■用語 野球肩 [用語(や)]
野球を始めとする投球動作によって引き起こされる、さまざまな肩関節障害の総称
野球肩とは、野球を始めとする投球動作による肩の使いすぎによって引き起こされる、さまざまな肩関節障害の総称。
この野球肩は、利き腕の上腕を肩より上に上げてボールなどを投げたり、打ったりするオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で生じる傾向にあり、野球のピッチャー、キャッチャーのほか、バレーボールのアタッカー、アメリカンフットボールのクォーターバック、あるいはサーブやスマッシュを行うテニス、ハンドボール、陸上競技のやり投げ、水泳のクロールとバタフライ、ウエートリフティングなどでも生じます。
野球肩には、インピンジメント症候群(ぶつかり症候群)、回旋筋腱板(けんばん)損傷(肩腱板損傷、肩インピンジメント症候群)、ルーズショルダー(動揺性肩関節症、動揺肩)、リトルリーグ肩(リトルリーガーズショルダー)、肩甲上神経損傷などが含まれます。
インピンジメント症候群はスポーツ障害や老化で、肩関節の腱板などに断裂とはれが起こった状態などの総称
インピンジメント症候群とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体や、滑液包、二頭筋腱に、断裂とはれが起こった状態などの総称。ぶつかり症候群、挟まり症候群とも呼ばれます。
インピンジメントとは、英語で「ぶつかること」、「衝突」という意味です。インピンジメント症候群は、肉体労働やスポーツによって長年上腕を酷使してきた人達に、多くみられるとされています。
肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。
腱板と、腱板に隣接する滑液包という少量の滑液を含む袋状の組織は、肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、腱板と滑液包に炎症を生じやすくなります。また、腱板は40歳ごろから強度が低下し、断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。
特に、肩先の骨である肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。
スポーツ障害としてのインピンジメント症候群は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。
腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。
腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、インピンジメント症候群が発生します。加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因。
インピンジメント症候群の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。
通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。
手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、インピンジメント症候群が見逃されていることがあります。
回旋筋腱板損傷はスポーツ障害や老化で、肩関節の筋肉と腱の複合体に損傷が起こった状態
回旋筋腱板損傷とは、肩関節で上腕を保持している回旋筋腱板という筋肉と腱の複合体に、スポーツ障害や老化が原因で損傷が起こった状態。回旋筋腱板の略が腱板で、肩腱板損傷とも呼ばれます。
回旋筋腱板損傷には、挫傷(ざしょう)、炎症、一部分が切れる不全断裂(部分断裂)、全部が切れる完全断裂などがあります。
野球肩、水泳肩、テニス肩の原因に回旋筋腱板損傷が多くを占め、肩インピンジメント症候群などとも呼ばれています。肩峰下滑液包炎も回旋筋腱板に隣接する部位の炎症で、原因については同様と考えられます。
肩関節は一般的に、肩甲上腕関節(第一肩関節)のことを指します。この肩関節は肩甲骨と上腕骨との間の関節で、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩(か)の上に、大きなボールである上腕骨頭が乗っているような構造をしており、人間の体の中で最も関節可動域が広く、ある程度の緩みがあるため、スポーツなどによって強い外力が加わると簡単に脱臼するのが特徴です。
肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために回旋筋腱板と呼ばれます。
回旋筋腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引、摩擦、回旋などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による損傷の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって損傷する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。
特に、肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口肩峰靭帯によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、回旋筋腱板の中では最も損傷を起こしやすいところです。
スポーツ障害としての回旋筋腱板損傷は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。
腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、回旋筋腱板損傷が発生します。
加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で損傷が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、回旋筋腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。
回旋筋腱板損傷の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。
肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。
通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。
手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、回旋筋腱板損傷が見逃されていることがあります。
ルーズショルダーは肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いてしまう状態
ルーズショルダーとは、肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いて、不安定感を伴う状態。動揺性肩関節症、動揺肩とも呼ばれます。
大抵は先天的なもので、両側性が多く、肩関節以外にも指、足、肘(ひじ)、膝(ひざ)の関節が軟らかい人に多くみられます。男女とも13~14歳で発症することが多いとされていますが、自然治癒することもあります。
こういうルーズショルダーの人が肩を使いすぎると、その最中に肩の痛みや疲れ、だるさを感じます。肩の不安定感、脱臼感、脱力感、可動域の制限、腕や手指のしびれ感、肩凝りを伴うこともあります。
野球では、投球の最後に腕を振り切る動作であるフォロースルーの際に、肩が抜けるように感じることがあります。これは肩関節の90度外転位での外旋運動、その後の急激な内旋運動の繰り返しによって、つくりが不安定な肩関節が常にストレスにさらされるために起こります。
バレーボールのスパイクやサーブ、テニスのサーブ、ハンドボールのシュート、やり投げ、砲丸投げ、ボウリング、水泳などでも肩の痛みが起こります。
ルーズショルダーの人は、野球やバレーボールなどのスポーツが不向きという潜在的要素を持ち合わせていますので、それらのスポーツを無理に続けた場合、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨頭が肩甲骨関節窩中央からいろいろな方向へずれてしまうことで、関節窩の縁にある線維軟骨性の関節唇の剥離(はくり)を起こしたり、肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体である腱板の損傷を起こすこともあります。
ルーズショルダーの原因としては、肩甲骨の外転外旋筋力低下によるもの、肩甲骨関節窩の後下縁の形成不全や傾斜角度の異常によるもの、肩甲骨関節窩に肩峰および烏口突起までを含めた機能的関節窩の形成不全によるもの、肩関節を包んでいる関節包や、関節の周囲にある滑液包といった軟部組織の膠原(こうげん)繊維の異常によるものなど、さまざまあります。
リトルリーグ肩は少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害
リトルリーグ肩とは、少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害の総称。リトルリーガーズショルダーと呼ばれます。
特に、満9歳から12歳までの少年少女たちを対象とした野球組織であるリトルリーグに所属していたりする、小学生高学年から中学生の野球のピッチャーなどが、利き腕を後方に引き上げてから力を入れて前方に振り下ろす動作を繰り返すことで、肩を酷使して発症することが多くみられます。バレーボールやバドミントンの選手が発症することもあります。
15歳未満の成長期では、骨や関節、筋肉がまだ未発達なため、繰り返すボールの投球動作などでストレスを繰り返し受けることによって、利き腕の上腕骨上端部の成長軟骨に障害が起こり、肩の痛みを発生します。
まず、上腕骨骨頭の成長軟骨である骨端(こったん)線に損傷が起こり、投球動作をした時や肩周辺を押した際に痛みを感じます。放置したまま投球動作を続けると、骨端線が離開して骨折のような状態になることがあります。
初めは、投球動作をした時だけの痛みであることが多く、肩の付け根の前方に鈍い痛みがあって速いボールを投げることができなくなります。そのほかの日常動作ではほとんど痛みが出ないのですが、損傷や離開が進行していくと日常の動作でも痛みを訴えるようになります。痛みの範囲は、肩関節を中心に肩甲骨や鎖骨周囲、上腕外側にみられ、前腕に至る場合もあります。
肩にだるさを感じ、腕が上がらないこともあります。発症初期はみられませんが、症状が進行するとともに、肩周囲の筋肉の委縮を起こす場合があります。
骨端線は骨を成長させる重要な部分なため、治療せずに放置すると上腕骨の成長障害を起こすことがあり、腕の長さが短くなったり、肩の動きが悪くなったりすることがあります。
リトルリーグ肩の症状としては、まず一球の投球動作で急に痛みが出ることは少ないので、徐々に痛みがある時は要注意です。
肩甲上神経損傷は肩の使いすぎなどにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患
肩甲上神経損傷とは、野球のピッチャーなどの投球動作による肩の使いすぎにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患。
肩甲上神経は、首の付け根から出て、肩甲骨の上のほうにある肩甲切痕(せっこん)という骨の溝を擦り抜けるようにして、肩の筋肉である棘上筋、棘下筋へつながっている末梢(まっしょう)神経です。棘上筋と棘下筋の動きを支配しており、腕を上げるのに必要とされています。
元来、肩甲切痕の部分の肩甲上神経の走行に無理があるため、野球のピッチャー、バレーボールのアタッカーなどのように腕を上げる動作を繰り返すと、肩甲上神経が引っ張られ、なおかつ周囲の組織によって圧迫を受けるので、肩甲上神経損傷を生じることがあります。
また、骨のとげである骨棘(こっきょく)やガングリオン(結節腫〔(しゅ〕)が肩関節にできることによって圧迫されて、肩甲上神経損傷を生じることもあります。
結果として、腕を上げる動作や腕を外に広げる動作がしづらい、肩が重い、肩が疲れる、肩に力が入らない、肩が痛い、肩がしびれるなどの症状が出ます。
また、棘上筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘上筋と棘下筋の筋肉がやせてきます。一方、棘下筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘下筋だけがやせてきます。
腕が上がらない、肩の周囲の筋肉がやせてきているといった症状が出たら、整形外科を受診することが勧められます。
野球肩の検査と診断と治療
インピンジメント症候群の検査と診断と治療
整形外科の医師によるインピンジメント症候群の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用です。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、インピンジメント症候群と診断されます。
スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干すなどの挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。
整形外科の医師によるインピンジメント症候群の治療では、腱板や滑液包、二頭筋腱に負担をかけている肉体労働やスポーツを控えて肩を休め、肩の筋肉を強化します。安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。
肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。
カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。
損傷が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。
回旋筋腱板損傷の検査と診断と治療
整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の回旋筋腱板部に断裂の所見がみられたりします。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、回旋筋腱板損傷と確定されます。
スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。転倒などの急性外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。
整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の治療では、断裂などの損傷を生じた肩関節の回旋筋腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。回旋筋腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている回旋筋腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。
安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。
断裂が特に重度な場合は手術も行われ、回旋筋腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。
関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。
手術では回旋筋腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、回旋筋腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。
ルーズショルダーの検査と診断と治療
整形外科の医師によるルーズショルダーの診断では、X線(レントゲン)検査で、おもりを持ってもらって撮影を行うと、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨骨頭が外れた状態が映ります。
整形外科の医師によるルーズショルダーの治療では、痛みが続く場合、三角巾(きん)固定による安静、非ステロイド性消炎・鎮痛剤の投与、肩峰下滑液包、腱板、烏口突起などへの局所注射を行います。
そのほか、肩の周囲の筋力を積極的に鍛えてもらいます。筋力を強化しても、ルーズショルダーが治るわけではありませんが、痛みを軽くする効果があります。
肩をすぼめ猫背の姿勢の場合、不良姿勢の矯正が大切で、肩甲骨の安定を図り、姿勢をよくするバンドを装用してもらうこともあります。また、やや大股(おおまた)歩きで早足の歩行は、姿勢矯正に有効です。
重い物を持たないようにし、肩甲骨を中心とした部位である肩甲帯の下垂を助長しやすいショルダーバックは避けます。
野球やバレーボールなどの継続している限り自然治癒が望めないスポーツを禁止するか、必要に応じて運動量を制限することを勧めます。野球の投球フォームやバレーボールのスパイクフォームが正しくない場合は、フォームを矯正することを勧めます。テニスなどのラケット競技の場合では、サーブやストロークに際してなるべく肘を伸ばすことで、肩関節にかかる外旋ストレスを小さくすることが可能です。
氷を用いたアイスマッサージやアイシング(冷却)も痛みの軽減に効果があるので、スポーツ直後に実行することを勧めます。
症状が重度な場合や保存療法が無効な場合は、肩関節を包んでいる関節包を縫い縮める手術や、肩甲骨の傾きを正しくするために大胸筋腱を肩甲骨の下部に移動する手術などを行うこともあります。
リトルリーグ肩の検査と診断と治療
整形外科の医師によるリトルリーグ肩の診断では、問診をしたり、上腕の内旋運動と外旋運動を強制して関節の動きを調べ、上腕上端部の成長軟骨に沿って圧痛がある場合に、リトルリーグ肩を疑います。
X線(レントゲン)検査を行い、成長軟骨やその隣接する骨に損傷がみられれば骨端線損傷、いわゆるひびや骨折状態であれば、完全な離断がなくても骨端線離開と確定します。
整形外科の医師によるリトルリーグ肩の治療では、安静が基本となります。従って、投球動作の禁止を指示した上で、除痛や消炎目的で消炎鎮痛剤を処方したり、三角巾による固定を行います。また、転位のある骨端線離開では、整復処置とギプス固定などを行う場合もあります。
固定後約3週間が経過したら、自動運動による運動療法を開始します。骨端線の修復が完成されるのに要する期間は、その損傷の程度により3カ月から6カ月と見なされています。
修復の完成後にキャッチボールを許可し、完全復帰までは早くても6カ月、場合によっては1年以上を要することもあります。また、スポーツに復帰する場合には、再発防止のために投球フォームなどのスポーツ動作のチェックや指導を行い改善していくことがあります。
肩甲上神経損傷の検査と診断と治療
整形外科の医師による肩甲上神経損傷の診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、肩甲上神経の障害の程度や正確な障害部位を確認します。また、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うことで、肩周辺部の骨棘やガングリオンなどの肩甲上神経を圧迫している病変を確認します。
鑑別すべき疾患には、いわゆる四十肩、五十肩といわれる肩関節周囲炎や頸椎(けいつい)疾患、腱板損傷があります。
整形外科の医師による肩甲上神経損傷の治療では、筋委縮が軽度の場合は、オーバーヘッドスローイング動作をしばらく中止し、委縮した棘上筋、棘下筋などを強化していくようにします。同時に、肩周辺筋力のバランス強化を行います。副腎皮質ホルモンの注入や、肩甲切痕を広げて神経の圧迫を取り除く手術を行うこともあります。
痛みがひどく、筋委縮が重度の場合は、肩甲上神経を圧迫している骨棘やガングリオンなどを摘出する手術を行います。ガングリオンでは、太めの針の注射器で腫瘍中のゼリー状の内容物を穿刺(せんし)吸引する方法もありますが、再発しやすいのが欠点です。
野球肩とは、野球を始めとする投球動作による肩の使いすぎによって引き起こされる、さまざまな肩関節障害の総称。
この野球肩は、利き腕の上腕を肩より上に上げてボールなどを投げたり、打ったりするオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で生じる傾向にあり、野球のピッチャー、キャッチャーのほか、バレーボールのアタッカー、アメリカンフットボールのクォーターバック、あるいはサーブやスマッシュを行うテニス、ハンドボール、陸上競技のやり投げ、水泳のクロールとバタフライ、ウエートリフティングなどでも生じます。
野球肩には、インピンジメント症候群(ぶつかり症候群)、回旋筋腱板(けんばん)損傷(肩腱板損傷、肩インピンジメント症候群)、ルーズショルダー(動揺性肩関節症、動揺肩)、リトルリーグ肩(リトルリーガーズショルダー)、肩甲上神経損傷などが含まれます。
インピンジメント症候群はスポーツ障害や老化で、肩関節の腱板などに断裂とはれが起こった状態などの総称
インピンジメント症候群とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体や、滑液包、二頭筋腱に、断裂とはれが起こった状態などの総称。ぶつかり症候群、挟まり症候群とも呼ばれます。
インピンジメントとは、英語で「ぶつかること」、「衝突」という意味です。インピンジメント症候群は、肉体労働やスポーツによって長年上腕を酷使してきた人達に、多くみられるとされています。
肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。
腱板と、腱板に隣接する滑液包という少量の滑液を含む袋状の組織は、肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、腱板と滑液包に炎症を生じやすくなります。また、腱板は40歳ごろから強度が低下し、断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。
特に、肩先の骨である肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。
スポーツ障害としてのインピンジメント症候群は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。
腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。
腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、インピンジメント症候群が発生します。加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因。
インピンジメント症候群の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。
通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。
手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、インピンジメント症候群が見逃されていることがあります。
回旋筋腱板損傷はスポーツ障害や老化で、肩関節の筋肉と腱の複合体に損傷が起こった状態
回旋筋腱板損傷とは、肩関節で上腕を保持している回旋筋腱板という筋肉と腱の複合体に、スポーツ障害や老化が原因で損傷が起こった状態。回旋筋腱板の略が腱板で、肩腱板損傷とも呼ばれます。
回旋筋腱板損傷には、挫傷(ざしょう)、炎症、一部分が切れる不全断裂(部分断裂)、全部が切れる完全断裂などがあります。
野球肩、水泳肩、テニス肩の原因に回旋筋腱板損傷が多くを占め、肩インピンジメント症候群などとも呼ばれています。肩峰下滑液包炎も回旋筋腱板に隣接する部位の炎症で、原因については同様と考えられます。
肩関節は一般的に、肩甲上腕関節(第一肩関節)のことを指します。この肩関節は肩甲骨と上腕骨との間の関節で、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩(か)の上に、大きなボールである上腕骨頭が乗っているような構造をしており、人間の体の中で最も関節可動域が広く、ある程度の緩みがあるため、スポーツなどによって強い外力が加わると簡単に脱臼するのが特徴です。
肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために回旋筋腱板と呼ばれます。
回旋筋腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引、摩擦、回旋などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による損傷の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって損傷する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。
特に、肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口肩峰靭帯によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、回旋筋腱板の中では最も損傷を起こしやすいところです。
スポーツ障害としての回旋筋腱板損傷は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。
腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、回旋筋腱板損傷が発生します。
加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で損傷が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、回旋筋腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。
回旋筋腱板損傷の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。
肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。
通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。
手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、回旋筋腱板損傷が見逃されていることがあります。
ルーズショルダーは肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いてしまう状態
ルーズショルダーとは、肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いて、不安定感を伴う状態。動揺性肩関節症、動揺肩とも呼ばれます。
大抵は先天的なもので、両側性が多く、肩関節以外にも指、足、肘(ひじ)、膝(ひざ)の関節が軟らかい人に多くみられます。男女とも13~14歳で発症することが多いとされていますが、自然治癒することもあります。
こういうルーズショルダーの人が肩を使いすぎると、その最中に肩の痛みや疲れ、だるさを感じます。肩の不安定感、脱臼感、脱力感、可動域の制限、腕や手指のしびれ感、肩凝りを伴うこともあります。
野球では、投球の最後に腕を振り切る動作であるフォロースルーの際に、肩が抜けるように感じることがあります。これは肩関節の90度外転位での外旋運動、その後の急激な内旋運動の繰り返しによって、つくりが不安定な肩関節が常にストレスにさらされるために起こります。
バレーボールのスパイクやサーブ、テニスのサーブ、ハンドボールのシュート、やり投げ、砲丸投げ、ボウリング、水泳などでも肩の痛みが起こります。
ルーズショルダーの人は、野球やバレーボールなどのスポーツが不向きという潜在的要素を持ち合わせていますので、それらのスポーツを無理に続けた場合、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨頭が肩甲骨関節窩中央からいろいろな方向へずれてしまうことで、関節窩の縁にある線維軟骨性の関節唇の剥離(はくり)を起こしたり、肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体である腱板の損傷を起こすこともあります。
ルーズショルダーの原因としては、肩甲骨の外転外旋筋力低下によるもの、肩甲骨関節窩の後下縁の形成不全や傾斜角度の異常によるもの、肩甲骨関節窩に肩峰および烏口突起までを含めた機能的関節窩の形成不全によるもの、肩関節を包んでいる関節包や、関節の周囲にある滑液包といった軟部組織の膠原(こうげん)繊維の異常によるものなど、さまざまあります。
リトルリーグ肩は少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害
リトルリーグ肩とは、少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害の総称。リトルリーガーズショルダーと呼ばれます。
特に、満9歳から12歳までの少年少女たちを対象とした野球組織であるリトルリーグに所属していたりする、小学生高学年から中学生の野球のピッチャーなどが、利き腕を後方に引き上げてから力を入れて前方に振り下ろす動作を繰り返すことで、肩を酷使して発症することが多くみられます。バレーボールやバドミントンの選手が発症することもあります。
15歳未満の成長期では、骨や関節、筋肉がまだ未発達なため、繰り返すボールの投球動作などでストレスを繰り返し受けることによって、利き腕の上腕骨上端部の成長軟骨に障害が起こり、肩の痛みを発生します。
まず、上腕骨骨頭の成長軟骨である骨端(こったん)線に損傷が起こり、投球動作をした時や肩周辺を押した際に痛みを感じます。放置したまま投球動作を続けると、骨端線が離開して骨折のような状態になることがあります。
初めは、投球動作をした時だけの痛みであることが多く、肩の付け根の前方に鈍い痛みがあって速いボールを投げることができなくなります。そのほかの日常動作ではほとんど痛みが出ないのですが、損傷や離開が進行していくと日常の動作でも痛みを訴えるようになります。痛みの範囲は、肩関節を中心に肩甲骨や鎖骨周囲、上腕外側にみられ、前腕に至る場合もあります。
肩にだるさを感じ、腕が上がらないこともあります。発症初期はみられませんが、症状が進行するとともに、肩周囲の筋肉の委縮を起こす場合があります。
骨端線は骨を成長させる重要な部分なため、治療せずに放置すると上腕骨の成長障害を起こすことがあり、腕の長さが短くなったり、肩の動きが悪くなったりすることがあります。
リトルリーグ肩の症状としては、まず一球の投球動作で急に痛みが出ることは少ないので、徐々に痛みがある時は要注意です。
肩甲上神経損傷は肩の使いすぎなどにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患
肩甲上神経損傷とは、野球のピッチャーなどの投球動作による肩の使いすぎにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患。
肩甲上神経は、首の付け根から出て、肩甲骨の上のほうにある肩甲切痕(せっこん)という骨の溝を擦り抜けるようにして、肩の筋肉である棘上筋、棘下筋へつながっている末梢(まっしょう)神経です。棘上筋と棘下筋の動きを支配しており、腕を上げるのに必要とされています。
元来、肩甲切痕の部分の肩甲上神経の走行に無理があるため、野球のピッチャー、バレーボールのアタッカーなどのように腕を上げる動作を繰り返すと、肩甲上神経が引っ張られ、なおかつ周囲の組織によって圧迫を受けるので、肩甲上神経損傷を生じることがあります。
また、骨のとげである骨棘(こっきょく)やガングリオン(結節腫〔(しゅ〕)が肩関節にできることによって圧迫されて、肩甲上神経損傷を生じることもあります。
結果として、腕を上げる動作や腕を外に広げる動作がしづらい、肩が重い、肩が疲れる、肩に力が入らない、肩が痛い、肩がしびれるなどの症状が出ます。
また、棘上筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘上筋と棘下筋の筋肉がやせてきます。一方、棘下筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘下筋だけがやせてきます。
腕が上がらない、肩の周囲の筋肉がやせてきているといった症状が出たら、整形外科を受診することが勧められます。
野球肩の検査と診断と治療
インピンジメント症候群の検査と診断と治療
整形外科の医師によるインピンジメント症候群の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用です。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、インピンジメント症候群と診断されます。
スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干すなどの挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。
整形外科の医師によるインピンジメント症候群の治療では、腱板や滑液包、二頭筋腱に負担をかけている肉体労働やスポーツを控えて肩を休め、肩の筋肉を強化します。安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。
肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。
カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。
損傷が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。
回旋筋腱板損傷の検査と診断と治療
整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の回旋筋腱板部に断裂の所見がみられたりします。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、回旋筋腱板損傷と確定されます。
スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。転倒などの急性外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。
整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の治療では、断裂などの損傷を生じた肩関節の回旋筋腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。回旋筋腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている回旋筋腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。
安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。
断裂が特に重度な場合は手術も行われ、回旋筋腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。
関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。
手術では回旋筋腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、回旋筋腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。
ルーズショルダーの検査と診断と治療
整形外科の医師によるルーズショルダーの診断では、X線(レントゲン)検査で、おもりを持ってもらって撮影を行うと、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨骨頭が外れた状態が映ります。
整形外科の医師によるルーズショルダーの治療では、痛みが続く場合、三角巾(きん)固定による安静、非ステロイド性消炎・鎮痛剤の投与、肩峰下滑液包、腱板、烏口突起などへの局所注射を行います。
そのほか、肩の周囲の筋力を積極的に鍛えてもらいます。筋力を強化しても、ルーズショルダーが治るわけではありませんが、痛みを軽くする効果があります。
肩をすぼめ猫背の姿勢の場合、不良姿勢の矯正が大切で、肩甲骨の安定を図り、姿勢をよくするバンドを装用してもらうこともあります。また、やや大股(おおまた)歩きで早足の歩行は、姿勢矯正に有効です。
重い物を持たないようにし、肩甲骨を中心とした部位である肩甲帯の下垂を助長しやすいショルダーバックは避けます。
野球やバレーボールなどの継続している限り自然治癒が望めないスポーツを禁止するか、必要に応じて運動量を制限することを勧めます。野球の投球フォームやバレーボールのスパイクフォームが正しくない場合は、フォームを矯正することを勧めます。テニスなどのラケット競技の場合では、サーブやストロークに際してなるべく肘を伸ばすことで、肩関節にかかる外旋ストレスを小さくすることが可能です。
氷を用いたアイスマッサージやアイシング(冷却)も痛みの軽減に効果があるので、スポーツ直後に実行することを勧めます。
症状が重度な場合や保存療法が無効な場合は、肩関節を包んでいる関節包を縫い縮める手術や、肩甲骨の傾きを正しくするために大胸筋腱を肩甲骨の下部に移動する手術などを行うこともあります。
リトルリーグ肩の検査と診断と治療
整形外科の医師によるリトルリーグ肩の診断では、問診をしたり、上腕の内旋運動と外旋運動を強制して関節の動きを調べ、上腕上端部の成長軟骨に沿って圧痛がある場合に、リトルリーグ肩を疑います。
X線(レントゲン)検査を行い、成長軟骨やその隣接する骨に損傷がみられれば骨端線損傷、いわゆるひびや骨折状態であれば、完全な離断がなくても骨端線離開と確定します。
整形外科の医師によるリトルリーグ肩の治療では、安静が基本となります。従って、投球動作の禁止を指示した上で、除痛や消炎目的で消炎鎮痛剤を処方したり、三角巾による固定を行います。また、転位のある骨端線離開では、整復処置とギプス固定などを行う場合もあります。
固定後約3週間が経過したら、自動運動による運動療法を開始します。骨端線の修復が完成されるのに要する期間は、その損傷の程度により3カ月から6カ月と見なされています。
修復の完成後にキャッチボールを許可し、完全復帰までは早くても6カ月、場合によっては1年以上を要することもあります。また、スポーツに復帰する場合には、再発防止のために投球フォームなどのスポーツ動作のチェックや指導を行い改善していくことがあります。
肩甲上神経損傷の検査と診断と治療
整形外科の医師による肩甲上神経損傷の診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、肩甲上神経の障害の程度や正確な障害部位を確認します。また、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うことで、肩周辺部の骨棘やガングリオンなどの肩甲上神経を圧迫している病変を確認します。
鑑別すべき疾患には、いわゆる四十肩、五十肩といわれる肩関節周囲炎や頸椎(けいつい)疾患、腱板損傷があります。
整形外科の医師による肩甲上神経損傷の治療では、筋委縮が軽度の場合は、オーバーヘッドスローイング動作をしばらく中止し、委縮した棘上筋、棘下筋などを強化していくようにします。同時に、肩周辺筋力のバランス強化を行います。副腎皮質ホルモンの注入や、肩甲切痕を広げて神経の圧迫を取り除く手術を行うこともあります。
痛みがひどく、筋委縮が重度の場合は、肩甲上神経を圧迫している骨棘やガングリオンなどを摘出する手術を行います。ガングリオンでは、太めの針の注射器で腫瘍中のゼリー状の内容物を穿刺(せんし)吸引する方法もありますが、再発しやすいのが欠点です。
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■用語 薬剤性難聴 [用語(や)]
病気の治療のために使用している薬剤の副作用により、内耳が障害を受けて発症する難聴
薬剤性難聴とは、病気の治療のために使用している薬剤の副作用によって、耳の奥にある内耳が障害を受けたことで発症する難聴。
正常な場合よりも聴力が低下した状態である難聴は、伝音(でんおん)難聴(伝音性難聴)、感音(かんおん)難聴(感音性難聴)、混合難聴(混合性難聴)の3つに大きく分けられます。
伝音性難聴は、空気の振動として耳に入ってくる音が外耳の一部である外耳道や、外耳と中耳の境目にある鼓膜、中耳内にある耳小骨を震わせて振動を伝えていく部分に、障害が生じたために起こります。音が十分に伝わっていかないため、音が鳴っていること自体を把握することが難しい性質を持っています。
感音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる難聴。突発性難聴や騒音性難聴の場合も、感音難聴に含まれます。
混合難聴は、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持った難聴。多くの老人性難聴は混合難聴ですが、どちらの度合が強いかは個人差が大きいといえます。
また、難聴の度合は一般的に、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。
こうした難聴を引き起こす薬剤は耳毒性薬剤とも呼ばれ、結核の治療に用いられる抗生剤(抗生物質)のストレプトマイシンやカナマイシン、ゲンタマイシンなどが代表として挙げられます。
ストレプトマイシンなどは、アミノ配糖体系というグループに属する薬剤で、普通の炎症に用いる薬剤にもこのグループに属している薬が多く、アミノ配糖体系の薬剤は程度の差はあれ、すべて耳毒性(聴器毒性)を持っています。しかも、注射で全身的に使用した場合だけではなく、点耳薬のように局所的に使用した時にも難聴が起こることがあります。
抗生剤のほかにも、利尿剤のフロセミド、抗がん剤のシスプラチンやアルキル化薬、リウマチ治療剤のサリチル酸などが、難聴を引き起こす薬剤として挙げられます。その耳毒性は、アミノ配糖体系薬剤よりは軽度です。
いずれの薬剤でも、内耳の感覚細胞の障害が発生します。また、薬剤の種類により、音を感じる蝸牛(かぎゅう)に主に障害が起こる難聴と、体の平衡感覚に関係する前庭・三半規管に主に障害が起こる難聴とに分けられます。
薬剤性難聴の症状としては、蝸牛に主に障害が起これば、耳鳴りから始まり、続いて難聴に気付くパターンが多いのですが、耳鳴りはない場合もあります。
初期段階では高い周波数の難聴から始まり、次第に会話で使うような低い周波数の難聴へと進行してゆきます。難聴は両方の耳に同時に起こることが多く、症状が進むと、両耳とも全く聞こえなくなることもあります。
また、薬剤によって前庭・三半規管に主に障害が起これば、めまい感やふらつきが生じ、時には吐き気、頭痛が現れるケースもあります。特に、両側の前庭・三半規管が高度に損なわれた場合には、歩行時に景色がぶれるようになり、歩行障害や転倒の原因になります。
難聴を引き起こす薬剤には耳毒性があるため、難聴以外の症状が出ることがあり、注意が必要です。薬剤の使用開始後に耳鳴り、難聴、めまい感、ふらつきが現れたら、すぐに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し早期発見することが必要です。
薬剤性難聴の検査と診断と治療
耳鼻咽喉科の医師による診断では、純音聴力検査により難聴の程度、平衡機能検査により平衡障害の程度を評価します。
耳鼻咽喉科の医師による治療では、副作用の症状を認めた場合、原因となる薬剤の特定を行い、中止してもよい薬剤であれば、直ちに使用を中止します。ほかの薬に切り替える場合もあります。
薬剤の使用を中止しても難聴が治らないばかりか、さらに悪化する場合があります。ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)、ビタミン剤などによる治療を行っても、治療効果が期待できない場合がほとんどです。
従って、アミノ配糖体系の薬剤など耳毒性のある薬剤を病気の治療に使う前には検査を行い、使用中も定期的に聴力検査を繰り返し、日常生活に支障を来すほどの難聴が起こらないように予防することが大切になります。
アミノ配糖体系の薬剤で難聴が起こるかどうかは個人差が大きく、長期間使用しても難聴にならない人もいますし、短期間の使用で難聴になる人もいます。このため、薬の使用量から難聴の起こる時期を予測することはできません。
日常会話で難聴を自覚していなくても、耳鳴りが起こったら、高い音から聞き取れなくなる内耳障害が起こっていないか、聴力検査を受ける必要があります。
なお、アミノ配糖体系の薬剤には、耳毒性だけではなく、腎(じん)毒性もあり、利尿剤のフロセミドを併用すると内耳と腎臓に対する毒性が増強します。また、腎機能が低下している人や高齢者は薬が体内に蓄積しやすく、難聴が起こりやすくなることを念頭においておく必要があります。
薬剤性難聴とは、病気の治療のために使用している薬剤の副作用によって、耳の奥にある内耳が障害を受けたことで発症する難聴。
正常な場合よりも聴力が低下した状態である難聴は、伝音(でんおん)難聴(伝音性難聴)、感音(かんおん)難聴(感音性難聴)、混合難聴(混合性難聴)の3つに大きく分けられます。
伝音性難聴は、空気の振動として耳に入ってくる音が外耳の一部である外耳道や、外耳と中耳の境目にある鼓膜、中耳内にある耳小骨を震わせて振動を伝えていく部分に、障害が生じたために起こります。音が十分に伝わっていかないため、音が鳴っていること自体を把握することが難しい性質を持っています。
感音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる難聴。突発性難聴や騒音性難聴の場合も、感音難聴に含まれます。
混合難聴は、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持った難聴。多くの老人性難聴は混合難聴ですが、どちらの度合が強いかは個人差が大きいといえます。
また、難聴の度合は一般的に、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。
こうした難聴を引き起こす薬剤は耳毒性薬剤とも呼ばれ、結核の治療に用いられる抗生剤(抗生物質)のストレプトマイシンやカナマイシン、ゲンタマイシンなどが代表として挙げられます。
ストレプトマイシンなどは、アミノ配糖体系というグループに属する薬剤で、普通の炎症に用いる薬剤にもこのグループに属している薬が多く、アミノ配糖体系の薬剤は程度の差はあれ、すべて耳毒性(聴器毒性)を持っています。しかも、注射で全身的に使用した場合だけではなく、点耳薬のように局所的に使用した時にも難聴が起こることがあります。
抗生剤のほかにも、利尿剤のフロセミド、抗がん剤のシスプラチンやアルキル化薬、リウマチ治療剤のサリチル酸などが、難聴を引き起こす薬剤として挙げられます。その耳毒性は、アミノ配糖体系薬剤よりは軽度です。
いずれの薬剤でも、内耳の感覚細胞の障害が発生します。また、薬剤の種類により、音を感じる蝸牛(かぎゅう)に主に障害が起こる難聴と、体の平衡感覚に関係する前庭・三半規管に主に障害が起こる難聴とに分けられます。
薬剤性難聴の症状としては、蝸牛に主に障害が起これば、耳鳴りから始まり、続いて難聴に気付くパターンが多いのですが、耳鳴りはない場合もあります。
初期段階では高い周波数の難聴から始まり、次第に会話で使うような低い周波数の難聴へと進行してゆきます。難聴は両方の耳に同時に起こることが多く、症状が進むと、両耳とも全く聞こえなくなることもあります。
また、薬剤によって前庭・三半規管に主に障害が起これば、めまい感やふらつきが生じ、時には吐き気、頭痛が現れるケースもあります。特に、両側の前庭・三半規管が高度に損なわれた場合には、歩行時に景色がぶれるようになり、歩行障害や転倒の原因になります。
難聴を引き起こす薬剤には耳毒性があるため、難聴以外の症状が出ることがあり、注意が必要です。薬剤の使用開始後に耳鳴り、難聴、めまい感、ふらつきが現れたら、すぐに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し早期発見することが必要です。
薬剤性難聴の検査と診断と治療
耳鼻咽喉科の医師による診断では、純音聴力検査により難聴の程度、平衡機能検査により平衡障害の程度を評価します。
耳鼻咽喉科の医師による治療では、副作用の症状を認めた場合、原因となる薬剤の特定を行い、中止してもよい薬剤であれば、直ちに使用を中止します。ほかの薬に切り替える場合もあります。
薬剤の使用を中止しても難聴が治らないばかりか、さらに悪化する場合があります。ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)、ビタミン剤などによる治療を行っても、治療効果が期待できない場合がほとんどです。
従って、アミノ配糖体系の薬剤など耳毒性のある薬剤を病気の治療に使う前には検査を行い、使用中も定期的に聴力検査を繰り返し、日常生活に支障を来すほどの難聴が起こらないように予防することが大切になります。
アミノ配糖体系の薬剤で難聴が起こるかどうかは個人差が大きく、長期間使用しても難聴にならない人もいますし、短期間の使用で難聴になる人もいます。このため、薬の使用量から難聴の起こる時期を予測することはできません。
日常会話で難聴を自覚していなくても、耳鳴りが起こったら、高い音から聞き取れなくなる内耳障害が起こっていないか、聴力検査を受ける必要があります。
なお、アミノ配糖体系の薬剤には、耳毒性だけではなく、腎(じん)毒性もあり、利尿剤のフロセミドを併用すると内耳と腎臓に対する毒性が増強します。また、腎機能が低下している人や高齢者は薬が体内に蓄積しやすく、難聴が起こりやすくなることを念頭においておく必要があります。
■用語 薮チフス [用語(や)]
ダニ類のツツガムシの幼虫に刺され、引き起こされる感染症
薮(やぶ)チフスとは、細菌のリケッチアを保有するダニ類のツツガムシの幼虫に刺されることによって、引き起こされる感染症。一般にはツツガムシ病と呼ばれます。
日本海側の河川領域にいるネズミに寄生するアカツツガムシの幼虫、日本海側の山林にいるネズミに寄生するフトゲツツガムシの幼虫、太平洋側の山林にいるネズミに寄生するタテツツガムシの幼虫に刺されることによって、薮チフスは引き起こされます。
かつては秋田県の雄物川、山形県の最上川、新潟県の阿賀野川、信濃川などの河川敷で、夏季にアシ原に多くみられるアカツツガムシの幼虫に刺されて感染する風土病(古典型薮チフス)でしたが、戦後はフトゲツツガムシ、タテツツガムシの幼虫に刺されて感染する新型薮チフスの出現により、北海道、沖縄県など一部の地域を除いて、全国で発症がみられるようになりました。
感染しやすい時期は、フトゲツツガムシの活動する春から初夏と、タテツツガムシおよびフトゲツツガムシの活動する秋から初冬の2つの時期で、近年は毎年500人程度の報告があります。1950年に伝染病予防法による薮チフス(ツツガムシ病)の届け出が始まり、1999年4月からは感染症法により4類感染症全数把握疾患として届け出が継続されています。
ツツガムシの生息場所は、草むら、藪、林の土の中。ツツガムシの幼虫は成長過程で一度地表に出て、アカネズミ、ハタネズミといった野ネズミなどの動物に吸着して組織液を吸います。その後は、土壌中で昆虫の卵などを摂食して生活します。
人間は、リケッチアを保有するツツガムシの幼虫に刺され、吸着されると、皮膚から感染します。潜伏期間は、5~14日で、人から人への感染はありません。
よく刺される部位は、頭髪部、わきの下、腰など。刺し口は、刺されてから2~3日で赤くはれ、4~5日で水疱(すいほう)、その後潰瘍(かいよう)となり、10日目ごろには周囲が赤い陥没した黒いかさぶたとなります。
刺されてから10日目前後から、全身の倦怠(けんたい)感、手足の痛み、頭痛を伴う発熱が起こります。高熱は1~2週間続き、発疹(はっしん)は2~5日間に現れます。径5mm前後、紅斑性、丘疹性で全身に出現しますが、胸、腹部、背部に多くみられます。7日程度で、発疹は消退に向かいます。
刺し口近くのリンパ節のはれは、ほとんどでみられ圧痛を伴います。全身のリンパ節のはれも、約半数にみられます。肝臓が大きくなる肝腫大と脾(ひ)臓が大きくなる脾腫大は通常、軽度です。
重症例では、播種(はしゅ)性血管内血液凝固症候群(DIC)による出血傾向、髄膜刺激症状、昏睡(こんすい)やけいれんなどの中枢神経症状、肝障害による黄疸(おうだん)、末梢(まっしょう)血管抵抗の弱まりや心筋障害による血圧低下、間質性肺炎や胸膜炎などを合併します。
重症例で治療が遅れると、多臓器不全で死亡することもあります。
発熱、刺し口、発疹があって、感染する可能性のある場所への立ち入り、発症した時期から薮チフスの可能性を疑ったら、直ちに治療を受けるべきです。発症後7日以後になると重症化の傾向が高いので、早期診断、早期治療が重要となるからです。
薮チフスの検査と診断と治療
内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇がほとんどの例にみられます。
確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。検査所見は日本紅斑熱のものと類似するため、鑑別が必要となります。
内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、テトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を第一選択として、点滴静脈内注射か内服で使用します。そのほか、クロラムフェニコールも使用されます。通常1~2日で速やかに解熱し、症状も軽快します。ただし、薬剤の投与は7~10日継続します。
細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。
薮チフス(ツツガムシ病)の予防ワクチンはないため、ダニ類のツツガムシの幼虫に刺されないことが、唯一の感染予防法です。
そのポイントは、レジャーや作業などで、草むらや薮などツツガムシの幼虫が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。山野などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。
ツツガムシの幼虫に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処理してもらうことです。
薮(やぶ)チフスとは、細菌のリケッチアを保有するダニ類のツツガムシの幼虫に刺されることによって、引き起こされる感染症。一般にはツツガムシ病と呼ばれます。
日本海側の河川領域にいるネズミに寄生するアカツツガムシの幼虫、日本海側の山林にいるネズミに寄生するフトゲツツガムシの幼虫、太平洋側の山林にいるネズミに寄生するタテツツガムシの幼虫に刺されることによって、薮チフスは引き起こされます。
かつては秋田県の雄物川、山形県の最上川、新潟県の阿賀野川、信濃川などの河川敷で、夏季にアシ原に多くみられるアカツツガムシの幼虫に刺されて感染する風土病(古典型薮チフス)でしたが、戦後はフトゲツツガムシ、タテツツガムシの幼虫に刺されて感染する新型薮チフスの出現により、北海道、沖縄県など一部の地域を除いて、全国で発症がみられるようになりました。
感染しやすい時期は、フトゲツツガムシの活動する春から初夏と、タテツツガムシおよびフトゲツツガムシの活動する秋から初冬の2つの時期で、近年は毎年500人程度の報告があります。1950年に伝染病予防法による薮チフス(ツツガムシ病)の届け出が始まり、1999年4月からは感染症法により4類感染症全数把握疾患として届け出が継続されています。
ツツガムシの生息場所は、草むら、藪、林の土の中。ツツガムシの幼虫は成長過程で一度地表に出て、アカネズミ、ハタネズミといった野ネズミなどの動物に吸着して組織液を吸います。その後は、土壌中で昆虫の卵などを摂食して生活します。
人間は、リケッチアを保有するツツガムシの幼虫に刺され、吸着されると、皮膚から感染します。潜伏期間は、5~14日で、人から人への感染はありません。
よく刺される部位は、頭髪部、わきの下、腰など。刺し口は、刺されてから2~3日で赤くはれ、4~5日で水疱(すいほう)、その後潰瘍(かいよう)となり、10日目ごろには周囲が赤い陥没した黒いかさぶたとなります。
刺されてから10日目前後から、全身の倦怠(けんたい)感、手足の痛み、頭痛を伴う発熱が起こります。高熱は1~2週間続き、発疹(はっしん)は2~5日間に現れます。径5mm前後、紅斑性、丘疹性で全身に出現しますが、胸、腹部、背部に多くみられます。7日程度で、発疹は消退に向かいます。
刺し口近くのリンパ節のはれは、ほとんどでみられ圧痛を伴います。全身のリンパ節のはれも、約半数にみられます。肝臓が大きくなる肝腫大と脾(ひ)臓が大きくなる脾腫大は通常、軽度です。
重症例では、播種(はしゅ)性血管内血液凝固症候群(DIC)による出血傾向、髄膜刺激症状、昏睡(こんすい)やけいれんなどの中枢神経症状、肝障害による黄疸(おうだん)、末梢(まっしょう)血管抵抗の弱まりや心筋障害による血圧低下、間質性肺炎や胸膜炎などを合併します。
重症例で治療が遅れると、多臓器不全で死亡することもあります。
発熱、刺し口、発疹があって、感染する可能性のある場所への立ち入り、発症した時期から薮チフスの可能性を疑ったら、直ちに治療を受けるべきです。発症後7日以後になると重症化の傾向が高いので、早期診断、早期治療が重要となるからです。
薮チフスの検査と診断と治療
内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇がほとんどの例にみられます。
確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。検査所見は日本紅斑熱のものと類似するため、鑑別が必要となります。
内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、テトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を第一選択として、点滴静脈内注射か内服で使用します。そのほか、クロラムフェニコールも使用されます。通常1~2日で速やかに解熱し、症状も軽快します。ただし、薬剤の投与は7~10日継続します。
細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。
薮チフス(ツツガムシ病)の予防ワクチンはないため、ダニ類のツツガムシの幼虫に刺されないことが、唯一の感染予防法です。
そのポイントは、レジャーや作業などで、草むらや薮などツツガムシの幼虫が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。山野などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。
ツツガムシの幼虫に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処理してもらうことです。
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■用語 薬剤起因性腸炎 [用語(や)]
抗生剤などの薬剤の副作用で発生する急性腸炎
薬剤起因性腸炎とは、疾患の治療のために投与された薬剤の副作用で発生する急性腸炎。薬剤性腸炎とも呼ばれます。
原因となる薬剤は、一般に抗生剤(抗生物質)が多く、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤などでも起こります。抗生剤によるものは抗生剤起因性腸炎とも呼ばれ、それらはさらに偽膜性腸炎と急性出血性腸炎に大別されています。非ステロイド性消炎鎮痛剤では胃潰瘍(かいよう)がよく起きますが、まれに大腸炎が起きます。
偽膜性腸炎は、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れる急性腸炎。偽膜とは、大腸粘膜に発生するうみの塊です。
基礎疾患のある高齢者に多くみられ、抗生剤を投与された5〜10日後に、水のような便が出る下痢に見舞われます。大量の粘液を含んだ便が出たり、その中に血液が混じっていることもあります。腹鳴、下腹の鈍痛、腹部膨満感、中等度の発熱も伴います。ひどい場合には、複数の症状を起こし、ショック状態になることもあります。
偽膜性腸炎を起こす薬剤としては抗生剤が最も多く、そのほか非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。
原因としては、疾患に対する治療を目的に投与された抗生剤、特にセフェム系やリンコマイシン系の抗生剤がその目的に反する副作用として、腸内細菌のバランスの乱れを引き起こし、ディフィシル菌が異常増殖し、それが作る毒素が大腸粘膜の循環障害を引き起こすとされています。
抗生剤は微生物を原料にして作られた薬剤で、副作用は少ないのですが、人によってはアレルギー反応が起きたり、発疹(はっしん)、のどの渇き、めまいなどの症状が現れることもあります。
一方、急性出血性腸炎も、偽膜性腸炎と同じく、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れます。急性出血性大腸炎とも呼ばれます。
高齢者よりも若年者から中年者に多くみられ、風邪などの治療のためにペニシリン系抗生剤を投与された3~4日後に突然、激しい腹痛と血性下痢に見舞われます。血液の混じった下痢が頻回に渡って現れ、ちょうどトマトジュースのように見える便が出ます。
ただ、大腸のびらんの程度が低い場合では、下痢ないし軟便で下血を伴わないこともあり、腹痛も軽微なことがあります。
合成ペニシリンが主な起因薬剤とされていますが、セフェム系や他の抗生剤も誘因となり得ます。抗生剤のほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。
急性出血性腸炎のメカニズムは、いまだに解明されていません。疾患に対する治療を目的に投与されたペニシリン系抗生剤が、副作用として何らかのアレルギー反応を引き起こし、大腸の血流を障害してびらんや潰瘍などの炎症を引き起こし、腹痛、下痢、下血を起こすと見なされています。
何か薬剤を服用している期間中に、思い当たる原因もなく腹痛や下痢、発熱が続くような症状が現れたら、内科、消化器科、胃腸科の医師に相談します。
薬剤起因性腸炎の検査と診断と治療
医師による偽膜性腸炎の診断では、まず、抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。次いで、便中のディフィシル菌毒素の検出や便の培養検査を行います。
大腸内視鏡検査を行うと、大腸粘膜に、黄白色で半球状に隆起したうみの固まりである偽膜が多発しています。偽膜が互いに融合して、地図のような形になっているものもあります。この変化は直腸下端から始まることが多いので、前処置なしに検査できる直腸鏡でも診断することができます。ひどい場合には、偽膜が全大腸に及んでいることもあります。
治療はまず、投与中の抗生物質をすぐに中止すること。次いで、ディフィシル菌に著しい効果を示すバンコマイシンや、メトロニダゾール(フラジール)という抗生剤1〜2グラムを5日間投与しますが、1〜2週間で病状は改善します。
時には、内視鏡検査を行うだけで、改善するケースもあります。これは検査によって大腸へ空気が注入されることが、細菌の増殖に何らかの影響を与えるためではないかと考えられています。
医師による急性出血性腸炎の診断では、偽膜性腸炎と同じく、まず抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。偽膜性大腸炎と違い、抗生剤の服用後2、3日と早い段階で起きやすく、投与経路では経口投与の場合が多いようです。
次いで、大腸内視鏡検査を行うと、横行結腸を中心にS状結腸から結腸の粘膜に発赤、びらんが認められ、潰瘍が認められることもあります。血液検査では、白血球の増加などを認めるものの特徴的ではありません。糞便(ふんべん)検査では、クレブシエラ・オキシトカ菌が高率に検出されます。この菌の毒素産生は認められませんが、何らかの関与が考えられています。
抗生剤が原因となった急性出血性腸炎は、その抗生剤を中止することが第一の治療法です。脱水を認めれば、輸液を行います。下痢がひどい場合も、腸の安静を保つために、点滴による栄養の補給を行います。
そのほか、症状に応じて、腸の動きを抑えて痛みを和らげる作用のある鎮痙(ちんけい)剤、腸内細菌のバランスを整える整腸剤などの投与を行います。これらの対症療法だけで急速に症状が改善し、2〜4週間ぐらいで治癒します。
ただし、薬剤が原因であると考えられる場合でも、自分だけの判断で服用を中止せず、担当の医師の指示に従うことが大切です。原因となる薬剤は、一般にペニシリン系抗生剤が多いもの、ほかの抗生剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤などでも起こることがあるからです。
薬剤起因性腸炎とは、疾患の治療のために投与された薬剤の副作用で発生する急性腸炎。薬剤性腸炎とも呼ばれます。
原因となる薬剤は、一般に抗生剤(抗生物質)が多く、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤などでも起こります。抗生剤によるものは抗生剤起因性腸炎とも呼ばれ、それらはさらに偽膜性腸炎と急性出血性腸炎に大別されています。非ステロイド性消炎鎮痛剤では胃潰瘍(かいよう)がよく起きますが、まれに大腸炎が起きます。
偽膜性腸炎は、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れる急性腸炎。偽膜とは、大腸粘膜に発生するうみの塊です。
基礎疾患のある高齢者に多くみられ、抗生剤を投与された5〜10日後に、水のような便が出る下痢に見舞われます。大量の粘液を含んだ便が出たり、その中に血液が混じっていることもあります。腹鳴、下腹の鈍痛、腹部膨満感、中等度の発熱も伴います。ひどい場合には、複数の症状を起こし、ショック状態になることもあります。
偽膜性腸炎を起こす薬剤としては抗生剤が最も多く、そのほか非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。
原因としては、疾患に対する治療を目的に投与された抗生剤、特にセフェム系やリンコマイシン系の抗生剤がその目的に反する副作用として、腸内細菌のバランスの乱れを引き起こし、ディフィシル菌が異常増殖し、それが作る毒素が大腸粘膜の循環障害を引き起こすとされています。
抗生剤は微生物を原料にして作られた薬剤で、副作用は少ないのですが、人によってはアレルギー反応が起きたり、発疹(はっしん)、のどの渇き、めまいなどの症状が現れることもあります。
一方、急性出血性腸炎も、偽膜性腸炎と同じく、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れます。急性出血性大腸炎とも呼ばれます。
高齢者よりも若年者から中年者に多くみられ、風邪などの治療のためにペニシリン系抗生剤を投与された3~4日後に突然、激しい腹痛と血性下痢に見舞われます。血液の混じった下痢が頻回に渡って現れ、ちょうどトマトジュースのように見える便が出ます。
ただ、大腸のびらんの程度が低い場合では、下痢ないし軟便で下血を伴わないこともあり、腹痛も軽微なことがあります。
合成ペニシリンが主な起因薬剤とされていますが、セフェム系や他の抗生剤も誘因となり得ます。抗生剤のほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。
急性出血性腸炎のメカニズムは、いまだに解明されていません。疾患に対する治療を目的に投与されたペニシリン系抗生剤が、副作用として何らかのアレルギー反応を引き起こし、大腸の血流を障害してびらんや潰瘍などの炎症を引き起こし、腹痛、下痢、下血を起こすと見なされています。
何か薬剤を服用している期間中に、思い当たる原因もなく腹痛や下痢、発熱が続くような症状が現れたら、内科、消化器科、胃腸科の医師に相談します。
薬剤起因性腸炎の検査と診断と治療
医師による偽膜性腸炎の診断では、まず、抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。次いで、便中のディフィシル菌毒素の検出や便の培養検査を行います。
大腸内視鏡検査を行うと、大腸粘膜に、黄白色で半球状に隆起したうみの固まりである偽膜が多発しています。偽膜が互いに融合して、地図のような形になっているものもあります。この変化は直腸下端から始まることが多いので、前処置なしに検査できる直腸鏡でも診断することができます。ひどい場合には、偽膜が全大腸に及んでいることもあります。
治療はまず、投与中の抗生物質をすぐに中止すること。次いで、ディフィシル菌に著しい効果を示すバンコマイシンや、メトロニダゾール(フラジール)という抗生剤1〜2グラムを5日間投与しますが、1〜2週間で病状は改善します。
時には、内視鏡検査を行うだけで、改善するケースもあります。これは検査によって大腸へ空気が注入されることが、細菌の増殖に何らかの影響を与えるためではないかと考えられています。
医師による急性出血性腸炎の診断では、偽膜性腸炎と同じく、まず抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。偽膜性大腸炎と違い、抗生剤の服用後2、3日と早い段階で起きやすく、投与経路では経口投与の場合が多いようです。
次いで、大腸内視鏡検査を行うと、横行結腸を中心にS状結腸から結腸の粘膜に発赤、びらんが認められ、潰瘍が認められることもあります。血液検査では、白血球の増加などを認めるものの特徴的ではありません。糞便(ふんべん)検査では、クレブシエラ・オキシトカ菌が高率に検出されます。この菌の毒素産生は認められませんが、何らかの関与が考えられています。
抗生剤が原因となった急性出血性腸炎は、その抗生剤を中止することが第一の治療法です。脱水を認めれば、輸液を行います。下痢がひどい場合も、腸の安静を保つために、点滴による栄養の補給を行います。
そのほか、症状に応じて、腸の動きを抑えて痛みを和らげる作用のある鎮痙(ちんけい)剤、腸内細菌のバランスを整える整腸剤などの投与を行います。これらの対症療法だけで急速に症状が改善し、2〜4週間ぐらいで治癒します。
ただし、薬剤が原因であると考えられる場合でも、自分だけの判断で服用を中止せず、担当の医師の指示に従うことが大切です。原因となる薬剤は、一般にペニシリン系抗生剤が多いもの、ほかの抗生剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤などでも起こることがあるからです。
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