■用語 安静時狭心症 [用語(あ)]
就寝中など比較的安静にしている際に起こる狭心症
安静時狭心症とは、就寝中や早朝など比較的安静にしている際に発生する狭心症。
狭心症は、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。
狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、一般的にみられる労作(ろうさ)性狭心症と、安静時に発生する安静時狭心症の2つです。
安静時狭心症は、心不全などを合併することも多く、一般的にみられる労作性狭心症よりも重症です。
労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで心筋が一時的な酸素欠乏になって起こるものです。
安静時狭心症の中には、労作性狭心症のように冠動脈の狭窄を伴うものと伴わないものがあります。
冠動脈の狭窄がないにもかかわらず狭心症が起こる機序としては、冠攣縮(かんれんしゅく)という現象が関与すると考えられています。冠攣縮では、ストレスや迷走神経の刺激などによって冠動脈がけいれんを起こし、内腔(ないくう)が狭くなるために血流が低下して狭心症が起こります。冠攣縮は運動や動作とは無関係に起こるために、安静時狭心症の大部分は冠攣縮による狭心症といわれています。
冠攣縮による狭心症のうち、深夜から早朝にかけて就寝中に発生し、心電図波形のうちで、ST部分が通常より著名に上昇した状態を来たすものを異型狭心症と呼んでいます。
異型狭心症は日本人によくみられ、血管攣縮性狭心症とも呼ばれ、冠動脈に明らかな動脈硬化はないのに、血管がけいれんして内腔が極端に狭くなるために胸痛発作が起こります。
深夜から早朝の就寝中や安静時に胸痛発作が起こりやすいのが特徴ですが、早朝の運動時にも起こり、喫煙、過呼吸、ストレス、不眠やアルコール過飲が胸痛発作の引き金になります。胸痛に冷汗や嘔吐(おうと)、失神を伴う時があり、重症の不整脈や心筋梗塞(こうそく)を起こして突然死することもあります。
安静時狭心症の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科の医師による診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、心臓超音波検査(心エコー)、心臓カテーテル検査、薬剤負荷カテーテル検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。
ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、自覚症状のない血管攣縮が出ていないかなどがわかります。
心臓超音波検査は、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価できます。
心臓カテーテル検査は、カテーテルという細長い管を腕や大腿(だいたい)の動脈より挿入して血管を通して心臓まで到達させ、さらに大動脈起始部より出ている冠動脈にカテーテルを挿入して造影剤を注入することで、冠動脈の状態の詳細を把握することができます。
薬剤負荷カテーテル検査は、冠動脈造影剤に加え、冠動脈のけいれんを誘発するアセチルコリン、エルゴノビンといった薬剤を直接冠動脈に注入し、症状、心電図変化、血管造影所見から診断を行います。診断制度は80~90%と高い一方、攣縮の活動性の低い人では誘発されないこともあります。また、攣縮の活動性には日内変動があり、一般的に深夜から早朝に生じることが多いため、朝一番に施行することが多くなります。
循環器科、循環器内科の医師による治療では、薬剤負荷カテーテル検査や発作時心電図により異型狭心症と診断された場合、原則として薬物治療となります。カルシウム拮抗(きっこう)薬、ニトログリセリンや硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、ニコランジルなどの冠血管拡張剤が主体です。
安静時狭心症の中で冠動脈の狭窄を伴う場合は、経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス手術などの外科的治療も行われます。
また、日常生活でも血管攣縮の誘発因子を避けることが必要です。誘発因子として、心身の疲労、ストレス、喫煙、精神的興奮、寒冷、過換気、女性ホルモン欠乏、アルコールなどがあります。
安静時狭心症のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。
血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。
安静時狭心症とは、就寝中や早朝など比較的安静にしている際に発生する狭心症。
狭心症は、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈の狭窄(きょうさく)などによって、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になった状態のことです。
狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、一般的にみられる労作(ろうさ)性狭心症と、安静時に発生する安静時狭心症の2つです。
安静時狭心症は、心不全などを合併することも多く、一般的にみられる労作性狭心症よりも重症です。
労作狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、坂道や階段の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となり、心臓の負担が増すことで心筋が一時的な酸素欠乏になって起こるものです。
安静時狭心症の中には、労作性狭心症のように冠動脈の狭窄を伴うものと伴わないものがあります。
冠動脈の狭窄がないにもかかわらず狭心症が起こる機序としては、冠攣縮(かんれんしゅく)という現象が関与すると考えられています。冠攣縮では、ストレスや迷走神経の刺激などによって冠動脈がけいれんを起こし、内腔(ないくう)が狭くなるために血流が低下して狭心症が起こります。冠攣縮は運動や動作とは無関係に起こるために、安静時狭心症の大部分は冠攣縮による狭心症といわれています。
冠攣縮による狭心症のうち、深夜から早朝にかけて就寝中に発生し、心電図波形のうちで、ST部分が通常より著名に上昇した状態を来たすものを異型狭心症と呼んでいます。
異型狭心症は日本人によくみられ、血管攣縮性狭心症とも呼ばれ、冠動脈に明らかな動脈硬化はないのに、血管がけいれんして内腔が極端に狭くなるために胸痛発作が起こります。
深夜から早朝の就寝中や安静時に胸痛発作が起こりやすいのが特徴ですが、早朝の運動時にも起こり、喫煙、過呼吸、ストレス、不眠やアルコール過飲が胸痛発作の引き金になります。胸痛に冷汗や嘔吐(おうと)、失神を伴う時があり、重症の不整脈や心筋梗塞(こうそく)を起こして突然死することもあります。
安静時狭心症の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科の医師による診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、心臓超音波検査(心エコー)、心臓カテーテル検査、薬剤負荷カテーテル検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。
ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、自覚症状のない血管攣縮が出ていないかなどがわかります。
心臓超音波検査は、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価できます。
心臓カテーテル検査は、カテーテルという細長い管を腕や大腿(だいたい)の動脈より挿入して血管を通して心臓まで到達させ、さらに大動脈起始部より出ている冠動脈にカテーテルを挿入して造影剤を注入することで、冠動脈の状態の詳細を把握することができます。
薬剤負荷カテーテル検査は、冠動脈造影剤に加え、冠動脈のけいれんを誘発するアセチルコリン、エルゴノビンといった薬剤を直接冠動脈に注入し、症状、心電図変化、血管造影所見から診断を行います。診断制度は80~90%と高い一方、攣縮の活動性の低い人では誘発されないこともあります。また、攣縮の活動性には日内変動があり、一般的に深夜から早朝に生じることが多いため、朝一番に施行することが多くなります。
循環器科、循環器内科の医師による治療では、薬剤負荷カテーテル検査や発作時心電図により異型狭心症と診断された場合、原則として薬物治療となります。カルシウム拮抗(きっこう)薬、ニトログリセリンや硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、ニコランジルなどの冠血管拡張剤が主体です。
安静時狭心症の中で冠動脈の狭窄を伴う場合は、経皮的冠動脈形成術、冠動脈バイパス手術などの外科的治療も行われます。
また、日常生活でも血管攣縮の誘発因子を避けることが必要です。誘発因子として、心身の疲労、ストレス、喫煙、精神的興奮、寒冷、過換気、女性ホルモン欠乏、アルコールなどがあります。
安静時狭心症のリスクを低めるには、食事が役立ちます。青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。
血管の弾力性を保つ蛋白(たんぱく)質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。
■用語 アザラシ肢症 [用語(あ)]
手や足が直接胴体に付いているため、アザラシのように見える先天性奇形症
アザラシ肢症とは、四肢、特に上肢の長骨がなかったり、短かったりして、手または足が直接胴体に付いているため、外観がアザラシのように見えることから名付けられた先天性奇形症の一つ。サリドマイド胎芽症の一種で、海豹肢症とも呼ばれ、上肢が全くない場合は無肢症とも呼ばれます。
そのほか、心臓や消化器の配置異常などの広範囲の異常を引き起こしていることもあります。原因としてはさまざまなものがあると考えられますが、ヨーロッパで1950年代後半、日本で1960年代前半に大量発症したケースは、ドイツで創製されたサリドマイドによる薬害が指摘されています。
1950年代後半から1960年代前半には、もともと抗てんかん薬として使用されていたサリドマイドが、妊婦のつわりや不眠症の治療薬として用いられており、妊婦が妊娠初期に服用することによる副作用である催奇性により、胎児に影響が出たものとされています。
日本では1962年9月になってサリドマイドの販売が停止されたものの、これによるとみられる奇形児は死亡児を含めて約1200人。全国の家族が国と製薬会社に損害賠償を要求する訴訟を起こし、1972年までにサリドマイド症児として309人が認定され、1人当たり2800万~4000万円の賠償金の支払いがなされました。
アザラシ肢症は、サリドマイドの創製以前から報告されているものの、サリドマイド以外の原因についてはいまだ解明されていません。
サリドマイドを創製したのは、西ドイツ(現在のドイツ)の製薬会社であるグリュネンタール社。サリドマイドは、1957年に睡眠薬「コンテルガン」として世界に向けて売り出され、胃腸薬としても有効なことから、妊婦がつわり防止や眠れない時に服用していました。
もともとこの非バルビツール酸系の化合物は、合成実験の際に用いる試薬の副産物として、偶然にできたものでした。睡眠薬としての効果は良好で、即効性があり、麻酔のようにクラクラする感じも、皮膚のかゆみなどもありません。それまでの睡眠薬は、連用により危険を伴う副作用が出現するのに対し、サリドマイドにはそういった副作用がなく、気軽に使える新薬として、「妊婦や小児でも安心して飲める安全無害な薬」と宣伝されました。サリドマイドは、致死量が決定できないくらい急性毒性が低かったため、睡眠薬による自殺も防止できるともてはやされ、世界46カ国で発売されました。
日本では、大日本製薬(現在の大日本住友製薬)が薬学雑誌に掲載されたグリュネンタール社の論文に着想を得て、独自の製法を用いて合成を行い、製法特許を出願しました。そして、わずか1年足らずで厚生省(現在の厚生労働省)の承認を得て、1958年1月から睡眠薬「イソミン」として発売しました。大日本製薬以外にも、国内では10社を超える製薬会社がサリドマイドを販売していましたが、そのシェアの9割以上は大日本製薬のイソミンが占めていました。
1959年8月には大日本製薬が胃腸薬「プロバンM」にサリドマイドを配合して販売し、妊婦のつわり防止に使用されました。
しかし、やがてサリドマイドを服用した妊婦から、新生児が発育不全で、手足が欠損したまま産まれてくるなどの異常が相次ぎました。サリドマイドには、あらゆる動物の胎児ばかりか、植物の胚にまで奇形を生じさせるほどの強い催奇性があったのですが、妊娠中の動物を使った実験は行われていなかったのです。
サリドマイドを妊婦が服用すると、母胎の中にいる胎児の手足の成長を促す一連の蛋白質(たんぱくしつ)の機能が阻害され、左右対称性に上肢があっても短い、あるいは小さな手が肩甲骨から直接出ているというような、サリドマイド胎芽症の一種であるアザラシ肢症となった重度の奇形児が産まれてしまうようになります。
このアザラシ肢症になった新生児の多くは、指の付け根の筋肉が未発達で、隣の指と結合していたり、手足が内側に反っていたりしました。さらに、サリドマイド胎芽症の新生児には、難聴や外耳奇形、心臓や消化器の配置異常が生じていました。
妊娠の初期3カ月間は、胎児の体の各器官が作られる時期で、この時期にサリドマイドを服用すると、胎児の体の発達を妨げます。どの部分の発達が妨げられるかは、薬を服用する時期によって異なり、それによってさまざまな器官に障害が生じます。
手足の障害にも、さまざまなタイプがあります。手については、上肢が全くない無肢症、肩から直接手が出ていて指の本数が少ないアザラシ肢症(フォコメリア)、上肢が短い 、 肘(ひじ)から先の骨や親指が欠損している、親指を始めとした指の発達が不十分などの症状がみられます。足については、下肢奇形、股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)が生じます。
耳と顔面の障害には、耳が全くなく高度の難聴を伴う無耳症、耳が小さく高度の難聴を伴う小耳症、顔の表情が作れずコミュニケーションが難しい顔面神経麻痺、悲しい時に涙が出ず物を食べた時に涙が出るワニの涙症候群、眼球の運動が制限されるデュアン症候群が生じます。
心臓や消化器の奇形としては、心臓疾患、消化器の閉塞(へいそく)・狭窄(きょうさく)、ヘルニア、胆嚢(たんのう)や虫垂の欠損が生じます。
一般に無耳症は妊娠早期に、上肢障害はこれより少し遅れ、下肢障害はさらに遅い時期に発生することが知られています。
1950年代後半から1960年代前半には、妊婦が服用した場合にサリドマイド胎芽症の新生児が生まれるという副作用があり得るという認識が薄かったため、サリドマイドの薬害は全世界におよびました。
日本におけるサリドマイド胎芽症の新生児は、推定約1200人といわれ、世界全体では約7000人。もちろん、病院で処方されたサリドマイドだけでなく、薬局で市販されているサリドマイドの服用によって生じた奇形児も多くいました。薬局で市販されていたサリドマイドについては、患者の母親が服用した事実を証明することができず、また因果関係を認められなかった軽症例が多数いたとされています。さらに、大半が胎児期に死亡し、死産となったので、実際には統計の数倍以上の被害だったとされています。
サリドマイドは日本では1962年9月に販売停止されましたが、現在はハンセン病の2型らい反応の治療薬、多発性骨髄腫(しゅ)の治療薬として世界で用いられています。日本では使用に当たって、「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守が求められています。
アザラシ肢症とは、四肢、特に上肢の長骨がなかったり、短かったりして、手または足が直接胴体に付いているため、外観がアザラシのように見えることから名付けられた先天性奇形症の一つ。サリドマイド胎芽症の一種で、海豹肢症とも呼ばれ、上肢が全くない場合は無肢症とも呼ばれます。
そのほか、心臓や消化器の配置異常などの広範囲の異常を引き起こしていることもあります。原因としてはさまざまなものがあると考えられますが、ヨーロッパで1950年代後半、日本で1960年代前半に大量発症したケースは、ドイツで創製されたサリドマイドによる薬害が指摘されています。
1950年代後半から1960年代前半には、もともと抗てんかん薬として使用されていたサリドマイドが、妊婦のつわりや不眠症の治療薬として用いられており、妊婦が妊娠初期に服用することによる副作用である催奇性により、胎児に影響が出たものとされています。
日本では1962年9月になってサリドマイドの販売が停止されたものの、これによるとみられる奇形児は死亡児を含めて約1200人。全国の家族が国と製薬会社に損害賠償を要求する訴訟を起こし、1972年までにサリドマイド症児として309人が認定され、1人当たり2800万~4000万円の賠償金の支払いがなされました。
アザラシ肢症は、サリドマイドの創製以前から報告されているものの、サリドマイド以外の原因についてはいまだ解明されていません。
サリドマイドを創製したのは、西ドイツ(現在のドイツ)の製薬会社であるグリュネンタール社。サリドマイドは、1957年に睡眠薬「コンテルガン」として世界に向けて売り出され、胃腸薬としても有効なことから、妊婦がつわり防止や眠れない時に服用していました。
もともとこの非バルビツール酸系の化合物は、合成実験の際に用いる試薬の副産物として、偶然にできたものでした。睡眠薬としての効果は良好で、即効性があり、麻酔のようにクラクラする感じも、皮膚のかゆみなどもありません。それまでの睡眠薬は、連用により危険を伴う副作用が出現するのに対し、サリドマイドにはそういった副作用がなく、気軽に使える新薬として、「妊婦や小児でも安心して飲める安全無害な薬」と宣伝されました。サリドマイドは、致死量が決定できないくらい急性毒性が低かったため、睡眠薬による自殺も防止できるともてはやされ、世界46カ国で発売されました。
日本では、大日本製薬(現在の大日本住友製薬)が薬学雑誌に掲載されたグリュネンタール社の論文に着想を得て、独自の製法を用いて合成を行い、製法特許を出願しました。そして、わずか1年足らずで厚生省(現在の厚生労働省)の承認を得て、1958年1月から睡眠薬「イソミン」として発売しました。大日本製薬以外にも、国内では10社を超える製薬会社がサリドマイドを販売していましたが、そのシェアの9割以上は大日本製薬のイソミンが占めていました。
1959年8月には大日本製薬が胃腸薬「プロバンM」にサリドマイドを配合して販売し、妊婦のつわり防止に使用されました。
しかし、やがてサリドマイドを服用した妊婦から、新生児が発育不全で、手足が欠損したまま産まれてくるなどの異常が相次ぎました。サリドマイドには、あらゆる動物の胎児ばかりか、植物の胚にまで奇形を生じさせるほどの強い催奇性があったのですが、妊娠中の動物を使った実験は行われていなかったのです。
サリドマイドを妊婦が服用すると、母胎の中にいる胎児の手足の成長を促す一連の蛋白質(たんぱくしつ)の機能が阻害され、左右対称性に上肢があっても短い、あるいは小さな手が肩甲骨から直接出ているというような、サリドマイド胎芽症の一種であるアザラシ肢症となった重度の奇形児が産まれてしまうようになります。
このアザラシ肢症になった新生児の多くは、指の付け根の筋肉が未発達で、隣の指と結合していたり、手足が内側に反っていたりしました。さらに、サリドマイド胎芽症の新生児には、難聴や外耳奇形、心臓や消化器の配置異常が生じていました。
妊娠の初期3カ月間は、胎児の体の各器官が作られる時期で、この時期にサリドマイドを服用すると、胎児の体の発達を妨げます。どの部分の発達が妨げられるかは、薬を服用する時期によって異なり、それによってさまざまな器官に障害が生じます。
手足の障害にも、さまざまなタイプがあります。手については、上肢が全くない無肢症、肩から直接手が出ていて指の本数が少ないアザラシ肢症(フォコメリア)、上肢が短い 、 肘(ひじ)から先の骨や親指が欠損している、親指を始めとした指の発達が不十分などの症状がみられます。足については、下肢奇形、股関節脱臼(こかんせつだっきゅう)が生じます。
耳と顔面の障害には、耳が全くなく高度の難聴を伴う無耳症、耳が小さく高度の難聴を伴う小耳症、顔の表情が作れずコミュニケーションが難しい顔面神経麻痺、悲しい時に涙が出ず物を食べた時に涙が出るワニの涙症候群、眼球の運動が制限されるデュアン症候群が生じます。
心臓や消化器の奇形としては、心臓疾患、消化器の閉塞(へいそく)・狭窄(きょうさく)、ヘルニア、胆嚢(たんのう)や虫垂の欠損が生じます。
一般に無耳症は妊娠早期に、上肢障害はこれより少し遅れ、下肢障害はさらに遅い時期に発生することが知られています。
1950年代後半から1960年代前半には、妊婦が服用した場合にサリドマイド胎芽症の新生児が生まれるという副作用があり得るという認識が薄かったため、サリドマイドの薬害は全世界におよびました。
日本におけるサリドマイド胎芽症の新生児は、推定約1200人といわれ、世界全体では約7000人。もちろん、病院で処方されたサリドマイドだけでなく、薬局で市販されているサリドマイドの服用によって生じた奇形児も多くいました。薬局で市販されていたサリドマイドについては、患者の母親が服用した事実を証明することができず、また因果関係を認められなかった軽症例が多数いたとされています。さらに、大半が胎児期に死亡し、死産となったので、実際には統計の数倍以上の被害だったとされています。
サリドマイドは日本では1962年9月に販売停止されましたが、現在はハンセン病の2型らい反応の治療薬、多発性骨髄腫(しゅ)の治療薬として世界で用いられています。日本では使用に当たって、「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守が求められています。
☐用語 アロマターゼ欠損症 [用語(あ)]
遺伝性の原因により、エストロゲンが働かない疾患
アロマターゼ欠損症とは、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
アロマターゼ欠損症とは、遺伝性の原因により、女性ホルモンの一つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)が働かない疾患。
常染色体劣性遺伝性の単一遺伝子病で、男性ホルモンの一つであるテストステロンをエストロゲン(卵胞ホルモン)に変換する酵素であるアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異により発症します。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、胎盤アロマターゼ欠損症により新生児の時から外性器が不明瞭(めいりょう)に男性化し、女性仮性半陰陽と診断されることがあります。2~4歳の女児では、エストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣の一部にできた袋状の腫瘍(しゅよう)内に液体がたまる卵巣嚢腫(のうしゅ)(未破裂卵胞)が出現します。
思春期には、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が高く、エストロゲン(卵胞ホルモン)が低くなり、第2次性徴が起こリません。テストステロンが増加し、徐々に男性化します。骨減少症、骨粗鬆(こつそしょう)症を引き起こすこともあります。
一方、アロマターゼ欠損症を発症した男性は、正常な性分化、正常な思春期を迎えますが、エストロゲン(卵胞ホルモン)の低下のため、類宦官(るいかんがん)体形という子供のような体形がみられ、骨端線の閉鎖不全によって大人になってもどんどん骨が成長し続け、極めて身長が高くなります。性欲減退が著しく、骨減少症、骨粗鬆症、インスリン抵抗性(耐糖能異常)になります。
アロマターゼ欠損症の発生はまれで、かつ新しい疾患概念であるため、専門に診断や治療を行う診療科はなく、小児科、小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科など複数の診療科で別々に取り扱われています。
アロマターゼ欠損症を発症した女性は、出生時に医師や看護師によって女性仮性半陰陽が発見されることが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあります。思春期になって女子のはずなのに初経(初潮)がなかったり、陰核の肥大や多毛、声の低下などの男性化が起こってくる場合には、できるだけ早く小児科、あるいは小児内分泌科、内科、内分泌代謝内科などの診断を受けるようにします。
アロマターゼ欠損症の検査と診断と治療
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による診断では、女性仮性半陰陽を手掛かりとして、血中エストロゲンが低値であることからアロマターゼ欠損症と判断します。確定するために、遺伝学的診断でアロマターゼ遺伝子CYP19A1の変異を検索することもあります。
小児科、内科、内分泌代謝内科、産婦人科などの医師による治療では、アロマターゼ欠損症の2~4歳の女児ではエストロゲン(卵胞ホルモン)が産生されないため、卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が極めて高くなり、卵巣嚢腫(未破裂卵胞)が出現しますが、少量のエストロゲンを投与すると嚢腫は消失し、正常な卵胞発育を起こします。
エストロゲンの投与は2歳からが望ましく、結合型エストロゲン0・15mg(エストラジオール0・25mg)を使用します。10~12歳では、これを0・3mg~1・25mgに増加させ、さらに黄体ホルモン剤も投与し、生理を起こすようにします。14歳までには、低用量経口避妊薬(OCピル)へスイッチします。
第2次性徴の欠如によりアロマターゼ欠損症が発見された女性に対しても、同じようなエストロゲンの投与により女性ホルモンの補充療法を行います。しかし、遺伝子の異常によって生じる疾患であるため、アロマターゼ欠損症の根本的な治療はできません。
アロマターゼ欠損症の男性では、14~16歳から少量のエストロゲン(12・5~25μg貼付〈ちょうふ〉剤)を使用します。これにより、骨端線が閉鎖し、骨粗鬆症が予防され、インスリン抵抗性(耐糖能異常)が正常になります。しかし、過剰のエストロゲンの投与は、男性の乳房が女性のような乳房に膨らむ女性化乳房を引き起こしますので、注意が必要です。
☐用語 アメーバ性肝膿瘍 [用語(あ)]
赤痢アメーバが大腸から血行性に転移することにより、肝臓に膿瘍が形成される疾患
アメーバ性肝膿瘍(のうよう)とは、経口的に侵入した赤痢アメーバという原虫が大腸より経門脈的に吸収されて肝臓に到達し、膿瘍が形成される疾患。
アメーバ性肝膿瘍は、アメーバ赤痢(赤痢アメーバ症)の一つであり、そのうちの腸管外アメーバ症の一つでもあります。
赤痢アメーバは人、サル、ネズミなどの大腸に寄生し、糞便(ふんべん)中にシスト(嚢子〔のうし〕)を排出します。このシストに汚染された飲食物を口から摂取することで、次の人へと感染します。急性期の感染者よりも、シストを排出する無症候性の感染者が感染源として重要です。ハエ、ゴキブリを介した感染も起こります。
感染しても症状が現れるのは、5〜10パーセント程度。現れる場合の症状は、腸管アメーバ症(アメーバ性腸炎)と腸管外アメーバ症に大別されます。
腸管アメーバ症は、下痢、粘血便、渋り腹、腸内にガスがたまって腹が膨れ上がる鼓腸、排便時の下腹部痛、不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイチゴゼリー状の粘血便を排出します。多くは、数日から数週間の間隔で増悪と寛解を繰り返します。
盲腸から上行結腸にかけてと、S字結腸から直腸にかけての大腸に、潰瘍(かいよう)が好発します。まれに、肉芽腫(しゅ)性病変が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔(せんこう)したりすることもあります。
一方、腸管外アメーバ症では、腸管部より赤痢アメーバが門脈という血管の血流に乗って肝臓に運ばれ、肝臓に膿瘍が形成されるアメーバ性肝膿瘍が最も高頻度にみられます。そのほか、皮膚、脳、肺に膿瘍が形成されることもあります。
アメーバ赤痢全体の中で、アメーバ性肝膿瘍の占める割合は約30~40%で、成人男性に多くみられます。高熱、肝腫大、右季肋部(みぎきろくぶ)痛(右脇腹〔みぎわきばら〕の痛み)のほか、吐き気、嘔吐(おうと)、体重減少、寝汗、全身倦怠(けんたい)感などを伴います。膿瘍が破裂すると、腹膜や胸膜、心外膜にも病変が形成されます。
しかし、実際にはケースごとにさまざまで、症状の軽いものもあれば、中には無症状で経過する場合もあります。粘血便や下痢、腹痛などの腸管症状を欠いたままアメーバ性肝膿瘍を形成することもあり、腸管症状は必ずしも合併するとは限りません。
アメーバ性肝膿瘍の検査と診断と治療
内科、感染症科の医師による診断は、肝膿瘍による発熱、右脇腹の痛みなどの症状の有無、経過に加えて、腸管アメーバ症の症状である粘血便や下痢、腹痛の有無についても確認します。また、海外渡航歴についても問診します。
腹部超音波検査、腹部CT(コンピューター断層撮影)検査を行い、肝膿瘍の存在、また肝膿瘍の部位について、より詳細に確認します。
右脇腹から針で肝膿瘍を刺して内容物を採取する穿刺(せんし)検査を行い、内容物の中に赤痢アメーバがいるかどうかを顕微鏡で調べます。検出率は50%前後ですが、アメーバ性肝膿瘍の内容物は無臭でアンチョビペースト状、あるいはチョコレート状と表現されることがあるため、診断に際しての参考となります。
また、血液検査を行い、赤痢アメーバに対する血清アメーバ抗体があるかどうかを調べます。アメ−バ性肝膿瘍での血清アメ−バ抗体の陽性率は、95%以上と報告されています。
内科、感染症科の医師による治療では、膿瘍液の特徴からアメーバ性肝膿瘍が疑われれば、直ちに抗原虫剤のメトロニダゾール(フラジール)やチニダゾールの投与を開始します。炎症所見、自覚症状などから治療効果を確認しますが、数日ごとに腹部超音波検査を行い肝膿瘍のサイズのチェックも行います。.
肝膿瘍が破裂する危険性がある場合などでは、体外から細いチューブを肝膿瘍に入れて内容物を体外に排出する治療であるドレナージを開始します。
炎症所見、自覚症状の消失、肝膿瘍の消失ないしは縮小をもって治療終了の目安とし、ドレナージチューブを抜去します。
治療効果がみられない場合は、別の抗原虫剤のエメチンやクロロキンの使用も考慮します。汎発性腹膜炎症状を認めれば開腹術を行いますが、それ以外は外科的ドレナージを考慮しません。
予防には、飲食物の加熱、手洗いの励行、適切な糞便処理が有効。また、シスト排出者との接触に注意する必要もあります。
アメーバ性肝膿瘍(のうよう)とは、経口的に侵入した赤痢アメーバという原虫が大腸より経門脈的に吸収されて肝臓に到達し、膿瘍が形成される疾患。
アメーバ性肝膿瘍は、アメーバ赤痢(赤痢アメーバ症)の一つであり、そのうちの腸管外アメーバ症の一つでもあります。
赤痢アメーバは人、サル、ネズミなどの大腸に寄生し、糞便(ふんべん)中にシスト(嚢子〔のうし〕)を排出します。このシストに汚染された飲食物を口から摂取することで、次の人へと感染します。急性期の感染者よりも、シストを排出する無症候性の感染者が感染源として重要です。ハエ、ゴキブリを介した感染も起こります。
感染しても症状が現れるのは、5〜10パーセント程度。現れる場合の症状は、腸管アメーバ症(アメーバ性腸炎)と腸管外アメーバ症に大別されます。
腸管アメーバ症は、下痢、粘血便、渋り腹、腸内にガスがたまって腹が膨れ上がる鼓腸、排便時の下腹部痛、不快感などの症状を伴う慢性腸管感染症であり、典型的にはイチゴゼリー状の粘血便を排出します。多くは、数日から数週間の間隔で増悪と寛解を繰り返します。
盲腸から上行結腸にかけてと、S字結腸から直腸にかけての大腸に、潰瘍(かいよう)が好発します。まれに、肉芽腫(しゅ)性病変が形成されたり、潰瘍部が壊死性に穿孔(せんこう)したりすることもあります。
一方、腸管外アメーバ症では、腸管部より赤痢アメーバが門脈という血管の血流に乗って肝臓に運ばれ、肝臓に膿瘍が形成されるアメーバ性肝膿瘍が最も高頻度にみられます。そのほか、皮膚、脳、肺に膿瘍が形成されることもあります。
アメーバ赤痢全体の中で、アメーバ性肝膿瘍の占める割合は約30~40%で、成人男性に多くみられます。高熱、肝腫大、右季肋部(みぎきろくぶ)痛(右脇腹〔みぎわきばら〕の痛み)のほか、吐き気、嘔吐(おうと)、体重減少、寝汗、全身倦怠(けんたい)感などを伴います。膿瘍が破裂すると、腹膜や胸膜、心外膜にも病変が形成されます。
しかし、実際にはケースごとにさまざまで、症状の軽いものもあれば、中には無症状で経過する場合もあります。粘血便や下痢、腹痛などの腸管症状を欠いたままアメーバ性肝膿瘍を形成することもあり、腸管症状は必ずしも合併するとは限りません。
アメーバ性肝膿瘍の検査と診断と治療
内科、感染症科の医師による診断は、肝膿瘍による発熱、右脇腹の痛みなどの症状の有無、経過に加えて、腸管アメーバ症の症状である粘血便や下痢、腹痛の有無についても確認します。また、海外渡航歴についても問診します。
腹部超音波検査、腹部CT(コンピューター断層撮影)検査を行い、肝膿瘍の存在、また肝膿瘍の部位について、より詳細に確認します。
右脇腹から針で肝膿瘍を刺して内容物を採取する穿刺(せんし)検査を行い、内容物の中に赤痢アメーバがいるかどうかを顕微鏡で調べます。検出率は50%前後ですが、アメーバ性肝膿瘍の内容物は無臭でアンチョビペースト状、あるいはチョコレート状と表現されることがあるため、診断に際しての参考となります。
また、血液検査を行い、赤痢アメーバに対する血清アメーバ抗体があるかどうかを調べます。アメ−バ性肝膿瘍での血清アメ−バ抗体の陽性率は、95%以上と報告されています。
内科、感染症科の医師による治療では、膿瘍液の特徴からアメーバ性肝膿瘍が疑われれば、直ちに抗原虫剤のメトロニダゾール(フラジール)やチニダゾールの投与を開始します。炎症所見、自覚症状などから治療効果を確認しますが、数日ごとに腹部超音波検査を行い肝膿瘍のサイズのチェックも行います。.
肝膿瘍が破裂する危険性がある場合などでは、体外から細いチューブを肝膿瘍に入れて内容物を体外に排出する治療であるドレナージを開始します。
炎症所見、自覚症状の消失、肝膿瘍の消失ないしは縮小をもって治療終了の目安とし、ドレナージチューブを抜去します。
治療効果がみられない場合は、別の抗原虫剤のエメチンやクロロキンの使用も考慮します。汎発性腹膜炎症状を認めれば開腹術を行いますが、それ以外は外科的ドレナージを考慮しません。
予防には、飲食物の加熱、手洗いの励行、適切な糞便処理が有効。また、シスト排出者との接触に注意する必要もあります。