☐用語 遺伝性アロマターゼ発現異常症 [用語(い)]
遺伝性の原因により、アロマターゼの発現に異常が生じて発症する疾患
遺伝性アロマターゼ発現異常症とは、遺伝性の原因により、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼが過剰に、あるいは過少に発現することにより発症する疾患。
アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)は、性差の決定にかかわるホルモンです。これらは男性だけ、あるいは女性だけが持つのではなく、両方の性ホルモンは適切な時期に適量でそれぞれの性において産生されています。テストステロン、デヒドロテストステロン、アンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼは、体内のさまざまな部位で発現し、血流によって運ばれてくるアンドロゲン(男性ホルモン)を基質として、局所的にエストロゲン(女性ホルモン)を産生しています。
遺伝性アロマターゼ発現異常症の代表的な疾患は、アロマターゼ過剰症とアロマターゼ欠損症です。
男性に乳房の発育を認めるアロマターゼ過剰症
アロマターゼ過剰症は、遺伝性の原因により、男性に乳房の発育を認める疾患。遺伝性女性化乳房症とも呼ばれます。
常染色体優性遺伝性の単一遺伝子病で、エストロゲン(女性ホルモン)合成酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。全身の臓器や細胞で、アロマターゼが過剰に発現し、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が上昇します。
血中のエストロゲンが持続的に高値となるため、思春期より前の小児期に発症し、症状が現れ始めます。大きな症状としては、高度で反復性の乳房増大、骨年齢進行による低身長、性欲の低下、精巣機能の低下などがあります。
乳房の増大の程度は、強い場合が多いのですが、比較的軽い場合もあります。一過性でなく、進行性に乳房が増大してくる場合、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、このアロマターゼ過剰症が疑われます。
男性の乳房の増大は、身体的問題だけでなく、精神的問題を引き起こします。そのため、社会的活動性の著しい低下を来すことがあります。
また、このアロマターゼ過剰症は、女性にも発症することがあり、症状としては巨大乳房、低身長、不正性器出血などがあります。乳がんや子宮体がんが発生することも懸念され、不妊症の原因になることもあります。
アロマターゼ過剰症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、内科、外科、産婦人科、乳腺(にゅうせん)外科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
エストロゲンが働かないアロマターゼ欠損症
アロマターゼ欠損症は、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ過剰症の検査と診断と治療
小児科、外科、乳腺外科などの医師による診断では、乳房増大などの症状があり、かつ血中エストロゲンが高値があることからアロマターゼ過剰症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、外科、乳腺外科などの医師による治療では、症状が軽い場合はそのまま経過観察しますが、程度が強い場合や、若年発症で低身長が予測される場合には、乳がんなどの治療に用いられているアロマターゼ阻害剤を投与することにより、過剰なエストロゲン(女性ホルモン)の産生を抑制し、症状の改善や発症の予防を図ります。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、根本的な治療はできません。
男児が女性のように乳房が大きくなることで身体的、精神的問題を抱えている場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部を切除することもあります。
手術後にも、アロマターゼ阻害剤を投与し、乳房増大の再発を予防します。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
遺伝性アロマターゼ発現異常症とは、遺伝性の原因により、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼが過剰に、あるいは過少に発現することにより発症する疾患。
アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)は、性差の決定にかかわるホルモンです。これらは男性だけ、あるいは女性だけが持つのではなく、両方の性ホルモンは適切な時期に適量でそれぞれの性において産生されています。テストステロン、デヒドロテストステロン、アンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼは、体内のさまざまな部位で発現し、血流によって運ばれてくるアンドロゲン(男性ホルモン)を基質として、局所的にエストロゲン(女性ホルモン)を産生しています。
遺伝性アロマターゼ発現異常症の代表的な疾患は、アロマターゼ過剰症とアロマターゼ欠損症です。
男性に乳房の発育を認めるアロマターゼ過剰症
アロマターゼ過剰症は、遺伝性の原因により、男性に乳房の発育を認める疾患。遺伝性女性化乳房症とも呼ばれます。
常染色体優性遺伝性の単一遺伝子病で、エストロゲン(女性ホルモン)合成酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。全身の臓器や細胞で、アロマターゼが過剰に発現し、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が上昇します。
血中のエストロゲンが持続的に高値となるため、思春期より前の小児期に発症し、症状が現れ始めます。大きな症状としては、高度で反復性の乳房増大、骨年齢進行による低身長、性欲の低下、精巣機能の低下などがあります。
乳房の増大の程度は、強い場合が多いのですが、比較的軽い場合もあります。一過性でなく、進行性に乳房が増大してくる場合、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、このアロマターゼ過剰症が疑われます。
男性の乳房の増大は、身体的問題だけでなく、精神的問題を引き起こします。そのため、社会的活動性の著しい低下を来すことがあります。
また、このアロマターゼ過剰症は、女性にも発症することがあり、症状としては巨大乳房、低身長、不正性器出血などがあります。乳がんや子宮体がんが発生することも懸念され、不妊症の原因になることもあります。
アロマターゼ過剰症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、内科、外科、産婦人科、乳腺(にゅうせん)外科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
エストロゲンが働かないアロマターゼ欠損症
アロマターゼ欠損症は、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ過剰症の検査と診断と治療
小児科、外科、乳腺外科などの医師による診断では、乳房増大などの症状があり、かつ血中エストロゲンが高値があることからアロマターゼ過剰症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、外科、乳腺外科などの医師による治療では、症状が軽い場合はそのまま経過観察しますが、程度が強い場合や、若年発症で低身長が予測される場合には、乳がんなどの治療に用いられているアロマターゼ阻害剤を投与することにより、過剰なエストロゲン(女性ホルモン)の産生を抑制し、症状の改善や発症の予防を図ります。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、根本的な治療はできません。
男児が女性のように乳房が大きくなることで身体的、精神的問題を抱えている場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部を切除することもあります。
手術後にも、アロマターゼ阻害剤を投与し、乳房増大の再発を予防します。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
☐用語 遺伝性楕円赤血球症 [用語(い)]
赤血球が先天的に楕円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなる疾患
遺伝性楕円(だえん)赤血球症とは、先天的な赤血球膜蛋白質(たんぱくしつ)の異常により赤血球異常が引き起こされる疾患。卵形赤血球症とも呼ばれ、赤血球膜異常症の一つ、また先天性溶血性貧血の一つです。
血液を構成する細胞のうち、各臓器や組織への酸素運搬を担う赤血球という細胞の赤血球膜蛋白質の1種のバンド3蛋白質、αスペクトリン、βスペクトリンなどの遺伝的な異常によって、20~100%の赤血球の形状が楕円形または卵円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなります。
常染色体優性遺伝という形式で遺伝するまれな疾患です。
主要な症状は貧血、黄疸(おうだん)、脾臓(ひぞう)のはれですが、症状の程度は個人差が強く、新生児期に重篤な症状を起こす場合もあれば、成人してから検査結果の異常で偶然発見される場合もあります。同じ赤血球膜異常症の一つで、赤血球の形状が球状に変形する遺伝性球状赤血球症と症状が類似しているものの、より軽度である傾向がみられ、貧血を示す例は少なく、脾臓のはれを示す例が多くみられます。
赤血球は体内で狭い血管をも通過できるように、正常では中央部分がへこんだ円盤状の形をしています。この形態によって、狭い部分を通過する際に細胞が折り畳まれることで細胞を傷付けずにより先に流れていくことができます。
遺伝性楕円赤血球症では、この特殊な形を保つための細胞骨格を作り上げるバンド3蛋白質などの遺伝子異常があるため、赤血球が通常通り変形することができず、細い血管や脾臓を通過するたびにその抵抗により細胞膜がどんどん削り取られてゆきます。細胞膜の面積が減っても細胞の中身の量は変わらないため、同じ表面積で体積を多くできる楕円形に赤血球が近付いてゆきます。それでも最終的には、細胞膜が薄くなることで形を保てずに赤血球が壊れてしまい、血色素(ヘモグロビン)が多量に赤血球外に出される溶血という現象が発生します。
細胞骨格にかかわる蛋白質には多くの種類があり、どの蛋白質にどのような異常が出るかによっても疾患の深刻さは異なってきます。
最重症の場合は、胎児期に高度の貧血のため、胎児水腫(すいしゅ)という状態を起こし得ます。新生児期に症状が出る場合の多くは、溶血のために血液中にビリルビン(胆汁色素)が増え新生児黄疸を起こして発見されます。黄疸の程度がひどい場合は、脳へのビリルビンの沈着とそれによる発達障害を起こすこともありますが、貧血による症状が深刻なことはまれです。新生児期をすぎると、皮膚の黄疸が問題となることは少なくなります。
遺伝性楕円赤血球症の発症者では、赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が疾患のない人と比べて少ないため、常に骨髄が活性化して多めに赤血球を作り続けている状態です。そのため、俗にリンゴ病と呼ばれる伝染性紅斑(こうはん)の原因になるヒトパルボウイルスB19型というウイルス感染への感染、赤血球を作る際に必要なビタミンB12や葉酸の不足など、骨髄の活動を抑制するような出来事があると急激に貧血が進行して症状を起こす可能性が高くなります。
また、皮膚の黄疸を起こすほどではないにしろ、溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ出続けているため肝臓がそれを処理し切れずに、ビリルビンが胆石を作りそれによる胆石疝痛(せんつう)発作を起こす可能性が高くなります。
遺伝性楕円赤血球症の検査と診断と治療
小児科、ないし血液内科の医師による診断では、足の裏などから末梢(まっしょう)血を採取して、赤血球の形態観察で楕円形赤血球または卵円形赤血球の増加、赤血球の浸透圧抵抗の低下、血液中の間接型ビリルビン値の上昇、直接抗グロブリン(直接クームス)試験の結果が陰性になることによる遺伝性球状赤血球症の除外、脾臓のはれ、類似する疾患の家族歴などを総合して診断します。可能であれば、赤血球膜の蛋白質を電気泳動で解析し、遺伝的異常を同定します。
なお、新生児期には赤血球の形態、赤血球の浸透圧抵抗ともに典型的な所見を示さないことも多いため、診断が難しいことがあります。
小児科、ないし血液内科の医師による治療では、疾患の原因が遺伝的な蛋白質の異常であるため、ほかの先天性溶血性貧血と同様に根本的な治療法はありません。
対症療法として、正常より多くの量が必要となる葉酸を経口で補充します。まれに新生児期から貧血による症状が出る場合は、成熟に伴って骨髄が赤血球の消費を補えるだけ新たに赤血球を生産できるようになるまで、赤血球輸血や、エリスロポエチンという赤血球の生産を増やすホルモンの投与などを行います。
また、溶血や貧血に伴う症状が高度な場合や、これらの症状が軽度でも胆石が認められる場合などでは、赤血球を主に壊している脾臓を外科手術、あるいは腹腔(ふくくう)鏡下手術によって取り除く脾摘が治療法となります。脾摘後も遺伝性楕円赤血球症は持続するものの、循環血液中での赤血球の寿命は延長します。元々の症状の程度によってどの程度の改善がみられるか個人差はありますが、軽症の場合はビリルビンなどの検査値がほぼ正常範囲になり、重症の場合でも輸血を必要とする頻度がかなり改善するなど大きな効果が見込めます。
しかし、脾臓という臓器が肺炎球菌など一部の細菌感染に対抗する上で重要な役割を持っているため、脾摘後はこれらの感染症に対して抵抗力が弱くなってしまいます。そのため脾摘の前にワクチン接種を受けることが推奨されます。また、脾摘を受けた発症者は脾摘を受けない遺伝性楕円赤血球症の発症者と比べて、動脈/静脈塞栓(そくせん)の危険性が上がるという報告もあるため、元々の危険性が高い発症者では注意が必要になります。
特に乳幼児期は脾摘後に重症細菌感染症にかかりやすくなるため、重症の場合でも6歳になるまで脾摘は待つほうが安全とされます。軽症の場合は、青年期まで待機可能なこともあります。
そのほかの疾患の治療のため骨髄移植を行った場合には、骨髄の細胞が根本的に入れ替わるため遺伝性楕円赤血球症も改善しますが、この疾患単独に対する治療としては治療に伴う合併症のリスクが高すぎるため通常は行われません。
遺伝性楕円(だえん)赤血球症とは、先天的な赤血球膜蛋白質(たんぱくしつ)の異常により赤血球異常が引き起こされる疾患。卵形赤血球症とも呼ばれ、赤血球膜異常症の一つ、また先天性溶血性貧血の一つです。
血液を構成する細胞のうち、各臓器や組織への酸素運搬を担う赤血球という細胞の赤血球膜蛋白質の1種のバンド3蛋白質、αスペクトリン、βスペクトリンなどの遺伝的な異常によって、20~100%の赤血球の形状が楕円形または卵円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなります。
常染色体優性遺伝という形式で遺伝するまれな疾患です。
主要な症状は貧血、黄疸(おうだん)、脾臓(ひぞう)のはれですが、症状の程度は個人差が強く、新生児期に重篤な症状を起こす場合もあれば、成人してから検査結果の異常で偶然発見される場合もあります。同じ赤血球膜異常症の一つで、赤血球の形状が球状に変形する遺伝性球状赤血球症と症状が類似しているものの、より軽度である傾向がみられ、貧血を示す例は少なく、脾臓のはれを示す例が多くみられます。
赤血球は体内で狭い血管をも通過できるように、正常では中央部分がへこんだ円盤状の形をしています。この形態によって、狭い部分を通過する際に細胞が折り畳まれることで細胞を傷付けずにより先に流れていくことができます。
遺伝性楕円赤血球症では、この特殊な形を保つための細胞骨格を作り上げるバンド3蛋白質などの遺伝子異常があるため、赤血球が通常通り変形することができず、細い血管や脾臓を通過するたびにその抵抗により細胞膜がどんどん削り取られてゆきます。細胞膜の面積が減っても細胞の中身の量は変わらないため、同じ表面積で体積を多くできる楕円形に赤血球が近付いてゆきます。それでも最終的には、細胞膜が薄くなることで形を保てずに赤血球が壊れてしまい、血色素(ヘモグロビン)が多量に赤血球外に出される溶血という現象が発生します。
細胞骨格にかかわる蛋白質には多くの種類があり、どの蛋白質にどのような異常が出るかによっても疾患の深刻さは異なってきます。
最重症の場合は、胎児期に高度の貧血のため、胎児水腫(すいしゅ)という状態を起こし得ます。新生児期に症状が出る場合の多くは、溶血のために血液中にビリルビン(胆汁色素)が増え新生児黄疸を起こして発見されます。黄疸の程度がひどい場合は、脳へのビリルビンの沈着とそれによる発達障害を起こすこともありますが、貧血による症状が深刻なことはまれです。新生児期をすぎると、皮膚の黄疸が問題となることは少なくなります。
遺伝性楕円赤血球症の発症者では、赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が疾患のない人と比べて少ないため、常に骨髄が活性化して多めに赤血球を作り続けている状態です。そのため、俗にリンゴ病と呼ばれる伝染性紅斑(こうはん)の原因になるヒトパルボウイルスB19型というウイルス感染への感染、赤血球を作る際に必要なビタミンB12や葉酸の不足など、骨髄の活動を抑制するような出来事があると急激に貧血が進行して症状を起こす可能性が高くなります。
また、皮膚の黄疸を起こすほどではないにしろ、溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ出続けているため肝臓がそれを処理し切れずに、ビリルビンが胆石を作りそれによる胆石疝痛(せんつう)発作を起こす可能性が高くなります。
遺伝性楕円赤血球症の検査と診断と治療
小児科、ないし血液内科の医師による診断では、足の裏などから末梢(まっしょう)血を採取して、赤血球の形態観察で楕円形赤血球または卵円形赤血球の増加、赤血球の浸透圧抵抗の低下、血液中の間接型ビリルビン値の上昇、直接抗グロブリン(直接クームス)試験の結果が陰性になることによる遺伝性球状赤血球症の除外、脾臓のはれ、類似する疾患の家族歴などを総合して診断します。可能であれば、赤血球膜の蛋白質を電気泳動で解析し、遺伝的異常を同定します。
なお、新生児期には赤血球の形態、赤血球の浸透圧抵抗ともに典型的な所見を示さないことも多いため、診断が難しいことがあります。
小児科、ないし血液内科の医師による治療では、疾患の原因が遺伝的な蛋白質の異常であるため、ほかの先天性溶血性貧血と同様に根本的な治療法はありません。
対症療法として、正常より多くの量が必要となる葉酸を経口で補充します。まれに新生児期から貧血による症状が出る場合は、成熟に伴って骨髄が赤血球の消費を補えるだけ新たに赤血球を生産できるようになるまで、赤血球輸血や、エリスロポエチンという赤血球の生産を増やすホルモンの投与などを行います。
また、溶血や貧血に伴う症状が高度な場合や、これらの症状が軽度でも胆石が認められる場合などでは、赤血球を主に壊している脾臓を外科手術、あるいは腹腔(ふくくう)鏡下手術によって取り除く脾摘が治療法となります。脾摘後も遺伝性楕円赤血球症は持続するものの、循環血液中での赤血球の寿命は延長します。元々の症状の程度によってどの程度の改善がみられるか個人差はありますが、軽症の場合はビリルビンなどの検査値がほぼ正常範囲になり、重症の場合でも輸血を必要とする頻度がかなり改善するなど大きな効果が見込めます。
しかし、脾臓という臓器が肺炎球菌など一部の細菌感染に対抗する上で重要な役割を持っているため、脾摘後はこれらの感染症に対して抵抗力が弱くなってしまいます。そのため脾摘の前にワクチン接種を受けることが推奨されます。また、脾摘を受けた発症者は脾摘を受けない遺伝性楕円赤血球症の発症者と比べて、動脈/静脈塞栓(そくせん)の危険性が上がるという報告もあるため、元々の危険性が高い発症者では注意が必要になります。
特に乳幼児期は脾摘後に重症細菌感染症にかかりやすくなるため、重症の場合でも6歳になるまで脾摘は待つほうが安全とされます。軽症の場合は、青年期まで待機可能なこともあります。
そのほかの疾患の治療のため骨髄移植を行った場合には、骨髄の細胞が根本的に入れ替わるため遺伝性楕円赤血球症も改善しますが、この疾患単独に対する治療としては治療に伴う合併症のリスクが高すぎるため通常は行われません。
☐用語 遺伝性アロマターゼ発現異常症 [用語(い)]
遺伝性の原因により、アロマターゼの発現に異常が生じて発症する疾患
遺伝性アロマターゼ発現異常症とは、遺伝性の原因により、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼが過剰に、あるいは過少に発現することにより発症する疾患。
アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)は、性差の決定にかかわるホルモンです。これらは男性だけ、あるいは女性だけが持つのではなく、両方の性ホルモンは適切な時期に適量でそれぞれの性において産生されています。テストステロン、デヒドロテストステロン、アンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼは、体内のさまざまな部位で発現し、血流によって運ばれてくるアンドロゲン(男性ホルモン)を基質として、局所的にエストロゲン(女性ホルモン)を産生しています。
遺伝性アロマターゼ発現異常症の代表的な疾患は、アロマターゼ過剰症とアロマターゼ欠損症です。
男性に乳房の発育を認めるアロマターゼ過剰症
アロマターゼ過剰症は、遺伝性の原因により、男性に乳房の発育を認める疾患。遺伝性女性化乳房症とも呼ばれます。
常染色体優性遺伝性の単一遺伝子病で、エストロゲン(女性ホルモン)合成酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。全身の臓器や細胞で、アロマターゼが過剰に発現し、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が上昇します。
血中のエストロゲンが持続的に高値となるため、思春期より前の小児期に発症し、症状が現れ始めます。大きな症状としては、高度で反復性の乳房増大、骨年齢進行による低身長、性欲の低下、精巣機能の低下などがあります。
乳房の増大の程度は、強い場合が多いのですが、比較的軽い場合もあります。一過性でなく、進行性に乳房が増大してくる場合、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、このアロマターゼ過剰症が疑われます。
男性の乳房の増大は、身体的問題だけでなく、精神的問題を引き起こします。そのため、社会的活動性の著しい低下を来すことがあります。
また、このアロマターゼ過剰症は、女性にも発症することがあり、症状としては巨大乳房、低身長、不正性器出血などがあります。乳がんや子宮体がんが発生することも懸念され、不妊症の原因になることもあります。
アロマターゼ過剰症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、内科、外科、産婦人科、乳腺(にゅうせん)外科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
エストロゲンが働かないアロマターゼ欠損症
アロマターゼ欠損症は、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ過剰症の検査と診断と治療
小児科、外科、乳腺外科などの医師による診断では、乳房増大などの症状があり、かつ血中エストロゲンが高値があることからアロマターゼ過剰症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、外科、乳腺外科などの医師による治療では、症状が軽い場合はそのまま経過観察しますが、程度が強い場合や、若年発症で低身長が予測される場合には、乳がんなどの治療に用いられているアロマターゼ阻害剤を投与することにより、過剰なエストロゲン(女性ホルモン)の産生を抑制し、症状の改善や発症の予防を図ります。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、根本的な治療はできません。
男児が女性のように乳房が大きくなることで身体的、精神的問題を抱えている場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部を切除することもあります。
手術後にも、アロマターゼ阻害剤を投与し、乳房増大の再発を予防します。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
遺伝性アロマターゼ発現異常症とは、遺伝性の原因により、アンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼが過剰に、あるいは過少に発現することにより発症する疾患。
アンドロゲン(男性ホルモン)とエストロゲン(女性ホルモン)は、性差の決定にかかわるホルモンです。これらは男性だけ、あるいは女性だけが持つのではなく、両方の性ホルモンは適切な時期に適量でそれぞれの性において産生されています。テストステロン、デヒドロテストステロン、アンドロステロンなどのアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲン(女性ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼは、体内のさまざまな部位で発現し、血流によって運ばれてくるアンドロゲン(男性ホルモン)を基質として、局所的にエストロゲン(女性ホルモン)を産生しています。
遺伝性アロマターゼ発現異常症の代表的な疾患は、アロマターゼ過剰症とアロマターゼ欠損症です。
男性に乳房の発育を認めるアロマターゼ過剰症
アロマターゼ過剰症は、遺伝性の原因により、男性に乳房の発育を認める疾患。遺伝性女性化乳房症とも呼ばれます。
常染色体優性遺伝性の単一遺伝子病で、エストロゲン(女性ホルモン)合成酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。全身の臓器や細胞で、アロマターゼが過剰に発現し、血中のエストロゲン(女性ホルモン)が上昇します。
血中のエストロゲンが持続的に高値となるため、思春期より前の小児期に発症し、症状が現れ始めます。大きな症状としては、高度で反復性の乳房増大、骨年齢進行による低身長、性欲の低下、精巣機能の低下などがあります。
乳房の増大の程度は、強い場合が多いのですが、比較的軽い場合もあります。一過性でなく、進行性に乳房が増大してくる場合、父親または兄弟に同様の症状がある場合には、このアロマターゼ過剰症が疑われます。
男性の乳房の増大は、身体的問題だけでなく、精神的問題を引き起こします。そのため、社会的活動性の著しい低下を来すことがあります。
また、このアロマターゼ過剰症は、女性にも発症することがあり、症状としては巨大乳房、低身長、不正性器出血などがあります。乳がんや子宮体がんが発生することも懸念され、不妊症の原因になることもあります。
アロマターゼ過剰症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、内科、外科、産婦人科、乳腺(にゅうせん)外科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
エストロゲンが働かないアロマターゼ欠損症
アロマターゼ欠損症は、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ過剰症の検査と診断と治療
小児科、外科、乳腺外科などの医師による診断では、乳房増大などの症状があり、かつ血中エストロゲンが高値があることからアロマターゼ過剰症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、外科、乳腺外科などの医師による治療では、症状が軽い場合はそのまま経過観察しますが、程度が強い場合や、若年発症で低身長が予測される場合には、乳がんなどの治療に用いられているアロマターゼ阻害剤を投与することにより、過剰なエストロゲン(女性ホルモン)の産生を抑制し、症状の改善や発症の予防を図ります。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、根本的な治療はできません。
男児が女性のように乳房が大きくなることで身体的、精神的問題を抱えている場合は、外科的手術を行い、肥大した乳腺の組織をほぼ全部、または一部を切除することもあります。
手術後にも、アロマターゼ阻害剤を投与し、乳房増大の再発を予防します。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
☐用語 遺伝性楕円赤血球症 [用語(い)]
赤血球が先天的に楕円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなる疾患
遺伝性楕円(だえん)赤血球症とは、先天的な赤血球膜蛋白質(たんぱくしつ)の異常により赤血球異常が引き起こされる疾患。卵形赤血球症とも呼ばれ、赤血球膜異常症の一つ、また先天性溶血性貧血の一つです。
血液を構成する細胞のうち、各臓器や組織への酸素運搬を担う赤血球という細胞の赤血球膜蛋白質の1種のバンド3蛋白質、αスペクトリン、βスペクトリンなどの遺伝的な異常によって、20~100%の赤血球の形状が楕円形または卵円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなります。
常染色体優性遺伝という形式で遺伝するまれな疾患です。
主要な症状は貧血、黄疸(おうだん)、脾臓(ひぞう)のはれですが、症状の程度は個人差が強く、新生児期に重篤な症状を起こす場合もあれば、成人してから検査結果の異常で偶然発見される場合もあります。同じ赤血球膜異常症の一つで、赤血球の形状が球状に変形する遺伝性球状赤血球症と症状が類似しているものの、より軽度である傾向がみられ、貧血を示す例は少なく、脾臓のはれを示す例が多くみられます。
赤血球は体内で狭い血管をも通過できるように、正常では中央部分がへこんだ円盤状の形をしています。この形態によって、狭い部分を通過する際に細胞が折り畳まれることで細胞を傷付けずにより先に流れていくことができます。
遺伝性楕円赤血球症では、この特殊な形を保つための細胞骨格を作り上げるバンド3蛋白質などの遺伝子異常があるため、赤血球が通常通り変形することができず、細い血管や脾臓を通過するたびにその抵抗により細胞膜がどんどん削り取られてゆきます。細胞膜の面積が減っても細胞の中身の量は変わらないため、同じ表面積で体積を多くできる楕円形に赤血球が近付いてゆきます。それでも最終的には、細胞膜が薄くなることで形を保てずに赤血球が壊れてしまい、血色素(ヘモグロビン)が多量に赤血球外に出される溶血という現象が発生します。
細胞骨格にかかわる蛋白質には多くの種類があり、どの蛋白質にどのような異常が出るかによっても疾患の深刻さは異なってきます。
最重症の場合は、胎児期に高度の貧血のため、胎児水腫(すいしゅ)という状態を起こし得ます。新生児期に症状が出る場合の多くは、溶血のために血液中にビリルビン(胆汁色素)が増え新生児黄疸を起こして発見されます。黄疸の程度がひどい場合は、脳へのビリルビンの沈着とそれによる発達障害を起こすこともありますが、貧血による症状が深刻なことはまれです。新生児期をすぎると、皮膚の黄疸が問題となることは少なくなります。
遺伝性楕円赤血球症の発症者では、赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が疾患のない人と比べて少ないため、常に骨髄が活性化して多めに赤血球を作り続けている状態です。そのため、俗にリンゴ病と呼ばれる伝染性紅斑(こうはん)の原因になるヒトパルボウイルスB19型というウイルス感染への感染、赤血球を作る際に必要なビタミンB12や葉酸の不足など、骨髄の活動を抑制するような出来事があると急激に貧血が進行して症状を起こす可能性が高くなります。
また、皮膚の黄疸を起こすほどではないにしろ、溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ出続けているため肝臓がそれを処理し切れずに、ビリルビンが胆石を作りそれによる胆石疝痛(せんつう)発作を起こす可能性が高くなります。
遺伝性楕円赤血球症の検査と診断と治療
小児科、ないし血液内科の医師による診断では、足の裏などから末梢(まっしょう)血を採取して、赤血球の形態観察で楕円形赤血球または卵円形赤血球の増加、赤血球の浸透圧抵抗の低下、血液中の間接型ビリルビン値の上昇、直接抗グロブリン(直接クームス)試験の結果が陰性になることによる遺伝性球状赤血球症の除外、脾臓のはれ、類似する疾患の家族歴などを総合して診断します。可能であれば、赤血球膜の蛋白質を電気泳動で解析し、遺伝的異常を同定します。
なお、新生児期には赤血球の形態、赤血球の浸透圧抵抗ともに典型的な所見を示さないことも多いため、診断が難しいことがあります。
小児科、ないし血液内科の医師による治療では、疾患の原因が遺伝的な蛋白質の異常であるため、ほかの先天性溶血性貧血と同様に根本的な治療法はありません。
対症療法として、正常より多くの量が必要となる葉酸を経口で補充します。まれに新生児期から貧血による症状が出る場合は、成熟に伴って骨髄が赤血球の消費を補えるだけ新たに赤血球を生産できるようになるまで、赤血球輸血や、エリスロポエチンという赤血球の生産を増やすホルモンの投与などを行います。
また、溶血や貧血に伴う症状が高度な場合や、これらの症状が軽度でも胆石が認められる場合などでは、赤血球を主に壊している脾臓を外科手術、あるいは腹腔(ふくくう)鏡下手術によって取り除く脾摘が治療法となります。脾摘後も遺伝性楕円赤血球症は持続するものの、循環血液中での赤血球の寿命は延長します。元々の症状の程度によってどの程度の改善がみられるか個人差はありますが、軽症の場合はビリルビンなどの検査値がほぼ正常範囲になり、重症の場合でも輸血を必要とする頻度がかなり改善するなど大きな効果が見込めます。
しかし、脾臓という臓器が肺炎球菌など一部の細菌感染に対抗する上で重要な役割を持っているため、脾摘後はこれらの感染症に対して抵抗力が弱くなってしまいます。そのため脾摘の前にワクチン接種を受けることが推奨されます。また、脾摘を受けた発症者は脾摘を受けない遺伝性楕円赤血球症の発症者と比べて、動脈/静脈塞栓(そくせん)の危険性が上がるという報告もあるため、元々の危険性が高い発症者では注意が必要になります。
特に乳幼児期は脾摘後に重症細菌感染症にかかりやすくなるため、重症の場合でも6歳になるまで脾摘は待つほうが安全とされます。軽症の場合は、青年期まで待機可能なこともあります。
そのほかの疾患の治療のため骨髄移植を行った場合には、骨髄の細胞が根本的に入れ替わるため遺伝性楕円赤血球症も改善しますが、この疾患単独に対する治療としては治療に伴う合併症のリスクが高すぎるため通常は行われません。
遺伝性楕円(だえん)赤血球症とは、先天的な赤血球膜蛋白質(たんぱくしつ)の異常により赤血球異常が引き起こされる疾患。卵形赤血球症とも呼ばれ、赤血球膜異常症の一つ、また先天性溶血性貧血の一つです。
血液を構成する細胞のうち、各臓器や組織への酸素運搬を担う赤血球という細胞の赤血球膜蛋白質の1種のバンド3蛋白質、αスペクトリン、βスペクトリンなどの遺伝的な異常によって、20~100%の赤血球の形状が楕円形または卵円形に変形して本来の機能が低下し、壊れやすくなります。
常染色体優性遺伝という形式で遺伝するまれな疾患です。
主要な症状は貧血、黄疸(おうだん)、脾臓(ひぞう)のはれですが、症状の程度は個人差が強く、新生児期に重篤な症状を起こす場合もあれば、成人してから検査結果の異常で偶然発見される場合もあります。同じ赤血球膜異常症の一つで、赤血球の形状が球状に変形する遺伝性球状赤血球症と症状が類似しているものの、より軽度である傾向がみられ、貧血を示す例は少なく、脾臓のはれを示す例が多くみられます。
赤血球は体内で狭い血管をも通過できるように、正常では中央部分がへこんだ円盤状の形をしています。この形態によって、狭い部分を通過する際に細胞が折り畳まれることで細胞を傷付けずにより先に流れていくことができます。
遺伝性楕円赤血球症では、この特殊な形を保つための細胞骨格を作り上げるバンド3蛋白質などの遺伝子異常があるため、赤血球が通常通り変形することができず、細い血管や脾臓を通過するたびにその抵抗により細胞膜がどんどん削り取られてゆきます。細胞膜の面積が減っても細胞の中身の量は変わらないため、同じ表面積で体積を多くできる楕円形に赤血球が近付いてゆきます。それでも最終的には、細胞膜が薄くなることで形を保てずに赤血球が壊れてしまい、血色素(ヘモグロビン)が多量に赤血球外に出される溶血という現象が発生します。
細胞骨格にかかわる蛋白質には多くの種類があり、どの蛋白質にどのような異常が出るかによっても疾患の深刻さは異なってきます。
最重症の場合は、胎児期に高度の貧血のため、胎児水腫(すいしゅ)という状態を起こし得ます。新生児期に症状が出る場合の多くは、溶血のために血液中にビリルビン(胆汁色素)が増え新生児黄疸を起こして発見されます。黄疸の程度がひどい場合は、脳へのビリルビンの沈着とそれによる発達障害を起こすこともありますが、貧血による症状が深刻なことはまれです。新生児期をすぎると、皮膚の黄疸が問題となることは少なくなります。
遺伝性楕円赤血球症の発症者では、赤血球が壊れずに体内を循環できる期間が疾患のない人と比べて少ないため、常に骨髄が活性化して多めに赤血球を作り続けている状態です。そのため、俗にリンゴ病と呼ばれる伝染性紅斑(こうはん)の原因になるヒトパルボウイルスB19型というウイルス感染への感染、赤血球を作る際に必要なビタミンB12や葉酸の不足など、骨髄の活動を抑制するような出来事があると急激に貧血が進行して症状を起こす可能性が高くなります。
また、皮膚の黄疸を起こすほどではないにしろ、溶血によって赤血球からビリルビンが漏れ出続けているため肝臓がそれを処理し切れずに、ビリルビンが胆石を作りそれによる胆石疝痛(せんつう)発作を起こす可能性が高くなります。
遺伝性楕円赤血球症の検査と診断と治療
小児科、ないし血液内科の医師による診断では、足の裏などから末梢(まっしょう)血を採取して、赤血球の形態観察で楕円形赤血球または卵円形赤血球の増加、赤血球の浸透圧抵抗の低下、血液中の間接型ビリルビン値の上昇、直接抗グロブリン(直接クームス)試験の結果が陰性になることによる遺伝性球状赤血球症の除外、脾臓のはれ、類似する疾患の家族歴などを総合して診断します。可能であれば、赤血球膜の蛋白質を電気泳動で解析し、遺伝的異常を同定します。
なお、新生児期には赤血球の形態、赤血球の浸透圧抵抗ともに典型的な所見を示さないことも多いため、診断が難しいことがあります。
小児科、ないし血液内科の医師による治療では、疾患の原因が遺伝的な蛋白質の異常であるため、ほかの先天性溶血性貧血と同様に根本的な治療法はありません。
対症療法として、正常より多くの量が必要となる葉酸を経口で補充します。まれに新生児期から貧血による症状が出る場合は、成熟に伴って骨髄が赤血球の消費を補えるだけ新たに赤血球を生産できるようになるまで、赤血球輸血や、エリスロポエチンという赤血球の生産を増やすホルモンの投与などを行います。
また、溶血や貧血に伴う症状が高度な場合や、これらの症状が軽度でも胆石が認められる場合などでは、赤血球を主に壊している脾臓を外科手術、あるいは腹腔(ふくくう)鏡下手術によって取り除く脾摘が治療法となります。脾摘後も遺伝性楕円赤血球症は持続するものの、循環血液中での赤血球の寿命は延長します。元々の症状の程度によってどの程度の改善がみられるか個人差はありますが、軽症の場合はビリルビンなどの検査値がほぼ正常範囲になり、重症の場合でも輸血を必要とする頻度がかなり改善するなど大きな効果が見込めます。
しかし、脾臓という臓器が肺炎球菌など一部の細菌感染に対抗する上で重要な役割を持っているため、脾摘後はこれらの感染症に対して抵抗力が弱くなってしまいます。そのため脾摘の前にワクチン接種を受けることが推奨されます。また、脾摘を受けた発症者は脾摘を受けない遺伝性楕円赤血球症の発症者と比べて、動脈/静脈塞栓(そくせん)の危険性が上がるという報告もあるため、元々の危険性が高い発症者では注意が必要になります。
特に乳幼児期は脾摘後に重症細菌感染症にかかりやすくなるため、重症の場合でも6歳になるまで脾摘は待つほうが安全とされます。軽症の場合は、青年期まで待機可能なこともあります。
そのほかの疾患の治療のため骨髄移植を行った場合には、骨髄の細胞が根本的に入れ替わるため遺伝性楕円赤血球症も改善しますが、この疾患単独に対する治療としては治療に伴う合併症のリスクが高すぎるため通常は行われません。