併症の一つです。
高血糖によって、体の隅々に広がっている「末梢神経」の働きが低下してきます。末梢神経には、痛みなどを感じる「知覚神経」、筋肉を動かす「運動神経」、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする「自律神経」の3つがあります。この3つの神経の働きが低下してくるために、全身に様々な症状が現れてきます。
3大合併症の中で神経障害だけは、手足のしびれなどの自覚症状が初期の頃から現れてきます。症状が軽いからといって放置していると悪化の一途をたどってしまいますが、重症でない限りしっかりとした血糖コントロールを続ければ、症状を改善することが可能な合併症です。
糖尿病性神経障害を含む、糖尿病における合併症は、以下のように分類することができます。
【糖尿病の合併症】
分類 | 合併症 | 特 徴 | |
急性合併症 | 糖尿病性昏睡(こんすい) | 糖尿病性ケトアシドーシス性昏睡 | Ⅰ型糖尿病が発症した時やインスリン治療を中断した時にインスリンが不足することによって、血液が酸性(ケトアシドーシス)になり、のどが渇いて水分を多量に飲み、尿の量が多くなります。脱水症状がみられ、さらに進行すると、血圧が下がるとともに意識障害が出て、最終的には昏睡に至ります。 発症しやすいⅠ型糖尿病の患者さんは、要注意です。 |
高浸透圧性非ケトン性昏睡 | Ⅱ型糖尿病患者が感染症や脳血管障害、あるいは外科手術などをきっかけに、血糖の上昇と水分の補給不足を起こして、脱水状態となります。さらに進行すると、意識障害も起こります。 発症しやすい高齢のⅡ型糖尿病の患者さんは、要注意です。 | ||
低血糖 | 血糖値が低くなりすぎた状態で、糖尿病の治療薬の副作用として起こります。発汗、いらいら感などがみられ、さらにひどくなると腹痛や吐き気、けいれんや意識を失うこともあります。 | ||
慢性合併症 | 糖尿病性神経障害 | 身体の隅々まで伸びている末梢神経が障害されるため、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化、下痢や便秘、顔面神経麻痺など全身に種々の症状が出てきます。 | |
糖尿病性網膜症 | 網膜の細い血管に障害が起こり、視力が低下していきます。最悪の場合は、失明することもあります。 | ||
糖尿病性腎症 | 腎臓の機能が障害されるため、尿中に蛋白が混じってきます。さらに腎機能が悪化して腎不全になると、人工透析が必要になります。 | ||
動脈硬化 | 血糖が高い状態にして置くと、血管が固くなるとともに、詰まりやすい状態(動脈硬化)になるため、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくなります。糖尿病における最大の死亡原因は、この脳卒中や心筋梗塞です。 |
糖尿病性神経障害の症状は
血糖の高い状態が続いていると、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部が皮をかぶった感じ、砂利の上を歩いているような感じといったものがあります。
これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する患者さんもいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経麻痺、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。
さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れない、火傷(やけど)や靴ずれに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、足を切断することにもなります。
こういった状態にならないために、症状が軽いうちから治療を始めることが必要となります。
【糖尿病性神経障害の分類】
分 類 | 原 因 | 症 状 |
多発性神経障害 | (知覚・運動神経の障害) 神経細胞内にソルビトールという物質が蓄積されることで、神経障害が起こるとされています。 | しびれ、冷感、神経痛、感覚麻痺、こむらがえりなど |
自律神経障害 | 上記と同じ | 発汗異常、立ちくらみ、便秘、下痢、胆のう収縮能低下、尿意を感じない、インポテンツなど |
単一性神経障害 | 細い血管が詰まって、神経に血液が通わなくなることで、神経障害が起こるとされています。 | 顔面神経、外眼筋・聴神経の麻痺や四肢の神経障害など |
検査と診断
糖尿病で神経障害を合併しないためには定期的に検査を受け、予防することが大切です。自覚症状が現れた時には、その症状が神経障害によるものなのか、別の病気によるものなのかを決めるために、詳しい検査を受けることになります。
また、医師の側は問診の時に自覚症状を詳しく聞き、下記の検査を適時実施して総合的に診断を行います。
【神経障害を調べるための検査】
検査項目 | 特 徴 |
末梢神経伝導速度 | 末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する検査。 神経障害になると、刺激の伝わり方が遅くなります。腕にある正中神経の運動神経伝導速度が50m/秒以下、感覚神経伝導速度が45m/秒以下の場合は、自覚症状が出ていなくても神経障害が始まっていると判断できます。 |
振動覚閾値(しんどうかくいきち) | 物が振動していることを感じる神経の働きを調べる検査。 |
アキレス腱反射 | 神経による刺激の伝達能力を確かめる検査。 神経障害が起こると、アキレス腱反射がなくなります。神経障害を調べる検査中、最も簡単にできるものです。 |
呼吸心拍変動係数 | 自律神経の働きを調べる検査。 安静時と深呼吸をした時の心電図を比較して、脈拍に変動があるかを調べます。正常な人は深呼吸をした時に脈拍の変動が大きくなりますが、自律神経に障害が起きると、この変動が少なくなります。 |
治療の基本は血糖コントロール
糖尿病性神経障害の治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法・運動療法・薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、神経障害に対する薬物治療を行なっても、満足のいく効果は期待できません。
症状が軽い初期の頃ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトールの産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬があります。
これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもあります。治療後神経障害といわれるものですが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにしましょう。
【糖尿病性神経障害の諸症状改善に使われる代表的な薬】
分 類 | 特 徴 |
アルドース還元酵素阻害薬 | 神経障害を起こすとされている原因物質(ソルビトール)の産生を抑えることで、疼痛やしびれ感などを改善します。 |
整腸薬 | 自律神経障害によって起こる下痢や便秘の症状を緩和します。 |
鎮痛薬 | 知覚神経障害によって起こる痛みを緩和します。しかし、鎮痛剤を服用しても痛みが緩和されない場合は、抗けいれん薬の投与が行われています。 |
ソルビトールとアルドース還元酵素
ソルビトールは、リンゴ、ナシなどの果物や海藻類など含まれている糖アルコールと呼ばれる物質で、虫歯になりにくい甘味料としても利用されています。一方、アルドース還元酵素は、体内に存在している酵素で、ふだんはあまり働かない酵素なのですが、血糖値が高くなると、突然働き出し、体内にある余分なブドウ糖に作用して、ソルビトールを作り出します。
ソルビトールは、元来体内にも存在しているので、少ない量では人の健康に害を与えることはありません。高血糖が続き、細胞内に貯まっているブドウ糖を減少させようとアルドース還元酵素が働き始めると、ソルビトールが多量に作り出されるため、細胞内にソルビトールが蓄積され、障害が起こるとされています。
アルドース還元酵素は、末梢神経、網膜、水晶体、脳、肝臓、すい臓、赤血球、副腎などで多く存在することが認められています。つまり、このような細胞(臓器)は糖尿病の合併症が出やすいところであり、アルドース還元酵素の存在するところと一致しています。
【アルドース還元酵素阻害薬の作用】
アルドース還元酵素阻害薬は、ブドウ糖からソルビトールを作り出すアルドース還元酵素の働きを妨げることによって、細胞内でのソルビトールの生成を抑制します。これによって、細胞内へのソルビトールの蓄積が抑えられ、糖尿病性神経障害における自覚症状や神経機能の異常を改善するとされています。
糖尿病性神経障害と診断されたら
1. 主治医の先生と相談して、症状にあった治療を早めに受けましょう。
2. 低血糖・高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。
3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽(えそ)を起こさないように注意しましょう。
4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起き上がらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。
5. アルコールは神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。
6. たばこは血流を悪化させるため、 心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
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