SSブログ

■用語 耳ヘルペス [用語(み)]

[耳]耳を中心に起こった帯状疱疹で、耳介や外耳道に痛み、水膨れが出現
 耳(みみ)ヘルペスとは、耳を中心に起こった帯状疱疹(たいじょうほうしん)。耳性(じせい)帯状疱疹とも呼ばれます。
 ヘルペスウイルス属の1つである水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに乳幼児期に初感染すると、水ぼうそう(水痘)になります。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。
 水膨れは胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。水膨れの数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。
 また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。
 乳幼児期に一度かかると免疫ができるため、この水ぼうそうに再びかかることはほとんどありません。しかし、水ぼうそうの原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうが治った後も体のいろいろな神経節に潜伏しています。
 そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかの切っ掛けにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。
 この場合、水ぼうそうのように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。体のどこにでも帯状疱疹の症状は現れますが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、腹や尻(しり)の下などに現れることもあり、耳を中心に起こった帯状疱疹が耳ヘルペスに相当します。
 耳ヘルペスを発症すると、発熱、寒けなどとともに、外に張り出している片側の耳介や、耳の穴から鼓膜まで続く外耳道に激しい痛みが現れ、数日の内に小さな水膨れができます。軟口蓋(なんこうがい)や舌など、口の中にも発生することがあります。また、顔面神経まひを伴うこともあります。
 顔面神経まひのほかに、感音難聴、耳鳴り、めまいなどの内耳障害を伴うものをラムゼー・ハント症候群(ハント症候群)といいます。これは、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経やその周辺の聴神経に感染して起こるものです。
 片側の耳に痛みや水膨れができ、片側の顔の動きが悪いことに気付いた時には、早期に耳鼻咽喉(いんこう)科の医師の診察を受けることが勧められます。
[耳]耳ヘルペスの検査と診断と治療
 耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳や口の中などの視診により帯状疱疹の有無を調べます。水膨れ中か唾液(だえき)中の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAを検出するのが最も確実な診断法で、中の抗水痘帯状疱疹ウイルスIgM抗体価の上昇を確認するのも、診断の助けになります。
 顔面神経まひがあれば、筋電図検査、神経興奮性検査を行って、まひの程度、顔面神経の障害部位を診断します。難聴、めまいがあれば、聴力検査、平衡機能検査、脳神経検査など通常の耳科的検査も実施し、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。
 耳鼻咽喉科の医師による治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス薬を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。
 これに加え、神経周辺の炎症を抑制する副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。
 顔面神経まひには、顔面マッサージが行われます。これらの治療を行っても、顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術が行われ、まひが回復することもあります。
 後遺症として、耳介や外耳道の水膨れが治った後も長期間にわたって、痛みが続く帯状疱疹後神経痛が起こることは、胸部に起こる帯状疱疹に比べて少ないといえます。
 なお、水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。




タグ:上顎洞真菌症 ミクリッツ症候群 肉芽腫性鼓膜炎 内耳炎 外耳道外骨腫 好酸球性中耳炎 用語(み) 外耳道真珠腫 副鼻腔がん 耳せつ 耳硬化症 遅発性内リンパ水腫 耳閉感 真菌性副鼻腔炎 ウイルス性鼻炎 外耳道湿疹 ミクリッツ病 水疱性鼓膜炎 ムンプス難聴 耳鳴り サーファーズイヤー 鼻カタル 鼻詰まり めまい 外耳道炎 鼻ポリープ 心因性めまい 副鼻腔炎 耳詰まり 蓄膿症 慢性副鼻腔炎 急性副鼻腔炎 真珠腫性中耳炎 耳ヘルペス てんかん 自律神経失調症 坐骨神経痛 頭痛 チック症 帯状疱疹 片頭痛 ギラン・バレー症候群 多発性硬化症 聴神経腫瘍 パーキンソン病 トゥレット症候群 腕神経叢まひ 肋間神経痛 ルイス・サムナー症候群 三叉神経痛 群発頭痛 クロイツフェルト・ヤコブ病 緊張性頭痛 顔の運動異常 舞踏病 ハンチントン病 小舞踏病(ジデナム舞踏病) 筋委縮性側索硬化症 神経障害性疼痛 クルーゾン症候群 顔面ミオキミア 眼瞼けいれん 多発性神経炎 多発性ニューロパチー 後頭神経痛 急性感染性多発性神経炎 趾間神経痛 外側大腿皮神経痛 知覚異常性大腿痛 大腿外側皮神経痛 感覚異常性大腿神経痛 大腿神経痛 舌咽神経痛 耳性帯状疱疹 眼部帯状疱疹 顔面けいれん 絞扼性神経障害 顔面神経痛(三叉神経痛) 神経血管圧迫症候群 特発性顔面神経まひ 症候性顔面神経まひ 顔面神経まひ(ベルまひ) 中毒性ニューロパチー
nice!(7)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:健康

■用語 三日ばしか(風疹) [用語(み)]

[喫茶店]急性ウイルス性疾患で、発疹、リンパ節のはれ、発熱が主要な兆候
 三日ばしかとは、発疹(ほっしん)、リンパ節のはれ、発熱を主な兆候とする急性ウイルス性疾患。風疹(ふうしん)とも呼ばれます。
 はしか(麻疹)より感染力が弱く、通常3日程度で発疹が消えて治るため、三日ばしかと呼ばれます。怖いのは妊娠初期の女性が感染した場合で、流産したり、風疹ウイルスが胎盤を介して胎児に感染し、生まれた新生児に先天性風疹症候群と呼ばれる形態異常を起こす確率が高くなります。
 症状や重さは感染時期によって異なり、妊娠2カ月以内だと白内障、心臓の形態異常、聴力障害のうち2つ以上を抱えて生まれることが多くなります。妊娠3~5カ月でも聴力障害がみられます。
 こうした新生児は1965年に、沖縄県で400人以上生まれました。また1977~79年の全国的な大流行の際は、影響を恐れた多くの妊婦が人工妊娠中絶をしました。
 三日ばしかは例年、春先に流行し始め、ピークは5、6月。かかりやすい年齢は5~15歳ですが、成人になってからかかることもあります。感染力はそれほど強くなく、かかっても症状の現れない不顕性感染が約15パーセントあります。一度自然にかかれば、一生免疫が続くと考えられています。
 かつてはほぼ5年ごとに全国的な流行を繰り返しましたが、1994年以降は局地的、小規模な流行にとどまっています。患者の全数把握が始まった2008年は294人。その後、2009年147人、2010年90人と減少しましたが、2011年は12月11日までの集計で362人と増加し、特に予防接種政策の影響でワクチンを打たずにきた成人の男性が職場で集団感染するケースが目立ちました。
 14~21日の潜伏期間の後、全身の淡い発疹、耳の後ろや後頭部の下にあるリンパ節のはれ、発熱などの症状が現れます。人に移るのは発疹の出現数日前から出現後5日間で、感染者の唾液のしぶきなどに接触することで移ります。一般に症状は軽く、初期はごく軽い風邪症状のこともありますが、気付かれないことも多く、発疹が出て初めて気付くくらいです。
 しかしながら、発疹に先立ってリンパ節のはれや圧痛が耳や首の後ろ、または後頭部に起こるのが特徴です。リンパ節のはれは、発疹が消えてからも数週間に渡って続くことがあります。一般に発熱は軽度で高熱をみることは少なく、40〜60パーセントは無熱で経過します。そのほか、全身倦怠(けんたい)感や、のどの痛み、結膜の充血がみられることがあります。
 発疹は、はしかと比べると小さめで、色も薄く桃色をし、3日間くらいで色素沈着を残さずに消えます。
 まれに、重い合併症が起きます。主なものには脳炎、髄膜炎、血小板減少性紫斑(しはん)病、関節炎があります。特に注意を要するのは脳炎で、三日ばしかの流行期に5000〜6000例に1例の頻度でみられます。発疹の出現後2〜7日で発症しますが、予後はよく、後遺症を残すことはまれです。
[喫茶店]三日ばしか(風疹)の検査と診断と治療
 小児科や内科、感染症内科の医師による診断では、一般的に、保険適用されている血清診断を行います。ウイルスの分離が基本ですが、通常は行わず、保険適応もされていません。
 血清診断では、急性期と回復期の抗体価が4倍以上上昇することにより確定診断する赤血球凝集抑制反応や、急性期に三日ばしか(風疹)に特異的なIgM抗体を検出することで確定診断する酵素抗体法などの方法がよく用いられます。はしか(麻疹)や水痘(水ぼうそう)と違い、三日ばしかは症状や所見だけで診断することの難しい疾患の一つです。
 医師による治療では、特別な方法はないため、対症的に行います。発熱、頭痛、関節炎などに対しては、解熱鎮痛剤を用います。治療を必要としない場合も多くみられ、子供では一般に症状は軽いので、安静だけで3〜5日で自然に治ります。
 三日ばしかは第二種の伝染病に定められており、幼稚園や学校を休む必要があります。発疹がなくなることが目安になるため、発症後6日目ごろから登園、登校してもよいのですが、1カ月くらいは無理をさせないで合併症に気を付けます。
 予防法として、風疹(三日ばしか)ワクチンの接種があります。風疹ワクチンの接種の対象は1977年から94年までは中学生の女子のみでしたが、同年の予防接種法改正以来、その対象は生後12カ月以上~90カ月未満の男女とされました。
 さらに、2006年以降は、風疹ワクチンは麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)として接種、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前年度の1年間に当たる子)に計2回接種しています。これは1回の接種では免疫が長く続かないため、2回目を接種して免疫を強め、成人になってから三日ばしか(風疹)やはしか(麻疹)にかからないようにするためです。
 2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹・風疹混合ワクチンの予防接種対象が、第3期(中学1年生相当世代)、第4期(高校3年生相当世代)にも拡大され、接種機会を逸し1回しか接種されていない子も2回接種が可能になっています。
 先天性風疹症候群を始め、脳炎、髄膜炎、血小板減少性紫斑病などの発症予防のために、麻疹・風疹混合ワクチンの接種が勧められます。
 また、妊娠を望むものの風疹抗体がないか少ない成人女性も、積極的に麻疹・風疹混合ワクチンの予防接種を受けることが望まれます。
 ただし、妊婦の風疹ワクチン接種は禁忌で、風疹ワクチン接種後2~3カ月間は妊娠は避けることが望ましいでしょう。風疹抗体がないか少ない女性が妊娠した場合、三日ばしかの流行期は特に注意が必要で、抗体価検査を定期的に行い、経過観察を続ける必要があります。
 身近に妊娠を望む女性がいる場合、麻疹・風疹混合ワクチン未接種で三日ばしかにかかったことがない成人の男性も、ワクチンを接種して予防することが望まれます。




タグ:用語(み)
nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:健康

■用語 未破裂脳動脈瘤 [用語(み)]

[ダイヤ]脳の血管にこぶができた病態で、破裂するとくも膜下出血を発症
 未破裂脳動脈瘤(りゅう)とは、脳の動脈の一部が内側からの圧力によって、こぶのように膨らんでいる病態。小さいものを含めると、成人の4~6パーセントに発生していると見なされています。
 この未破裂の脳動脈瘤は近年、脳ドックや人間ドックの普及に伴って、MRA(磁気共鳴血管撮影)を行った時にたまたま発見されるケースが、急速に増加しています。中には、脳動脈瘤が大きくなって脳の神経を圧迫して障害を生じたために、発見されるケースもあります。
 脳動脈瘤が発生する原因はまだはっきりとはしていませんが、遺伝的な要素で血管の壁が弱くなる、加齢や高血圧などにより動脈硬化が起こり血管の壁に弱い部分ができる、血流が当たる影響で血管の壁がもろくなど、いくつかの原因が考えられています。
 内頸(ないけい)動脈、脳底動脈、中大脳動脈、後大脳動脈、あるいはそれらの動脈の分枝などに起こり、血管の分かれ目など、血流がぶつかりやすく、また血管の弱い部分にできることが多いようです。
 脳動脈瘤の大きさは、径2ミリ程度の小さなものから25ミリ以上の大きなものまでさまざまで、75パーセント以上は10ミリ未満です。
 そのまま破裂しない状態では、脳動脈瘤自体には痛みや違和感などの自覚症状はありませんが、動脈瘤の大きさによっては何らかの症状が出ます。例えば、動眼神経の近くの内頸動脈に未破裂脳動脈瘤が発生すると、動眼神経を圧迫して片側の目が外方以外には動かなくなり、瞳孔(どうこう)が大きくなり、対光反射がなく、まぶたが下がってくる眼瞼(がんけん)下垂などの動眼神経まひの症状が起こることがあります。
 未破裂の脳動脈瘤が破裂した場合には、脳の中にくも膜下出血というタイプの出血を来します。脳は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われており、くも膜とその下の軟膜との間を、くも膜下腔(くう)といい、ここには脳脊髄(せきずい)液が満たされています。脳動脈瘤が破裂すると、血液がくも膜下腔に一気に流出するため、頭蓋(ずがい)内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が上がって、激しい頭痛が起こります。
 バットか金づちで殴られたような、今までに経験したことのないひどい痛みに襲われ、その頭全体に感じる痛みがしばらく続きます。頭蓋内圧が急激に上がって脳全体が圧迫されると、意識障害が起こったり、吐いたりします。重症の場合、意識障害から、昏睡(こんすい)状態に進んだまま死亡することもあります。
 くも膜下出血では、半数以上の人が死亡するか社会復帰不可能な障害を残しています。
 未破裂脳動脈瘤が自然に破裂して、くも膜下出血を起こす確率は、大きさや形などでも違いますが、平均して年に1パーセント程度といわれています。例えば、62歳の男性に発見された場合、平均余命が20年あるとすると、生涯でくも膜下出血を起こす可能性は20パーセントということです。
 脳ドックなどの医療検査で発見された場合は、信頼できる脳神経外科医と相談してください。
[ダイヤ]未破裂脳動脈瘤の検査と診断と治療
 脳神経外科の医師による診断では、MRA(磁気共鳴血管撮影)などで未破裂脳動脈瘤が疑われたら、三次元造影CT血管撮影で脳動脈瘤の大きさや形を確認します。手術のために脳動脈瘤や周囲の血管の情報がさらに必要な場合は、脳血管撮影を行うこともあります。
 日本脳ドック学会のガイドライン(2008)では、1)余命が10~15年以上ある、2)動脈瘤の大きさが5~7ミリ以上、3)動脈瘤の大きさが5~7ミリより小さい場合でも、症状のあるものや特定の部位にあるもの、一定の形態的特徴を持つものという条件がそろえば、手術を勧めています。
 手術は通常、頭蓋骨を切開し、こぶの根元を金属のクリップで挟むクリッピング法が行われます。近年では、血管内手術といって血管の中へ細いカテーテルを挿入し、プラチナの細いコイルを入れて動脈瘤の内側に詰める塞栓(そくせん)術を行うこともあります。
 また、治療をせずに半年後、1年後などにMRAで経過をみるというのも一つの方法です。通常の手術や血管内手術も、治療後にまひや重篤な合併症を来す危険性がゼロというわけではないためです。




タグ:用語(み)
nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:健康

■用語 脈なし病 [用語(み)]

[位置情報]大動脈とその主要な分枝に狭窄を生じる特異な血管炎
 脈なし病とは、大動脈とその主要な分枝に狭窄(きょうさく)を生じる特異な血管炎。手首の動脈の脈が触れないことがよくあるために脈なし病と呼ばれていますが、疾患の最初の報告者の名前に由来して高安(たかやす)病、あるいは大動脈炎症候群とも呼ばれています。
 この脈なし病は若い女性に多く、特に日本ではかつてから頻度が高かったために、明治の末期から学者の間で注目され、1908年に欧米に報告されたものです。現在でも、日本が世界で最も発症者が多いといわれ、インド、中国などのアジア諸国でもみられるほかに、メキシコ、南アフリカなどでも少なくないようです。
 日本での発症者の約9割は女性で、発症年齢は20歳代が最も多く、次いで30歳代、40歳代の順。特定疾患であり、医療費は公費負担助成の対象となります。
 原因は不明ながら、自己免疫機序が関与しているという説が有力です。炎症のために、動脈にひきつれができて壁が厚くなり、内腔(ないくう)が狭くなったり、詰まったりするために起こります。
 炎症が起きる場所については、主に脳や腕に血液を送る動脈に起きると、かつては考えられていました。動脈造影法といった検査技術の進歩した近年では、炎症は大動脈全体と、そこから枝分かれしている腹部の内臓や腎(じん)臓の動脈、さらには肺動脈にも及ぶことがわかっています。時には、動脈が拡張して動脈瘤(りゅう)を作ることもあります。
 最初の急性期は、発熱、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重減少などの症状から始まることもあります。発症が潜在性で気付かないことも多く、健康診断で「脈なし」を指摘されて、初めて診断されることがしばしばあります。その後、慢性の経過をたどるようになると、動脈の炎症がどの血管に起こったかによって、さまざまな症状が現れてきます。
 脳へいく血管である頸(けい)動脈が狭くなったケースでは、視力が低下したり、めまい、立ちくらみ、頭痛などが起こります。また、頸動脈を圧迫したり、上を向く姿勢をとったりすると、めまいや気が遠くなるような感じの発作が生じます。まれに、脳梗塞(こうそく)や失明などが起こることもあります。鎖骨下動脈が狭くなったケースでは、上肢のしびれ感、脱力感、冷感、重い物を持つと疲れやすいなどの症状が起こります。
 腹部の大動脈が狭くなったケースでは、上下半身で血圧の著しい差がみられ、上半身は血圧が高いのに下半身では血圧が低くなります。この状態では、足の動脈に脈が触れなくなって、少し歩くとふくらはぎが張って重くなったり、痛んだりする間欠性跛行(はこう)の症状が出ることもあります。腎臓へいく動脈が詰まったケースでは、血圧を高くする物質が血液中に増えるために、高血圧になります。
[位置情報]脈なし病の検査と診断と治療
 内科、ないし循環器科の医師による診断では、腕の動脈に狭窄があると、血圧に左右差が認められます。狭窄による血管雑音は、頸部、鎖骨上窩(じょうか)などで聞かれます。血液検査では、赤沈(血沈)高進、CRP(C反応性蛋白〔たんぱく〕)陽性、高ガンマグロブリン血症など通常の炎症反応がみられます。
 X線検査では、大動脈の拡大や石灰化が認められます。血管造影検査では、動脈の狭窄、閉塞、拡張、動脈瘤などの病変部位や程度がわかり、脈なし病の診断に最も有用です。心エコーや心臓カテーテル検査では、心臓合併症の有無を調べます。
 急性期には、炎症を鎮めるための副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられます。CRP、赤沈を指標とした炎症反応の強さと臨床症状に対応して、投与量を加減しながら、継続的あるいは間欠的に投与します。慢性期には、血栓予防のため抗血小板薬や抗凝固薬を用います。
 内科的治療が困難と考えられる場合で、特定の血管病変に起因することが明らかな症状がある場合には、外科的治療が考慮されます。頸動脈狭窄による脳虚血症状、腎動脈や大動脈の狭窄による高血圧、大動脈弁閉鎖不全、大動脈瘤などが、主な手術対象になります。
 脈なし病はある程度までは進行しますが、その後は極めて慢性の経過をとるのが通常で、多くは長期の生存が可能です。しかし、脳への血流障害や心臓の合併症を生じた場合や、高血圧が合併する場合は、厳重な管理が必要になります。また、血管炎が再発することもあります。




タグ:用語(み)
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:健康