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■用語 拡張型心筋症 [用語(か)]

[ゴルフ]心筋の細胞が変質して、心室の壁が薄く伸び、心臓全体が拡張する疾患
 拡張型心筋症とは、心臓の筋肉組織である心筋の細胞の性質が変わり、正常な心臓と比べて心筋が薄く伸び心臓全体が拡張する疾患。
 その結果、とりわけ血液を全身に送り出している左心室の壁が薄く伸びて、心筋の収縮機能が低下し、十分な血液を全身に送れなくなります。十分な血液を送れなくなると、それを補うため心臓は容積を大きくして、1回の収縮で送り出す血液の量を増やそうとします。
 しかし、この状態が長く続くと、心臓の中に血液が滞って心臓はさらに拡張し、心筋もさらに引き伸ばされて薄くなっていきます。これによって、心臓にかかる負担はむしろ大きくなってしまう悪循環を招きます。
 心臓の収縮機能が低下して全身に十分な血液がゆき渡らなくなると、脳から心臓に強く働くよう指令が出る一方、腎臓(じんぞう)では尿として排出される量が減り、そのぶん、体内の水分(体液)の量が増え、心臓にかかる負担はさらに増えます。
 この悪循環が心不全といわれる状態で、拡張型心筋症の人は心不全の発症をいかに抑制するか、心不全になった場合はどのようにして悪循環から脱出するかが重要になります。
 発症するのは60歳前後の人が多いという報告もありますが、10歳以下の子供から高齢者まで幅広い年齢層に発症します。また、男女比を見ると、2・6:1と男性に多い傾向がみられます。
 遺伝子やウイルス感染、免疫反応などが拡張型心筋症の原因と考えられ、一部は原因がわかるようになってきましたが、多くは不明のままです。原因がわからない拡張型心筋症は、厚生労働省の特定疾患(難病)に指定されているため、医療費の自己負担分が公費で支払われる場合があります。
 最初のうちは自覚症状がないことも多く、なかなか疾患に気が付かない人もいます。しかし、心不全が重くなると症状が現れてきます。
 初期には疲れやすくなったり、運動時や坂道・階段の昇降時などに動悸(どうき)や息切れを感じたりという症状が現れ、ひどくなると安静時にも症状がみられるようになり、夜間発作性呼吸困難が出てくることもあります。
 夜間発作性呼吸困難とは、夜、眠りについて数時間たったころに突然起こる強い呼吸困難のことです。横になったことで下半身の血液がより多く心臓へ流れ込み、肺全体が血液で満たされ、肺がうまく酸素を取り入れられなくなって起こります。
 もっと重症になると、不整脈が起こったり、全身にむくみが出たり、肝臓がはれたり、むくみにより体重が増加したり、胃腸粘膜のむくみにより食欲が低下したりします。また、全身への血液供給の低下により、全身倦怠(けんたい)感、手足の冷感、日中の尿量や尿の回数の減少などが起こります。
 脈が通常よりも早くなる心室頻拍や、心筋の収縮が失われてけいれんする心室細動といった危険な不整脈が起こると、突然死する場合もあります。
[ゴルフ]拡張型心筋症の検査と診断と治療
 循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、症状、身体所見や、胸部X線検査、心電図検査、心臓超音波検査(心エコー)、冠動脈造影などの各種検査の所見により判断します。
 そのほか、詳細な心臓の画像を作成できるMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、心臓の機能の詳しい情報がわかる心臓カテーテル検査、心筋生検による組織検査を行うこともあります。
 診断の基本は、心不全の重症度、その原因となる心室拡大と左心室の収縮機能低下の程度を評価することにあります。
 循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による治療では一般的に、長期間にわたる安静と減塩食、水分摂取制限が必要です。
 心筋の収縮機能の低下に対しては通常、強心薬のジギタリス、利尿剤、降圧剤の一種のACE阻害剤の3つを使用し、症例によってはβ(ベータ)遮断剤が有効なこともあります。
 すべての薬剤が無効な場合には、心臓移植が検討されます。
 拡張型心筋症で多く出現する頻拍性不整脈に対しては、抗不整脈薬を使用します。しかしながら、心筋の収縮機能の低下している拡張型心筋症では、抗不整脈薬の使用で、さらに収縮力を低下させることは不利であるため、使用には十分な注意が必要です。
 突然死のリスクが高い場合は、植え込み型除細動器による治療を行うこともあります。
 また、拡張型心筋症を発症した場合、医療機関での治療のほかに日常の生活習慣を改善することも重要です。適度な運動、禁煙や節酒、ストレスの管理、体重の管理などが必要となります。

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■用語 拡張期高血圧 [用語(か)]

[メール]60歳以下にみられ、下の拡張期血圧が90mmHg以上と高い状態
 拡張期高血圧とは、上と下に分かれている血圧のうち、下の拡張期血圧が90mmHg(ミリエイチジー、ミリ水銀柱)以上と高い状態。
 血管壁に及ぼす血液の圧力であるところの血圧は上と下に分かれており、上は収縮期血圧(最大血圧、最高血圧)といい、下は拡張期血圧(最小血圧、最低血圧)といいます。正常血圧は、収縮期血圧が130mmHg未満、かつ拡張期血圧が85mmHg未満とされています。収縮期血圧が130〜139mmHg、かつ拡張期血圧が85〜89mmHgは、正常高値血圧とされています。
 高血圧は、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上とされており、収縮期血圧と拡張期血圧の両方、あるいはどちらかの血圧が一定以上高い状態を指します。
 下の拡張期血圧は90mmHg未満と正常なのに、上の収縮期血圧が140mmHg以上と高い状態は、収縮期高血圧といい、60歳以上の高齢者に多くみられます。一方、上の収縮期血圧は140mmHg未満と正常なのに、下の拡張期血圧が90mmHg以上と高い状態が、拡張期高血圧に相当し、60歳以下の若年層にみられます。
 そもそも拡張期血圧は、心臓が体全体に血液を送り出していない状態、つまり心臓に負荷がかからずに膨らんで、拡張している状態で、血液を動脈に送る準備をしている段階です。血液は心臓に集まっていることから、血管壁に最も血液の圧力が加わっていない時です。
 この時に血圧が高いというのは、常に血管の内壁が強い圧力を受けていることを意味し、異常な状態だといえます。
 この拡張期高血圧は、血管の中でも終わりのほうの細い血管である末梢(まっしょう)の血管が硬くなってきていて血管抵抗が増加しているものの、太い血管の弾力性がまだ保たれている状態で起こることが多く認められます。
 まだ太い血管は軟らかくても末梢の細い血管が硬くなる原因は、肥満、運動不足、大量の飲酒、喫煙、ストレス、睡眠不足などの生活習慣だと見なされていて、拡張期高血圧は、60歳までの比較的若い世代に多くみられます。
 拡張期高血圧を生じた場合、時間のとともに上の収縮期血圧も上昇していく傾向があります。このことから、拡張期高血圧は、動脈硬化の前触れともいえます。
 動脈硬化が進むと、血管の柔軟性が低下するため、上の収縮期血圧は上昇し、下の拡張期血圧は低下します。そのため、収縮期血圧と拡張期血圧の差である脈圧が、拡大してきます。この脈圧は、加齢に伴って大きくなる傾向にあり、脈圧が大きいと心臓病や脳卒中の可能性が高まるとされます。
 拡張期高血圧を予防ためには、症状がないからといってそのままにしておかず、血圧を時々でもよいので測るということが大切です。最近は、簡便な自動血圧測定器が市販されていますから、家庭でも血圧測定が可能になっています。
 自分で血圧測定する場合は、測定精度の面から上腕にカフを巻いて測定できる血圧計が勧められます。自分で測定した血圧は、診察室で測定した血圧より低めになる傾向があります。収縮期血圧が135mmHg以上、拡張期血圧が85mmHg以上は、高血圧と考えるべきです。
 健康診断などで高血圧の指摘を受けたり、自分で測定した血圧が高血圧の範囲に入るなら、内科や循環器科の医師の診察を受け、アドバイスを受けることです。
 なお、何らかの原因で高血圧になっている二次性高血圧症でも、拡張期高血圧が目立つ場合もありますので、この際には原因となっている疾患を調べてもらう必要があります。
[メール]拡張期高血圧の検査と診断と治療
 内科、循環器科の医師による診断では、正確な血圧測定のためには、水銀血圧計を用いて聴診法で測定します。最低5分間、座位安静にして足を床に置き、腕を心臓の高さに保って測定します。
 拡張期高血圧と診断されれば、生活習慣のチェック、高脂血症や糖尿病などのほかの心血管危険因子の合併確認、二次性高血圧の精密検査、高血圧の影響を強く受ける心臓、脳、腎臓(じんぞう)、目などの臓器の障害の程度を評価するための検査が行います。
 内科や循環器科の医師による治療では、生活習慣改善と薬物療法の2本立てとなります。まず薬に頼らない生活習慣の改善が重要で、これだけで治療効果の上がらない場合に初めて降圧薬を使います。
 二次性高血圧の場合は、高血圧の原因となる疾患を治すことが主体になります。
 生活習慣改善では、(1)食塩摂取の制限や肥満の解消など食事療法、(2)ストレスの軽減や適度の運動など日常生活の改善、(3)禁煙や深酒の禁止など、嗜好(しこう)品の摂取の改善などを行います。
 以上の療法を1カ月以上行ってもなお血圧値が高い場合に、降圧薬が処方されます。高い血圧を下げるための降圧薬の進歩は目覚ましく、今日ではいろいろの種類のものが用いられ、血圧のコントロールは多くの場合、可能となっています。拡張期血圧、収縮期血圧のどちらかだけを下げる降圧薬そのものはないため、拡張期血圧をコントロールするということは、収縮期血圧のコントロールをするということになります。
 しかし、降圧薬を内服しているからといって、生活習慣改善を軽んじることはできません。高血圧症治療はあくまでも食事療法と日常生活の改善などが中心であり、その効果を高めるために行われるのが薬物療法です。

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■用語 家族性腎性尿崩症 [用語(か)]

[メール]先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモンに腎臓が反応しないために多尿を示す疾患
 家族性腎性(じんせい)尿崩症とは、先天的な遺伝が原因で、抗利尿ホルモン(バソプレシン)に腎臓が反応しなくなることで、薄い尿が大量に排出される疾患。先天性腎性尿崩症、遺伝性腎性尿崩症とも呼ばれます。
 利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンは、大脳の下部に位置する視床下部で合成され、神経連絡路を通って下垂体(脳下垂体)後葉に運ばれて貯蔵された後、血液中に放出されて腎臓に作用し尿の量を調節します。家族性腎性尿崩症では、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌は正常でも、腎尿細管における作用障害に由来して腎臓が反応しなくなり、体内への水分の再吸収が低下するために、尿の濃縮障害が引き起こされ、水分が過剰に尿として排出されます。
 一方、利尿を妨げる働きをする抗利尿ホルモンの分泌量の低下で、体内への水分の再吸収が低下するために、水分が過剰に尿として排出される疾患は、家族性(先天性、原発性)ないし続発性(後天性)の中枢性尿崩症です。
 腎性尿崩症にも家族性(先天性、遺伝性)と続発性(後天性)があり、家族性腎性尿崩症が先天的な遺伝が原因で、ある家族や家系に集中して、出生直後から症状が出現することが多いのに対して、続発性腎性尿崩症は薬剤の副作用や腎臓障害などが原因となって、あらゆる年代において徐々にあるいは突然、症状が出現します。
 家族性腎性尿崩症は、腎臓の腎尿細管の抗利尿ホルモン2型受容体の遺伝子異常で90パーセント以上が出現するとされ、性染色体であるX染色体の劣性遺伝のため、男性にのみに発症します。X染色体を2本持つ女性は、発症しないものの保因者になるため、妊娠した場合、家族性腎性尿崩症を受け継ぐ男子が生まれる可能性があります。
 また、まれに尿細管の抗利尿ホルモン感受性アクアポリン(水チャンネル)の遺伝子異常によっても出現します。この遺伝子異常は、常染色体の劣性遺伝によって約9パーセントで発症し、常染色体の優性遺伝によって1パーセントで発症します。
 家族性腎性尿崩症を胎児期に発症した場合は、母胎の中で大量に尿を排出するため羊水が多くなります。
 生後数日からの新生児期に発症した場合は、1日2・5リットルから3リットル以上の著しい多尿、のどの渇きによる多飲を示し、夜間尿の増加などが起こります。
 大多数の新生児は生後1年以内に診断されますが、未治療の新生児では、のどの渇きを訴えることができないため、保護者が水の補給を控えた場合や高温環境にさらされた場合には、激しい脱水による発熱と嘔吐(おうと)、けいれんを起こし、血液中のナトリウム値が上昇します。この高ナトリウム血症が起こると、脳が障害され、発達障害や精神遅滞を起こしてしまう可能性があります。
 通常、低身長がみられ、慢性的で過大な多尿に伴い、水腎症や水尿管症、巨大膀胱(ぼうこう)など尿路系の拡張が発生し、その結果、逆流性腎症さらに腎不全に至る例もあります。
 しかし、一部の軽症型(部分型)の家族性腎性尿崩症の新生児では、これらの症状は気付かれない程度か、軽度です。明らかな脱水の症状を示さずに、嘔吐、吐き気、授乳力低下、便秘もしくは下痢、発育不全、原因不明の発熱、不活発、興奮性といった症状を現します。低身長や発達障害はみられず、小児期の後期に診断される傾向があります。
 常染色体優性遺伝によって家族性腎性尿崩症を発症した新生児では、症状の出現は遅く、成人初期まで現れない場合もあります。
 早期に診断された場合も、家族性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、長期にわたって飲水とトイレの使用が自由にできる状況を用意することが必要になります。乳児では自分ののどの渇きに従って水を求めることができないので、通常の食事のほかに水を摂取させることが必要です。
 自分で水を求めることができる小児期になっても、こまめな水分補給を常に行いながらの生活となります。そのぶん尿量も増えますので、トイレに行く回数もほかの人よりも圧倒的に増え、生活は大きく影響を受け、幼稚園生活、学校生活や、成人後の社会活動、グループ活動も障害されます。
[メール]家族性腎性尿崩症の検査と診断と治療 
 内科、内分泌科の医師による診断では、下垂体(脳下垂体)に由来する抗利尿ホルモンが存在するにもかかわらず、血漿(けっしょう)抗利尿ホルモン濃度が高く、かつ利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤やデスモプレシン剤を投与しても尿の濃縮ができないことによって、家族性腎性尿崩症と確定します。
 内科、内分泌科の医師による治療では、家族性腎性尿崩症を根治できる治療法がないため、経験的に対症療法として、尿量を減らす目的で、抗利尿ホルモンの産生を刺激するサイアザイド系(チアジド系)利尿薬、それに加えてインドメタシンなどの非ステロイド系抗炎症薬を使用しますが、十分な効果は得られていません。
 サイアザイド系(チアジド系)利尿薬を使用すると、カリウム喪失を招くため、血清カリウム濃度を測定し、必要に応じて食事や薬剤の形で補充します。水腎症、水尿管症、巨大膀胱に対しては、尿量を減らす治療を行い、残尿が多量の場合には周期的もしくは持続的な膀胱カテーテル留置を行います。
 また、長期の療養が必要なため、腎臓障害、高度脱水、高ナトリウム血症を起こさないように長期的な経過観察を続けます。
 軽症型(部分型)の家族性腎性尿崩症では、利尿ホルモンの合成類似体であるバソプレシン剤や、デスモプレシン剤を使用した治療によって、ある程度尿量を減少させることが可能です。

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■用語 顔面多汗症 [用語(か)]

[ふらふら]体のほかの部分はそうでもないのに、顔だけに異常なほど汗をかく症状
 顔面多汗症とは、顔から出る汗が異常に多く分泌し、日常生活にも影響が及んでいる症状。顔汗とも呼ばれます。
 体温の調節に必要な範囲を超えて、汗が異常に多く分泌する症状を多汗症といい、全身性多汗症と、手のひら、足の裏、わきの下、頭、鼻の頭などにみられる局所性多汗症がありますが、特に顔にその症状が多く現れる顔面多汗症は、局所性多汗症の一種です。
 暑い時、激しい運動をした時、緊張した時、興奮した時、熱い物・辛い物を食べた時などに、顔から汗がたくさん出るのは、誰(だれ)にでも起こる生理現象です。こうした機会とは関係なく、体温を下げる必要がない時、リラックスしている時にも常に汗が出てしまい、日常生活に支障が出るほどの症状を指して多汗症とされています。
 体のほかの部分はそうでもないのに、顔から噴き出る汗ですぐに化粧崩れを起こしてしまう、常に汗で顔が湿っている、緊張するとポタポタと滴り落ちるほど顔の汗が出るといった場合は、顔面多汗症の可能性が高くなります。
 顔面多汗症を含め、体の特定の部分に異常なほどたくさん汗が出る局所性多汗症は、その原因がはっきりとは解明されていません。ただし、発汗を促すのは自律神経の1つである交感神経なので、何らかの理由で交感神経の働きが過敏になっていると考えられています。
 体が健康な状態であれば、汗は全身から出るのが普通です。顔にばかり汗をかいてしまうという場合、その原因としてまず、運動不足の可能性が考えられます。
 発汗の最も重要な役割は、体温の調節です。体温が上昇しすぎると脳細胞がダメージを受けるため、体は汗を出すことで熱を逃がしているのです。
 体温調節のための汗を分泌しているのはエクリン汗腺(かんせん)で、ほぼ全身に分布して、汗腺の数は平均で350万個、少ない人で200万個、多い人で500万個あるといわれています。分布密度は1平方センチメートル当たり130~600個とされていて、肉眼では見えないほど小さな汗腺です。
 しかし、すべてのエクリン汗腺が汗を分泌しているのではなく、実際に活動している能動汗腺は全体の半分程度といわれています。また、運動不足などで体温の上昇が極端に少ない生活をしていると、汗を分泌する機会が少なくなることから、心臓から離れていて冷えやすい下半身や腕などの汗腺は休眠状態に入ってしまいます。そのために、体温の調節をする際は、動きの多い顔などに集中して汗腺から出る汗が増えるのです。
 顔の汗が気になる理由の一つに、蒸発しにくいベタベタの汗で気持ちが悪いという面があると思われます。
 本来、エクリン汗腺から出る汗は、熱を逃がして体温を下げる働きがあり、皮膚表面から蒸発する際に気化熱を奪うため、サラサラしていて、すぐに蒸発するという特徴があります。体温が上昇すると、汗腺はオーバーヒートを防ぐために、血液から赤血球、白血球、血小板を除いた血漿(けっしょう)という液体を汗としてくみ出します。しかし、血漿には体に必要なミネラルも含まれているため、そのまま汗として出してしまうと体のミネラルが不足してしまいます。そこで、汗腺はくみ出した血漿から、体に必要なミネラルを再吸収して血液に戻し、水分とわずかな塩分だけを汗として分泌するのです。こうして、きちんと再吸収が行われた汗は、水のようなサラサラした汗になります。
 しかし、汗をかく機会が少なく、汗腺の機能が衰えていると、再吸収がうまくできなくなります。その結果、ミネラルが汗に混じって分泌され、蒸発しくいベタベタの汗になってしまうのです。顔にばかり汗をかく人が顔の汗を気にするのには、このような理由もあると考えられます。
 また、汗には体温調節のための温熱性発汗とは別に、緊張した時や動揺した時、ストレスを感じた時などに発汗を促す交感神経が刺激されることで出る精神性発汗、いわゆる冷や汗もあります。この場合も、突発的に出ることからミネラルの再吸収が間に合わず、ベタベタした汗になります。
 精神性発汗も誰にでも起こる生理現象ですが、顔面多汗症の人は汗を気にしやすいため、早く汗を止めようと焦ったりしがちな結果、交感神経がさらに刺激され、余計に汗を増やしてしまうという悪循環に陥ることがあります。
 また、顔にばかり汗をかいてしまうという場合、生まれ付きの体質や遺伝によって起こるケースもあるとされています。
 次に、顔だけに限らず、全身に大量の汗をかいてしまう場合、甲状腺機能高進症、自律神経失調症、更年期障害、糖尿病神経障害などの疾患が潜んでいる可能性も考えられます。
 甲状腺機能高進症は、新陳代謝を活性化させる甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患で、代表的なものにバセドー病があります。全身の代謝が高まるため汗をかきやすくなるだけでなく、動悸(どうき)や息切れ、イライラ、食欲が盛んでよく食べるのに体重が減少するなど、さまざまな症状が現れます。
 自律神経失調症は、呼吸や体温、血液の流れ、内臓の働きなどを自動的に調節して体の恒常性を維持している自律神経のバランスが乱れることで、体にさまざまな不調が現れる疾患で、発汗も自律神経の1つである交感神経がコントロールしているため、自律神経失調症になると汗が異常にたくさん出ることがあります。
 更年期障害は、女性の月経閉止時期に当たる45~55歳ころに現れる不定愁訴で、加齢に伴う卵巣機能の低下によって女性ホルモンの分泌が低下すると、自律神経のバランスが乱れてしまいます。すると、血管の拡張や収縮をうまくコントロールできなくなり、汗が出たり、顔が火照ったり、のぼせたりするホットフラッシュという症状が起こることがあります。
 糖尿病神経障害は、糖尿病で血糖値が高い状態が続くと、末梢(まっしょう)神経が障害されてなることがある疾患で、自律神経も末梢神経の1つなので、その働きが低下すると発汗異常や立ちくらみ、便秘、下痢、尿意を感じないなど、体にさまざまな症状が現れます。
 さらに、汗が出るのが顔の片側だけの場合は、大動脈瘤(りゅう)や、縦隔腫瘍(しゅよう)の可能性があります。大動脈瘤は、心臓から送り出されたすべての血液を運ぶ大動脈にコブができること。縦隔腫瘍は、胸腔(きょうくう)を左右に区切る縦隔の中に発生した腫瘍のこと。どちらのケースも、その部分の交感神経が刺激されることで顔の発汗が異常に起こってしまうことがあります。
 多量の汗には、ただ単に汗っかきなだけの場合と、多汗症などの疾患が潜んでいるケースがあります。日常生活に支障が出るほど顔の汗が多い、リラックスしている時でも顔の汗が気になるなど、何かしらの異常を感じる場合は、そのほかの疾患が潜んでいる可能性もあるので、まずは皮膚科、ないし皮膚泌尿器を受診してみるといいでしょう。
[ふらふら]顔面多汗症の検査と診断と治療
 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、問診、視診、触診で症状を確認します。また、客観的に発汗量を検査するためにヨード紙法、換気カプセル法も行います。
 ヨード紙法は、ヨード(ヨウ素)を吸収させた紙を発汗部位に触れさせ、汗の量を見る検査法です。発汗部位に触れると汗を吸収して黒色に変色するのですが、重症の場合はヨード紙が全体的にベッタリと変色し、中等度の場合は汗腺と同じ位置に点状に変色するだけというように、視覚的にわかりやすいのが特徴です。
 換気カプセル法は、発汗部分の皮膚に密閉できる小型カプセルを装着し、そこに乾燥ガスを入れて汗を蒸発させ、出てきたガスの湿度から発汗量を調べる方法です。
 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、薬物療法を行うこともあります。有効とされる治療薬は特定されていませんが、手のひら、足の裏、わきの下の局所性多汗症と同じように、ボツリヌス注射や神経遮断薬、漢方薬、精神安定剤なら効果があるとされています。
 ボツリヌス注射は、食中毒の原因菌でもあるボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素が作るタンパク質を有効成分とした注射です。汗は、交感神経の末端から放出されるアセチルコリンという神経伝達物質が、汗腺に発汗を促すことで分泌されます。ボツリヌス注射は、このアセチルコリンの放出を抑制し、汗を減らす注射で、1回の注射で半年ほど効果が持続します。顔の場合は、額に注射をして、額の汗を減らすために使います。ただし、副作用などのリスクもあります。
 神経遮断薬は、アセチルコリンの放出を阻害して発汗を抑制する飲み薬で、多汗症の治療薬としては「プロパンテリン(商品名プロバンサリン)」が、唯一の認可薬となっています。全身に作用するので、顔に限らず全身の汗を止めるのに有効ですが、口の渇き、目のかすみ、眠気、胃腸障害、便秘などの副作用が出る場合があります。
 漢方薬は、西洋医学の薬のように症状に直接作用するわけではないので、即効性がありません。しかし、体全体のバランスを本来の状態に戻して自己治癒力を高める効果が期待できるため、西洋医学では原因が解明できず、対処し切れないような疾患にも効果を発揮することがあります。同じ症状でも、患者によって処方される漢方薬は異なりますが、顔の汗が多い場合は柴胡桂枝乾姜(さいこけいしかんきょうとう)がよく用いられます。
 精神安定剤は、精神的な緊張が強くて汗をかく精神性発汗の場合に内服することで、気持ちが落ち着き、症状が緩和されることもあります。
 顔の汗が異常に出て仕事やプライベートに支障を来している場合、皮膚科の紹介により、外科、胸部外科、麻酔科などで手術を行うこともあります。ただし、多汗症の手術は副作用を伴うこともあるので、手術を受けるかどうかには慎重な検討が必要です。
 手術は、主に胸腔鏡下交感神経節遮断術(ETS)が行われます。これは、発汗の指令を伝達している交感神経を切断する内視鏡手術です。交感神経は背骨の左右を上下方向に走っていますが、これを胸の辺りの高さで切断すると、汗が減少します。手のひらの汗を止めるための手術ですが、顔やわきの下などの汗も減少することから、顔面多汗症の改善にも用いられます。
 具体的な手術方法としては、わきの下の皮膚を2~4ミリほど切って、小さなカメラを胸腔に入れ、モニター画面で胸の中を見ながら、胸の辺りにある汗の分泌を調節する交感神経を見付けて切断します。手術は基本的に、まず片方の交感神経を切除し、その後の体調の経過をみてから、もう一方の交感神経も切除するかどうかを決定します。
 手術のメリットは成功率が高く効果に永続性があるということ、デメリットは交感神経を一度切除してしまうと元には戻らないということと、副作用として代償性発汗になる場合がほとんどであることです。
 代償性発汗とは、顔から汗が出なくなった代わりに、背中や下半身などこれまでと違った部位から大量の発汗が起こるものです。

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