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■健康コラム 認知症を予防する [健康コラム]

●脳の障害で知能が持続的に低下する認知症
 六十五歳以上の高齢者の発症が年々増えているばかりでなく、四十歳代、五十歳代での発症も目立つようになっている認知症について解説し、予防法に触れておきたい。
 認知症とは、後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が持続的に低下した状態。およそ六カ月以上継続して、生活する上で支障が出ているケースを指す。
 日本では以前、痴呆症と呼ばれていたが、二〇〇四年に厚生労働省の用語検討会において、認知症への変更を求める報告がまとめられ、まず行政分野、高齢者介護分野において、痴呆症から認知症に置き換えられた。各医学会においても、二〇〇七年頃までにほぼ置き換えがなされている。
 認知症の狭義の意味としては、知能が後天的に低下した状態のことを指すが、医学的には知能のほかに、記憶力の障害、見当識の障害、人格障害を伴った症候群として定義される。
 日本における認知症の患者は、増加する一方である。一九八五年における六十五歳以上の認知症高齢者は約六十万人だったが、二〇〇三年の段階では約百四十九万人を数え、二〇〇五年時点で約百八十九万人存在するといわれている。八十五歳以上の高齢者では、四人に一人が認知症患者だと推定されているところ。このまま進めば、認知症の患者数は、団塊の世代が高齢者となる二〇一五年には約二百五十万人、二〇二〇年には二百九十二万人に達するといわれている。
 認知症全体の発現を男女別にみると、明らかな性差があり、国内外の医学的調査で、女性では男性の約一・五倍から二・五倍とされている。女性に圧倒的に多いわけだが、世界有数の長寿国である日本の場合、女性と男性の平均寿命に七歳ほどの開きがあり、認知症が多発する七十五歳以上になる前に亡くなる男性が多いのに対して、女性の平均寿命が八十五歳を超えているのも一因と見なされる。
 認知症の中で最も多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく変性性認知症。アルツハイマー型認知症、ピック病などが、この変性性認知症に相当する。
 続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために血管が詰まって、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなるため、一部の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症。
脳の変性委縮によって発症するアルツハイマー型認知症
 アルツハイマー型認知症というと、高齢者の疾患のように思われがちだが、もともとは若年性の疾患で、一九〇七年にドイツの精神医学者アロイス・アルツハイマーが最初の症例報告を行った患者は五十歳代だった、という記録が残っている。
 アルツハイマー型認知症は、脳の変性委縮によって発症する。その原因としては、脳の中の記憶に関係する部位である海馬や側頭葉、頭頂葉に、アミロイドという蛋白の一種が蓄積していくことが始まりと考えられていて、さらにタウという蛋白も神経細胞の中に蓄積するようになり、神経細胞を壊していくことがわかっている。
 なぜこのような現象が起こるのか、アミロイドの産生高進や蓄積が発症の直接原因なのか、それとも結果であるのかについては、まだ結論は得られていない。
 いまだに原因がよくわかっていないアルツハイマー型認知症だが、最近になって、遺伝的要因があると考えられるようになった。親族にアルツハイマー型認知症の患者がいる人は、発症する割合が高くなるし、発症する年齢は三十〜五十歳くらいといわれている。
 若い人にみられるアルツハイマー型認知症では、脳の委縮スピードも若いぶん、高齢者に比べると速くなる。四十歳代の場合、二倍以上のスピードで病気が進行する。
 アルツハイマー型認知症では大脳皮質という知能活動の中核が第一義的に侵されることから、記憶力などすべての認知機能が一様に低下し、その程度も大きくなる。加えて、自分が病気であるという病識が早くからなくなり、多幸性、多弁であることが多くみられる。
 もう一つ重要なことは、アルツハイマー型認知症では、人格の崩壊といって、全く人柄が変わってしまうことが多い点。いつかわからないほど発症はゆっくりで、進み方も徐々であり、かつ絶えず進行性であるのが、特徴といってよいだろう。幻覚や幻視、被害妄想が現れ、暴言、暴力などの問題行動が見られることもある。
脳硬塞、脳出血などで発症する脳血管性認知症
 脳血管性認知症は、脳の血管に血栓という血の固まりが詰まった脳梗塞や、脳の血管が破れて出血した脳出血など、脳の血管に異常が起きた結果、脳細胞の働きが低下するために起こる。男性に多く、五十〜六十歳で発病しやすくなる。
 主な症状は、日常生活に支障を来すような記憶障害と、その他の認知機能障害である言葉、動作、注意、物事を計画的に行う能力などの障害。末期を除けば、すべての認知機能が一様に、顕著に低下するわけではない。
 脳の一部の機能が低下してしまうため、記憶力の低下ははっきりしていても、計算力はある程度残っているとか、時間や場所はわかるとか、対応は全く正常であるという場合が少なくない。
 かつて脳血管障害を発症した経験があったり、高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化症、高脂血症など脳血管障害を起こしやすい危険因子を持っている人に、よく起こる。危険因子のほとんどは、生活習慣病といわれるものに相当する。
脳の前頭葉から側頭葉の委縮で発症するピック病
 ピック病は、人格の変化や理解不能な行動を特徴とする認知症の一種。働き盛りの四十歳〜六十歳に多く発症し、大脳皮質のうち前頭葉から側頭葉にかけての部位が委縮する。
 一八九八年にチェコのアーノルド・ピックにより報告された疾患で、百年以上経過してもまだ世界共通の明確な診断基準すらなく、正確な発生頻度も不明。疾患を正しく診断できる医師が少ないために、アルツハイマー型認知症と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられて、不適切な治療やケアを受けるケースも少なくない。
 若年性認知症の代表疾患で、四十歳代〜五十歳代にピークがあり、平均発症年齢は四十九歳、早ければ二十歳で発病することも。女性の発症率が多いアルツハイマー型認知症に対して、そういった性差はない。
 初期では、記憶力などの認知機能は保たれている。目立つのは人格障害で、認知症の中では人格の変化が一番激しくなる。その人格障害には、易怒、不機嫌、爽快なども認められ、人を無視した態度、人に非協力的な態度、人をばかにした態度などが目立つようになる。しかし、本人に病識はない。
 ピック病特有の症状といえる滞続言語も、認められる。滞続言語とは特有な反復言語で、会話や質問の内容とは無関係に、同じ内容の話を繰り返したり、おうむ返しを続けたりする。これらは持続的で、制止不能。
 自制力の低下により、周囲には理解不能な行動、状況に合わない行動もみられる。例えば、場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや、配慮を欠いた行動をしたり、周囲の人に対して無遠慮な行為や身勝手な行為を示す。
 また、自発性が低下し、考え不精がみられる一方で、多動、外出、徘徊、落ち着きのなさ、多弁、衝動行為、粗暴行為が増加することも。窃盗や万引きなどの犯罪に及ぶ場合もあるが、反省したり説明したりできず、同じ違法行為を繰り返すこともある。
 症状が進行すると、意欲減退が生じ、仕事を放棄して引きこもったり、何もしないなどの状態が持続し、自発性行動の少なさは改善しない。身だしなみにも無関心になり、不潔になる。周囲の出来事にも無関心になる。やがて、記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が出現し、最終的には、重度の認知症に陥る。
医師による認知症の治療
 治療方法は、認知症を来している原因によって異なる。治療可能な認知症の場合は、原因となる疾患の治療が速やかに行われる。治療可能な認知症とは、身体疾患などが原因で起こる二次性認知症の一部で、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫・脳腫瘍による認知症などが該当する。
 アルツハイマー型認知症などの変性性認知症や、脳血管障害が原因の血管性認知症などほとんどの認知症では、治療によって病態そのものの進行を改善することはできず、現段階ではさまざまな治療法により進行を抑えることしかできない。
 近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、アルツハイマー型認知症を中心として効果が期待されているが、中核症状となっている狭い意味の認知機能低下、つまり記銘力・記憶力の際立った低下、見当識障害は、薬によって進行を遅らせることはできても、完全には治らない。
 認知症の発症者は中核症状のみならず、不眠、自発性低下、意欲減退、不安、焦燥、うつ状態、発語減少、情緒障害、幻覚、妄想、異常行動などの周辺症状を呈すことがあるので、その際は適宜、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん剤などの対症的な薬物療法が有効なこともある。
 結局、認知症の治療で主体となるのは、薬物療法によって進行をできるだけ抑制しながら、心理社会的療法を積極的に行うことで残された認知機能を維持し、認知症の人のQOL(生活の質)を低下させないケアが主体となる。
 認知症を発症しても、薬物療法と心理社会的療法による早期治療によって、脳の代償機能と呼ばれるメカニズムが働くようにすることができれば、残された認知機能は維持され、社会生活機能を保つことは可能。
 脳にはもともと、ある部位の機能が失われても、他の障害されていない部位の神経細胞がその機能を補うように働く代償機能が備わっており、たとえ脳の病変があったとしても、代償機能が働くことで発症を抑えたり、症状の進行を抑制することが可能なのである。
認知症の予防は生活改善がカギ
 認知症の予防には、生活改善がカギとなる。きちんとした食事や睡眠、適度な運動を心掛けるなど生活習慣を見直せば、発病の確率は減らせるはず。また、趣味や職場以外の社交場を持つなど、毎日を生き生きと暮らす工夫も大切。
 とりわけ、以下の食習慣、運動習慣、知的生活習慣が、認知症の予防に効果があることがわかっている。
 食習慣では、EPA・DHAなどの脂肪酸を多く含むサバ、サンマ、イワシ、アジなどの青魚の摂取、ビタミンE・ビタミンC・βカロテンなどを多く含む野菜や果物の摂取、さらにポリフェノールを多く含む赤ワイン、緑茶、ゴマの摂取が、発症を抑える。これらの食品を三度の食事で、バランスよく食べるようにしたいもの。
 運動習慣では、ウォーキングなどの有酸素運動を行えば、脳血管障害の危険因子である高血圧やコレステロールのレベルが下がり、脳血流量も増し、発症の危険性を下げる。ある研究では、普通の歩行速度を超える運動強度で週三回以上運動している人は、全く運動しない人と比べて、発症の危険が半分になっていた。
 知的生活習慣も、発症の危険性を下げる。テレビ・ラジオを視聴し、トランプ・チェスなどのゲームをし、文章を読み、楽器の演奏をし、ダンスなどをよく行う人は、発症の危険性が減少するという研究がある。
 また、旅行、パソコン、園芸、料理など、計画を立てたり、考えたりすることが必要な趣味の活動が、脳を活性化し、軽い認知機能の衰えがある認知症予備軍の高齢者でも、記憶力や注意力、計画力を改善するという研究もある。




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