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■医療事故調査制度、導入3年で報告1169件 当初の想定を大きく下回る [健康ダイジェスト]

 医療事故調査制度が導入されてから、今年10月で3年が過ぎましたが、報告件数は相変わらず当初の想定を大きく下回っています。報告するか否かの判断が病院側の裁量に任される仕組みで、医療界には事故調査に消極的な傾向が残るためとみられ、医療事故の遺族の間には制度への不満がくすぶっています。
 医療事故の遺族らでつくるグループが月1回ほど、制度の改善を求めて街頭に立ち、「公正で信頼される医療事故調査制度を求める署名にご協力お願いします」と訴えています。制度創設を目指して2008年に始まり、今に続く署名運動で、106回目の今年11月で丸10年となり、計3万9890人分が集まりました。
 医療法に基づく医療事故調査制度は、2015年10月にスタート。すべての病院・診療所・助産所は、医療に起因する(医療が原因になった)疑いのある「予期せぬ死亡・死産」があった場合、第三者機関である医療事故調査・支援センター(東京都港区)に報告し、院内調査委員会を設置して調べることが医療機関に義務付けられました。
 制度実現を巡っては、医療者の一部が反発して意見がまとまらず、制度創設論議が出始めてから10年以上かかりました。医療側に、責任追及につながることへの不安があったためです。そこで、幅広い意見に折り合いをつける内容で導入にこぎ着けた経緯があります。
 報告するか否かの判断が医療機関にゆだねられたのも、そうした事情が影響したことが、当初の予想より報告が少ない背景にあります。
 「調査してもらえない、説明に納得できない、などと、制度の現状に不満を持つ遺族からの相談は多いです」と話すのは、「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」代表の永井裕之さん(77歳)。東京都立広尾病院で1999年、点滴ミスにより妻を亡くした永井さんは、医療事故について遺族の相談に乗ってきました。制度の導入前は、具体的な運用を検討する厚生労働省の有識者会議で委員も務めました。
 永井さんは、「制度の導入当初から、『小さく産んで大きく育てる』という気持ちでした。このままでは制度が国民から信頼されない。見直しが必要になっています」と話しています。
 2016年6月に娘(当時32歳)を亡くした母親(60歳)は、病院による事故調査の経緯に不信を抱いています。「病院が作った調査報告書を見た時、まるでバカにされているような気がして悲しくなりました」。報告書は本文3ページ。「これではなぜ娘が亡くなったかわからない。きちんと検証されたのか、かえって疑念を持ちました」といいます。
 娘は同5月、埼玉県蕨市内の病院で出産時に脳出血を起こしました。他の病院に搬送されたころには深刻な容体で、脳死状態のまま約1カ月して亡くなりました。当初、病院側は報告の必要なしと判断し、遺族が要望した結果、調査することになりました。
 同病院は、「第三者の意見も聞いてしっかり調査した。報告書のページ数が少ないから簡単に扱ったというわけではない」と説明しています。
 院内調査の結果に不服がある場合、遺族から医療事故調査・支援センターに独自調査を求めることもできます。この遺族は調査を申請したものの、「期待できない」といいます。調査結果を待たず、このケースは今年10月、民事訴訟に至りました。
 同センターを運営する日本医療安全調査機構の常務理事で医師の木村壮介さんは、「現状は、一般の皆さんが満足できない状態になっているとは聞いています。何年かかるかわからないが努力したい。制度をもっと発展させるためには、社会全体の努力と理解と時間が必要だと思っています」と話しています。
 制度がスタートしてから、報告は今年10月末現在で計1169件で、平均すると年400件に満ちません。
 医療事故がどれくらい発生しているのか、正確なデータはありません。ただし、厚生労働省は年1300~2000件と試算しており、現状の報告件数とは大きな開きがあります。熱心な病院もある一方、病院間で対応に格差があります。
 地域的な格差も目立ってきました。同センターがまとめた人口100万人当たりの報告件数をみると、最も多いのは宮崎県の年6・9件、次いで三重県5・4件、大分県5・0件。報告が少ないのは高知県0・6件、鹿児島県1・4件、宮城県1・5件などとなっています。
 「三重県は、基本的に医療事故全例について県医師会が調査を支援し、医療安全のため、積極的に報告するスタンスでいるからでしょう」と、三重大学病院(津市)副院長で、医療安全管理部長の兼児(かねこ)敏浩さんは、県内の報告が多い背景を説明しています。同病院も、これまでに計3件を報告しました。
 全体の報告件数が低迷している理由について、兼児さんは、「報告対象の基準があいまいで、病院側が報告をためらう面もあるのでは」と見ています。

 2018年12月9日(日)

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