■用語 神経内分泌腫瘍 [用語(さ行)]
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神経内分泌腫瘍(しゅよう)(Neuro-Endocrine Tumor:NET)とは、人体に広く分布する神経内分泌細胞から発生する、非がん性ないしがん性の腫瘍。消化管内分泌細胞腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍、カルチノイドと呼ばれることもあります。
近年、患者数が増加していることが報告されています。一般的には、進行が遅く、予後は良好であるといわれていたため、カルチノイド(がんもどき)とも呼ばれてきましたが、基本的には悪性化(転移)することが多いため、近年では神経内分泌腫瘍(NET)という疾患名が使われるようになりました。
神経内分泌腫瘍は通常、胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸などの消化管の神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)の神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)でも発生します。
がん性の神経内分泌腫瘍は、一般のがんに比べて進行はゆっくりで、長い経過をたどります。全く症状を示さない非がん性の神経内分泌腫瘍も、発生します。
この神経内分泌腫瘍は、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは比較的おとなしい神経内分泌腫瘍(NET G1/ NET G2)に分類されます。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは活発な神経内分泌腫瘍(NEC)に分類されます。
比較的おとなしい神経内分泌腫瘍は非がん性、活発な神経内分泌腫瘍はがん性と見なされます。頻度的には、比較的おとなしい神経内分泌腫瘍のほうが多くみられます。
消化管に発生した神経内分泌腫瘍は、セロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を産生します。膵臓、肺、気管支、胸腺などに発生した神経内分泌腫瘍は、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、ガストリンなどを産生します。
神経内分泌腫瘍が消化管や膵臓にできると、それが産生する物質は血液中に放出され、直接肝臓の門脈に入り、肝臓の酵素によって破壊されます。そのため、消化管に神経内分泌腫瘍ができても、一般的には肝臓に広がらなければ症状は現れません。
肝臓に広がった場合は、肝臓はこれらのホルモン様物質が全身を循環し始める前に破壊できなくなります。腫瘍が放出する物質によって、人体に強い影響を与える種々のホルモン症状が現れます。また、肺、精巣、卵巣に腫瘍ができた場合も、産生するホルモン様物質が肝臓を迂回(うかい)して血流に乗り、広く全身を循環するために種々のホルモン症状が現れます。
神経内分泌腫瘍のある人の多くは、他の腸管腫瘍に似た症状を示し、主に締め付けられるような腹部の痛みと、閉塞(へいそく)の結果として便通の変化が現れます。
ホルモン症状は腫瘍がある人の10パーセント以下に現れ、顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状です。血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることがあります。
セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。
ただし、直腸にできた神経内分泌腫瘍では、このようなホルモン症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。
無症状の直腸にできた神経内分泌腫瘍は、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。
また、末梢(まっしょう)の肺に発生した神経内分泌腫瘍も、ほとんど症状が現れず、健康診断やほかの病気で撮影した胸部レントゲンやCT検査などで、偶然発見されるケースが多いのが現状です。
種々のホルモン症状が現れた場合は、消化器科、外科の医師を受診することが勧められます。主症状が腹痛なので、内科を受診することがあるかもしれませんが、それでも問題はありません。気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れ場合は、呼吸器科、内科の医師をを受診することが勧められます。
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消化器科、呼吸器科などの医師による診断では、症状から神経内分泌腫瘍(NET)が疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。
この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。
腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査が有効な検査です。神経内分泌腫瘍の多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。
CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。腫瘍の位置の診査手術が必要な場合もあります。
腫瘍が胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸、肺など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ10〜15年生存することがしばしばあります。
進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。
ホルモン症状による顔や頸の紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。
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