■病気 甲状腺機能亢進症 [病気(か行)]
ホルモンの過剰分泌で生命活動が加速
甲状腺(こうじょうせん)機能亢進(こうしん)症とは、甲状腺が働きすぎるために、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になって起こる疾患。代謝内分泌疾患の一つで、体にエネルギーの利用を促すホルモンである甲状腺ホルモンが過剰になることで、全身の働きが過剰になリます。
どの年代でも発症しますが、一般に出産後や更年期の女性に多くみられます。原因はいくつかあり、バセドウ病、甲状腺炎、毒物や放射線照射による炎症、中毒性甲状腺結節、脳下垂体の機能亢進による過剰刺激、甲状腺ホルモンの過剰摂取などが挙げられます。
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の最も多い原因で、血液中の異常な蛋白(たんぱく)質(抗体)が甲状腺刺激ホルモン受容体を刺激し、甲状腺ホルモンを過剰に作って分泌させることで起こる自己免疫疾患です。
この原因による甲状腺機能亢進症は、しばしば遺伝関係が認められ、女性の発症者のほとんどは甲状腺が肥大します。軽いケースでは、1年くらい放置していても症状が進行しないこともあり、中には数カ月から数年たてば自然に治ることもあります。重いケースでは、放置しておくと心臓が悪くなり、死に至ることもあります。
甲状腺炎は、甲状腺の炎症です。原因としてウイルスの感染が疑われていて痛みのある亜急性甲状腺炎、何らかの原因によって起こり痛みのない無痛性甲状腺炎(無痛性亜急性甲状腺炎)、及び、甲状腺機能亢進症を起こす頻度が少ない慢性甲状腺炎(橋本病)があり、炎症を起こした腺から蓄えられたホルモンが放出されて、甲状腺の機能亢進が起こります。蓄えられたホルモンが使い尽くされると、続いて甲状腺の機能低下が起こり、最終的に腺の機能は正常に戻ります。
毒物や放射線照射による炎症も、甲状腺炎と同じように甲状腺機能亢進症を起こします。
中毒性甲状腺結節は、甲状腺内の部分的組織の異常成長。この異常組織は、甲状腺を正常に制御するメカニズムから逸脱し、甲状腺刺激ホルモンがなくても甲状腺ホルモンを過剰に作ります。プランマー病と呼ばれ、結節が多数ある中毒性多結節の甲状腺腫(せんしゅ)は、若年期や青年期には少なく、加齢とともに増える傾向があります。
脳下垂体の機能亢進も、甲状腺刺激ホルモンを過剰に作り、甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こしますが、この原因による甲状腺機能亢進症はまれです。
原因が何であれ、体のいろいろな機能が過剰になるのが、甲状腺機能亢進症の症状です。発症者の多くは、甲状腺が肥大します。腺全体が肥大したり、特定部分に結節ができて、首の前側から甲状腺を押すと軟らかく、痛みがあります。
また、心拍数の増加、血圧の上昇、心拍リズムの異常(不整脈)、多汗、手の振戦(震え)、イライラ感、情緒不安定、神経過敏、睡眠困難(不眠症)、多飲多尿、食欲の増進にかかわらず体重が減る、疲労や虚弱にかかわらず活動量が増える、いつも腸の働きが活発だが時々下痢をする、などの症状がみられます。
これらの症状は、一度に現れるのではなく、徐々に出てきます。全部の症状が出そろうケースもありますが、半分ぐらいの症状しか出ないケースもあります。
高齢者では、甲状腺機能亢進症の特徴的な症状を示さずに、衰弱、眠気、混乱、無口、うつ状態になることがあり、無欲性甲状腺機能亢進症、ないし仮性甲状腺機能亢進症と呼ばれます。
甲状腺機能亢進症の原因がバセドウ病の場合は、目の周囲が膨れる、涙が出やすい、炎症、光過敏といった目の症状が現れます。眼球が突き出る眼球突出、物が二重に見える複視という2つの特有な症状が、追加されることもあります。
眼球が前に突き出る原因は、目の後ろにあって、眼球が入っているスペースである眼窩(がんか)に蓄積される物質のため。また、眼球を動かす筋肉が炎症を起こすと、適切に機能できず、眼球が正常に動くよう調節するのが難しいか、できなくなる結果として、物が二重に見えます。まぶたは完全に閉じられず、目は外から入る微粒な異物で傷付いたり、乾燥します。
これらの目の症状は、他の甲状腺機能亢進症の症状より早く現れて、バセドウ病の早期の手掛かりになることがあります。多くの場合は、他の症状に気付いた時に起こります。目の症状は、過剰な甲状腺ホルモンの分泌を治療して制御した後も、現れたり悪化することがあります。
検査と診断と治療
医師による診断では、症状から甲状腺機能亢進症の見当をつけ、診断を確定するために血液検査を行います。多くの場合、まず甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定から始めます。甲状腺が亢進していると、TSH値が低くなります。しかし、まれなケースで脳下垂体が亢進していると、TSH値は正常あるいは高くなります。
血清中のTSH値が低い場合には、血液中の甲状腺ホルモンの値を測定し、甲状腺機能亢進症であれば高い数値を示します。原因がバセドウ病であるか疑問がある場合は、血液中の抗甲状腺抗体の有無を検査します。
甲状腺機能亢進症の治療法は、大きく分けて抗甲状腺剤、ベータ遮断剤などによる薬物療法、大きくなった甲状腺の一部を残して切除する手術療法、放射線ヨードを飲むことによって甲状腺の一部、ないし大部分を破壊する放射線ヨード療法の3種類があります。
それぞれ利点と欠点がありますが、発病後1年以上たっているケースや、甲状腺の肥大が大きいケース、症状が重いケースでは一般的に、40歳以上の人には放射線ヨード療法、若い人には手術療法がよいと見なされています。
発病後1年くらいのケースでは、甲状腺の甲状腺ホルモン産生量を減らす働きを持つ抗甲状腺剤の服用によって、半数くらいは治りますので、まず薬物療法が試みられるのが一般的です。最初は高用量での服用から始められますが、後に血液検査の結果をみて調節されます。通常、抗甲状腺剤の服用よって、甲状腺機能は2、3カ月で制御可能です。
抗甲状腺剤を大量に使用すると速く作用しますが、副作用のリスクが高くなります。妊娠している女性が服用する場合には、厳密に経過が観察されます。薬が胎盤を通過して、胎児に甲状腺腫や甲状腺機能亢進症を起こす恐れがあるためです。
重度の甲状腺機能亢進症や、他の治療では効果がなく危険で難しい症状の人には、ベータ遮断剤による薬物療法が有効です。ベータ遮断剤は、甲状腺機能亢進症の多くの症状を制御し、心拍を遅くし、震えを少なくして不安を抑えます。しかし、ベータ遮断薬は、異常な甲状腺の機能を制御するものではありませんので、他の治療法で、ホルモンの産生量が正常に戻されます。
放射性ヨードを経口的に服用して、甲状腺を破壊する放射線ヨード療法では、体全体としては受ける放射能はごくわずかですが、甲状腺がヨードを吸収して濃縮するので、その多くが甲状腺に運ばれます。入院はほとんど必要ありませんが、治療後2~4日は乳児や幼児に近付くべきではありません。職場では特別な予防策の必要はなく、パートナーと一緒に眠ることも問題ありません。ただし、妊娠は約6カ月間は避けるべきです。
甲状腺を破壊する放射性ヨードの量は、甲状腺機能を大きく損なわずに甲状腺のホルモン産生を正常に戻す程度に調整する医師もいれば、甲状腺を完全に破壊する大量の線量を使用する医師もいます。この治療を受けた人の大部分は、その後一生ホルモン補充療法を受けなければなりません。また、放射性ヨードは胎盤を通過し、乳汁に入って、胎児や乳児の甲状腺をも破壊するため、妊娠中と授乳中には投与されません。放射性ヨードと、がんとの関係は、確認されていません。
甲状腺を切除する手術療法は、若い人にとって治療法の選択肢の1つになります。甲状腺腫の大きい人や、甲状腺機能亢進症の治療に使用している薬にアレルギー、あるいは重い副作用のある人にも、選択肢になります。
手術を選択した人の90パーセント以上で、甲状腺機能亢進症は永続的に制御されます。しかし、手術後の甲状腺機能低下はしばしば起こり、そのケースでは以後、生涯に渡って甲状腺ホルモンを補充しなければなりません。手術でまれに起こる合併症は、声帯の麻痺(まひ)と、副甲状腺の損傷です。副甲状腺は、甲状腺の後ろにある小さな分泌腺で、血中カルシウム濃度を制御しています。
バセドウ病では、目と皮膚の症状の治療も必要です。目の症状には、寝床の頭の位置を高くする、点眼薬を使用する、まぶたをテープで閉じる、場合によっては、水分の排出を速める利尿薬を服用するなどが役に立ちます。物が二重に見える複視には、プリズム眼鏡を使用します。
目の症状が重症の場合には、経口コルチコステロイド薬、眼窩のX線治療、目の手術が最終的に必要になります。ステロイド薬のクリームや軟こうは、かゆみや硬くなった皮膚の症状を和らげます。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
甲状腺(こうじょうせん)機能亢進(こうしん)症とは、甲状腺が働きすぎるために、甲状腺ホルモンの分泌量が過剰になって起こる疾患。代謝内分泌疾患の一つで、体にエネルギーの利用を促すホルモンである甲状腺ホルモンが過剰になることで、全身の働きが過剰になリます。
どの年代でも発症しますが、一般に出産後や更年期の女性に多くみられます。原因はいくつかあり、バセドウ病、甲状腺炎、毒物や放射線照射による炎症、中毒性甲状腺結節、脳下垂体の機能亢進による過剰刺激、甲状腺ホルモンの過剰摂取などが挙げられます。
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の最も多い原因で、血液中の異常な蛋白(たんぱく)質(抗体)が甲状腺刺激ホルモン受容体を刺激し、甲状腺ホルモンを過剰に作って分泌させることで起こる自己免疫疾患です。
この原因による甲状腺機能亢進症は、しばしば遺伝関係が認められ、女性の発症者のほとんどは甲状腺が肥大します。軽いケースでは、1年くらい放置していても症状が進行しないこともあり、中には数カ月から数年たてば自然に治ることもあります。重いケースでは、放置しておくと心臓が悪くなり、死に至ることもあります。
甲状腺炎は、甲状腺の炎症です。原因としてウイルスの感染が疑われていて痛みのある亜急性甲状腺炎、何らかの原因によって起こり痛みのない無痛性甲状腺炎(無痛性亜急性甲状腺炎)、及び、甲状腺機能亢進症を起こす頻度が少ない慢性甲状腺炎(橋本病)があり、炎症を起こした腺から蓄えられたホルモンが放出されて、甲状腺の機能亢進が起こります。蓄えられたホルモンが使い尽くされると、続いて甲状腺の機能低下が起こり、最終的に腺の機能は正常に戻ります。
毒物や放射線照射による炎症も、甲状腺炎と同じように甲状腺機能亢進症を起こします。
中毒性甲状腺結節は、甲状腺内の部分的組織の異常成長。この異常組織は、甲状腺を正常に制御するメカニズムから逸脱し、甲状腺刺激ホルモンがなくても甲状腺ホルモンを過剰に作ります。プランマー病と呼ばれ、結節が多数ある中毒性多結節の甲状腺腫(せんしゅ)は、若年期や青年期には少なく、加齢とともに増える傾向があります。
脳下垂体の機能亢進も、甲状腺刺激ホルモンを過剰に作り、甲状腺ホルモンの過剰産生を引き起こしますが、この原因による甲状腺機能亢進症はまれです。
原因が何であれ、体のいろいろな機能が過剰になるのが、甲状腺機能亢進症の症状です。発症者の多くは、甲状腺が肥大します。腺全体が肥大したり、特定部分に結節ができて、首の前側から甲状腺を押すと軟らかく、痛みがあります。
また、心拍数の増加、血圧の上昇、心拍リズムの異常(不整脈)、多汗、手の振戦(震え)、イライラ感、情緒不安定、神経過敏、睡眠困難(不眠症)、多飲多尿、食欲の増進にかかわらず体重が減る、疲労や虚弱にかかわらず活動量が増える、いつも腸の働きが活発だが時々下痢をする、などの症状がみられます。
これらの症状は、一度に現れるのではなく、徐々に出てきます。全部の症状が出そろうケースもありますが、半分ぐらいの症状しか出ないケースもあります。
高齢者では、甲状腺機能亢進症の特徴的な症状を示さずに、衰弱、眠気、混乱、無口、うつ状態になることがあり、無欲性甲状腺機能亢進症、ないし仮性甲状腺機能亢進症と呼ばれます。
甲状腺機能亢進症の原因がバセドウ病の場合は、目の周囲が膨れる、涙が出やすい、炎症、光過敏といった目の症状が現れます。眼球が突き出る眼球突出、物が二重に見える複視という2つの特有な症状が、追加されることもあります。
眼球が前に突き出る原因は、目の後ろにあって、眼球が入っているスペースである眼窩(がんか)に蓄積される物質のため。また、眼球を動かす筋肉が炎症を起こすと、適切に機能できず、眼球が正常に動くよう調節するのが難しいか、できなくなる結果として、物が二重に見えます。まぶたは完全に閉じられず、目は外から入る微粒な異物で傷付いたり、乾燥します。
これらの目の症状は、他の甲状腺機能亢進症の症状より早く現れて、バセドウ病の早期の手掛かりになることがあります。多くの場合は、他の症状に気付いた時に起こります。目の症状は、過剰な甲状腺ホルモンの分泌を治療して制御した後も、現れたり悪化することがあります。
検査と診断と治療
医師による診断では、症状から甲状腺機能亢進症の見当をつけ、診断を確定するために血液検査を行います。多くの場合、まず甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定から始めます。甲状腺が亢進していると、TSH値が低くなります。しかし、まれなケースで脳下垂体が亢進していると、TSH値は正常あるいは高くなります。
血清中のTSH値が低い場合には、血液中の甲状腺ホルモンの値を測定し、甲状腺機能亢進症であれば高い数値を示します。原因がバセドウ病であるか疑問がある場合は、血液中の抗甲状腺抗体の有無を検査します。
甲状腺機能亢進症の治療法は、大きく分けて抗甲状腺剤、ベータ遮断剤などによる薬物療法、大きくなった甲状腺の一部を残して切除する手術療法、放射線ヨードを飲むことによって甲状腺の一部、ないし大部分を破壊する放射線ヨード療法の3種類があります。
それぞれ利点と欠点がありますが、発病後1年以上たっているケースや、甲状腺の肥大が大きいケース、症状が重いケースでは一般的に、40歳以上の人には放射線ヨード療法、若い人には手術療法がよいと見なされています。
発病後1年くらいのケースでは、甲状腺の甲状腺ホルモン産生量を減らす働きを持つ抗甲状腺剤の服用によって、半数くらいは治りますので、まず薬物療法が試みられるのが一般的です。最初は高用量での服用から始められますが、後に血液検査の結果をみて調節されます。通常、抗甲状腺剤の服用よって、甲状腺機能は2、3カ月で制御可能です。
抗甲状腺剤を大量に使用すると速く作用しますが、副作用のリスクが高くなります。妊娠している女性が服用する場合には、厳密に経過が観察されます。薬が胎盤を通過して、胎児に甲状腺腫や甲状腺機能亢進症を起こす恐れがあるためです。
重度の甲状腺機能亢進症や、他の治療では効果がなく危険で難しい症状の人には、ベータ遮断剤による薬物療法が有効です。ベータ遮断剤は、甲状腺機能亢進症の多くの症状を制御し、心拍を遅くし、震えを少なくして不安を抑えます。しかし、ベータ遮断薬は、異常な甲状腺の機能を制御するものではありませんので、他の治療法で、ホルモンの産生量が正常に戻されます。
放射性ヨードを経口的に服用して、甲状腺を破壊する放射線ヨード療法では、体全体としては受ける放射能はごくわずかですが、甲状腺がヨードを吸収して濃縮するので、その多くが甲状腺に運ばれます。入院はほとんど必要ありませんが、治療後2~4日は乳児や幼児に近付くべきではありません。職場では特別な予防策の必要はなく、パートナーと一緒に眠ることも問題ありません。ただし、妊娠は約6カ月間は避けるべきです。
甲状腺を破壊する放射性ヨードの量は、甲状腺機能を大きく損なわずに甲状腺のホルモン産生を正常に戻す程度に調整する医師もいれば、甲状腺を完全に破壊する大量の線量を使用する医師もいます。この治療を受けた人の大部分は、その後一生ホルモン補充療法を受けなければなりません。また、放射性ヨードは胎盤を通過し、乳汁に入って、胎児や乳児の甲状腺をも破壊するため、妊娠中と授乳中には投与されません。放射性ヨードと、がんとの関係は、確認されていません。
甲状腺を切除する手術療法は、若い人にとって治療法の選択肢の1つになります。甲状腺腫の大きい人や、甲状腺機能亢進症の治療に使用している薬にアレルギー、あるいは重い副作用のある人にも、選択肢になります。
手術を選択した人の90パーセント以上で、甲状腺機能亢進症は永続的に制御されます。しかし、手術後の甲状腺機能低下はしばしば起こり、そのケースでは以後、生涯に渡って甲状腺ホルモンを補充しなければなりません。手術でまれに起こる合併症は、声帯の麻痺(まひ)と、副甲状腺の損傷です。副甲状腺は、甲状腺の後ろにある小さな分泌腺で、血中カルシウム濃度を制御しています。
バセドウ病では、目と皮膚の症状の治療も必要です。目の症状には、寝床の頭の位置を高くする、点眼薬を使用する、まぶたをテープで閉じる、場合によっては、水分の排出を速める利尿薬を服用するなどが役に立ちます。物が二重に見える複視には、プリズム眼鏡を使用します。
目の症状が重症の場合には、経口コルチコステロイド薬、眼窩のX線治療、目の手術が最終的に必要になります。ステロイド薬のクリームや軟こうは、かゆみや硬くなった皮膚の症状を和らげます。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
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