■病気 やせ [病気(や行)]
やせて喜んでいたら、どんどんやせ続ける人には、重大な病気が隠れている可能性もあります。
近年は「肥満」が悪役になっているためか、「やせ」のほうはあまり問題にされない傾向があります。とりわけ夏の場合、「夏やせだろう」、「夏ばてによる食欲不振が原因じゃないのかな」などと見過ごされがちですが、体重減少は病気のシグナルの可能性もあります。
普通、自分の身長から割り出される標準体重より20パーセント少ない状態が、「やせ」と考えられます。
女性の場合の標準体重の求め方は、標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×21(最も有病率の低い、理想のBMI<Body Mass Index>値)となります。男性の場合は、標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22で算出されます。
「やせ」では、体の脂肪組織が目立って減少し、筋肉組織も減少している状態にあります。「病的」とは必ずしも断定できませんが、一般的には、病気にかかりやすい状態と見なされています。また、病気の初期症状や、やや病気が進行してからの症状として、体重の減少を伴うケースも多々あります。
体重が徐々に減ってゆく場合はそれほど心配はいりませんが、一カ月の間に5キロも体重が減るなど急激に体が細ってきたら、注意が必要です。安易に自己判断せず、病院や診療所に出向いて、きちんと検査を受けることが大切となります。
やせる原因となる主な病気
■食欲がなくてやせるケース■
□消化器系の疾患
消化管である胃腸に病気があると、食欲不振に陥ると同時に、食べたものの消化・吸収も正常に行われなくなるため、やせてきます。消化器系の病気で多いのは、胃潰瘍(かいよう)と十二指腸潰瘍です。
また、消化液や酵素を分泌する腺臓器である肝臓、膵臓(すいぞう)に、慢性肝炎、肝硬変、慢性膵炎などの疾患があるケースでも、食欲が減退して、やせてきます。
□がん
体のどの臓器、組織にできたがんでも、初期症状として体重が落ち、やせてきます。がん細胞が体の栄養を奪ってしまうために起こり、特に消化器系に発生したがんでは顕著です。末期になると、体がやせ細ってきます。
■食欲があるのにやせるケース■
□糖尿病
糖尿病の初期には太り出すことがありますが、放置して進行すると食欲があるのに体がやせてきて、のどの渇き、多尿などの症状が現れます。
糖尿病は膵臓から出るインスリンの働きが悪くなり、血糖値が高くなる病気で、進行すると目、腎臓(じんぞう)、神経などに合併症を来す全身病。親や兄弟に糖尿病の人がいると、発症率が高くなります。
□バセドー病(甲状腺機能亢進症)
甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気がバセドー病で、代謝が活発になって消費カロリーが増えるため食欲が増すが、それ以上に代謝が激しいので、急激にやせてきます。
動悸(どうき)がする、汗をかきやすい、手が震えるなどの症状も伴います。男女比で見ると、約1対4で女性に多く、多くは20~50代で発症します。
■その他のケース■
□拒食症(神経性食欲不振症)
拒食症は若い女性に多く、肥満に対する強い不安などが原因で食欲不振になり、食べても自ら吐いてしまうこともあります。その結果、極度のやせ、無月経などを引き起こします。
本人には、やせの自覚がないことが多い、とされています。
□過度のダイエット
減量を目的とした自己流の食事制限によって、栄養不足、摂取エネルギー不足に陥って、極端にやせるケースもあります。貧血や肝機能障害などの合併症を引き起こす危険性もあります。
心掛けたい「やせ」対策
■症状に応じて専門医へ
思い当たることがないのに、一カ月で2~3キロ以上体重が減ったら、念のため内科を受診しましょう。
ほかに伴う症状があれば、下記の表を参考にして症状、状態に応じた専門医へ出向きましょう。
症状、状態 疑われる病気 受診する科 口が渇く、多尿 糖尿病 内科(代謝内分泌科) 脈が速い、汗が出る バセドー病(甲状腺機能亢進症) 内科(代謝内分泌科) 長期の下痢 消化管吸収障害、消化管腫瘍(しゅよう)、膵炎 内科(消化器内科) 微熱、せき、たん 肺結核 内科(呼吸器内科) 貧血、高血圧、吐き気 慢性腎不全 内科(腎臓内科) すぐ満腹になる 通過障害、食道がん、胃がん 内科(消化器内科) 食べられない、食べても吐く 拒食症(神経性食欲不振症) 心療内科、精神科 下剤、利尿剤、甲状腺製剤による副作用 内科
■バランスのよい食事を
医者の検査を受けても特に異常が見当たらなければ、バランスのよい食事を心掛けるようにすることです。
全体の摂取カロリーに占める糖質、脂肪、蛋白質の割合は、およそ3対1対1になるのがよいとされています。特に牛乳、卵、大豆など良質の蛋白質を取りましょう。加えて、食事は一日3回、規則正しく取ることが大事です。
■ストレスの発散を
ストレスが原因となって、やせるケースもあります。適度にストレスを発散しましょう。
■夏ばてでやせたら
最近の夏ばての傾向として、体温調節機能の不調からくるケースが増えています。この不調は、冷房の利いた室内や車内と屋外の暑さとの温度差によって、引き起こされるものです。
冷房で体が冷えると、血液循環が悪くなり、肩凝り、腰痛なども悪化します。体を内側から温めるショウガ、ネギ、サフラン、シナモンなどが入った温かい料理を取りたいもの。紅茶、カボチャ、エビ、牛肉も、体を温める食材とされています。
一方、屋外などで多量に汗をかく人は、十分な水分、塩分に加え、豚肉、大豆製品、胚芽(はいが)米、ライ麦パン、ゴマ、ピーナツなど、ビタミンB1が多く含まれる食品を積極的に取りたいものです。
ビタミンB1の吸収を助けるアリシンが多く含まれたニンニク、ニラ、タマネギなどを一緒に取ると、より効果的です。
また、汗とともにビタミンCも失われるので、アセロラ、レモン、赤ピーマン、トマト、キウイなど、ビタミンCの豊富な果物や野菜がお勧めとなります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
■病気 夜盲症 [病気(や行)]
夜盲(やもう)症とは、夜間や暗い場所での視力、視野が著しく衰え、目がよく見えなくなる病気。俗に、鳥目(とりめ)と呼ばれます。
先天性では、幼児期より徐々に発症するものと、発症しても生涯進行しないものがあります。後天性では、ビタミンAの欠乏によって発症します。網膜にあって、夜間の視覚を担当するロドプシンという物質が、ビタミンAと補体から形成されているため、ビタミンA不足は夜間視力の低下につながるのです。
ビタミンA欠乏性の夜盲症以外の場合、治療法が確立しておらず、光刺激を防ぐ対策を必要とします。遮光眼鏡を使用したり、屋外での作業を控えるなどです。
ビタミンA欠乏性では、ビタミンAを多く含む食品を適度に取ること。ビタミンAには、レバーやウナギなど動物性のものに含まれるレチノールと、主に緑黄色野菜などの植物性食品に含まれβ-カロチンの2種類があります。ただし、過度に摂取するのは、ビタミンA中毒を引き起こすのでよくありません。
なお、鳥類はすべて鳥目と誤解されやすいようですが、ニワトリなどを除いて、夜間も視力を持つ鳥類は多いもの。フクロウ、ヨタカ、ゴイサギなど、夕方や夜に活動する鳥類も少なくありません。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
■病気 腰痛 [病気(や行)]
腰痛を訴える人のほとんどは、デスクワークをしている人で車好きな人だと言われています。いすや車の座席に座りっ放しになると、体全体で支えるべき体重を腰の1カ所に集めてしまいます。そうすると、血液の循環が悪い腰部の椎間板というクッションに負担がかかり、神経が圧迫され痛みを感じるようになります。
それでも若いうちは、デスクワークの合間に一休みして、屈伸運動などをしていれば腰が軽くなってきます。ところが、ミドルになり、運動不足が高じてくると、背中の筋肉がこわばり、腰の周辺の筋肉が使われないために、腰を支える力が弱くなって痛み出すのです。
太古の昔、私たち人間の祖先が二足歩行を始めた時から、腰痛と人との関係はなかば宿命的なものとなりました。
地面に対して垂直に立った人の背骨は、上半身にかかる重力のすべてを支えなければならず、さらに、その負担は、少し前屈の姿勢をとったり、重い物を持った時などで大きく増えます。
こうして常に重力というストレスに曝されている背骨が「もう、だめだ」と悲鳴を上げた状態が、「腰痛」です。
ただし、一口に腰痛といっても、実際に背骨に起こっている異常は、さまざまです。年齢によっても、特徴があります。20~30歳代は椎間板(ついかんばん)ヘルニアや腰痛症、脊椎(せきつい)分離症、40歳代以降は変形性脊椎症や骨粗鬆症が多くなります。このほか、内臓の病気や精神的ストレスから腰痛が起こることもあります。
1.背骨のしくみ
頭の骨を頭蓋骨、肩の前面にある骨を鎖骨というように、背骨は正式には「脊柱(せきちゅう)」、あるいは「脊椎(せきつい)」と呼ばれます。脊柱が曲がるのは、「椎体(ついたい)」と「椎弓(ついきゅう)」が組み合わされたものが重なってできているためです。
これらを連結しているのが、椎体と椎体の間にある「椎間板(ついかんばん)、椎間円板」、椎弓同士を連結している「椎間関節」、および、これらを補強するように走っている「靱帯(じんたい)」です。椎間板は軟骨でできており、椎骨にかかる衝撃を和らげるクッションの役割を果たしています。
脊柱は、これらの小さな部品が巧妙に連結して作られているために、体を支え、曲げることもできるのです。
さらに、椎体と椎弓の間には「椎孔(脊柱管)」という穴があり、神経の束である「脊髄」が入っています。脊髄は脳からつながっている中枢神経で、脊髄からはたくさんの脊髄神経が伸びており、脊髄神経は椎弓の隙間から出て体の各所へ走っています。
なお、脊髄は腰の辺りで終わるため、それより下の部分は脊髄神経が脊柱管の中を占め、少しずつ分かれて脊柱管を出ていきます。脊髄神経が脊髄から出たばかりの部分は「神経根(しんけいこん)」と呼ばれ、脊柱管の下部に入っている神経根はとくに「馬尾(ばび)」と呼ばれています。
椎間板や椎骨、椎弓には神経がないため、腰痛というのは、靱帯などの周囲の組織の神経や筋肉から発せられたメッセージということになります。
また、腰痛の原因となった腰の部分の脊柱(腰椎)の異常が馬尾などの神経根を傷めると、その神経が分布している筋肉が動かせなくなったり(筋力低下)、皮膚の感覚が鈍くなったり(感覚鈍麻)、腰から足にかけて痛みが走ったり(坐骨神経痛)します。
2.腰痛の原因
腰痛は、一般には姿勢の悪さや激しい労働や運動、老化が原因で背骨に異常が生じたために起こります。
しかし、その他にも、内臓の病気、あるいは精神的ストレスによって起こることもあります。腰痛を起こす原因は、実にさまざまなのです。
●こんなことに気を付けよう-予防法
腰痛を予防するためには、腰に負担をかけないよう、よい姿勢を心掛けることや、危険な動作をしないよう注意することが大切です。
1.よい姿勢
日頃から、背筋を伸ばしたよい姿勢を心掛け、前かがみや反らしすぎの悪い姿勢にならないように気を付けましょう。特に腰に負担がかかるのは、椅子に腰かけた姿勢で重い物を持ち、20度おじぎをする姿勢です。
2.動作に注意
床に置かれた重い物を移動する際に、両膝を伸ばしたまま、前かがみの姿勢で持ち上げるなどの動作は、禁物です。腰を落としてから、重い物をつかみ、腹筋に力を込めて、腰と膝で持ち上げるようにすれば、腰の負担は軽減できます。
3.腰に優しい靴
*つま先に余裕があり、足の指を締めつけない
*靴底が適度に厚く、着地の衝撃が膝や腰に響かない
*かかとが高すぎず、安定している
4.腰痛体操と歩く習慣
腰痛体操の目的は治療というよりも予防が中心で、痛みがない時に腰痛の再発を防ぐために行います。この腰痛体操には、脊椎の配列を正しくして(姿勢をよくして)筋肉や靱帯のこわばりを解く運動と、脊椎を支える腹筋と背筋を強くする運動とがあります。
毎日続けることが大切です。運動すると、かえって悪くなるような場合はしてはいけません。いずれにせよ、腰痛体操を行う時は、医師と相談してから実施するようにしてください。
徒歩(ウォーキング)や水泳(クロール、背泳ぎ)も腰痛予防に役立つ運動です。特に、歩くことは腰に負担が少なく、気軽に筋肉を鍛えることができます。よい姿勢で、汗ばむ程度の速さで歩きましょう。腰をひねるゴルフや全身を屈伸するテニスのサーブなどは、腰痛持ちの人にはよくありません。
5.太りすぎない・やせすぎない
太りすぎは重い荷物を背負っているのと同じで、腰に負担をかけます。太っている人は、減量しただけで腰痛がよくなることも少なくありません。一方、やせすぎると、筋力が低下して背骨を支える機能が低下してしまいます。
標準体重を保つことは、あらゆる病気の予防に大切なことなのです。
6.骨を丈夫に
若い時からカルシウムに富む食事をとり、適度な運動を続けることが大切となります。
7.腰を冷やさない
とりわけ、夏場のエアコンは要注意。冷気を直接、当てるのは最悪です。
8.横になって休息する
できれば、1時間に10分くらい、横になって休息すると、自らの腰にとっては大助かりです。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ
■病気 薬物依存症 [病気(や行)]
薬物依存症とは、麻薬、覚醒(かくせい)剤、睡眠薬、精神安定剤などの薬物の摂取によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く捕らわれて、自らの意思で連用行動をコントロールできなくなり、強迫的に連用行為を繰り返す精神疾患。
医学上は、依存性のある治療薬など、あらゆる薬物への依存が薬物依存症に含められます。また、「薬物」を法制上禁止されている薬物という意味合いに捕らえ、特に麻薬や違法とされる向精神薬、覚醒剤などによる薬物依存症のことを指す言葉として用いられることもあります。
薬物依存症を引き起こす薬物は、中枢神経系を興奮させたり抑制したりして、心の在り方を変える作用を持っています。これらの薬物を連用していると耐性がつき、同じ効果を求めて使用の回数や量を増やしていくうちにコントロールが利かなくなって、連続的、強迫的に使用する状態になります。
薬物依存症には、最初の使用で味わった気持ちよさや高揚感を求めたり、あるいは気分の落ち込み、イライラ、不安などを解消するために薬物を求める精神依存と、薬物の連用を中断すると特有の離脱症状(禁断症状)を示す身体依存との両面があります。
離脱症状とは、摂取した薬物が体から分解、排出され、血中濃度が下がってきた際に起こるもので、イライラを始めとした生理的に不快な感覚です。このような離脱症状を回避するために、再び薬物を摂取することを繰り返し、やがて薬物依存症という段階に足を踏み入れることとなります。
そのために、薬物使用によって身体障害や精神障害を始め、社会的な問題である退学、失業、離婚、借金、事故、犯罪などが引き起こされていても、誘われたり薬物を目の前にすると、使用したいという渇望感が強くなり、手を出してしまうのです。
摂取した薬物の種類や量、摂取の期間は発症者によってまちまちでも、依存に向かうプロセスは驚くほど共通しています。
薬物依存症でみられる一般的な症状としては、急性中毒症状、 精神依存の表現である薬物探索行動、身体依存の表現である各薬物に特有な離脱症状、さらに薬物の慢性使用による身体障害の症状と精神障害の症状があります。
何とかして薬物を入手しようとする行動を薬物探索行動といいますが、うそをついたり、多額の借金をしたり、万引きや恐喝、売春、薬物密売などの事件を起こすこともしばしばあります。
日本で流行している乱用薬物では、比較的高率に幻視、幻聴、身体幻覚や被害関係妄想、嫉妬(しっと)妄想などを主体とする中毒性精神病を合併し、まともな判断ができないために、凶暴な事件にもつながりやすいのです。
平成19年(2007年)における薬物事犯の件数は、 大麻によるものが3282件、覚醒剤によるものが16929件、向精神薬によるものが1088件、アヘンによるものが57件となっています。
●麻薬、覚醒剤、睡眠薬、精神安定剤への依存
麻薬依存
アヘン、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、コカイン、LSD、MDMA、大麻(マリファナ)などの麻薬依存は、比較的手に入りやすい医療関係者や、手術、痛みのために麻薬注射を受けた人などが陥りやすい傾向があります。
最初は主に鎮痛の目的で使うわけですが、それがやがて習慣となり、痛みもないのに、麻薬による陶酔感や酩酊(めいてい)感を求めるようになります。
離脱症状としては、不眠、発汗、寒け、胃腸障害、不快感などで、相当に激しく、ついまた麻薬に手を出すという悪循環を繰り返します。
大麻の場合では、葉などをあぶってその煙を吸うため、乱用すると気管支や、のどを痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も示します。大麻精神病と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こす場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期に渡って残るため、軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうこともあります。
覚醒剤依存
メタンフェタミン、いわゆるヒロポンへの依存が代表的なものです。戦後多発し、大きな社会問題となりましたが、厳しい取り締まりで一時は廃れていました。しかし、最近はまた増える傾向にあります。
初めは眠気覚まし、疲労回復の目的で使うのですが、効果が著しいために、続けていると病み付きになり、やがて離脱症状が出てきてやめられなくなります。
覚醒剤で困るのは、統合失調症と似たような状態になること。幻聴、幻視などの幻覚や、被害妄想が出てきます。これが各種の犯罪行為の原因になったり、さらに進行すると、自閉的な生活に落ち込み、廃人同様の身になることもあります。
睡眠薬依存
睡眠薬は比較的に手に入りやすく、しかも常用する人が多いため、注意が必要です。麻薬や覚醒剤と異なり、睡眠薬は体に障害を引き起こすのではなく、これがないと眠れないという精神依存が一番の副作用となります。
しかし、長期間、使用を続けていると、耐性が次第に上がってしまい、同じ効果を出すには、ますます多量の薬を必要とするようになります。感情の不安定や能率の低下、意欲の衰え、時には幻覚、妄想、けいれん発作などの副作用が起こることもあります。
睡眠薬を使う場合には、自己判断で使わないで、医師の指示に基づいて使用することが大切です。
精神安定剤への依存
トランキライザー(抗不安薬)などの精神安定剤も、睡眠薬と似たような面を持っているので、安易に使うのは禁物。実際、ろれつが回らなくなったり、のどが渇いたり、体がふらふらしたりする副作用も問題になりますが、使用をやめられなくなる精神依存を招くことに気を付けねばなりません。
自己判断で精神安定剤を使うケースでは、とかく同一の薬を長く服用することになりがちで、次第に量が増えていってしまいます。こういう服用の仕方が一番危険で、精神依存を招き寄せているようなもの。
精神安定剤には実に多くの種類があり、取捨選択してうまく使いこなすのは専門家でも難しいくらいですので、医師に相談の上で使うことが大切です。
●検査と診断と治療
薬物依存症という段階にいったん足を踏み入れたら、意志の力で使用をコントロールすることはできなくなります。たとえ一時的に使用をやめたり、薬物の種類を変えたり、量を変えたりしてコントロールしているように見えても、結局は元のような使用に戻ったり、別の薬物にすり替わっただけだったりします。そして、やがては生活のすべてを犠牲にしても薬物を求めるようになります。
いずれの薬物依存症でも、早く入院させて薬物の使用をやめさせることが必要となります。そして、精神科専門医によって、薬物を連用するに至った原因を探り、精神療法などの方法で矯正していくことが大切です。
医師による薬物依存症の診断は、本人や家族などからきちんと使用薬物や使用状況、離脱症状の経過などが聴取できれば、比較的容易です。
合併する肝臓障害、末梢(まっしょう)神経障害などの身体障害や精神障害は、それぞれ専門的な診断を必要とします。静脈内注射による使用者では、特にB型肝炎、C型肝炎、HIV感染をチェックする必要があります。
中毒性精神病が発病していれば、薬物から隔離、禁断するために、精神科病院への入院が必要。本人が承諾しない時は、家族の依頼と精神保健指定医の診断によって、医療保護入院で対応します。
中毒性精神病を合併しない場合では、できるだけ本人から治療意欲を引き出して、任意入院で対応するのが原則となります。
なお、麻薬に指定されているアヘン、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、コカイン、LSD、MDMA、大麻(マリファナ)のほか、覚醒剤、幻覚剤、精神安定剤、トルエン、シンナーといった有機溶剤など法的に規制された薬物による依存を診断した医師には、「麻薬および向精神薬取締法」によって届け出の義務が課せられています。
薬物依存症の治療に関しては、オールマイティーな治療プログラムはありませんが、周囲にいる家族などの協力が求められます。
薬物依存症の治療の主体は依存者自身なのですが、薬物依存の結果引き起こされた借金や事故、事件などの問題に対して、周囲にいる家族などが後始末をつけたり、転ばぬ先の杖(つえ)を出している限り、周囲の努力は決して報われることはありません。
依存者の薬物中心の生活に巻き込まれて、際限なく依存者の生活を丸抱えで支えている家族などは、イネイブラーと呼ばれています。このイネイブラーの役割を演じている家族などが、自分の行っている支援にきちんと限界を設け、各種の問題の責任を依存者自身に引き受けさせるようにしていけば、依存者は底付き体験によって断薬を決意することもあります。
底付き体験とは、社会の底辺にまで身を落とすということではありません。自分の本来あるべき姿、例えば同級生の現状で代表される姿などと、現在の自分の姿を比較して、このままではどうしようもないと自覚することをいいます。
さらに、断薬継続のためには、同じような境遇の人々が集まり、お互いに影響を与えるNA(ナルコティクス・アノニマス)などの自助グループに参加することが、有効な場合もあります。
なお、喫煙、飲酒を経験したことのある未成年者は、薬物乱用、依存のハイリスク集団です。薬物の乱用、依存は素人でも診断できてしまい、素人判断で対応をしてしまうことが、かえって重症化を進めてしまいます。
トルエン、シンナーなどの有機溶剤、メタンフェタミンなどの覚醒剤などを乱用している疑いがあれば、早期に児童相談所、教育相談所、地元警察署少年課、精神保健福祉センター、薬物依存専門の精神科病院に相談することが、重症化を防ぐことにつながります。
詳しい病気の解説は四百四病の事典(http://ksjuku.com/jiten.html)へどうぞ