■病気 糖尿病性腎症 [病気(と)]
糖尿病によって腎臓の機能が悪化する疾患
糖尿病性腎症(じんしょう)とは、糖尿病によって腎臓の糸球体(しきゅうたい)が細小血管障害のため硬化して、数を減じていく疾患。糖尿病性神経障害、及び糖尿病性網膜症とともに、糖尿病に特有な3大合併症の一つです。
3大合併症はいずれも細い血管障害が主体となっているので、糖尿病性細小血管症と総称されることもあります。ちなみに、糖尿病の他の合併症では、糖尿病性大血管症としての動脈硬化症が重要です。動脈硬化症が進行すると、脳血管障害、虚血性心疾患、壊疽(えそ)などの重症の疾患に結び付きます。
糖尿病性腎症が進行した場合は、腎機能が低下するため、現在では透析療法を受ける人の原因疾患の第1位を占めています。糖尿病になって10年以上経過してから、徐々に蛋白(たんぱく)尿が現れ、やがてネフローゼ症候群となって、むくみを来し、腎機能が悪化してくるのが典型的です。
根本的な原因は、糖尿病による高血糖で、腎臓の糸球体の毛細血管が傷むことにあります。この糸球体は、非常にたくさんの毛細血管が糸を巻いた毬(まり)のように寄り集まっている腎臓中の主要構成組織であり、また、血液中の不要な老廃物を尿に濾過(ろか)して排泄(はいせつ)するという腎臓の最大の機能の担い手です。糸球体の毛細血管は、糖尿病で血糖が高い状態が続くと、次第に硬化して、数を減じてきます。そのために、本来は体外に排泄されるはずの老廃物が、体内にとどまってしまいます。
かなり進行してからでないと、糖尿病性腎症の自覚症状は現れません。従って、むくみなどの自覚症状が出現した場合は、かなり進行していることになります。腎機能が悪化し腎不全になると、体内への尿毒症物質の蓄積による尿毒症が出現して、頭痛、吐き気、立ちくらみなどを生じます。
糖尿病性腎症の病期分類は、5期に分かれています。蛋白尿と腎機能が指標になっており、第2期以降を臨床的に糖尿病性腎症と呼んでいます。
第1期(腎症前期)
症状はありません。医学的な異常所見も見当たりません。糖尿病を発症した時点で、第1期と解釈することができます。
第2期(早期腎症)
第1期から5〜15年で発症します。自覚症状はありません。
第3期(非代償性腎不全)
第3期A
尿検査用試験紙で、尿蛋白が陽性となります。自覚症状は通常ありません。
第3期B
続発性ネフローゼ症候群を呈します。低アルブミン血症によるむくみや、うっ血性心不全を生じます。
第4期(腎不全期)
むくみに加え、倦怠(けんたい)感、悪心、精神的不安定、掻痒(そうよう)感などの尿毒症症状が生じ始めます。インシュリンは腎臓で一部代謝、排泄されるため、この病期に至ると腎機能低下に伴い、体内にインシュリンが蓄積し、血糖コントロールに内服薬やインシュリンが不要になることもあります。
また、一部の血糖降下薬は活性代謝物がたまり、遷延(せんえん)性の低血糖を起こしやすくなるため注意が必要です。
第5期(透析療法期)
腎機能が廃絶するため、透析療法を行わないと尿毒症症状が容易に生じて、死に至ります。
糖尿病性腎症の検査と診断と治療
糖尿病を発症しても、なかなか治療に専念しない人も多く見受けられます。血糖値が高くても、糖尿病自体の自覚症状はないことが多いためです。しかし、高血糖や高血圧を放置しておくと、いつの間にか糖尿病性腎症を始めとする糖尿病合併症にかかっていることもあり、治療に苦慮する場合も少なくありません。
つまり、糖尿病合併症にならないような予防的な考え方で、糖尿病自体を治療する必要があります。もし糖尿病性腎症になったとしても、やはり血糖値を安定させ血圧も安定させることが、最も大切になります。そして、できる限りの早期発見、早期治療が、腎機能の悪化を防ぎます。
医師による糖尿病性腎症の診断は、尿中アルブミン排泄量の検査で行います。アルブミンは蛋白質の一つですが、一般的に使われている検査法である試験紙法で尿蛋白が陰性であっても、精密に測定すると尿中にアルブミンが出てきていることがあります。
具体的には、随時、尿でアルブミン(mg /dl)とクレアチニン(g/dl)の測定を行い、その比(アルブミン/クレアチニン)が30〜300mg/g・Crの範囲にあることを微量アルブミン尿と呼んでいて、病期では第2期(早期腎症)に相当します。
また、腎機能はクレアチニンクリアランスで表され、正常では80〜110ml/分で、腎機能が低下すると数値が低くなります。
検査には、腎臓生体針検査(病理検査)、腎臓超音波検査もあります。
基本的な治療法は、まず血糖値の正常化と血圧の正常化です。この血糖コントロールと血圧コントロールは、どの病期でも行われる治療法です。
血糖コントロール
食事療法と運動療法が基本となり、必要に応じて糖尿病薬を使用します。第4期(腎不全期)以降では、原則として経口薬は使用せず、インシュリン注射を使用します。また、運動療法は、第3期(非代償性腎不全)B以降は制限が必要です。
血糖コントロールの目標は、食前血糖値120mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満、HbA1c6・5%未満です。
血圧コントロール
糸球体の肥厚や硬化を防ぐために、糸球体内圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン 受容体拮抗(きっこう)薬を用いることが推奨されていますが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、カルシウム拮抗薬などとの併用療法が必要になることも多いのが現状です。
血圧コントロールの目標は130/80mmHg未満ですが、可能ならば120/70mmHg未満を目標にします。
蛋白質摂取
食事中の蛋白質摂取量に関しては、第3期(非代償性腎不全)〜第4期(腎不全期)にかけては制限したほうがよいと考えられています。具体的には、標準体重1kg当たり通常は1・0〜1・2g/日のところを、0・8〜1・0g/日あるいは0・6〜0・8g/日まで段階的に制限していく方法が一般的です。
塩分摂取
塩分に関しては、高血圧が存在する場合は、第1期(腎症前期)から7〜8g/日の制限が必要です。第3期(非代償性腎不全)以降は高血圧の有無にかかわらず、5〜6g/日の制限が推奨されています。
食塩の取りすぎは、むくみを誘発し、血圧にもよくありません。水の飲みすぎにも、注意しなければなりません。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
糖尿病性腎症(じんしょう)とは、糖尿病によって腎臓の糸球体(しきゅうたい)が細小血管障害のため硬化して、数を減じていく疾患。糖尿病性神経障害、及び糖尿病性網膜症とともに、糖尿病に特有な3大合併症の一つです。
3大合併症はいずれも細い血管障害が主体となっているので、糖尿病性細小血管症と総称されることもあります。ちなみに、糖尿病の他の合併症では、糖尿病性大血管症としての動脈硬化症が重要です。動脈硬化症が進行すると、脳血管障害、虚血性心疾患、壊疽(えそ)などの重症の疾患に結び付きます。
糖尿病性腎症が進行した場合は、腎機能が低下するため、現在では透析療法を受ける人の原因疾患の第1位を占めています。糖尿病になって10年以上経過してから、徐々に蛋白(たんぱく)尿が現れ、やがてネフローゼ症候群となって、むくみを来し、腎機能が悪化してくるのが典型的です。
根本的な原因は、糖尿病による高血糖で、腎臓の糸球体の毛細血管が傷むことにあります。この糸球体は、非常にたくさんの毛細血管が糸を巻いた毬(まり)のように寄り集まっている腎臓中の主要構成組織であり、また、血液中の不要な老廃物を尿に濾過(ろか)して排泄(はいせつ)するという腎臓の最大の機能の担い手です。糸球体の毛細血管は、糖尿病で血糖が高い状態が続くと、次第に硬化して、数を減じてきます。そのために、本来は体外に排泄されるはずの老廃物が、体内にとどまってしまいます。
かなり進行してからでないと、糖尿病性腎症の自覚症状は現れません。従って、むくみなどの自覚症状が出現した場合は、かなり進行していることになります。腎機能が悪化し腎不全になると、体内への尿毒症物質の蓄積による尿毒症が出現して、頭痛、吐き気、立ちくらみなどを生じます。
糖尿病性腎症の病期分類は、5期に分かれています。蛋白尿と腎機能が指標になっており、第2期以降を臨床的に糖尿病性腎症と呼んでいます。
第1期(腎症前期)
症状はありません。医学的な異常所見も見当たりません。糖尿病を発症した時点で、第1期と解釈することができます。
第2期(早期腎症)
第1期から5〜15年で発症します。自覚症状はありません。
第3期(非代償性腎不全)
第3期A
尿検査用試験紙で、尿蛋白が陽性となります。自覚症状は通常ありません。
第3期B
続発性ネフローゼ症候群を呈します。低アルブミン血症によるむくみや、うっ血性心不全を生じます。
第4期(腎不全期)
むくみに加え、倦怠(けんたい)感、悪心、精神的不安定、掻痒(そうよう)感などの尿毒症症状が生じ始めます。インシュリンは腎臓で一部代謝、排泄されるため、この病期に至ると腎機能低下に伴い、体内にインシュリンが蓄積し、血糖コントロールに内服薬やインシュリンが不要になることもあります。
また、一部の血糖降下薬は活性代謝物がたまり、遷延(せんえん)性の低血糖を起こしやすくなるため注意が必要です。
第5期(透析療法期)
腎機能が廃絶するため、透析療法を行わないと尿毒症症状が容易に生じて、死に至ります。
糖尿病性腎症の検査と診断と治療
糖尿病を発症しても、なかなか治療に専念しない人も多く見受けられます。血糖値が高くても、糖尿病自体の自覚症状はないことが多いためです。しかし、高血糖や高血圧を放置しておくと、いつの間にか糖尿病性腎症を始めとする糖尿病合併症にかかっていることもあり、治療に苦慮する場合も少なくありません。
つまり、糖尿病合併症にならないような予防的な考え方で、糖尿病自体を治療する必要があります。もし糖尿病性腎症になったとしても、やはり血糖値を安定させ血圧も安定させることが、最も大切になります。そして、できる限りの早期発見、早期治療が、腎機能の悪化を防ぎます。
医師による糖尿病性腎症の診断は、尿中アルブミン排泄量の検査で行います。アルブミンは蛋白質の一つですが、一般的に使われている検査法である試験紙法で尿蛋白が陰性であっても、精密に測定すると尿中にアルブミンが出てきていることがあります。
具体的には、随時、尿でアルブミン(mg /dl)とクレアチニン(g/dl)の測定を行い、その比(アルブミン/クレアチニン)が30〜300mg/g・Crの範囲にあることを微量アルブミン尿と呼んでいて、病期では第2期(早期腎症)に相当します。
また、腎機能はクレアチニンクリアランスで表され、正常では80〜110ml/分で、腎機能が低下すると数値が低くなります。
検査には、腎臓生体針検査(病理検査)、腎臓超音波検査もあります。
基本的な治療法は、まず血糖値の正常化と血圧の正常化です。この血糖コントロールと血圧コントロールは、どの病期でも行われる治療法です。
血糖コントロール
食事療法と運動療法が基本となり、必要に応じて糖尿病薬を使用します。第4期(腎不全期)以降では、原則として経口薬は使用せず、インシュリン注射を使用します。また、運動療法は、第3期(非代償性腎不全)B以降は制限が必要です。
血糖コントロールの目標は、食前血糖値120mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満、HbA1c6・5%未満です。
血圧コントロール
糸球体の肥厚や硬化を防ぐために、糸球体内圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン 受容体拮抗(きっこう)薬を用いることが推奨されていますが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、カルシウム拮抗薬などとの併用療法が必要になることも多いのが現状です。
血圧コントロールの目標は130/80mmHg未満ですが、可能ならば120/70mmHg未満を目標にします。
蛋白質摂取
食事中の蛋白質摂取量に関しては、第3期(非代償性腎不全)〜第4期(腎不全期)にかけては制限したほうがよいと考えられています。具体的には、標準体重1kg当たり通常は1・0〜1・2g/日のところを、0・8〜1・0g/日あるいは0・6〜0・8g/日まで段階的に制限していく方法が一般的です。
塩分摂取
塩分に関しては、高血圧が存在する場合は、第1期(腎症前期)から7〜8g/日の制限が必要です。第3期(非代償性腎不全)以降は高血圧の有無にかかわらず、5〜6g/日の制限が推奨されています。
食塩の取りすぎは、むくみを誘発し、血圧にもよくありません。水の飲みすぎにも、注意しなければなりません。
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タグ:病気(と)
■病気 糖尿病性網膜症 [病気(と)]
糖尿病のために網膜の血管が障害される疾患
糖尿病網膜症とは、糖尿病によって目の網膜などに各種の変化を来し、視力低下を認める疾患。糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症(じんしょう)と並んで、糖尿病の3大合併症の一つに数えられます。
かつては日本人の中途失明の原因として最多でしたが、平成18年に緑内障に次ぐ第2位となりました。しかし、糖尿病性網膜症による失明人数は年間約3000人で、毎年増加していますし、緑内障の原因の一部には糖尿病性新生血管(血管新生)緑内障も含まれています。
糖尿病性網膜症は通常、糖尿病を発症して5年以後に出現する合併症ですが、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)では発症がいつかはっきりしないこともあり、糖尿病と初めて診断された時点で、すでに30〜40パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。従って、2型糖尿病では、糖尿病の初診断時から網膜症のチェックが必要と考えられます。
糖尿病のコントロールが悪いと、糖尿病の罹患(りかん)期間が長くなるとともに網膜症も進行します。糖尿病の発症後20年では、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の100パーセント、2型糖尿病の60パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。
網膜とは、眼球の底に当たる眼底を覆っている膜です。視神経が集中し、また栄養を運ぶために多くの毛細血管が張り巡らされているため、高血糖状態が長く続くと血管障害を引き起こしやすくなります。
血管障害によって酸素欠乏状態になった網膜からは、血管を自分のほうへ伸ばすホルモンが放出されます。その結果、病的な血管である新生血管が新しくできます。この新生血管は非常にもろいため出血しやすく、それによって目の機能に障害が起きます。
通常、三つの病期に相当する単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と徐々に進行することが多いのですが、突然進行し、悪化することもあります。
単純網膜症では、眼底の所々に出血が見られたり、血管が閉塞(へいそく)して、こぶができたりします。前増殖網膜症では、眼底の随所に出血が見られ、新生血管が出現します。増殖網膜症では、新生血管が網膜だけでなく硝子体(しょうしたい)にまで増殖し、硝子体出血や網膜剥離(はくり)が生じる場合があります。
初期の頃は、多くは無症状で経過します。徐々に、眼底出血や、網膜の中央に位置する黄斑(おうはん)に浮腫(ふしゅ)が生じて、視力低下や、物がゆがんで見える変視症を自覚するようになります。
硝子体出血や広範囲な眼底出血を伴うと、飛蚊(ひぶん)症や急激な視力低下を示します。二次的に増殖膜が形成され、それが網膜を引っ張って牽引(けんいん)性網膜剥離に陥ると、永続的な視力低下や失明に至ることがあります。新生血管緑内障に陥ると、眼痛、不可逆的失明、眼球委縮を示すことがあります。
また、白内障が標準より早く進行します。糖尿病性腎症の悪化に伴い、腎性網膜症を併発し、目の症状が悪化して著しい視力低下を認めることもあります。
糖尿病性網膜症の検査と診断と治療
糖尿病性網膜症の予防、及び進行防止を図るには、糖尿病をきちんと管理し、血糖値を正常範囲に保つようコントロールすることが、最も有効です。
糖尿病の人は、網膜症になっても早期に発見して治療を始められるように、定期的に目の検査を受けるべきです。視力障害の程度は、糖尿病を発症してからの期間や、血糖値のコントロールがどの程度きちんとできているかに左右されます。
医師が糖尿病性網膜症を診断するには、基本となる眼底検査とともに、蛍光眼底造影検査も必ず行います。単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と進む病期を見極め、どの病期であれ現れる黄斑症を的確に把握するには、蛍光眼底造影検査が不可欠です。
眼底検査と蛍光眼底造影検査は、主に間接眼底鏡を用いて、肉眼的に眼底の状態を診察します。通常、眼底が外部からよく見えるようにするために、瞳(ひとみ)を開く点眼薬を用いて散瞳(さんどう)を行います。散瞳中はピント調節能力が低下するため、自動車の運転は困難となりますので、受診の際の交通手段には注意を要します。
治療法としては、レーザー光凝固術という方法があり、レーザー光線を網膜に照射して、主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりすることを目的として行います。網膜症の進行具合によって、レーザーの照射数や照射範囲が異なります。
このレーザー光凝固術は、すべての網膜が共倒れにならないように正常な網膜の一部を犠牲にして、今以上の網膜症の悪化を防ぐための治療であって、決して元の状態に戻すための治療ではありません。まれに網膜全体のむくみが軽くなるといったような理由で、視力が上がることもありますが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。
早い時期であれば、レーザー光凝固術はかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。通常は通院で行い、必要に応じて繰り返し行います。
レーザー治療で網膜症の進行を予防できなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離が起こっている場合、傷付いた網膜血管からの大量の出血が続いている場合は、硝子体切除術という治療が必要になることもあります。
眼球に3つの穴を開けて細い手術器具を挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。顕微鏡下での細かい操作を要し、眼科領域では高度なレベルの手術となります。この手術により、硝子体出血では多くのケースで視力の回復がみられ、網膜剥離でも視力が回復することがあります。
なお、薬物治療もありますが、進行した網膜症にはあまり効果が期待できません。
糖尿病性網膜症がある人では、急激な血糖コントロール、妊娠、腎症の進行、人工血液透析の導入などの際に症状が進行することがあるので、注意して下さい。
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糖尿病網膜症とは、糖尿病によって目の網膜などに各種の変化を来し、視力低下を認める疾患。糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症(じんしょう)と並んで、糖尿病の3大合併症の一つに数えられます。
かつては日本人の中途失明の原因として最多でしたが、平成18年に緑内障に次ぐ第2位となりました。しかし、糖尿病性網膜症による失明人数は年間約3000人で、毎年増加していますし、緑内障の原因の一部には糖尿病性新生血管(血管新生)緑内障も含まれています。
糖尿病性網膜症は通常、糖尿病を発症して5年以後に出現する合併症ですが、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)では発症がいつかはっきりしないこともあり、糖尿病と初めて診断された時点で、すでに30〜40パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。従って、2型糖尿病では、糖尿病の初診断時から網膜症のチェックが必要と考えられます。
糖尿病のコントロールが悪いと、糖尿病の罹患(りかん)期間が長くなるとともに網膜症も進行します。糖尿病の発症後20年では、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の100パーセント、2型糖尿病の60パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。
網膜とは、眼球の底に当たる眼底を覆っている膜です。視神経が集中し、また栄養を運ぶために多くの毛細血管が張り巡らされているため、高血糖状態が長く続くと血管障害を引き起こしやすくなります。
血管障害によって酸素欠乏状態になった網膜からは、血管を自分のほうへ伸ばすホルモンが放出されます。その結果、病的な血管である新生血管が新しくできます。この新生血管は非常にもろいため出血しやすく、それによって目の機能に障害が起きます。
通常、三つの病期に相当する単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と徐々に進行することが多いのですが、突然進行し、悪化することもあります。
単純網膜症では、眼底の所々に出血が見られたり、血管が閉塞(へいそく)して、こぶができたりします。前増殖網膜症では、眼底の随所に出血が見られ、新生血管が出現します。増殖網膜症では、新生血管が網膜だけでなく硝子体(しょうしたい)にまで増殖し、硝子体出血や網膜剥離(はくり)が生じる場合があります。
初期の頃は、多くは無症状で経過します。徐々に、眼底出血や、網膜の中央に位置する黄斑(おうはん)に浮腫(ふしゅ)が生じて、視力低下や、物がゆがんで見える変視症を自覚するようになります。
硝子体出血や広範囲な眼底出血を伴うと、飛蚊(ひぶん)症や急激な視力低下を示します。二次的に増殖膜が形成され、それが網膜を引っ張って牽引(けんいん)性網膜剥離に陥ると、永続的な視力低下や失明に至ることがあります。新生血管緑内障に陥ると、眼痛、不可逆的失明、眼球委縮を示すことがあります。
また、白内障が標準より早く進行します。糖尿病性腎症の悪化に伴い、腎性網膜症を併発し、目の症状が悪化して著しい視力低下を認めることもあります。
糖尿病性網膜症の検査と診断と治療
糖尿病性網膜症の予防、及び進行防止を図るには、糖尿病をきちんと管理し、血糖値を正常範囲に保つようコントロールすることが、最も有効です。
糖尿病の人は、網膜症になっても早期に発見して治療を始められるように、定期的に目の検査を受けるべきです。視力障害の程度は、糖尿病を発症してからの期間や、血糖値のコントロールがどの程度きちんとできているかに左右されます。
医師が糖尿病性網膜症を診断するには、基本となる眼底検査とともに、蛍光眼底造影検査も必ず行います。単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と進む病期を見極め、どの病期であれ現れる黄斑症を的確に把握するには、蛍光眼底造影検査が不可欠です。
眼底検査と蛍光眼底造影検査は、主に間接眼底鏡を用いて、肉眼的に眼底の状態を診察します。通常、眼底が外部からよく見えるようにするために、瞳(ひとみ)を開く点眼薬を用いて散瞳(さんどう)を行います。散瞳中はピント調節能力が低下するため、自動車の運転は困難となりますので、受診の際の交通手段には注意を要します。
治療法としては、レーザー光凝固術という方法があり、レーザー光線を網膜に照射して、主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりすることを目的として行います。網膜症の進行具合によって、レーザーの照射数や照射範囲が異なります。
このレーザー光凝固術は、すべての網膜が共倒れにならないように正常な網膜の一部を犠牲にして、今以上の網膜症の悪化を防ぐための治療であって、決して元の状態に戻すための治療ではありません。まれに網膜全体のむくみが軽くなるといったような理由で、視力が上がることもありますが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。
早い時期であれば、レーザー光凝固術はかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。通常は通院で行い、必要に応じて繰り返し行います。
レーザー治療で網膜症の進行を予防できなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離が起こっている場合、傷付いた網膜血管からの大量の出血が続いている場合は、硝子体切除術という治療が必要になることもあります。
眼球に3つの穴を開けて細い手術器具を挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。顕微鏡下での細かい操作を要し、眼科領域では高度なレベルの手術となります。この手術により、硝子体出血では多くのケースで視力の回復がみられ、網膜剥離でも視力が回復することがあります。
なお、薬物治療もありますが、進行した網膜症にはあまり効果が期待できません。
糖尿病性網膜症がある人では、急激な血糖コントロール、妊娠、腎症の進行、人工血液透析の導入などの際に症状が進行することがあるので、注意して下さい。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
■病気 動脈管開存症(ボタロー管開存症) [病気(と)]
本来は自然閉鎖される動脈管が残った先天性心臓病
動脈管開存症とは、出生により本来は自然閉鎖される動脈管が残った先天性心臓病。ボタロー管開存症とも呼びます。
胎児の時の動脈管は開いていて、肺動脈から大動脈に血液を送る重要な役目を持ち、胎盤からもらった酸素の多い血液が下半身へ通っていきます。出生によって肺が呼吸をすると、肺動脈から肺静脈へと血液が回り、動脈管は自然閉鎖する仕組みになっています。
本来は自然閉鎖される動脈管が出生後も残った動脈管開存症では、大動脈圧が肺動脈圧より高くなるため、心臓を出て大動脈へ行った血液が動脈管を通って、再び肺動脈へと流れ込むことになります。そのぶんの血液は、肺血管と左心房、左心室を空回りします。結果として、左心室の負担と肺動脈圧の上昇が起こり、肺高血圧は右心室の肥大や拡大を招きます。
動脈管開存症の症状としては、運動時の息切れ、動悸(どうき)があり、感染(細菌)性心内膜炎にかかりやすくなります。
動脈管開存症の検査と診断と治療
出生時における動脈管の開存は、生後1日から7日くらいではプロスタグランジン合成阻害剤により、閉鎖する場合もあります。この方法で閉鎖しない場合は通常、外科的手術が行われます。
手術は通常、人工心肺を用いないで、動脈管を切り離したり、しばって血行を止める結紮(けっさつ)により行われます。心臓を切開して内部を見ながら行う開心術を必要とせず、開胸術、すなわち胸腔(きょうくう)切開術のみによってできるので、成績も極めて良好です。動脈管開存症では、左のわきの下から胸腔にメスを入れ、動脈管を切断するか、しばります。
また、動脈管が細い場合には、心臓カテーテル法によって、動脈管を人工栓で閉塞(へいそく)する方法がとられることもあります。
子供の場合の手術は、比較的短期間の入院ですむことがほとんどで、予後も非常に良好。通常、ほかの子供たちと同様に生活していけると見なされています。手術を実施する時期は1歳から7歳くらいまでがよいのですが、重症例では新生児でも行われます。
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動脈管開存症とは、出生により本来は自然閉鎖される動脈管が残った先天性心臓病。ボタロー管開存症とも呼びます。
胎児の時の動脈管は開いていて、肺動脈から大動脈に血液を送る重要な役目を持ち、胎盤からもらった酸素の多い血液が下半身へ通っていきます。出生によって肺が呼吸をすると、肺動脈から肺静脈へと血液が回り、動脈管は自然閉鎖する仕組みになっています。
本来は自然閉鎖される動脈管が出生後も残った動脈管開存症では、大動脈圧が肺動脈圧より高くなるため、心臓を出て大動脈へ行った血液が動脈管を通って、再び肺動脈へと流れ込むことになります。そのぶんの血液は、肺血管と左心房、左心室を空回りします。結果として、左心室の負担と肺動脈圧の上昇が起こり、肺高血圧は右心室の肥大や拡大を招きます。
動脈管開存症の症状としては、運動時の息切れ、動悸(どうき)があり、感染(細菌)性心内膜炎にかかりやすくなります。
動脈管開存症の検査と診断と治療
出生時における動脈管の開存は、生後1日から7日くらいではプロスタグランジン合成阻害剤により、閉鎖する場合もあります。この方法で閉鎖しない場合は通常、外科的手術が行われます。
手術は通常、人工心肺を用いないで、動脈管を切り離したり、しばって血行を止める結紮(けっさつ)により行われます。心臓を切開して内部を見ながら行う開心術を必要とせず、開胸術、すなわち胸腔(きょうくう)切開術のみによってできるので、成績も極めて良好です。動脈管開存症では、左のわきの下から胸腔にメスを入れ、動脈管を切断するか、しばります。
また、動脈管が細い場合には、心臓カテーテル法によって、動脈管を人工栓で閉塞(へいそく)する方法がとられることもあります。
子供の場合の手術は、比較的短期間の入院ですむことがほとんどで、予後も非常に良好。通常、ほかの子供たちと同様に生活していけると見なされています。手術を実施する時期は1歳から7歳くらいまでがよいのですが、重症例では新生児でも行われます。
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■病気 動脈硬化 [病気(と)]
動脈壁が硬化し、肥厚した病変
動脈硬化とは、コレステロールなどが動脈壁に沈着し、動脈壁の限られた部分が硬化し、肥厚した病変をいい、これによって引き起こされるさまざまな病態を動脈硬化症といいます。
動脈硬化によって動脈の血管壁に病変が起こっても、初期のうちは特に症状はありません。しかし、ある程度病変が進むと、血管の内腔(ないくう)が狭くなって血液の流れが障害されたり、血管壁の弾力性が失われた動脈が拡張、蛇行したり、時には破裂してしまうこともあり、その流域の臓器に影響が現れてきます。
影響を受ける臓器とそれに関連する動脈の部位によって、動脈硬化症を分類すると、脳へいく動脈に起こる脳動脈硬化症、心臓の動脈に起こる冠動脈硬化症、腹部や胸部の大動脈に起こる大動脈硬化症、手足へいく動脈に起こる末梢(まっしょう)動脈硬化症、腎(じん)臓へいく動脈に起こる腎動脈硬化症が、主なものとして挙げられます。
また、動脈壁に生じる病変によって、動脈硬化は粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)、中膜硬化、細動脈硬化という3つのタイプに分類されます。
粥状硬化(アテローム硬化)は、太い動脈や比較的太い動脈の内壁、特に3層からなる動脈壁の内側表面の層である内膜に、コレステロールを主成分とする脂質や石灰が沈着しているタイプ。
アテロームとは、ギリシャ語で粥(かゆ)という意味です。石灰とは、酸と結び付いたカルシウムのことで、血液中のカルシウムはリン酸カルシウムの形となって、血管壁に沈着します。
中膜硬化は、手足などの動脈壁の中膜にまで、石灰の沈着が及んでいるタイプ。中膜とは3層から動脈壁の中央の層のことであり、筋肉と弾力線維からなっています。
この中膜硬化は、高齢者に多くみられる動脈硬化の一つで、加齢に従って動脈壁の中膜に変化が起こると考えられています。血管は硬くなり、弾力性は失われていきます。
細動脈硬化は、脳や腎臓などの臓器内部の細い動脈の壁が厚くなり、内腔が狭くなるタイプ。細動脈は直径わずか0.1ミリから0.2ミリにすぎない血管で、血管壁の老化などに伴って硬くなり、弾力性がなくなるため、血圧に対する抵抗力が弱くなります。高血圧が長い間続くと、その圧力で細動脈の壁が傷付きやすく、細動脈硬化は一層進行します。
この状態では、血管が破裂しやすく、特に脳内で破裂すると体の機能が突然まひする脳卒中になりやすく、危険なタイプの病気です。血圧を下げる薬を服用する以外に、決定的な解決策はありません。
最も注意を要する粥状硬化
通常、動脈硬化といえば、粥状硬化(アテローム硬化)を指します。この粥状硬化は、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどの危険因子により生じると考えられています。
この粥状硬化は、心臓を取り巻く冠動脈、心臓からの血液を受け入れる大動脈、その大動脈から枝分かれして、腎臓と連絡する腎動脈、下肢へいく腸骨動脈や大腿(だいたい)動脈、脳へいく内頸(ないけい)動脈、同じく脳へいく脳底動脈など、比較的太い動脈の壁によく起こります。
早い場合、粥状硬化はすでに10歳代から始まります。個人差はありますが、その後長い年月をかけて、加齢とともに進展していきます。
初期の病変は、動脈壁の内膜の下に、血液中のコレステロール、リン脂質、中性脂肪などが沈着し、黄色い斑(まだら)状あるいは線状になることです。
やがて、その部位に、中膜の平滑筋細胞や、細胞間をくっつけている結合組織の成分が増殖して固まって、内膜が肥厚し、内腔側に膨らんきます。この塊が粥腫(じょくしゅ)、すなわちアテロームで、粥のようにドロドロしています。
さらに進むと、粥腫がつぶれたり、その部分に血栓がついたり、石灰化なども起こって、一層複雑な病変となっていきます。そうなると、血管の内腔はさらに狭くなってしまいます。
結果として、動脈の血流が遮断されて、酸素や栄養が重要な臓器に到達できなくなる結果、脳卒中、狭心症、心筋梗塞(こうそく)といった生命の危険につながる病気を引き起こす原因となります。
危険因子を上手にコントロールする
現代では、動脈硬化は治療と予防が可能な病気と見なされています。しかし、一般的には、治療より予防という考え方が大切にされており、実際に予防は非常に効果があります。
その治療と予防の重要なポイントは、危険因子をできるだけ早く発見して、上手にコントロールすること。
動脈硬化、特に粥状硬化の危険因子は高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどですので、これらの危険因子を一つだけでなく複数持っている場合、動脈硬化を進行させる危険は一層高まります。
特に、内臓脂肪が増加し、血圧の上昇、中性脂肪の上昇、糖代謝異常が合併した状態は、メタボリック・シンドローム(代謝症候群)と呼ばれ、動脈硬化が進展しやすい状態です。
治療と予防の原則は、まず食事療法です。その理由として、食事療法がかなり効果的である上に、薬物療法に比べて副作用が少ないことが挙げられます。
動脈硬化を促進させる高血圧や高脂血症、肥満を防ぐため、毎日規則正しい時間に、栄養バランスのとれた食事を取るようにし、偏食や過食をしないように心掛けます。より具体的には、動物性脂肪やコレステロール含有量の多い食品の摂取を制限することで高血圧、高脂血症を防止し、高カロリー食品の制限によって肥満を是正します。野菜や海草類のほか、不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む青魚を多く摂取するように心掛けます。
運動療法を適当に取り入れることも効果的です。運動療法によって肥満の是正、ストレスの解消が図れますし、日常的な運動を継続的に行えば、中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やし、血清脂質の代謝の改善が図れます。そのほかにも、運動は血圧を安定させたり、糖代謝を改善させる効果があります。
運動の種類は、激しいものは適しません。ウオーキング、水泳、水中ウオーキング、ジョギング、サイクリング、体操など、体に無理をかけない適度な運動を習慣にして、楽しく、長く続けることが大切です。
また、善玉コレステロールを減らし、ビタミンCを破壊する喫煙の制限や、ストレスの軽減を図るなど、生活上の注意を怠りなく続けることが肝要です。
食事療法や運動療法、生活上の注意だけでは、動脈硬化の進行が抑えられない時には、危険因子の改善、合併症予防のために、薬物療法が行われます。具体的には、降圧薬、脂質降下薬(特に悪玉コレステロール低下作用のあるスタチン系)、糖尿病治療薬が用いられます。この場合でも、食事療法や運動療法は、基礎的な治療として続けることが重要です。
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動脈硬化とは、コレステロールなどが動脈壁に沈着し、動脈壁の限られた部分が硬化し、肥厚した病変をいい、これによって引き起こされるさまざまな病態を動脈硬化症といいます。
動脈硬化によって動脈の血管壁に病変が起こっても、初期のうちは特に症状はありません。しかし、ある程度病変が進むと、血管の内腔(ないくう)が狭くなって血液の流れが障害されたり、血管壁の弾力性が失われた動脈が拡張、蛇行したり、時には破裂してしまうこともあり、その流域の臓器に影響が現れてきます。
影響を受ける臓器とそれに関連する動脈の部位によって、動脈硬化症を分類すると、脳へいく動脈に起こる脳動脈硬化症、心臓の動脈に起こる冠動脈硬化症、腹部や胸部の大動脈に起こる大動脈硬化症、手足へいく動脈に起こる末梢(まっしょう)動脈硬化症、腎(じん)臓へいく動脈に起こる腎動脈硬化症が、主なものとして挙げられます。
また、動脈壁に生じる病変によって、動脈硬化は粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)、中膜硬化、細動脈硬化という3つのタイプに分類されます。
粥状硬化(アテローム硬化)は、太い動脈や比較的太い動脈の内壁、特に3層からなる動脈壁の内側表面の層である内膜に、コレステロールを主成分とする脂質や石灰が沈着しているタイプ。
アテロームとは、ギリシャ語で粥(かゆ)という意味です。石灰とは、酸と結び付いたカルシウムのことで、血液中のカルシウムはリン酸カルシウムの形となって、血管壁に沈着します。
中膜硬化は、手足などの動脈壁の中膜にまで、石灰の沈着が及んでいるタイプ。中膜とは3層から動脈壁の中央の層のことであり、筋肉と弾力線維からなっています。
この中膜硬化は、高齢者に多くみられる動脈硬化の一つで、加齢に従って動脈壁の中膜に変化が起こると考えられています。血管は硬くなり、弾力性は失われていきます。
細動脈硬化は、脳や腎臓などの臓器内部の細い動脈の壁が厚くなり、内腔が狭くなるタイプ。細動脈は直径わずか0.1ミリから0.2ミリにすぎない血管で、血管壁の老化などに伴って硬くなり、弾力性がなくなるため、血圧に対する抵抗力が弱くなります。高血圧が長い間続くと、その圧力で細動脈の壁が傷付きやすく、細動脈硬化は一層進行します。
この状態では、血管が破裂しやすく、特に脳内で破裂すると体の機能が突然まひする脳卒中になりやすく、危険なタイプの病気です。血圧を下げる薬を服用する以外に、決定的な解決策はありません。
最も注意を要する粥状硬化
通常、動脈硬化といえば、粥状硬化(アテローム硬化)を指します。この粥状硬化は、高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどの危険因子により生じると考えられています。
この粥状硬化は、心臓を取り巻く冠動脈、心臓からの血液を受け入れる大動脈、その大動脈から枝分かれして、腎臓と連絡する腎動脈、下肢へいく腸骨動脈や大腿(だいたい)動脈、脳へいく内頸(ないけい)動脈、同じく脳へいく脳底動脈など、比較的太い動脈の壁によく起こります。
早い場合、粥状硬化はすでに10歳代から始まります。個人差はありますが、その後長い年月をかけて、加齢とともに進展していきます。
初期の病変は、動脈壁の内膜の下に、血液中のコレステロール、リン脂質、中性脂肪などが沈着し、黄色い斑(まだら)状あるいは線状になることです。
やがて、その部位に、中膜の平滑筋細胞や、細胞間をくっつけている結合組織の成分が増殖して固まって、内膜が肥厚し、内腔側に膨らんきます。この塊が粥腫(じょくしゅ)、すなわちアテロームで、粥のようにドロドロしています。
さらに進むと、粥腫がつぶれたり、その部分に血栓がついたり、石灰化なども起こって、一層複雑な病変となっていきます。そうなると、血管の内腔はさらに狭くなってしまいます。
結果として、動脈の血流が遮断されて、酸素や栄養が重要な臓器に到達できなくなる結果、脳卒中、狭心症、心筋梗塞(こうそく)といった生命の危険につながる病気を引き起こす原因となります。
危険因子を上手にコントロールする
現代では、動脈硬化は治療と予防が可能な病気と見なされています。しかし、一般的には、治療より予防という考え方が大切にされており、実際に予防は非常に効果があります。
その治療と予防の重要なポイントは、危険因子をできるだけ早く発見して、上手にコントロールすること。
動脈硬化、特に粥状硬化の危険因子は高血圧、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症、肥満、喫煙、運動不足、ストレスなどですので、これらの危険因子を一つだけでなく複数持っている場合、動脈硬化を進行させる危険は一層高まります。
特に、内臓脂肪が増加し、血圧の上昇、中性脂肪の上昇、糖代謝異常が合併した状態は、メタボリック・シンドローム(代謝症候群)と呼ばれ、動脈硬化が進展しやすい状態です。
治療と予防の原則は、まず食事療法です。その理由として、食事療法がかなり効果的である上に、薬物療法に比べて副作用が少ないことが挙げられます。
動脈硬化を促進させる高血圧や高脂血症、肥満を防ぐため、毎日規則正しい時間に、栄養バランスのとれた食事を取るようにし、偏食や過食をしないように心掛けます。より具体的には、動物性脂肪やコレステロール含有量の多い食品の摂取を制限することで高血圧、高脂血症を防止し、高カロリー食品の制限によって肥満を是正します。野菜や海草類のほか、不飽和脂肪酸のDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む青魚を多く摂取するように心掛けます。
運動療法を適当に取り入れることも効果的です。運動療法によって肥満の是正、ストレスの解消が図れますし、日常的な運動を継続的に行えば、中性脂肪を減らし、善玉コレステロールを増やし、血清脂質の代謝の改善が図れます。そのほかにも、運動は血圧を安定させたり、糖代謝を改善させる効果があります。
運動の種類は、激しいものは適しません。ウオーキング、水泳、水中ウオーキング、ジョギング、サイクリング、体操など、体に無理をかけない適度な運動を習慣にして、楽しく、長く続けることが大切です。
また、善玉コレステロールを減らし、ビタミンCを破壊する喫煙の制限や、ストレスの軽減を図るなど、生活上の注意を怠りなく続けることが肝要です。
食事療法や運動療法、生活上の注意だけでは、動脈硬化の進行が抑えられない時には、危険因子の改善、合併症予防のために、薬物療法が行われます。具体的には、降圧薬、脂質降下薬(特に悪玉コレステロール低下作用のあるスタチン系)、糖尿病治療薬が用いられます。この場合でも、食事療法や運動療法は、基礎的な治療として続けることが重要です。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
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