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■乳頭亀裂、乳頭裂傷 [用語(に)]

[位置情報]授乳に際して乳頭にひびが入って裂けたり、傷ができる状態
 乳頭亀裂(きれつ)、乳頭裂傷とは、女性が出産を経験して新生児に授乳する際に、乳頭(乳首)の皮膚にひびが入って裂けたり、傷ができたりする状態。皮がむけてしまうこともあり、状態が悪化すると出血することもあります。
 誕生後1年ぐらいまでの乳児は、母親の母乳を飲んで育ちます。特に新生児のころは、1度に飲める母乳の量が少ないため、1日の授乳回数は12回ほどで、多いケースでは15回にも及びます。
 新生児が口で乳頭周辺をくわえて母乳を吸う吸綴(きゅうてつ)刺激を受けることで、母乳を作る働きをするプロラクチンや、母乳を出す働きをするオキシトシンなどのホルモンの分泌が上昇し、母親は母乳を分泌するようになりますが、生まれてすぐの新生児は想像以上に強い力で乳頭をしごくように吸ってきます。
 新生児が乳頭に吸着するたびに、わずかな不快感や痛みが起こることがあります。この出産早期の乳頭の痛みは、ほとんどが母乳分泌のメカニズムが完全に機能し始めるまでに感じる一過性の乳頭痛です。多くの場合は出産後3~6日にピークを迎えて、その後母乳分泌が増加するに従って、痛みは消失していきます。
 しかし、新生児が上手に乳頭周辺に吸着し、母乳を吸えない場合は、出産後すぐから始まる1日12回前後の授乳期ばかりか母乳育児をしている間はいつでも、乳頭の先端や根元の部分に亀裂、裂傷ができ、乳頭の痛みが起こる可能性があります。
 新生児が乳頭を吸う力は強い上に、歯茎や舌でしごくように乳頭を刺激します。唾液(だえき)でぬれた乳頭の皮膚はふやけて傷付きやすいため、授乳中の乳頭は亀裂が入りやすく、裂傷ができやすい状態といえるでしょう。授乳時や、乳頭が下着でこすれた時に痛み、出血することもあります。
 乳頭が指先ほど突出している通常の乳頭と異なって、乳頭の出っ張りが短く全体的に平たくなっている扁平乳頭、乳頭が乳房の内側に埋没している陥没乳頭だと、新生児が母乳を飲みづらく、より強く吸うことがあり、乳頭の先を傷付けることがあります。
 また、新生児が効率よく母乳を飲むためには乳頭周辺を深くくわえる必要があるのですが、体勢がしっくりこない状態や添い寝で授乳をすると、乳頭周辺を浅くくわえてしまい、乳頭に余計な負担がかかって乳頭の先を傷付けることがあります。
 授乳姿勢(抱き方)や新生児の口の乳頭周辺への含ませ方だけではなく、授乳後に新生児を乳頭から離す時も注意が必要です。まだ吸っているのに引っ張って引き離すと、乳頭の先を傷付けることがあります。
 乳頭亀裂、乳頭裂傷ができて、そこから細菌が感染すると炎症が起き、乳口(にゅうこう)炎、乳腺(にゅうせん)炎を引き起こすこともあります。
[位置情報]乳頭亀裂、乳頭裂傷の自己対処法
 乳頭亀裂の段階で授乳を続けられそうなら、授乳姿勢(抱き方)や、傷が当たらないような含ませ方を工夫して負担を軽くします。
 まず、新生児に大きな口を開けてもらい、乳頭から乳輪部全体を含ませます。新生児が寝てしまう時は、足裏を刺激して起こして、口が大きく開いた時に首の後ろを支えてパクリと吸わせましょう。新生児の下唇と上唇がドナルドダックのように外側にめくれて、角度は130度ぐらいに大きく開きます。
 次に、しっかり大きく含ませながら、傷付いた個所が新生児にしごかれないように、フットボール抱き、横抱き、斜め抱き、縦抱きなどいくつかの抱き方を行って吸ってもらい、どこか痛くない個所がないか探しましょう。片方だけの乳房の乳頭に傷付いた個所があるのであれば、もう片方だけで授乳を行い、症状の改善を待つこともできます。
 新生児を乳頭から離す時は要注意で、乳頭を伸ばしながら無理やり離すのではなく、指を新生児の口角から入れるようにして透き間を作って離します。
 傷が痛む時は、新生児がなめても大丈夫な薬を塗布しましょう。授乳後に、ピュアレーンやランシノーのような羊のオイルを塗布します。ピュアレーンやランシノーは付けたまま授乳しても差し支えありませんが、病院などで抗生物質配合の軟こうなどを処方された場合は、清浄綿などで拭き取ってから授乳をするようにしましょう。
 乳頭裂傷まで進んで痛みを伴う場合は、直接の授乳を休むことをお勧めします。搾乳してほ乳瓶に移したものを飲ませるか、ミルクを飲ませてください。少し休むことで、症状は随分と改善されます。
 乳頭保護器(ニップルシールド)を用いるのもよいのですが、傷の状態によっては悪化してしまう場合があります。

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■用語 乳腺腫瘍 [用語(に)]

[位置情報]女性の乳房内の乳腺に発生する腫瘍
 乳腺腫瘍(にゅうせんしゅよう)とは、女性の乳房内の乳腺に発生する腫瘍。良性と悪性に分けられます。
 乳腺の良性腫瘍として多くみられるのは、乳腺線維腺腫と乳管内乳頭腫です。乳腺の悪性腫瘍の大部分は、乳がんです。ここでは、良性腫瘍である乳腺線維腺腫と乳管内乳頭腫について述べます。
 乳腺線維腺腫は、女性の乳房内の乳腺が増殖することで形成される良性のしこり、すなわち腫瘤(しゅりゅう)。乳腺の分泌腺が増殖するタイプ、乳腺周囲の線維組織が増殖するタイプ、両者が混在しているタイプとがあります。
 はっきりとした原因はまだわかっていないのですが、思春期以降に発症することが多いので、卵巣から分泌される女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)が何らかの発症原因になっていると考えられます。思春期に小さな線維腺腫が形成され、次第に増大して20歳前後にはっきりと触れる腫瘤として自覚されることが多いようです。
 線維腺腫の発育速度には個人差が大きいために、症状を自覚する年齢も10歳代後半から40歳前後までと幅広くなっています。また、片側に多発することも、両側に発症することもあります。
 乳がんと同様に、痛みを伴わないしこり、すなわち乳房腫瘤として発症します。乳がんと比べれば軟らかく、弾力性に富むことが多いといわれていますが、線維腺腫が乳がんに進行することはほとんどありません。
 しこりの大きさは、小豆大からうずらの卵大のことが多いものの、時には鶏卵大になることもあります。形は、球状や卵形が多く、時にはしこりの縁がくびれたような切れ込みになっていることもあります。
 しこりの表面は滑らかで、普通の消しゴムぐらいの硬さです。しこりと周囲との境界がはっきりしていて、触るとしこりが乳腺の中でコロコロと動くのが特徴です。
 しこりは、1個だけでなく、いくつもできることがあります。押しても痛みはなく、しこりに触れて、偶然、気が付くことが多いようです。
 経過を観察すると、しこりの大きさは多少増大しますが、時間の経過とともに際限なく増大することはなく、急速に増大することもありません。大多数は、閉経期をすぎると自然退縮します。
 しこりに気が付き、母親など近い家族に複数の乳がんの経験者がいる場合は、婦人科、乳腺科、産婦人科を受診し、念のために乳がんなどの悪性疾患ではないか確認することが勧められます。
 一方、乳管内乳頭腫は、女性の乳房全体に張り巡らされ、乳腺で作られた乳汁(母乳)を乳頭へ運ぶ管である乳管内に、いぼのような乳頭状の構造を持った良性のしこりができる疾患。
 乳管内乳頭腫は、乳頭(乳首)近くの比較的太い乳管内に発生することが多いものの、末梢(まっしょう)乳管から発生することもあります。乳管内の血管結合組織を軸とした上皮細胞と筋上皮細胞が増殖してできます。
 乳管内乳頭腫ができる明らかな原因は、不明です。しかし、ほとんどの例でホルモン受容体が陽性なので、卵巣から分泌される女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が何らかの影響を与えているものと思われます。また、乳頭腫は高率に乳腺症に合併するので、年齢的な要因も関係している可能性があります。
 通常、35歳から55歳の間に発症することが多く、出産経験のない女性に多いとされています。
 乳管内乳頭腫そのものががん化するとは考えられていませんが、将来的に乳がんになるリスクが高まるといわれているので、その点は注意が必要になります。
 多くの例で、乳頭から分泌物が出るのが自覚症状となります。分泌物の性状は、血性のことが5割、粘り気の少ない漿液(しょうえき)性のことが5割で、水のように透明なこともあります。分泌物の色も、赤色、赤褐色、茶褐色、白色、透明などさまざまです。分泌物の量にも個人差があり、下着に付着する程度から、大量に乳汁(母乳)のように分泌するものまでさまざまです。
 しこりの大きさは、数ミリから1センチ程度で、乳房を触ってもしこりを感じることは少なく、痛みもありません。分泌物が乳腺内にたまると、腫瘤として触れるものもあります。
 乳管内乳頭腫は、乳がんとの関連が深い疾患ですから、乳頭の異常分泌に気付いたら、乳腺科、乳腺外科、外科などを受診します。特に閉経期あるいは閉経後では、症状のよく似た乳がんとの区別が重要です。また、最近では乳がん検診の際に、超音波(エコー)検査で腫瘤として発見されることも多くなってきました。
[位置情報]乳腺腫瘍の検査と診断と治療
 乳腺腫瘍である乳腺線維腺腫に対する婦人科、乳腺科、産婦人科の医師による診断では、視診、触診、マンモグラフィー(乳腺X線検査)、超音波(エコー)検査などを行います。
 若い女性は乳腺の密度が濃いため、マンモグラフィーでは診断しにくいことが多く、超音波検査のほうが腫瘤の特徴を映し出すことができます。
 鑑別診断で重要なのは、限局性の乳がんです。厳密には触診だけで区別することは困難で、マンモグラフィーや超音波検査でも区別が難しいことがあるので、乳房のしこりに針を刺し、しこりの細胞を微量採取して病理学的に細胞を調べる穿刺(せんし)細胞診や、局所麻酔をしてからしこりの一部を切り取り、顕微鏡で調べる針生検を行うことがあります。
 乳腺線維腺腫に対する婦人科、乳腺科、産婦人科の医師による治療では、小さなしこりの場合には、穿刺細胞診などで良性の腫瘤であることを確認し、その後、年1、2回の定期な診察で、経過を観察していきます。
 明らかに美容上の問題となるほど大きなしこりの場合や、経過を観察して急速に大きくなった場合には、手術をして、しこりを切除することもあります。
 手術は、局所麻酔をして乳房の皮膚を数センチ切開し、しこりを切除して取り出すだけですので、外来で受けられます。手術により、乳房に変形が残ることはありません。
 乳腺腫瘍である乳管内乳頭腫に対する乳腺科、乳腺外科、外科の医師による診断では、マンモグラフィー(乳腺X線検査)や乳頭分泌物の細胞診を行います。
 確実に診断するには、乳管造影を行います。分泌物が出ている乳管開口部から造影剤を注入し、X線(レントゲン)撮影を行うもので、乳管内乳頭腫があると境界明瞭な造影欠損像や走行異常、乳管の閉塞(へいそく)、拡張、狭窄(きょうさく)、断裂像などが映りますので、小さいものでも発見することができます。
 また、乳首から針金くらいのカメラを入れる乳管内視鏡検査を行うこともあります。
 乳管内乳頭腫に対する乳腺科、乳腺外科、外科の医師による治療では、検査の結果、乳がんの可能性が否定された場合は、経過を観察します。
 非浸潤性乳管がんなどとの区別がつきにくい場合や、乳頭腫が大きい場合、出血が多い場合は、乳管内視鏡下の手術で腫瘍のある乳管を切除するのが一般的です。
 再発も多く、将来乳がんを発症するリスクも高いため、治療後も定期的な乳がん検診が欠かせません。予防的な乳房切断は、必要ありません。

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■用語 乳輪内多乳頭 [用語(に)]

[位置情報]乳輪の中に2つ以上の乳頭が存在している状態
 乳輪内多乳頭とは、女性の乳首、すなわち乳頭の周囲を取り囲む輪状の部位である乳輪の中に、複数の乳頭が存在している状態を指す症状。重複乳頭とも呼ばれます。
 通常、片側の乳房の乳輪中にある乳頭は1つですが、まれに2つ、ないし2つ以上の乳頭が生まれ付き存在していたり、あるいは1つある乳頭が生まれ付き2つに分裂していたりすることがあります。乳頭が2つに分裂しているものは分裂乳頭といいます。
 乳輪内多乳頭ではおおかた、乳輪の内部に乳頭が2つ並んでおり、2つがほぼ同じくらいの大きさの場合や、大きさがかなり異なる場合、2つともあるいは1つが通常の乳頭より大きすぎる場合、両側の乳房の乳輪中に乳頭が2つ並んでいる場合、片側の乳房の乳輪中だけに乳頭が2つ並んでいる場合など、症状はさまざまです。
 分裂乳頭でも同様に、乳輪の内部に乳頭が2つ並んでおり、2つがほぼ同じくらいの大きさの場合や、大きさがかなり異なる場合、2つともあるいは1つが通常の乳頭より大きすぎる場合、両側の乳房の乳輪中に乳頭が2つ並んでいる場合、片側の乳房の乳輪中だけに乳頭が2つ並んでいる場合など、症状はさまざまです。
 乳輪内多乳頭、分裂乳頭とも、生まれ付きのものがほとんどで、胎児期の発生段階での個体差によるものと考えられていますが、発症の理由はよくわかっていません。
 また、一部は神経線維腫(しゅ)症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)という特定の疾患に合併して起こることが知られていますが、極めてまれです。
 乳輪内多乳頭、分裂乳頭であっても、本人にとって支障がなければ治療をする必要はありませんが、見た目が気になるという問題と、授乳という機能的な問題が存在します。子供ができて実際に授乳を試みると、その形状や大きさのせいで乳児が乳頭をうまくくわえられないために、母乳育児を断念するということも少なくありません。授乳がしにくい場合や形態的異常が、医師による手術の対応となります。
 乳頭の症状が明らかで目立つために、変形した乳頭を普通くらいの形状、大きさにして、授乳の際の支障を解消したいと望むのであれば、乳腺(にゅうせん)外科、形成外科、整形外科、あるいは美容整形外科を受診し、手術によって整えることを考えてみてもよいのではないかと思われます。
[位置情報]乳輪内多乳頭の検査と診断と治療
 乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による診断では、乳輪内多乳頭と分裂乳頭は見た目にも明らかになることが多いので、視診、触診で判断します。
 乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による治療では、乳輪内多乳頭の場合、片側の乳房の乳輪中におおかた2つある乳頭のうちの1つが十分な大きさなら、1つを残して一方を単純に切除する手術を行います。どちらか1つでは大きさが不十分なら、2つある乳頭をを1つに縫合して一体化し、通常の一つの乳頭の形状にする手術を行います。局所麻酔で行え、リスクの少ない手術です。
 分裂乳頭の場合も、乳頭の一部を切除して、分裂した乳頭を1つに縫合して一体化し、通常の乳頭の形状にする手術を行います。左右両側の場合でも、左右どちらかの場合でも問題なく手術でき、左右の乳頭のバランスを見ながらデザインして、乳頭を形成します。
 乳腺で作られた乳汁(母乳)を乳頭へ運ぶ管である乳管をできるだけ温存し、なおかつ見栄えよく通常の乳頭に近い形状に整えることが理想的ですが、場合によっては乳管を温存できない、または一部分しか温存できないこともあります。また、完全に真ん丸な形の乳頭にすることが難しく、ややいびつさが残ることもあります。
 乳管がある程度温存できていて、そこそこ丸みのある乳頭に整えることができれば、授乳が可能です。それらの条件を満たせない場合には、授乳が困難になる可能性があります。

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■用語 乳房痛 [用語(に)]

[位置情報]女性の乳房に痛みが生じる状態
 乳房痛とは、女性の乳房に痛みが生じる状態を指す症状。
 女性の乳房は、乳汁(母乳)の出口となる乳頭(乳首)、乳汁を作る働きを持つ乳腺(にゅうせん)と脂肪、血管、神経でできています。痛みの症状の原因は、卵巣から分泌されている女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)がほとんどで、思春期、月経期間、妊娠期間、閉経時と、女性であればどの時期でも起こる可能性があります。また、乳房の疾患が原因となって、乳房に痛みやしこり現れることもあります。
 乳房痛は、軽いしびれから鋭い痛みまで、重症度が異なります。乳房痛を患う女性は、乳房の圧痛を感じたり、通常にない乳房の張りを感じたりする場合があります。
 月経のある女性は、月経周期に関連し、排卵から次の月経までの黄体期に卵巣から分泌される黄体ホルモン(プロゲステロン)の作用で、乳腺内の血管の膨張や乳腺組織の増加のために、乳房に痛みや張りを感じます。両方の乳房に起こり、全体的に痛むことが多いようです。生理的なものであれば、日常生活に支障を来すことはありません。月経周期に関連する痛みは大抵の場合、生理中または生理後には軽減します。
 強い痛みが続く場合は、医師による治療の対象になります。この治療が必要な乳房痛は、現れる時期や月経の有無から、周期性乳房痛と非周期性乳房痛に分けられます。
 周期性乳房痛は、月経のある女性に起こります。黄体期から症状が現れて、次の月経まで7日間以上にわたって中等度より強めの痛みが続きます。痛みのために、眠りが浅くなったり、通勤や通学に不都合を生じたり、不快感や苦痛感、性生活への影響もみられます。
 女性の月経周期には複数のホルモンがかかわっているので、どれか1つのホルモンに原因を特定することはできませんが、大脳の下部にある下垂体(脳下垂体)から分泌されるプロラクチンの過剰な増加などのホルモン変化が主な原因とされています。また、周期的な強い乳房痛は、乳がんの発症や増殖にかかわる危険因子の1つで、乳がんのリスクを高めることが知られています。
 非周期性乳房痛は、月経周期とは関係なく痛みが現れます。周期性乳房痛よりも頻度は少ないものの、閉経後の女性に多くみられます。外傷、炎症などの器質的疾患以外ではっきりとした乳房痛の原因を特定することは困難ですが、非周期性乳房痛もホルモンの変化が原因と考えられています。ホルモンの変化による乳房痛の多くは、両方の乳房に感じます。
 片側の乳房の一部で持続する乳房痛は、乳がんとの関連性も認められています。乳がんでの非周期性乳房痛の出現頻度は、2~7%前後と推定されています。
 乳房に痛みを伴う疾患としては、乳汁を分泌する乳腺に炎症が起こる乳腺炎が代表的です。乳房にしこりができる主な疾患は、乳腺症、乳腺線維腺腫(せんいせんしゅ)、乳がんで、うち乳腺症にのみ押さえた時の圧痛があります。
 乳腺炎には、急性のものと慢性のものがあります。急性乳腺炎のほとんどは、授乳期、ことに産褥(さんじょく)期にみられ、うっ滞性乳腺炎と化膿(かのう)性乳腺炎の2つに分けられます。慢性の乳腺炎には、授乳期以外に膿(うみ)の塊ができる乳輪下膿瘍(のうよう)があります。
 急性うっ滞性乳腺炎は、若い初産の女性の出産後2~3日のころによくみられるもので、乳管からの乳汁の排出障害があるために、乳房のはれと軽い発赤と熱感が起こります。痛みはあっても、激しい全身症状は出ません。初産の場合、乳管が狭いので乳汁が乳腺内に詰まってしまうことが、その原因と考えられています。乳児への授乳が十分でない場合にも起きます。
 急性化膿性乳腺炎は、出産後2~6週のころに乳腺内に乳汁がたまり、ここに主にブドウ球菌による細菌感染が起きて、乳房全体にはれが生じます。炎症が進むと、乳房が硬く赤くはれて、激しく痛み、熱感があります。その後、炎症が1カ所に固まってくると、膿瘍を作り、時には自然に破れて膿が外に出ることもあります。わきの下のリンパ節がはれたり、全身に寒けや震えが出て、時に40℃以上にも発熱することもあります。
 乳輪下膿瘍は、乳頭の乳管開口部から化膿菌が侵入したことにより、乳輪の下に膿がたまり、乳輪周囲の皮膚にまで広がる慢性疾患です。授乳やホルモン分泌とは関係なく、若い女性によくみられ、乳輪の下に痛みのある硬いしこりができては破れて、膿が出ることを何回も繰り返します。陥没乳頭の人に多くみられますが、乳首が陥没していない人でもみられます。
 乳腺症は、女性ホルモンのバランスが崩れることで、乳腺に起こるさまざまな病変の総称です。30~40歳代でよくみられる良性疾患で、乳腺炎や乳がんのようにはっきりとした病気ではありません。生理前に乳腺が張る、乳房が痛むということは女性なら誰でも経験があることですが、乳腺症も女性ホルモンの影響を強く受けて起こりますので、月経周期に応じて症状が変化します。すなわち、卵巣からのホルモン分泌が増える生理前になると症状が強くなり、生理が終わると自然に和らぎます。
 症状は乳房のしこりや痛み、乳頭分泌など多様ですが、多くは正常な体の変化で、通常は治療の必要はありません。
 乳腺線維腺腫は、乳汁を分泌する乳腺が増殖することで形成される良性のしこりです。乳腺の分泌腺が増殖するタイプ、乳腺周囲の線維組織が増殖するタイプ、両者が混在しているタイプとがあります。はっきりとした原因はわかっていないのですが、思春期以降に発症することが多いので、卵巣から分泌される女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストロゲン)が何らかの発症原因になっていると考えられます。思春期に小さな線維腺腫が形成され、次第に増大して20歳前後にはっきりと触れる、痛みを伴わないしこりとして自覚されることが多いようです。
 線維腺腫の発育速度には個人差が大きいために、症状を自覚する年齢も10歳代後半から40歳前後までと幅広くなっています。また、片側に多発することも、両側に発症することもあります。
 乳がんは、乳腺にできるがんです。40歳代以上に多く、高齢出産をした女性や、授乳の経験が少ない女性、肥満の女性、親族ががんにかかったことがある女性などがかかりやすいことが知られています。初発症状としては乳房に痛みのない硬いしこりができて、押しても動かないのが特徴で、同じしこりを触れる疾患でも乳腺症とは痛みの有無で、ある程度は判別がつきます。しかし、必ずしも痛みを伴わないわけではなく、特に進行すると片側の乳房の一部が痛みを伴うことが多くなります。
 同時に、皮膚にへこみが生じたり、乳頭から血の混じった分泌物が出るといった症状が起こることがあります。乳がんはほかのがんに比べて進行が遅く、しこりが1センチ四方の大きさになるまで10年ほどかかるので、しこりが小さいうちに見付かれば90%以上の人が治ります。
 乳房痛を乳がんと結び付ける女性が多いのですが、乳房の痛みが必ずしも乳がんによるとは限らず、良性変化である乳腺症が原因のことが多いので、痛みが長く続くようなら乳腺科、乳腺外科、外科を受診することが勧められます。
[位置情報]乳房痛の検査と診断と治療
 乳腺科、乳腺外科、外科の医師による診断では、乳がんの可能性も考慮し、問診、視診、触診、マンモグラフィー(乳腺X線検査)、超音波(エコー)検査などを行います。
 乳腺症が疑われた場合、明らかな乳腺腫瘍(しゅよう)が認められず、がんでないことを確かめた上で、2~3カ月間様子を見て、症状が生理周期と同調した場合に、乳腺症と確定します。
 乳腺科、乳腺外科、外科の医師による治療では、乳腺症の場合で痛みなどの症状があまりないケースでは、経過観察だけで、特に治療は行いません。
 強い痛みが5~6カ月ほど続くようなケースでは、薬物療法を行います。男性ホルモンの働きをする薬や、女性ホルモンの一種である卵胞ホルモン(エストロゲン)の働きを抑える抗エストロゲン薬、鎮痛薬などの飲み薬を処方し、2~3カ月使うと効果が現れます。
 薬物療法は根本的な治療法ではありませんが、半数以上の人で症状は軽減します。まれに、副作用として太ったり、肝臓に障害を起こしたり、血栓ができやすくなったりする人もいます。
 乳腺症と乳がんの確実な区別が難しい場合には、針を刺して細胞を吸引し、顕微鏡で観察する検査(細胞診)や、局所麻酔をしてから乳腺の一部を切り取り、顕微鏡で調べる検査(乳房生検)などを行います。
 顕微鏡で見ると、増殖性病変として腺症、乳頭腫症などが認められ、委縮性病変としては線維症、嚢胞(のうほう)症、アポクリン化生などが認められます。前者の増殖性病変が認められた場合は、乳がん発症のリスクが高くなりますので、精密検査を行うことになります。
 乳がんを起こしている場合は、乳房の病変部を切除する手術行うことで、乳がんを治すことができるだけでなく乳房の痛みを治すことができます。

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